【後日談@】手放したくない





 僕らは十年も付き合っている。もちろん今でもラブラブだ、籍を入れていないだけで。結婚しない理由はたったひとつ。五条家に入るとすぐに子供を作れとせがまれるから。呪術界で呪術師の人材不足が続く中、彼女のような一級呪術師は重宝される。そんな中で僕と結婚して子供を授かろうものなら、寿退職することになるだろう。大切な存在だからって、常に死と隣り合わせの呪術師を辞めろなんて野暮なことは言わない。呪術界を立て直すと言っている僕からしても、補助してくれる彼女は助かる。彼女は死ぬまで呪術師であり、最強の僕を支えたいなんて考える世界一健気で可愛くて強い、僕の最強の恋人なんだ。それなのに──

「最近、夜のお誘いを断ることが多いんだよ、酷くない!?いや、手とか口とかはあるけど、挿れさせてくれないの!」

 悩みを打ち明ける僕の前にいるのは、死んだ目をして、ズズズと珈琲を飲む硝子。何も応えない硝子に、僕は痺れを切らし、可愛らしく、首をこてんと傾げる。

「ねぇ、硝子ちゃん、どう思う?」
「マンネリ」
「いやいや、僕達はいつでもラブラブだよ?知ってるでしょ。未だにただいまとおかえりのチューとかちゃうから」
「どうでもいい……恋愛お悩み相談室じゃないんだよ、ここは」

 確かにここは医務室だ。休憩中の硝子の邪魔もしている。でも、僕は真面目に悩んでいる。同期に相談したっていいだろう?

「ま、そこはいいよ。真面目な話、最近、様子が変なんだよ」
「私の所へ来て、相談してるんじゃないかってこと?悪いけど何もない。本当にバレて嫌なことは私には言わない」
「マジ?」
「私はオマエにしつこく言われると面倒で喋るからな、口が軽いと叱られた」

 前に隠し事をしていると分かった時も硝子から聞いたんだった。明らかに学んで警戒しているな、アイツ。

「あと、誰にでも隠し事の一つや二つはあるだろう。放っておいてやりなよ。しつこい男は嫌われるぞ」
「嫌われないし、僕は愛されてる」
「聞き飽きた。早く仕事に行け」

 医務室を追い出された。
 硝子には軽く言ってはいるが、本当に悩んでいる。体調が優れないのか、何か気掛かりがあるのか、溜息を吐く時もある。家に帰ると寝ていることもあるし、夜のお誘いにも乗ってくれない。この間、一年生……いや、今はもう二年生の生徒達にマンネリなんてない、と話したばかりじゃないか。涼華だって僕を愛してくれてるし、彼女が何か大きな隠し事をしているのかと思うと、気が気でない。そう思いながら歩いていると、ふと廊下で恵を見かけ、声を掛ける。

「恵ぃ」
「げっ」
「げっ、って酷くない?」

 恵は僕に当たりが強いなぁ、涼華にはよく懐いているのに。訊いてみようか、どうしようかな、と悩んでいると、彼は溜息を吐く。

「あの人なら高専に帰ってますよ」
「マジ?任務、一緒だったんだっけ」
「アンタが組ませたんでしょ……」
「そうだったそうだった。涼華、何か言ってた?」
「人使いが荒いって」
「彼女、頼めばそこそこ何でもやってくれるから、ついね。他には?」
「別に五条先生の話はしてませんけど」
「僕の話じゃなくていいよ。どんな会話した?」

 恵は明らかに面倒くさい、という表情をする。今回に限っては嫉妬とかそういうんじゃない、ただ何か悩みのヒントがあれば、そう思ってるだけ。本当に。

「いつものことですけど、親みたいなこと言ってましたよ。頼ってくれていいとか、五条先生に自分のこと聞かれたら、嫉妬は程々にしろと厳しく言っておいて、とか」
「先手打たれてるなぁ、流石は僕の恋人」
「いつものただの雑談ですよ」
「悩み事とか言ってなかった?変わったこととか」
「特には」
「そっかー僕ってば、いい彼氏で将来の旦那さんだから、悩みがあるならすぐに解決してあげたいんだよね」
「はぁ……」

 突っ込む気もなれない、といった表情の恵に、僕はないならいいんだ、と軽く彼の肩を叩き、じゃあね、とその場を離れた。さて、任務帰りの彼女を癒してあげようじゃないか。
 そう、涼華を探しに行くが、見つける前に二年生が自主訓練をしているのを見かけ、声を掛けた。

「やぁやぁ、頑張ってる?」
「悟よりかはな」
「しゃけ」
「酷いなぁ、僕だって忙しいんだよ?今だって僕の可愛い可愛い将来の奥さんを探してるとこなんだけど」
「アイツならさっき土産を置いて行ったぞ」

 そう真希は校庭の端を見ると、土産の紙袋が置いてあり、相変わらず律儀だな、と思いながら、僕はそっかーと返事する。

「最近、涼華に変わったことない?」
「こんぶ、いくら」
「だよな、何か元気ない」
「悟の名前出したら、溜息吐いてたぞ」
「僕?嘘、何もしてなんだけど」
「そうやって聞き回って束縛すんのが嫌なんだろ。面倒くせぇ」
「そうだな、束縛激しい男は嫌われるぞー」
「しゃけしゃけ!」
「なーんで皆、僕にそんな厳しいの?恋人思いのナイスガイでしょ」

 やはり原因は僕だったか。でも、何かした覚えはないし、こんなに長期間機嫌が悪いなんてことは珍しい。嫌な予感がしてならない、早く会いたい。

「やっぱ早く会いたくなって来た。じゃあね」

 僕は軽く手を振ってその場を離れる。もし何かあって、過去に戻ると言い出したら、戻ってしまったら。あの百鬼夜行以降、感じていなかった不安が一気に甦る。
 傑のことはもう終わった。涼華は過去に戻ることはない、と言った。だからこそ不安に思っていなかったのに、また、オマエは僕を不安にさせるのか。

「あ、悟いた」

 不安をかき消すように彼女の声がした。ふと顔を上げると、手土産を持った涼華が校舎前の階段を下りて歩いて来る。自分も彼女も任務で忙しく、およそ三日振りの再会だった。十年一緒にいて、たった数日離れただけでも寂しいと感じる僕はもう、彼女なしじゃ生きられないのかもしれない。手の届く距離に来ると、僕は彼女を抱き上げる。自分より目線が高くなった涼華を見上げると、彼女は困ったように笑う。

「何、いきなり……見られたら恥ずかしいよ」
「僕らがラブラブなんてこと、皆知ってるでしょ」
「呆れられてるの。恥ずかしいよ本当……」
「それより、ただいまのチューは?」
「はいはい、ただいま。悟もお疲れ様」

 彼女はまるで子供をあやすように僕の髪を撫でると、触れるだけの優しいキスをしてくれる。そして外だからか、辺りを見回して、少し恥ずかしそうにする。

「もう下ろして?」
「やだ」
「見られるの恥ずかしいから」

 ほら、と肩を押して下りようとする彼女に、僕はそっと下ろしてやる。しつこい男は嫌われるからね。

「今日はやけに素直だね」
「んー、褒めてほしいからかな」
「子供か」

 はい、お土産。と紙袋を渡してくると、僕はありがとうと礼を言いつつも、何故今渡すんだろう、と考える。家でもいいのに。それを見透かしてか、涼華は実は、と話し始める。

「また任務で離れなきゃいけなくてね。海外に出張」
「は?何で」
「何でって……仕事だから」
「仕事入れすぎ」
「そもそも悟が行かないから……」
「じゃあ僕が行ってくる」
「め、珍しい……本当に?」

 よく考えると、涼華に甘えすぎていたのかもしれない。それで体を壊したのかも。生徒に人使いが荒いとぼやいたり、僕の名前を出すと溜息を吐くのだって、きっとそうだ。思い当たる僕の悪い部分なんて、そこしかないからね。それなら少し休んでほしい。

「僕が行くから、詳細教えて」
「悟なら、皆も安心して任せられるね」

 そう言って彼女はスマホを取り出して、任務内容を話す。こんなの、僕や涼華じゃなくてもいい。そんなことを洩らすと彼女はまた溜息を吐くのだろう。黙っておこう。

「で、行くの?」
「あぁ、行ってくるよ。連絡だけ入れておいて」
「……本当に珍しい。どうしたの?」
「僕が恋人に優しいナイスガイなのはいつものことだろう?」
「いや、いつもなら、やっぱこんなの、他の奴に任せればいい、僕とオマエの仕事じゃない。他の奴にやらせろ≠チて言うでしょ?」
「今日の僕は違うんだよ。大好きな恋人の負担を減らしてあげたいと思うのはいけないこと?」
「毎日そうだとありがたい」
「もっと褒めろよ」

 そう、僕は彼女にキスすると、満更でもない様子で彼女もそれを受け入れる。やっぱり愛おしい。

「ゆっくり休んで。で、帰ったらご褒美頂戴」
「何がいいの?」
「野暮なこと聞くなよ、分かるだろ?」

 シャツで隠れた首筋に噛みつき、強く吸って痕を残してやる。彼女はもう、と照れたように僕の顔を押して避ける。僕はもう一度キスをして、出張で海外に向かった。
 少し疲れているようだったけど、彼女は今日も可愛かった。


***


 一週間後。
 数日離れてやっと会えたと思ったのに、また一週間も涼華に会えなかった。電話越しの声だけじゃ足りない。顔を見て、触れて、キスをして、更に気持ちよくなれたなら。自身では認識出来ない、彼女の善がる顔を見れたなら。隣で眠る彼女の寝顔を見れるのが何よりの幸せだ。
 明日帰ると伝えていたが、今日やっと高専に帰れた。家に帰りたかったが、彼女に報告書を提出するのが先だと叱られる。手を煩わせたくない。こんなにいい彼氏、他にいないだろう?気分良く歩いて行くと、ふと涼華の声がした。廊下を曲がった先にいると気づく。声を掛けて驚かせよう、なんて子供じみたことを考えていると、七海の声も聞こえた。何だ、七海といるのか。妬ける。

「赤ちゃん、出来ちゃって」
「……そうですか」

 衝撃の言葉に僕は出るタイミングを失った。
 しかも何故、そんな暗いトーンで話すの?
 それに何故、僕じゃなくて七海に言うの?

「五条さんには言ったんですか?」
「まだ、言えなくて。もしかしてと思って、昨日、病院に行ってきたんだけど……やっぱり、出来ちゃってたみたい」
「それなら、覚悟が必要でしょう。呪術師を辞めて五条さんと、」

 十年も避妊し続けた。子供が出来ないように。それに僕はここ二ヶ月、彼女とシてない。いや、もっとかも。なのに、嘘だろう?七海と浮気してたっていうのか?しかも子供まで出来た?耐えきれなくなって、僕は声を上げた。

「たっだいまー!五条 悟が帰って来たよー!」

 バレないように距離を取って、まるで今来たかのように曲がり角へ向かうと、二人は当たり前のようにそこにいた。

「おかえり、悟」
「あれ、七海といたの?また仕事?休めって言ったじゃん」
「任務は休んでるよ。というか早かったね、明日帰るって言ってたのに」
「出来る男だからさ。それにオマエに早く会いたくて。びっくりした?」
「はいはい、びっくりしたよ」

 どうして、そんなに優しく笑うの。
 どうして、僕を愛してもないのに。

「では、私はこれで」
「あっ、ありがとうね、建人」

 彼女は七海に手を振って見送った。それに胸を掻きむしりたくなるほどざわついて、腹が立った。あぁ、馬鹿みたいだ。僕の何がダメだったんだよ。ムカつく、そんな優しい笑顔で、まだ愛してるような顔して。でもまだ愛おしいと思う自分にもムカつく。上書きしてやりたい。何で僕じゃダメだったんだ。

「悟?」

 黙っている僕の異変に気づいたのか、彼女は首を傾げる。それに、僕の中の愛憎が大きくなっていく。彼女の腕を引き、側にあった普段使われていない空き部屋へと引き込む。

「ご褒美、くれるよね?」
「ダ、ダメだよ。こんな所で、」
「家ならいいの?」
「……いいよ。大事な話もあるから」
「無理」

 その話をしたら、恋人じゃなくなるじゃないか。いつからそうだったんだ?いつから、いつから……
 僕はアイマスクを下げ、動揺する愛おしい彼女の姿をしっかりと見て、噛みつくようにキスをする。
 何もかも愛おしいのに。
 何故こういう時に限って時間を戻さない?
 何故、僕との約束を守ろうとする。

「さ、悟!学校はダメ、んっ!」
「黙れよ」

 こんな抱き方、したことがない。まるで強姦だ。服を脱がそうとするのに対して、彼女は抵抗する。

「は、放して!時間戻すよ!?」
「戻すならさっさと戻せよ。愛してないくせに」

 細く、すぐ折れそうな首を絞めるように掴み、キスをする。彼女は抵抗する気も失せたように、力を抜いた。ふと目を開けると、僕を映す彼女の瞳から大粒の涙が溢れ出していた。彼女の泣き顔なんて、学生の時以来見ていなかった。
 僕が今まで見てきた彼女は全部、幸せそうな顔をしていた。

「怖いよ、悟……何で、そんなこと言うの」

 笑えよ。笑って、絶対に幸せにするから。時間を戻さなくても、幸せになれるように、オマエの笑顔を守れるようにしたいと、そう誓ったのに。

「オマエが、僕を置いていくんだろ……」
「何、言って、」
「優しくしたじゃん。傑がいなくても、寂しい思いさせなかった。愛してるって、言ったよね?オマエの傍にいさせてって」
「うん……」
「何で裏切るの」

 服がはだけた彼女を力一杯抱きしめる。いつもの体温が心地良いのが、寂しくも思えた。この小さな体には、僕の想いがいっぱい詰まっている。大好きだ、心の底から愛してるんだ。

「裏切ってない、大好き、愛してるよ」
「嘘吐き」
「何で、そう思うの」
「七海と浮気してんだろ」
「……は?」
「子供、出来たって」
「き、聞いてたの?」

 嘘だと言ってほしい。何かのドッキリだって。悪質だけど、サプライズだって、言って。そう、僕は彼女を抱きしめる腕の力を緩めない。すると、涼華は黙ったままそこから消えた。やっぱり、いなくなるんだ。そう思っていたが、背後に移動しただけだった。振り返ると、彼女は大きく手を振りかぶり、僕に平手打ちをした。わざと受けた。初めて僕を殴ろうとしたから。当たると思っていなかったのか、驚き、目を丸くする。叩いた手をギュッと握りながら、彼女は声を上げる。

「私はそんな、軽い女じゃない!忘れてることもムカつく!」
「は?」
「下戸のくせに、お酒飲んで、酔って帰って来て、僕の子を孕め孕めって言いながら中で出したのは自分でしょ!?」
「…………あっ」

 思い出した。付き合いで飲んで、酔ってしまったことがあった。二ヶ月ほど前だ。酔って帰って、玄関の前で倒れた僕を彼女は寝ていたのに、起きて介抱してくれた。そのまま彼女を抱いた。やだやだ、と善がりながらも抵抗する彼女に興奮したのを思い出した。

「嫌だって言ったのに、まだ呪術師として悟を支えれたのに、ピルも飲んだけど、赤ちゃんが出来たらどうしようって不安で……!時間を戻そうとも考えた。悩んで悩んで、でも赤ちゃんに罪はないし、産まれても幸せなんだろうって考えたら、そんなこと出来なかった。悟を悲しませたくなかったのに……最低!忘れてた挙句、建人と浮気してるなんて疑って、無理矢理犯そうとして!」
「ごめん……」

 全面的に僕が悪い。これは最低、最悪だ。でもそれ以上に……

「嬉しい、僕とオマエの子?」
「当たり前でしょ、馬鹿!」

 袖で目を擦り、涙を拭う彼女に、僕はただごめん、と服を整えてやると、そっと抱きしめる。嬉しい、ただ嬉しい。なかったことに出来るのに、それをしなかったことが。僕との子を産もうと決断してくれたことが。愛されてることが。

「最低……」
「何度でも言っていいよ、ごめん。でも嬉しい、本当に」
「私も嬉しい……」

 やっと抱きしめ返してくれた彼女の頭を撫でる。怖かっただろうに、それでも受け止めてくれることが嬉しかった。

「何で七海に相談するの?」
「建人は絶対言わないから。他の皆は悟の質問責めに耐えられなくなって言うから」
「でも七海はやめてね、妬いちゃうから」
「じゃあ相談させるようなこと、しなきゃいいのに」
「僕はいつだって優しくしてるつもりだけどな」
「どの口が言ってるの」
「この口」

 さっきの乱暴なキスをかき消すように、優しくキスをする。彼女は怒っていたが、許してくれたのか、それを受け入れてくれる。そして、叩いた僕の頬を撫でる。

「ごめん、叩いて……当たると思わなくて」
「わざと受けたからいいんだよ。それに、僕もオマエを傷つけたから」
「反省して」
「する。許して」
「うん……」

 涼華は僕に甘い。愛されてるのに、信じきれなかったのが悔やまれる。僕が時間を戻せるなら、間違いなく時間を戻してただろう。なのに、彼女はそれをしなかった。

「愛してる、結婚しよう」
「……うん」

 やっと望んでいた答えが聞けた。しかも僕との子供も一緒に。


***


「へぇ!大きくなってんね!」
「七ヶ月だよ」
「やっぱり蹴ってくるんですか?」
「もう元気いっぱい」
「やっぱアイツの子ね、触っていい?」
「いいよ」

 可愛い僕の涼華と生徒が、僕と涼華の子について話しているなんて、何て幸せなんだろう。
 悠仁と野薔薇は僕に奥さんがいて、妊娠してるって聞いた時は驚いていたし、野薔薇に至ってはどんだけ趣味が悪い女なんだと涼華を悪く言ってたけど、やっぱり彼女は誰からも好かれるなぁ。その様子を遠くから見ていると、涼華が僕に気づいた為、その場に向かう。

「やぁ、楽しそうだね」
「先生、もうすぐパパになるね!」
「そうだよ?パパだよー!」

 そう、涼華の腹をよすよすと撫でると、返事をするように揺れた。

「あ、蹴ったな。パパって分かってるの偉いねぇ、流石は僕の子」
「元気だなぁ」

 悠仁は何か不思議な感じ、と言いながら、彼女にお腹を触らせてもらっている。涼華も嬉しいのだろう、産まれてもないのにもう母親のような顔をしている。当たり前だが、涼華はもう呪術師として働いていないが、生徒達とは交流したいと呪術高専へ来ては、座学を教えている。

「さぁ、君達は任務任務、オマエはちゃんと家で待ってること」
「分かってるよ」

 時々寂しそうにするのは、呪術師として働けなくなったからだろう。こんな仕事の何がいいのかと彼女に問うと、僕の役に立てること。と言ってくれるのがまた可愛い。
 一年生はまたねーと去って行くと、僕は彼女の髪を撫で、目線を合わせる。

「ねぇ、僕のこと愛してる?」
「当たり前のことを……」
「言葉で言ってくれなきゃ分かんないなぁ」
「愛してるよ。ほら、ちゃんとお仕事して来てね。パパ」

 そう、彼女は僕の頬をそっと撫でてキスをしてくれた。見送ってくれた後、仕事が立て込んで、暫く家には帰れずにいた。


















 十月三十一日。

「はぁ……早く会いたいなぁ」

 今度は僕の時間が止まったままだ。こんなことになって、彼女は怒るだろうか。そしてきっと、今の傑の現状を聞いたら悲しむだろう。

 そう、封印された僕は狭い檻の中で、愛する人のことを考えていた。






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