#8.愛しい君との休日





 俺は夢の虜なのかもしれない。
 涼華と同棲を始めてから、夢を見ることが増えた。彼女が出て来ないこともあるが、一貫して同じ学校と同じ顔触れで呪いを祓う仕事をしている。忙しくもあり、涼華や傑、硝子や後輩達といる時が楽しいと感じている。
 この現実世界でも、彼女とは同棲する仲で、頑なにベッドは買わないと決めた為、彼女は同じベッドで寝るようになった。今日も家では夕飯を作って待ってくれている。早く帰りたい。
 伊地知と別れ、傑を車に乗せて帰る。傑は後部座席で欠伸をしながら伸びをした。

「あぁ、腹が減ったな。家では涼華ちゃんが夕飯を作ってくれているんだろう?」
「いいだろ!今日はカレーだって」
「確かに羨ましい。私もカレー好きなんだよね、お邪魔させてもらおうかな」
「ダメに決まってんだろ」
「でも彼女、いいよって言ってる」
「は?」

 赤信号で止まった時、傑は俺にスマホ画面を見せる。いつの間にかメッセージのやり取りをしており『私も夕飯、いただいてもいいかな?』という問いに、彼女は『勿論いいですよ!元々、余ると思ったので、夏油さんにお裾分けしようと思っていたんです』と返していた。この男、厚かましいにも程がある。

「いやぁ、楽しみだな」
「オマエ、マジで恋の邪魔しかしないじゃん」
「君の将来の奥さんだろう?相方としても仲良くしておかなきゃ」
「突然、人妻趣味とか持ち出すなよ」
「ないない」

 自宅へ帰ると、傑もそのまま俺の部屋へとやって来た。それに彼女は「おかえりなさい」と廊下まで迎えに来てくれる。

「ただいま、カレーのいい匂いがする」
「温めているので、すぐ食べれますよ」
「お邪魔します、別の家庭のカレーを食べるなんて初めてかも」
「う、うーん、そんなオリジナル感はないですが、気に入ってもらえれば嬉しいです」

 そう彼女は俺の荷物を取って寝室へ向かい、俺と傑は手を洗って、既に三人分の箸やスプーンが用意されているダイニングテーブルへ着くと、彼女はサラダを持って来て、キッチンでカレーを器に盛り付ける。出されたカレーの具は少し大きめだ。
 いただきますと食べ始めると、外で食べるようなカレーの味ではないと気づく。いい意味でこれが市販のカレーの味かと味わう。

「ど、どうですか?五条さん」
「ん、美味いよ。外で食べるのと全然違う」
「うん、美味しいね。牛肉なのもいい、ウチは鶏肉だったから」
「チキンカレーは作ったことないですね、それも美味しそうですけど」
「……オマエの料理は何でも美味いよ」
「はは、暫くすると飽きてきますよ」

 照れ臭そうに笑っている彼女の言葉に、ずっと作ってくれるんだ、と嬉しくなる。
 傑はおかわりしていて、本当厚かましいなと思うが、彼女はヘラヘラ笑っているし、まぁいいか。

「火事になった方の家はどうなったんだい?」
「家具がほぼ全滅なので、全て撤去して、掃除をしてもらってる所です」
「そうなんだ、清掃が終わったら帰るの?」
「そうですね……少し考え中です。仕事も探しているところで。すぐ見つかると思うんですけど」
「ゆっくりでいいじゃん」

 そんな話をしながら食事を終えると、デザートにどうぞとプリンを取り出してき、気が利くよな、と将来のお嫁さんを自慢したくなる。

「夕飯もいただいたし、そろそろ帰るよ。お邪魔するのも悪いしね」
「あ、動画撮らなきゃいけないんじゃないの?ストックないけど」
「最近、ネタ切れ感あるしなぁ、配信で誤魔化す?今から」
「あー……そうするか。ちょっと傑の部屋行って来る」

 そう立ち上がると、彼女は申し訳なさそうに眉尻を下げる。

「すみません、私がここにいるから……」
「どっちでも同じことだし、気にしなくていいんだよ」
「んじゃ、行ってくる。遅くなったら先に風呂入って、寝てていいから」
「はい、じゃあいってらっしゃい」

 俺達は傑の部屋へ向かうと、予告することなく配信を始める。それでも多くの視聴者がやって来ては、コメント欄が忙しなく動いている。
 いつもと変わらず配信をしては、二時間ほどでやめた。その後、傑と今後のことを話していると、いつの間にか深夜になっていた。明日が休みとはいえ、そろそろ帰るかと立ち上がる。

「帰るわ、愛しの嫁が待ってる」
「もう寝てるだろう」
「そうだけど、一緒に寝たいし?」
「……相方にこんな話するのもどうかと思うけど、君、性欲ないよね」
「あるわ!今までベッドでシコシコやってたのが、風呂とトイレになっちゃっただけ」
「手を出さないのは偉いね、私だったら早々に出すかも。好きな人と同棲してるし、満更でもないでしょ、彼女も」
「大事にしてんの。んじゃ、また明後日な」

 俺は部屋を出て行くと、自室の鍵を開けてゆっくりと入る。センサーライトが玄関を照らしした時、リビングが暗いことに気づく。俺は寝室を覗いて寝ていることを確認してから風呂場へ向かう。服やタオルが既に準備されていて、俺はすぐシャワーを浴びると、寝支度をして寝室へ帰る。
 彼女はいつも通りベッドの半分で俺に背を向けて寝ている。夢の中で風邪を引いた時に彼女が一緒に眠っていてくれたことを思い出し、そっと彼女の背に寄り添う。少し高めの体温が感じられ、風呂場に新しく置かれたシャンプーの匂いがする。このまま彼女を犯してやりたいという気持ちを堪えながらも、起こさないようにそっと彼女の腹に手を回して引き寄せると、そのまま目を瞑った。
 ふと腕の中で彼女が動いたことに気が付き、俺は目を覚ます。離れようとしているのか、俺の腕をそっと動かそうとしている。朝までこうしていたいと腕に力を入れると、彼女の体が強張る。

「ご、五条さん?」

 そう俺を呼ぶか細い声がしたが、返事をせずに彼女の後頭部に頬を寄せた。身を縮めた彼女は俺の腕から逃れることを諦めたのか、大人しくなった。しかし再び眠りに就いて、朝目覚めた時には腕の中からいなくなっていた。
 体を起こし、伸びをしてスマホを見ると、もう午前十時だ。よく寝たなと思いながら寝室を出ようとベッドから降りると、丁度彼女が寝室の扉を開けた。

「お、おはようございます……」
「おはよ、ご飯出来た?」
「はい、起こしに来ました」
「じゃ、歯磨いて食べるわ」

 再び伸びをしてはスマホを見ながら洗面所へ向かい、歯を磨く。ある程度身支度を済ませるとダイニングへ行き、テーブルに用意された朝食をいただく。トーストに目玉焼き、コーンスープ、朝の定番だ。

「なぁ、今日出掛ける?」
「え、どこにですか?」
「ふわっふわのパンケーキが食べたい気分なんだよね。ここ、どう?」

 スマホをテーブルに置き、調べたカフェを見せてみる。それに彼女は口の中の物がなくなると、うんと頷く。

「私でよければお付き合いしますよ」
「本当?断られるかと思った」
「どうして?」
「だって俺、目立つし?撮られる可能性だってあるじゃん」
「んー……五条さんが私と撮られて気にしないのなら、私も気にならないです」
「俺は気にしないけど?」
「じゃあ、行きましょう」

 意外だ。硝子ほどではないが、嫌がられるかと思っていたから。俺達は朝食後、準備をして街へ出掛ける。車で行くと駐車場を探すのも面倒だし、タクシーで目的地まで行くこととなった。
 カフェに行く前に買い物でも、とカフェ近くの雑貨屋まで向かう。半日ほど暇潰し出来そうなくらい広い店で、彼女は食器が見たいと言う。確かに一人暮らしで、訪ねて来るのは傑や硝子くらいだ。皿は少ないし、大体ピザとか出前だ。昨日のカレーも、涼華は深皿で食べていたし。

「あまり買いすぎても良くないですよね」
「オマエの家の皿はどうなったの?」
「お皿もほぼ全滅です。食器棚が倒れていて、中身が飛び出してました」
「地震でもないのに、何で?」
「カウンターキッチンなんですけど、窓から入り込んだ水が直撃してたみたいです」
「……近所が火事になると大変だな」

 それで補償してくれないんだから大変だな。ほとんどの家財は全部ダメになり、最低でも一ヶ月は家に入れないとか。長引いてくれた方が、俺としてはありがたいけど。

「可愛いお皿よりも、シンプルなデザインの方がいいですよね」
「何で?」
「だって、私の家の物じゃないですし……」
「いいよ、皿なんて何でも。料理するのはオマエなんだし、好きなの選んでよ」
「じゃあ、可愛い色選びますね」

 これなんてどうですか?と黄色の皿を取り、見せてくる。そんな彼女に付き合っていると、新婚気分を味わえる。そう思っているのは俺だけなんだろうが、つい頬が緩んでしまっていた。
 平日の昼間で人が少ない店内でも、徐々に俺に気づいては隠れてついて来る人間が増えた。それは彼女も気づいていて、俺はこの後カフェに行く為、今荷物を増やすのは良くないと、皿だけ買ってカフェへと向かう。カフェにはお昼時ということもあり、行列が出来ている。並んでいる全員が女だ。俺は順番待ちの為に出入口前にあるバインダーに挟まれた紙に名前を書き、隣にあるベンチが置かれた待合室、その最後尾に当たる場所へ座る。すぐに俺の正体がバレ、こちらを見ながらコソコソと話している。昼間に都会で外食は面倒だなと思いながら、隣に座った涼華をチラリと見ると『ふわふわパンケーキ レシピ』と調べている。確実に俺の為に作ろうとしてくれているのが嬉しいし、健気で可愛い。俺は彼女のスマホを覗き見ながら話し掛ける。

「パンケーキもいいけど、俺は甘々のチョコケーキも食べてみたーい」
「チョコケーキ……カップケーキとかじゃなくて、ホールの?」
「そう、型とか買ってさ、作ってよ」
「……分かりました、レシピ見ておきますね」

 そう言ってチョコケーキのレシピを検索し始め、俺は少し彼女の肩に体重を預ける。少し重そうにするが、周りの視線は気にしていないようだ。いつもは控えめな彼女だが、こういう場では萎縮するのではなく、堂々としているのがいい。俺の嫁となる自覚がある?なんてことを考えながらぼんやりしていると、近くに座っていた若い女が「あの……っ」と声を掛けてくる。

「は、祓本の五条さんですか?」
「……違いまーす」
「写真とか!お願い出来ませんか?」
「私達、五条さんのファンで……!」
「んじゃ、俺達がC−1で優勝した時のネタ、タイトルはまぁいいけど、題材にしたのは何でしょーか」

 どうせこういう輩はファンじゃない。ネタなんて見てるわけないと、俺はクイズを出してみる。それにえぇと、と彼女達は困ったように笑う。

「残念!時間切れ」
「……大人気なくないですか?」
「チャンスはあげたんだよ?」

 こういう所、性格が悪いと言われるんだけど、嫌なものは嫌だ。ファンだったら大歓迎だけど、ただ物珍しいから撮りたいってのもな。
 彼女達は諦めて座り直すと、周りは話し掛けようという気がなくなったようだ。こういう所から、五条は顔だけって言われるんだろうな。

「五条さん、ファンサービスはあまり良くないって聞きますよ?」
「傑が近すぎんの。俺だって漫才観に来てくれたファンには握手もするし、サインもするし、写真も撮るよ。でも、全員と撮ってたらキリないじゃん。ガキんちょとは撮ってあげるけど」
「子供好きなんですね?」
「いや、そうでもない。でも何かさ、ガキにビビられんの、割とショックなんだよね。だから傑の真似して優しく接するようにはしてる。それに、俺ら一発芸があるわけじゃないし?これでも正統派で売ってるつもりだから、ファンの年齢層高いわけ。そうなったらガキのファンは嬉しいじゃん」

 たまに、生意気に俺を呼び捨てにして弄ってくるガキがいるが、それはそれで可愛げがある。毛の生えたガキに言われるのは腹立つけど。

「五条さんにも五条さんなりの接し方があるんですね」
「まぁね。盗撮とか分かりやすいんだよなぁ、芸能人だからって理由で、何で撮りたがるんだろうな。自分は盗撮されたら嫌なくせに」
「確かに、そうですね。でも夏油さんは時間の許す限り撮るみたいですし、やっぱりそっちの方が好感度は上がるでしょうね」
「俺は面倒くさい。プライベートはゆっくりしたい」

 そんなことを話している間に順番がやって来、店員に名前を呼ばれた。案内されるがまま席に着くと、俺は早速メニューを開く。

「クリームブリュレパンケーキ、食ってみたかったんだよね」
「私は……この定番っぽいバターとメープルシロップのパンケーキにします。あと、コーヒーも」

 店員が水を持って来た際に注文して待っていると、彼女が妙に静かだと感じた。皿を選んでいる時は楽しそうだったのに、口数が減ったし、返事も曖昧だ。注文したパンケーキがやって来て、いつもの調子に戻るかと思っていたが、美味しいと笑顔になるものの、無駄なことは話さなくなった。

「……楽しくない?」
「え?そんなことないですよ。パンケーキもふわふわで美味しいですし、」
「俺にはオマエがつまんなさそうに見える」

 それに彼女は少し考えた後、少し落ち着きなく辺りに見回した後、チラリと俺を見る。

「つまんないことはないですけど、人目があるのは緊張して、あまり頭に入ってこないというか……五条さんと二人きりの場所で話している方が、楽しいのかも」

 その言葉に体温が上がった気がした。それは口説き文句だろ、とつい俯いて、ニヤけるのを我慢する。本当、俺誑しだコイツは。

「……新作ゲーム買ってさ、家でしよ」
「はい、気になっていたゲームがあるので、是非」

 ここのパンケーキが食べてみたかったのは本当。でもそれ以上に、彼女がいることをアピールしたいという目的もあった。最近、俺のことを諦めたのか、パパラッチが彼女との写真を撮らない。だからこっちから堂々と出歩いてやろうと思った。でもそれ以上に嬉しい本音が聞けて、俺はただだだ幸福で満たされていた。
 パンケーキを食べ終えて店を出ると、家電量販店へ向かう。ゲームコーナーでは新作ゲームの映像が流れていて、いつも俺達がするのは桃鉄くらいだが、彼女は何が興味あるんだろうか。

「新作のどうぶつの森、話題になっていたので、やりたくて」
「こういうのが好きなんだ」
「アクションゲームは下手くそなので」
「ふーん……」

 パッケージの裏を見て、マルチで遊べるならいいな、と俺はゲーム機本体を見る。

「俺もこれやる。二つ買ってさ、お互いの森だか村に行って遊べるならやろうぜ」
「えぇっ!五条さんが好きなタイプのゲームじゃないかもしれないですよ?」
「いいのいいの」

 俺は本体とソフトを二つ買い、最後にスーパーで夕食の食材を買って帰ることに。荷物でいっぱいになり、タクシーに乗って自宅へ帰ると、俺は早速ゲームを起動し、設定をし始める。彼女は食材を冷蔵庫に入れたり、夕食の支度をしている。
 セットアップが終わる頃には、彼女は既に料理の下準備をしており、俺はキッチンへ向かい、彼女の背後からその手先を覗く。

「結構食材買ったよな。今日は何?」
「ロールキャベツです……というか、近いですよ」
「いーじゃん」
「……動きづらいんですけど」

 照れちゃって。嫌がられても寂しいし、テレビでも観ていようと俺はソファに寝転がっていたが、調理音が心地良く思え、ついうとうとしていた。そうしていると、いつの間にか寝落ちしていて、温かい感覚に目が覚める。
 夢を見ていたような気がする。僕は一人で部屋にいて、愛しい人達のことを考えていたような。
 いい匂いがする。薄暗い部屋に、ぼやりと彼女が見え、そっと手を伸ばす。頬に触れた時、彼女はビクリと体を震わせる。

「起こしてしまいましたか?」
「……ん、何時?」
「七時過ぎです。夕飯は出来たんですけど、どうしますか?」
「……食べる」
「用意しますね」

 起き上がると、寝室から持って来たであろうタオルケットが掛けられていた。何だか今日は食べて寝ているだけだったな。普段ならこんなことないのに。そう思いながら席に着くと、今日買った皿に盛り付けられた料理が並べられた。ロールキャベツのトマト煮にエビとブロッコリーのサラダ、きのこスープにチキンライス。豪華だと思いながらメインのロールキャベツを口に運ぶ。

「ん、美味い」
「良かった。五条さん、沢山食べてくれるので、作り甲斐ありますね」

 嬉しそうにヘラヘラする彼女に胸がキュッと締め付けられた。日に日に彼女が好きになる。明日から数日出張なのが惜しい。目の前にある現実が夢のような感覚があり、料理の話をしている彼女を見ていると、早く結婚して、夫婦になりたいと感じる。

「五条さん?」
「ん?」
「何かぼんやりしてますね。まだ眠いんですか?」
「久々の休日で頭がぼんやりしてるだけ」
「じゃあ、今日はゆっくりゲームでもして寝ましょう。いつも忙しいですからね」
「何ならベッドで眠くなるまでやろう」

 ゲームを楽しみにしているのか、食事を終えるとすぐに寝支度を始める。先に寝支度を済ませたのは俺で、ベッドにゲーム機を持って来て準備をしていると、涼華もやって来た。ベッドに肩を並べて座ると、同時にゲームを起動した。

「キャラメイク出来るみたいですよ。五条さんは作りやすそうですね」
「じゃあ、互いに作ってみる?」

 ゲーム機を交換して、涼華っぽく作ってみる。顔見せてと覗き込むと、彼女は照れくさそうに顔を逸らした。

「ほら!出来ましたよ、パッチリお目目で」
「俺も可愛く出来た」
「本当だ、ありがとうございます」

 島を選んで、やっと本番だとゲームを始める。今はこうなってるんだ、島の住人が可愛いなどと話しながら進めていく。俺が彼女の肩に体重を預けながら、画面を覗く。肩に頭を乗せてみても、彼女は気にせず夢中でプレイしている。

「チュートリアル終わりましたよ。五条さんはまだですか?」
「もうちょい」
「その間に雑草抜いておきます」

 俺は自分のゲームを進めていると、彼女はチラチラと覗いてくる。もうこの距離感には慣れたのだろうか、そう思いながらチラリと彼女を見ると、やっと距離が近いことに気づいたのか、少し距離を取る。

「何で避けんの?」
「ち、近いので」
「いいじゃん、今更でしょ」

 俺はゲームの電源を落とすと、勢いのまま腹に腕を回して抱きつくと、彼女は体を硬直させた。

「もう寝よ?」
「か、勝手に寝てください」
「冷たいな、いいよ。俺は寝るから」

 ズルズルと下がっていき、彼女の膝に頭を乗せる。それに彼女は「やりにくい……」と戸惑いながら身を捩り、俺に背を向けて寝る。スススと背中に擦り寄ると、彼女はチラリと振り向く。

「きょ、今日どうしたんですか?」
「ちょっと……人恋しいと思っただけ。嫌なら避けてくれていいよ」

 それに答えることなく彼女は再びゲーム画面に視線を向ける。腹に腕を回してみても、彼女は俺を避けることはない。ゲームに夢中なのかもしれないが、今日はそれでも良かった。
 夢の中の俺と彼女のように、言葉にしなくても伝わるような関係性も悪くないけど、言葉で聞いて安心したい。
 彼女の体温と心地良い鼓動に意識が朦朧として、夢の中へと堕ちていく。

 なぁ、オマエはこんな俺を、今も愛してくれる?






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