#7.恋の駆け引き





 立春の寒さが再び戻ってきた四月に新入生がやって来た。盛大に新入生歓迎会を開き、浮かれていたのが二ヶ月前のことだ。
 任務中、隣にいる傑の声をかき消すような大雨が降った。彼此十五分ほど雨宿りをしているが、止む気配がない。

「あー……補助監督つければ良かったな。帰りにゲーセン寄って帰ろうと思ってたから、置いて来たのに」
「ふふ、クレーンゲームの景品で好きな子の気を引きたいのか」
「だってアイツ、あのキャラクターが俺に似てるって言うんだよ。わざと煽ってるよな」

 初めてクレーンゲームで取ったキャラクターは、青い瞳を持つ白い犬だった。俺がそれに似てると笑って、ベッドに置いて一緒に寝ている。それってもう、俺のこと好きってことじゃん。
 俺が初恋に浮かれていることを知り尽くしている傑は隠す気なしか、と肩を竦める。今更隠した所で、何の意味もない。傑や硝子が本人に俺の気持ちをバラすことはないし。寧ろ俺を意識するようなことを言えとも思うが、コイツらは俺の思惑通りに動かない。

「わざわざクレーンゲームの安っぽいのじゃなくて、店でしっかりした物を買ってあげた方が喜ぶよ」
「何でもない日にいきなりプレゼントっておかしくね?」
「何でもない日だからこそ、自分は想われていると感じるんじゃないか?」
「流石はヤリチンだな」
「二度と助言しないからな、クソ童貞」

 そんないつも通りのくだらない会話をしながら携帯を開き、近くにぬいぐるみが売っているような店はないものかと検索してみる。すると検索に出てきたのは目の前のショッピングモールで、その中にキャラクター雑貨店があるそうだ。丁度いいじゃん、と俺は行きたい、と携帯を傑に向ける。

「……一人で行ったら?」
「付き合えよ!」
「ヤリチンはそんな可愛らしい店に興味ないんだ」
「根に持つなよ、ごめんって」
「はぁ……涼華に迎えの車を出してもらうように言うから、その間に買って来なよ。目の前の建物にあるんだろう?」
「このことはまだ言うなよ!」

 俺は雨に濡れることもお構いなしに、向かいのショッピングモールまで無下限呪術で雨を弾きながら走って行く。街中では目立つから無下限呪術を使うなと傑や涼華に注意されたことを店の中に入ってから思い出した。そんなことより、キャラクター雑貨店は何階だろうかと俺はエスカレーター近くのマップを見て三階だと分かり、急ぎ足で向かう。辿り着いた店は女児が喜びそうな可愛らしい店で、平日の昼間だからか、人は疎だ。中に入って目当てのキャラクターコーナーを見る。生地がつるんとしたものではなく、毛が立っているような、ふわふわとしたぬいぐるみがあり、ボールチェーンが付いている。バッグに付けてくれるかな。そう思いながら一つ買うと、プレゼント用か訊ねられた為、ラッピングしてもらうことにした。
 店を出ると携帯が震えた為開いてみると、メールには傑から『たまたま近くにいたらしい。もう来てるよ、カフェ前に集合』とあり、俺は走って集合場所へ向かう。最初は無下限呪術で雨を弾いていたが、目的地まで少し距離がある。面倒だが目立つのは良くないと呪術を解いて走って行く。目的地には既に車が停まっていて、俺はすぐに後部座席に乗り込んだ。運転席には涼華が、後部座席には傑がおり、濡れている俺に驚いていた。

「あれ、無下限は使わなかったの?」
「オマエが人前で使うなって言ったんだろ」
「もう買い物はいいんですか?五条くん」
「ん、済ませたからいいよ」

 制服に染み込んだ雨、濡れたシャツが肌にペッタリとくっついて不快だ。それが体温を奪っているのが分かる。
 高専へ戻ると、さっさとシャワーを浴びようと自室が濡れないよう気を遣いながら部屋着を取り、シャワー室へ向かう。水を吸って重くなった制服を脱いでシャワーを浴びた。いつもと変わらない過ごし方だった。
 なのにその翌日、俺は風邪を引いた。
 倦怠感と共に目覚める。まだ日が昇って間もないことは、カーテンから差し込む光で分かった。汗ばむほど体が熱く、着ているシャツは肌に張り付いている。掛け布団を剥ぎ、冷たい空気が肌に触れた瞬間、ぞわりと悪寒がした。風邪を引いたと理解し、俺は枕元の携帯を取る。
 こんな時、誰に連絡したらいいのか分からない。風邪は反転術式で治せないものかと思いつき、硝子に『風邪ひいた』とメールを送り、再び目を瞑った。暫くすると、玄関からノック音と共に扉が開く音がした。硝子が来たのかと起き上がると、開かれた引き戸の先には涼華がいた。

「おはようございます。家入さんから聞きましたよ、風邪を引いたって」
「……何でオマエなの?」
「家入さんが良かった?」
「そうじゃないけど……」

 カッコ悪いじゃん。俺は布団を被ろうとすると、その前に彼女はスポーツドリンクを差し出して来る。

「ちゃんと診てもらいましょう、高専にはお医者さんもいるんですから」
「……分かった」

 俺はとにかく薬は必要だと彼女からスポーツドリンクを貰い、それを飲みながらフラフラと一人で保健室へ向かう。風邪だと診断され、風邪薬を貰った。それを手に部屋へ帰ると、何故かまだ涼華がそこにおり、テーブルには湯気が立つほど熱々のたまご粥があった。

「おかえりなさい、やっぱり風邪でした?」
「そう。何してんの?」
「風邪にはお粥でしょう?作ったんです。胃に優しい物を食べて、薬を飲んで、休んでください」

 食欲はないが、薬は食後だと決められている。仕方ないと俺はベッドの前に座り、たまご粥を食べる。熱々で、とろりとした卵と塩っぱく味付けされたお粥が体に染みた。

「夏油くんが笑ってましたよ、雨に濡れて風邪を引くなんて、漫画だけかと思ったって」
「疲れもあんだよ、うるせぇな」
「二人は忙しいですからね。暫く安静にしてください」

 たまご粥を完食すると、一緒に用意された水で薬を流し込む。それに彼女は皿の乗ったお盆を取り、立ち上がろうとする。それに俺は反射的に彼女の腕を掴んでいた。自分でも何故掴んだのか戸惑っていると、彼女はふと笑顔を見せる。

「食器、洗ったらすぐ戻って来るので、ベッドで寝ていてください」
「……ん、」

 その言葉に俺は何故か安堵し、手を放す。彼女が部屋から出て行ったのを見送ると、ベッドに入る。ふと彼女の笑顔を思い出し、さっきの行動は全て熱の所為だと自分を誤魔化した。
 掛け時計と外からの枝葉が擦れ合う心地良い音を聞きながらうとうとしていると、涼華が帰って来ては、そっとベッドに座った。

「風邪を引くと、人恋しくなりますよね」
「……そんなんじゃないし」
「じゃあ何で引き留めたんですか」

 何故引き留めたかなんて、分からない。でも人恋しいと言われて、俺は彼女に傍にいてほしいんだと気づいた。

「……人恋しいって言ったら、ここにいてくれんの?」
「はい、今日は私もお休みなんで。夏油くんは任務、家入さんは移されるのは嫌だから私に頼んだんです。でも、後でお見舞いには来てくれるそうですよ」
「……そう」
「あ、夏に買った冷えピタが余ってたので、持ってきました。つけてください」

 そう言って彼女は袋から取り出した冷えピタのフィルムを外す。髪を上げてと指示された為、大人しく前髪を上げると、キンと脳に染みるような冷たさが額に広がり、思わず身を縮める。

「これで熱が引くといいですね」

 ポイとゴミ箱にフィルムを捨て、暇潰しの為に持って来た本を開き始めた。それが何だか気に入らなくて、俺は布団から手を出すと、彼女の脚に触れる。それに気づいて俺の手をそっと何の躊躇いもなく握ると、顔を覗き込んでくる。

「どうしました?」
「……寒い」
「毛布とか、」
「温めて」

 普段の俺なら絶対言わない。でも、今日は熱の所為に出来る。そう繋いだ手を動かし、指を絡めると、彼女の瞳が揺らいだ。暫く戸惑った後、彼女はギュッと俺の手を握り返し、そっと掛け布団を持ち上げて中へ入って来る。

「……こういうこと?」

 普段、これほど密着することはない。しかもベッドの上で。熱で鼓動も速くなっていたが、余計に速くなり、触れ合う体温と彼女の匂いで理性を失いそうなほど、脳はパニックになっていた。
 目の前で照れくさそうに添い寝をする彼女の手を解いて抱き締める。わっ、と驚くような声がしたが、今の俺は欲に身を任せていた。彼女に触れたいという欲が満たされていく。まるで自分の物になったような錯覚。心地良い体温に包まれながら、俺はそっと目を瞑った。
 目を覚ますと、まだ腕の中に涼華はいた。ただ違ったのは、眠っているということだけ。規則正しい寝息が胸辺りから聞こえ、俺はそっと髪を撫で、そこに唇を落とす。
 彼女を高専に誘って良かった。助けて良かった。好きになって良かった。涼華がいなくてもきっと、楽しくやっていけたはずだ。それでも、この気持ちを教えてくれた彼女がただただ愛おしい。こんな弱くてちっぽけな存在に抱くこの恋心を、体温を、匂いを、笑顔を、寝顔を、きっとこの先も忘れることはないのだろう。


 風邪も治り、皆がそれを忘れ去った頃、補助監督として涼華が俺の単独任務に同行した。目的地に辿り着いた時、俺は風邪の原因を作ったであろうプレゼントをやっと彼女に渡すことが出来た。唐突に贈られたそれに彼女はきょとんとしながら受け取る。

「何ですか?これ」
「たまたま、見つけたから」
「開けてもいいですか?」
「ん、」

 短く返事をすると、彼女はそっとラッピングを解く。中に入ったボールチェーン付きのぬいぐるみを見て、子供のように目を輝かせた。

「可愛い……!ふわふわしてますね」
「好きかなって……」
「はい!可愛くて好きです……!ありがとうございます!」

 ここ最近聞いたことのないような溌剌としたその声は、嬉しさからくるものなのだろう。口元を緩ませ、指でぬいぐるみを撫でている。

「家入さんはつけてないですけど、女の子は皆、バッグにこういうのつけてるじゃないですか。いいなぁと思ってたんですけど……この子は勿体ない気持ちになるな……」
「いや、つけろよ」
「そう、ですね。常に一緒にいます」

 ヘラヘラと笑う彼女が可愛くて、つい口元が緩む。俺は渡して良かったと思いながら、行って来ると軽く手を振る。すると彼女は行ってらっしゃい、と笑顔で俺を見送った。
 任務は早々に終わらせたが、彼女は一年生の任務の送迎があるから、と高専で別れた。助手席に置かれたバッグに俺があげたぬいぐるみがつけられているのを見て、また口元が緩んだ。
 機嫌良く寮へ戻ると、寮の隣で硝子が煙草を吸っているのが目に入り、軽く声を掛けて隣に座ると、硝子は肩を竦めた。

「間抜け面」
「どこをどう見ても美しい面でしょ」
「はいはい。で?涼華と何かあった?」
「プレゼントあげたら、すげぇ喜んでた」
「何あげたの?」
「バッグつけるような、ぬいぐるみ」
「オマエら見てると、小学生の恋愛見てるような微笑ましさがあるわ」
「自分は恋すらしてないのに、上からじゃない?」

 もっと高い物をプレゼントすれば大人な恋愛になんのかよ、と思いながらも彼女が喜んでいたんだからいいと、そこは割り切る。

「涼華、俺のこと何か言ってた?」
「別に?この間のスマブラは大人気ないって愚痴ってたくらい」
「それは硝子の意見でしょ」

 硝子が最下位だったし。俺は携帯を開き、最下位が決まった瞬間に撮った写真を見る。硝子だけが不機嫌そうにしていて、それを見せると肩を殴られた。

「痛っ」
「それで、五条はあの子に告白する気ないの?」
「あー……うーん……涼華が他の奴に目移りするように思えないし、いいかなって」
「ただビビってるだけだろ」
「いや、ビビってないから。言葉にしなくても、伝わってはいると思うし」
「ふーん……」

 何だその意味深な相槌。そう思っていると、彼女は地面に煙草を押し付けて火を消した後、吸い殻をポケット灰皿に入れる。

「アンタ達の恋の駆け引きを見守っててやるよ」
「どうせなら恋のキューピッドしてくれてもいいけど?」
「絶対やだね」

 硝子はそのまま寮へと入って行き、俺は焼け焦げた地面を見ながら、俺は彼女のことになると臆病になるな、と考える。彼女に好かれている自覚はあるし、受け入れてくれると感じている。なのに、どうして言葉が出ないんだろう。

「……好き、涼華のことが、好き」
「健気で泣けるよ」

 小声でそんなことを呟いていると、頭上から聞き慣れた声がした。見上げると、窓から傑がこちらを覗いては笑っている。今のを聞かれたのは、流石に恥ずかしい。

「いるなら言えよ……」
「深刻そうな顔してたからさ。君は涼華のことになると可愛げがあるね」
「るせぇ、何だよ、覗き見しやがって」
「大した用はないよ。今夜、スマブラしませんかって誘いに来ただけ。七海や灰原、涼華や硝子も全員参加」
「またかよ、オマエはハメ技禁止しろよ」

 この間のスマブラは地元で鍛えたハメ技と言って、俺だけを集中狙いして来た。灰原が友達を失くす技だとか言っていたが、確かに決勝戦であれはキレそうになった。
 俺は受けて立つ、と窓から寮へ入ろうとすると、傑はふと笑う。

「勝った方が涼華に告白するっていうの、どうだい?」
「あ?」
「そっちの方が、君は本気になれるんじゃない?」
「ふざけんな。オマエ、そんな軽い奴なのかよ」
「随分と弱気じゃないか、君が勝てばいいだけの話だろう」
「オマエの憂さ晴らしに巻き込むんじゃねぇよ」
「告白のキッカケを作ってやろうとしてるんじゃないか。ま、手は抜かないけど」
「……本番まで練習付き合えよ!」
「戦う本人と練習するのか。まぁいいけど」

 不安なわけじゃない、負けるなんて微塵も感じていない。傑が本気じゃないってことも分かってる。それでもアイツの心に迷いが出たり、選択肢を増やすのは嫌だ。
 俺は傑を倒す為、部屋で二人、スマブラの特訓をした。結果は五分五分、いや少し負けている。それでも本番は絶対に勝つと意気込み、今夜のスマブラ大会が始まるのを待った。
 夜になって硝子が酒やつまみを持って傑の部屋へやって来た。挨拶もなしに座ってまず一杯飲み始めた硝子は、ぼんやりとテレビ画面を見る。

「いつからやってんの?」
「昼から。悟が本気出しちゃってさ」
「聞いてよ硝子!傑、スマブラに勝った方が涼華に告白するって言ってんだけど」
「友情崩壊ゲームか、いいな」

 涼華は本気にしない、と言わない硝子にモヤモヤしながら俺は再びコントローラーを握った。
 暫くすると涼華、七海、灰原の三人が任務から帰って来ては手に土産を持って部屋へやって来た。

「お疲れ様です」
「お疲れ様でーす!甘いお土産、買って来ました!」
「塩っぱいのもありますよ」
「お、サンキュー」

 土産をテーブルに広げ始める中、俺は技を出す練習をしていると、涼華は俺に土産のチョコを手渡して来る。

「糖分、大事ですよ。今日は優勝するんですよね」
「あー、それ言っちゃう?涼華は勝った方と付き合わなきゃなんないよ」
「そんな戦いするんですか!?」
「そもそも、私達が負ける前提なのが腹立ちますね」
「えぇ?私はそんな学園のマドンナみたいな存在なの?」

 涼華は硝子の言葉に冗談だと笑っているが、俺は気が気でない。そわそわしていると、傑は硝子の隣に座った涼華の顔を覗き込む。

「私が優勝したら、付き合ってくれる?」

 冗談でも口説くんじゃねぇよ!しかもさっきと話が違う!と俺は傑の脚を蹴る。それに涼華はどう反応するんだと顔を見ると、困ったように笑っている。それに返事させないよう、俺は声を上げた。

「オマエが優勝することなんてないんだよ!今日は俺が優勝する!見とけ!」
「はいはい」
「おっ、五条さん、夏油さんのハメ技対策、出来たんですか?」
「いや、あれは禁止にしたから。反則」

 そうして始まった決勝戦。涼華と硝子は棄権し、まずは俺と七海が対戦する。勿論、勝ったのは俺。次に傑と灰原が対戦し、勝ったのは傑。つまらんと言うように七海も硝子に勧められるがまま、塩っぱいつまみを食べながら酒を口にする。それを横目に俺は緊張してきた、と手を擦り合わせ、コントローラーを握る。

「このポップコーン、専門店があって、そこで買ったんです」
「へぇ、塩味なのに甘いと思ったけど、本来の甘さってやつ?」
「コーンにもこだわってるみたいですよ」
「限定の味も買って来たんで、それも食べましょうよ!僕、それ楽しみにしてて」

 駅でたまたま開いていたというポップコーン専門店のポップコーンの話で盛り上がっている負け組&棄権組は緊張感がない。俺だって食べたいのに。

「おい、俺と傑の試合見ろよ!」
「見飽きたわ」
「あっ!お二人共頑張ってください!」
「どうせ五条さんが勝つまでやるんですから、いいでしょう」
「頑張れー」

 涼華ですら興味なさそうだ。その間にも傑は軽くジャブを入れながら余裕そうにニヤニヤ笑っている。

「ガードばっかりして、ビビってるね」
「戦法だ馬鹿」

 ハメ技はなくても、知らないパターンで攻撃を打ってくる傑にイライラし始めたが、先に一機減らした。このままやれば勝てると少し肩の力を抜いたが、最後の最後で空中に投げ出され、そのまま落下死した。あと少しだったのに、負けた。

「ダーーーッ!!」
「うるさ」
「あぁ!また夏油くんの優勝だ」
「ふふ、今回は危なかったけど、何とか勝てたね」
「今のなし!次が本番!」
「出た出た、それ悪い癖だよ」

 そう俺が傑のベッドの上で駄々を捏ねていると「埃を立てるな!」と硝子に殴られた。それに涼華は俺の暴れっぷりにポリポリとポップコーンを食べながら首を傾げる。

「今日、そんな全国大会みたいなノリだったんですか?」
「悟にとっては世界大会だったんじゃない?」
「えぇ、でも惜しかったですよ!ポップコーン食べて元気出してください」

 彼女はベッドに座り、ポップコーンを一つ摘んで俺の口元に持って来る。それをそのまま食べさせてもらう。普通に美味いし、嬉しい。

「美味い……」
「良かった。今度はパーティーしましょうよ、ミニゲームは自信あるので」
「それならクズ共より自信あるな。勝ったら私と付き合う?」

 それ、アリかよ!と俺は硝子の言葉に反応して起き上がると、灰原は気にしていなさそうに手を挙げる。

「じゃあ僕も立候補します!」
「えぇ?勝った人と付き合っていってたら、恋人いっぱい出来るよ」
「はは、涼華が勝ったら、好きな人選べばいいよ」
「皆は私しか選べないのに、私だけ特権ですね、それ」
「夏油さん、パーティーあるんですか?桃鉄しか入ってませんけど」
「あぁ、桃鉄の方に入ってるんだ、悪いね」

 わいわいと次のゲームの支度をしていく皆に、本気になっているのは俺だけだったと、再びベッドに倒れて丸くなる。いや俺も、本気じゃなかったし……勝ってても告白なんてしなかったし。そんなことを悶々と考えていると、涼華は黙って丸くなっている俺の顔を覗き込む。

「ほら、拗ねてないでやりましょうよ。四人だからジャンケンですよ」
「俺、いいわ……」
「……じゃあ、二人で見てましょうか」

 そう言って彼女は持っていたコントローラーを七海に譲ると、ベッドに深く座った。それを察したように、四人は遠慮なく進めていく。涼華は気にしていなさそうにベッドに肘をつき、俺に耳打ちする。

「誰が一位だと思います?賭けませんか?」
「……何を?」
「うーん……皆の夜食とか?」
「……俺、硝子」
「じゃあ私は、七海くんで」

 意外と本気ですよ、と笑う彼女が可愛らしい。あぁ、やっぱり馬鹿みたいに好きだ。
 練習通りに彼女に想いを伝えられたら、俺のこの気持ちは満たされるのだろうか。






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