??? 呪われた理由
ここは妄想の世界?いや、そうじゃないと願いたい。
空港で学生時代の姿をしている傑や七海、灰原と話をした。周りには死んだかつての友人達がいる。それなのに、彼女がいない。俺の心を見透かして、傑はふと笑う。
「涼華なら搭乗口で待ってるよ。二人きりで話したいだろう。私達は後で行く」
俺は立ち上がると、軽く手を振って傑が指した搭乗口へ向かう。そこにはベンチに座り、ぼんやりと出発前の飛行機を見つめる涼華の姿があった。俺は席を一つ空けて隣に座る。
「待っていました」
「……長かったでしょ」
「全然。もっと待つかと思ってました」
そう言って彼女は俺のすぐ隣へと座り直した。肩が触れ合った時、俺は自分が情けなく感じる。
「俺、オマエを前にすると臆病になるんだよな」
「……知ってる。お疲れ様でした、五条くん」
彼女はそう言って俺の肩にもたれ掛かり、そっと俺の手を取り、繋いだ。強張ってしまうのは、俺に後ろめたさがあるからだ。でも、そんなことを気にせず、彼女は静かに言葉を続ける。
「私、あなたを待つ時間が何よりも好き。任務を終わらせて帰って来る時も、私を見て嬉しそうな顔するの、気づいてました?」
「……オマエもそんな顔する」
「だって、五条くんが帰って来てくれるから」
いつもそうですよ、と笑って俺の手を指で撫でる。まるで、愛おしい人との再会を喜んでくれているようだ。つい、それに甘えてしまいそうになるが、つい彼女の死に姿を思い出してしまう。
「……でも、俺はオマエを助けられなかった」
「それは私が弱かっただけ。五条くんが私を傷つけたことなんてない。幸せですよ、五条くんと出会えてよかった」
「……うん」
その言葉で、俺は体の力が抜けた。俺も少し彼女へ体重を預けると、彼女は体を起こしてこちらに向く。そこでやっと、俺はちゃんと涼華の顔を見ることが出来た。俺が記憶している彼女と何一つ変わらない。
「もし、またどこかで出会えたら、私を助けてくれますか?」
「……ピンチになる前提?」
「ピンチになったらの話」
生まれ変わったら……そんなことあり得るのかと考えるが、これが僕の妄想じゃないなら、あり得る気がしていた。
「きっと、俺は何度でも同じことをするし、何度でもオマエを好きになるよ」
「……嬉しい。私も絶対、五条くんを好きになるから」
好きという言葉が、ずっと出てこなかった。でも、やっとここで彼女に思いを伝えられた気がする。本当、遅すぎる。
俺は彼女にそっと唇を寄せ、キスをすると、彼女は優しく笑った。
「ずっと、待ってます。五条くんが来るのを」
「うん、必ず迎えに行く」
そう言って彼女を抱き締めると、彼女は俺の背に手を回して抱き締め返した。
「私、五条くんを呪うことにする」
「何で?」
「私を忘れないで。五条くんがいなきゃ生きていけないと感じるくらい、五条くんにも、私がいなきゃダメだって感じてもらえたら嬉しい」
「それ、俺の台詞」
「どうだろう、五条くんはモテるし、きっと私がいなくても生きていけるから。でも私は五条くんがいないとダメ」
俺は彼女を抱き締めたまま、ベンチに彼女を押し倒す。これは殺し文句だ。俺だって、めちゃくちゃ好きなのに。それ以上に彼女も俺を思ってくれている。それだけで十分だ。
「……えっちしたい」
「そ、それはダメ」
「冗談。その呪いを受け取るよ」
本当に生まれ変わることがあるのなら、彼女と幸せになりたい。俺がオマエを忘れても、オマエはきっと、どこかで待ってくれてるはずだから。
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