三話 私達の青春は。@




 夏油 傑の第一印象は、信用出来ない人。誰にでも愛想を振り撒く人誑し。
 五条 悟と並んでいると、余計に彼の愛想の良さが際立つ。それはそれはモテるだろうな、なんて思っていた。

 毎度のことながら、悟が補助監督はいらない、と言うものだから、任務には四人で出掛けた。
 何故私が補助監督がやるような、帳を下ろす役なのか。その答えは分かってきっていた。理由は誰もやらないからだ。結局、痺れを切らした私が下ろすことになるのは、毎度のこと。そして今回、四人で来たはずなのに、廃ビルの中へ入って数分後、悟と硝子の姿がなくなった。比較的任務に真面目な私と傑が前を歩いていた為、いついなくなったのか、その正確な時間は定かではない。

「悟はともかく、硝子がいなくなるのはおかしいよね?」
「硝子を過信するのもどうかと思うけど……今回は遊んでるわけでもなさそうだ。ここは呪霊の結界内、こんなものは初めて見たよ」

 傑の言葉で私は漸く気づく。私達は噂に聞く生得領域か、何かしらの結界かに入っていた。それならまずいな、と思いながらも冷静だった。

「いつの間に?」
「油断していたね、私も気づかなかった。内側から壊せるか、試してみよう」

 そう言って彼は自身の操る呪霊で廃ビルの壁を叩くが、壊れる気配はない。

「傑で無理なら、私にも無理だね」
「諦めが早いな……」
「だって実際そうだし」

 私は傑や悟より遥かに劣っている。だから傑に出来ないことは、私にも出来ない。私に出来ることといえば、何の害にもならないような下級の呪霊を祓う程度。二人を見ていると、そう感じることも多い。

「少し歩こうか。悟と硝子が外から結界を破ってくれることに期待しよう。いや、呪霊を祓う方が先かもしれないね。電話も繋がらないし、厳しいな」

 傑は携帯を弄ってみるが、ダメだと判断する。ならば私もお手上げだった。

「為す術なしかな。でも結界の構造は見ておいて損はないかも。次こんなことがあったら、対処出来るかもしれない」

 そうして私達は結界内を歩き出した。廃ビルの廊下はループしており、同じ場所をグルグルと回っていた。しかし、歩く度にその間隔は短くなっていく。

「進む度に狭くなってる?」
「そうだね。進むことが条件か、或いは時間経過か……」
「はぁ……悟、遅いなぁ」

 彼ならいつものように、派手に建物を壊してくれそうなのに、と考えながら、側にあった部屋の扉を開き、入ってみる。そこは何もない殺風景な部屋だった。

「ここで休憩しよ。ループの心配もないし……」
「そうしようか」

 私は部屋の真ん中に座ると、彼は壁にもたれ掛かりながら、何故真ん中に?と首を傾げた。

「前の任務で壁側にいたら、呪霊に引きずり込まれそうになったことがあって。何か今回も嫌な感じがして」
「……そう言われると、私も気になってきたな」

 彼は私の隣に座ると、私は傑はすぐ対処出来るでしょ、と笑った。式神使いのような術式なのに体術も出来て、瞬発力もある。自然と憧れも抱くし、同時に自分が情けなくなることもある。そんなことを思っていると、彼は背中を丸め、胡座をかいた膝に肘をつきながら、私に訊ねる。

「誰かといたの?」
「ん?悟と任務でいたよ。危なかった……いや、ただの壁抜けだったから、そんなに危険でもなかったかも。でも、用心するに越したことはないよね」
「そうだね、良い心がけだと思う」

 そんな話をしながら待っていたが、一向に助けが来る気配もない。傑と二人きりになることなど、入学して数ヶ月経ったが、滅多になかった。だからか、何を話していいかもあまり分からない。でもその沈黙は苦にはならなかった。

「遅いね。本当に来る?やっぱ動いた方がいいかな」
「……今気づいたんだけど、部屋、狭くなってない?」
「えっ」

 確認する為、パッと顔を上げて、部屋との距離感や床の角などを見てみると、確かに入った時より狭くなっているような気がした。これはまずい、と私達はドアを開けようとするが、開かない。ダメだ、と諦めて再び座ると、彼も隣に座りながら、呪霊で何とか壊せないかと壁を殴って試していた。だが、それでも上手くいかず、部屋はどんどんと狭くなり、ドアもそれに合わせて小さくなっていく。

「……このまま死ぬのかな」
「君ってネガティブだったんだね」
「さっき傑も言ってたけど、諦めが早いんだよ」

 彼は壁にもたれ掛かり、私の方を向いて、その場に座る。傑は私と対面すると、いつもと変わらない様子で話す。

「私と死ぬのは嫌?」
「そんなことはないけど……せめて苦しまずに死にたいよ。じわじわくる圧死なんてグロいし痛いし苦しいでしょ、絶対」

 そう言っている間に、私は真ん中に座っていたのに、壁がトンと背中に当たるのを感じ、徐々に傑との距離も近くなっていった。

「あー……ドキドキする」
「吊橋効果?」
「冗談言ってる場合?」

 この状況を楽しんでるように思える傑に、命の危機を感じないのか、と呆れてしまった。

「耐えていれば来るさ」
「……そうかな」

 彼は私の背後のにある壁を蹴るように脚を伸ばし、私は彼の股の間で膝を抱えて縮こまっていた。

「でも、死ぬ時は最初に死にたいかも」
「見たくないから?」
「そう。誰であっても……特に好きな人なら嫌かもしれない」
「はは、先に潰れないよう努力するよ」
「いや、無理でしょ」

 もう脚が押し返されており、私もキツくなってきた、と脚を崩すと、傑は私を自分の胸に引き寄せた。その行動に、体温に、匂いに、こんな状況でも少しドキリとしてしまった。いや、こんな状況だからか。

「これじゃあ、傑が先に潰れるね」
「そうだね。さようならでもしておく?」

 どこまで軽いんだ、この男は。そう思いながら顔を上げると、唇が触れ合いそうな距離に彼がおり、私はすぐに顔を逸らす。

「いらないよ、さよならなんて」

 そう、彼の胸に再び身体を預けたその瞬間、呪霊の気配が消える。
 それに気づいた瞬間、私は前に、傑は後ろに倒れる。部屋は元の形に戻っていて、私は放心状態で彼の上でぼんやりとしてしまっていた。助かった……?呆然としていると、その部屋の扉がガチャリと開く。

「あ?オマエら何してんの?」
「待たせておいて、それ?」

 悟と硝子がやって来て、私はバッと勢いよく起き上がる。

「遅い!」
「遅いってなんだよ、こっちは傑の指示に従っただけだっての」
「遅いのはそっち」

 どういうこと?今さっきまで死にかけていた。傑の指示とは?
 私は傑を見ると、彼は起き上がって埃を払いながら、スッと携帯を取り出す。画面には『合図が出るまで、呪霊は祓わないでくれ』との文字があり、私は混乱した。

「は?」
「悪いね。でも諦めるのは早いだろう?何でも自分で試さなきゃ。壊すことも、連絡を取ることも」

 それを教える為にやったってこと?意味が分からない、何を考えてるの?混乱と怒りが湧き上がって、今の時間は何だったんだ、と何を考えているのか分からないような胡散臭い笑みを浮かべる彼の顔面を殴りたくなった。

「その携帯、へし折っていい?」
「ちゃんと確認しない君も悪いね」

 傑はそう言って携帯をポケットにしまうと、悟と硝子はついていけない、という表情をしており、私は彼らに説明する。

「結界内に閉じ込められてたの。ループしてたけど、段々と狭められていって、最後には圧死させられそうになってた。それを!傑は!ギリギリまで!悟が携帯見てなかったらどうするの!」

 私は怒りながらベシベシと彼を叩くと、大丈夫だって、と痛くないと言うかのように笑う。

「あの結界、天井が脆かった。殴れば開いたよ。それも、自分で試さなかった君が悪いね」
「もう!私の所為にして!」
「夏油はこの子を揶揄ったってわけだ」
「ま、そうだね」
「何だよそれ。こっちは暇だったんだからな。硝子、タバコくせぇし」
「悪かったよ。何か奢ろうか」
「酒」
「クレープ」
「分かった分かった」

 私達はさっさとそこから出ようと歩き始めると、隣を歩く傑は私の顔を覗き込んできた。

「君は?何がいい?」
「…………」

 私は怒っている、という意を見せると、彼は眉尻を下げ、肩を竦める。

「そんなに怒らないでくれ。悪かったよ」
「……ゴ○ィバ」
「いいよ」

 それで許してしまうのも癪だが、傑はただ愛想の良い優しい人間というわけでもない。タチの悪い悪戯を仕掛けてくることもあるし、物で釣ってその場を収めようとするということも分かった。でも更に信用出来なくなったし、どういう人間なのかは理解出来ても、何を考えているのか、全然分からない。
 あの一瞬のドキドキは吊橋効果ということにしておこう。


***


 教室に忘れ物を取りに来たが、教室から見える夕陽が綺麗で、陽が落ちるまで見ていようかな、とそこにいた。普段の騒がしく忙しない日々が嘘のように静かだった。少し前までは当たり前だったのに。
 この静寂が心地良く、ぼんやりと椅子に座って夕陽を眺めているうちに、私はうとうとしてしまって、いつの間にか軽く意識を手放していた。しかし身体に温もりを感じて、ふと目を開くと、もう既に夕陽は沈み、代わりにその教室を照らしていたのは月明かりだった。隣を見ると傑がいて、私の肩には彼の学ランが掛かっていた。

「ありがとう……」
「どういたしまして。こんな所で寝るなんて、風邪をひいてしまうよ」
「のんびりした時間が欲しかったの。さっきまで夕陽が綺麗だったから」
「あまり夕方まで教室いることはないからね。たまにはいいのかも」
「うん……傑は何しに来たの?」
「返信がなかったから、探してたんだよ」

 メールか、と携帯を見ると、傑から『夕飯、一緒にどう?』とあった。夕飯誘う為にここまで来たの?と思わず首を傾げていると、彼は私を見てふと笑う。

「それで、返事は?」
「いいよ。でも、返信がないなら悟や硝子を誘えば良かったのに」
「悟は食べてきたって言っていたし、硝子は高い寿司をせびって来そうだしね」
「私もせびるかも」
「えぇ……君は自炊するから、食べさせてもらおうと思ったのに。今月ピンチでね」

 金欠なのは、この間、私達に何かしら奢ったからだろう。特に私が注文したゴ○ィバは悟の分も買わされていた。しかも大量に。

「でも今日は大した物はないよ。オムライスにしようと思ってた」
「オムライスでいいよ」
「じゃあ、いいけど……」

 私は作るならもう行こう、と礼を言いながら学ランを彼に返した。
 二人で私の部屋へと帰ると、個室用の冷蔵庫に詰まっている食材を取り出した。共用のキッチンスペースにある冷蔵庫は大きいが、誰かが勝手に食材を食べてしまいそうで、あまり使わない。
 部屋まで取りに来ただけだからまだいいが、部屋を人に見られるのなら片付けておけばよかったな……といっても、ベッドに昨日読んだ漫画が三冊放置されているくらいで、物はほとんど片付いていると思うけど。

「ん?ここに行くの?」

 突然、脈絡のない発言をした傑に、私は何だ、と振り返ると、彼は棚の上に置いていた近日オープン予定のカフェのチラシを手に持っていた。

「悟が行かないかって。そこのパフェがすごい美味しそうだからって」
「へぇ……」
「傑も行く?甘い物だけじゃないらしいから」
「そうだね。私も行こうかな」
「あ、でも金欠大丈夫?奢らないよ」
「これくらいなら平気さ」
「そっか、じゃあ悟にも伝えておくよ」
「いや、私が言うからいいよ」
「そう?じゃあよろしく」

 そう話している合間に私は材料を袋に詰めて立ち上がる。それじゃあ行こう、と共用のキッチンスペースまで向かった。
 いつも通りオムライスを作り始めると、傑からの視線が気になった。

「傑は料理しないの?」
「しないかな。出来るには出来るんだけど」
「へぇ、こっちの方が安上がりでいいと思うけどね」

 素早くオムライスを作り終えると、ケチャップで何となく傑の似顔絵を描いて出す。

「渾身のケチャップアートね」
「あ、これ私か」
「前髪がそっくりでしょ」

 私達はいただきます、と手を合わせ、向かい合いながら、共用スペースにあるテレビでバラエティ番組を観ながらそれを食べ始めた。

「うん、美味しいよ」
「良かった」

 その後は特に何の会話もなく、時は過ぎていく。分からないけど、彼との無言の時間は心地が良かった。


 数日後。
 休日に悟と傑とカフェに行く予定を立てており、私服に着替えて寮の前で待っていると、そこに傑がやって来る。

「おはよう」
「おはよう、傑。やっぱり悟は遅刻するだろうね」
「そうだね……今日のワンピース、似合ってるよ。バッグの色とも合っている」
「あ、ありがとう……」

 生まれてこの方、男性に服装を褒められたことがない。戸惑ったが、流石は人誑しだとも思った。

「傑は黒いね、いつも通り」
「はは、着回せるような黒や白しか持っていなくてね。落ち着くんだよ」

 それはちょっと分かる。私もこういったオシャレ着以外は黒や暗めの色が多い。そんなことを考えていると、そこにハイブランドであろう私服でやって来る悟は傑に気づく。

「ん?傑、どっか行くの?」
「君達と出掛けるんだよ」
「は?」
「えっ、傑、言ってないの?」
「悟を驚かせようと思って」

 言ってないよ、とにこりと笑う彼に、私はますます彼の考えが読めなくなっていた。その言葉に悟ははぁ?と眉を顰めた。

「何だよ、行きたいなら普通に言えばいいだろ。意味分かんねぇ」
「何だ、反応が悪いな」

 傑は悟を揶揄いたかっただけなのだろうが、見事失敗した。私は折角黙ってたのに、呆気なく終わるとは、と思いながら、早速行こうか、と悟の行きたがっていたカフェへと向かった。
 見た目も可愛く、美味しいと噂の蜂蜜パフェは人気で、カフェだというのに行列が出来ている。硝子は絶対並ぶだろうし、甘い物を食べる為に並ぶのは面倒だ、と言っていたが、確かにこれは面倒だ。

「げっ!予想以上だわ」
「パフェだけでこんなに並ぶのか。しかも女子だらけ」
「だから一人で来るの嫌だったんだよ」
「なるほど、私はナンパ避けに使われたわけ」

 悟が任務のついでにここに行きたい、言うのはよくあることだが、休日に私を誘うなんておかしいと思った。

「見ろよ!巣蜜パフェだぞ、見たことないだろ!絶対美味い!並ぶって分かってんのに、一人で来てもつまんねーし、声掛けられるだろ。面倒じゃん」

 ここは蜂蜜にこだわったというカフェで、悟はこの店の看板メニューである、蜂蜜がたっぷりの巣蜜がそのまま乗っている贅沢なパフェの写真を指すが、正直、私は見た目が苦手だ。

「巣って感じしてやだなぁ。普通の蜂蜜パフェ食べる」
「同感だ。私もパフェを食べに来たんじゃないし、いいんだけどね」
「は?傑なんて呪霊食ってんだから変わんねぇだろ」
「その言い方はやめろ。取り込んでるだけだ」
「呪霊は見た目分からないじゃん。蜂蜜と一緒」

 分かってないな、オマエらは。と悟は眉を顰めるが、食べたことないくせにその自信はどこから来るのだろうか。

「並んでるけど、名前書かなくていいのかな……ちょっと見て来るよ」

 ラーメン屋じゃないんだから、と私は列の始まり、店の出入口を覗くと、やはり名前を書くバインダーが置かれており、私は自分の苗字を書こうとするが、同じ苗字の人がいた。それならば、ここへ来たいと言い出したゴジョウ≠ニ書こう、と思うとゴジョウさんもいた。こんな被り方あるのか?と思いながら、流石に珍しい苗字のゲトウ≠ニ書いて戻って行く。すると、私がいない間に並んでいるわけではない通り掛かりの女性二人が悟と傑に話し掛けていた。私がいなくなったのは一瞬なのに、と思わず溜息が洩れた。悟は私に気づくと、軽く私に手を振る。

「俺、カノジョいるから」

 平気な顔して嘘を吐くな、どういう顔をすればいいんだ、と思いながら戻ると、彼は私の肩を抱く。
 そこまでしなくてもいいだろう、と思うが、彼は元より距離が近いタイプの人間だ、気にすることはない。すると彼女達は気まずそうにしながら傑を見ると、彼はにこりと笑って、そっと手の甲で私の頬を撫でた。

「悪いね、私も彼女がいるから」
「は、はは……」

 思わず乾いた笑いが出た。嘘を吐くならもっとマシな嘘を吐いてほしい。彼女達は優しく断られているのだと察してそのまま去って行くが、気に入らない。私はすぐに彼らの手を払う。

「ちょっと。ナンパ避けには使っていいけど、彼女のフリしろとは言われてない。しかも、何で傑も?私が尻軽女みたいじゃない」
「良かったな、尻軽女。カッコいい彼氏が出来て。今日だけだ」
「いらないし、ムカつくな」

 傑も傑で悪ノリがすぎる。まぁ、二度と会うことのない人だからまだいいけど。

「ごめんね、それ以外思いつかなくて」
「まぁ、私が離れなければいいことだし……あっ、そうだ。さっき名前書いて来たんだけど、ゲトウ≠チて書いた」
「は?何で?」
「私と悟の苗字、同じ人いたから」
「マジ?珍し」
「流石に、夏油はいないからね」
「いいよね、そういう時。ありふれた名前よりも珍しいの」
「同じ苗字になる?」
「プロポーズじゃん」
「あー、でもなつあぶら≠ウんって言われそうだからなぁ」
「サマーオイルじゃん」

 ケラケラと笑う悟に、傑は人の名前で遊ぶなよ、と肩を竦めた。傑ってそういう遠回しなプロポーズをするのかな、なんて考えながらも、私達は雑談しながら列に並んでいた。
 それも話していればあっという間で。先頭になると、店員がやって来て、そのバインダーを見る。

「三名でお待ちのゲトウ様ー!」
「はーい」
「お待たせしましたー、こちらへどうぞ」

 私は軽く返事をして店員について行く。案内された席に着くと、私の目の前に座った傑は口角を上げてニコニコとしていた。

「え、何か面白いことでもあった?」
「何ニヤニヤしてんの、傑」
「いいや、何でもないよ」
「変人は置いといて、パフェ食おう、パフェ」

 そう悟はメニューを開き、お冷を運んで来た店員にもう既に決まっているパフェやシフォンケーキ、コーヒーなどを注文していった。子供のように、超楽しみなんだけど!と悟は光を通さない真っ暗なサングラスの下の六眼を輝かせていた。私はそれより、と先程硝子から届いていたメールを確認しながら彼らに話す。

「硝子が何かつまみになる物を買って来てって言ってるんだけど……」
「またかよ」
「コンビニのおつまみでいいんじゃない?変わり種のお土産よりそっちの方が喜ぶでしょ」
「あー、確かに。何かカリカリチーズの美味しいって言ってた。新しい味が出たとかなんとか……それにするかぁ」
「アイツの舌、酒豪の舌なんだよな、もう」
「はは、将来、肝臓悪くしなければいいけど」

 そんな雑談を挟んでいると、注文した物が届く。悟には巣蜜の乗ったパフェ、私は蜂蜜がアイスにかかったフルーツパフェ、傑には蜂蜜入りコーヒーとセットのシフォンケーキ。私はパフェを食べる。確かに食べたことのない甘みのある蜂蜜に驚かされ、思わず頬が緩んでしまう。

「んー!美味しい!」
「すっげぇ美味い」
「良かったね、シフォンケーキも美味しいよ」

 長く並んだ効果もあるのかもしれない。私達は満足だと言わんばかりに黙ってそれを堪能していた。ふと顔を上げると、優しく笑う傑と目が合い、ずっと見られていたのか、と思わずドキリとしてしまう。

「美味しい?」
「うん、美味しい……」
「一口貰っていい?」
「いいよ」

 彼はコーヒースプーンでアイスを掬うと、それを一口食べ、うん、と頷く。

「蜂蜜の味が濃いな。確かに美味しい……しかし甘いね」
「そうだね。私もコーヒー、頼んだら良かったかも」
「少し飲む?」
「いや、いいよ」
「俺は傑のシフォンケーキ貰う」

 悟は奪い取るようにシフォンケーキをスプーンで一口に切って食べる。
 私と傑は甘い物の前では無邪気な子供のような彼に肩を竦めた。






back


×
「#寸止め」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -