#9.夢のような幸せは、永遠に。@





 私達が出会い、惹かれ合うのは運命なのだろう。
 生まれ変わっても貴方に会いたい。という言葉は、それくらい愛しているという愛情表現であって、本当に来世があるとは思わない。それでも生まれ変わって、前世の記憶がないのにも関わらず、また出会い、惹かれ合った。これは紛れもない現実なのだと感じる。
 まだ前世を思い出していない夏油くんには今まで通り、思い出させないようにしようと話をした。前世で何があったのか、悟くんは詳しく教えてくれないけれど、良くないことが起きたのは確かだろう。それでも、今だけを見ていたいという彼の気持ちを尊重して、訊くことはなかった。
 ある日のこと。
 いつも通り、急な呼び出しで私は仕事帰りに悟くんの家へ向かった。記憶が戻ってからは初めての呼び出しだったが、やはり以前とは気持ちが違う。私は今日から恋人として悟くんに会うのだから。
 インターホンを押して、悟くんが出てくるのを待っていたが、出て来たのは夏油くんだった。

「夏油、さん」
「やぁ、悟もいるから安心して」
「はぁ……」

 私はそっと中へ入ると、悟くんは不貞腐れたようにソファに座っており、私は何かあったんだろうか、と彼を見る。

「珍しいね、夏油さんがいる時に呼ぶなんて」
「傑がここに居座ってんの」
「少し思うことがあってね、座って」

 私はいつもの少し彼から離れたソファの端っこに座れば、夏油くんは間隔を空けて悟くんの隣に座ると、悟くんは真剣な眼差しを向けてきた。

「俺、オマエと同棲したいんだけど……」
「私はいいけど」
「ほら、いいじゃん!」

 言った通りだ!と彼は嬉しそうに夏油くんに話すと、彼は腕を組み、眉を顰める。

「それ、本気?私は君のことをほとんど知らないけど、数ヶ月前に会った時の君は、もう少し慎重だった」
「えっ」
「前にも言ったけど、悟にストーカーも同然のことをされて、ほいほい家に来るのもどうかと思うと言った時、君は悩んでた。なのに、数ヶ月後には恋人になった瞬間に同棲……人が変わったようだね」

 その言葉に、私と悟くんもきっと、ぎくりとしただろう。今の私達は前世の記憶がある状態、今世では出会って半年ほどしか経ってないが、前世では数年、共に過ごしている。本当ならばずっと一緒に生きていたかったが、それが叶わなかった。だから今世では、と思ったのだが、それは私達の間でしか分からないことだ。

「何で傑の許可がいるんだよ。同棲だけじゃないし。俺、コイツと結婚する」
「はぁ?気が早すぎないか。そういうのは、もっと慎重にだな……」
「オマエは俺の母親か何かかよ」
「違う、相方だ。腹立つが、自分の顔を鏡で見ろ。ネットでの評判、芸人としてだけの価値じゃなく、芸能人としての価値を見ろ。芸人のくせに、そこらのアイドルよりか顔はいいんだ、顔だけは」
「顔だけって言うな。オマエだって、ニコニコと女誑して、ファン稼ぎしてるくせによ。というか、俺よりモテてんの知ってるんだからな」

 何故かモテる男二人の喧嘩が始まったが、夏油くんの言いたいことは分かる。芸能人と疑似恋愛している人も多いだろう。そんな相手が結婚したとなれば大騒ぎとなる。大物俳優やアイドルにはよくある。芸人で俳優やアイドルよりはそう見られないのかもしれないが、二人はルックスが良く、女性人気が高いことは、親友の熱狂ぶりを見ていれば分かる。あとはファン層も。親友は夏油くんの熱狂的で且つ良識的なファンだから、私に飛び火はないが、もしバレた時は五条くんのファンを敵に回すことになる、と言われた時は冷や冷やした。
 夏油くんが言いたいのは、今が人気絶頂期なのに、結婚でもしてファンを減らすのが勿体ない、ということだろう。

「仕事を減らす気か?女性ファンが圧倒的に多いんだ、なのに結婚してファンを減らすなんてことをしてどうする」
「顔ファンなんていらねーだろ。俺はオマエと芸人やってんの。笑いに興味のないファンなんて、俺はいらないし」
「ファン数が減れば、同時に仕事も減る。それを見せる機会も減る」
「……」
「それに金はいるだろう」
「守銭奴め、った!」

 夏油くんがスパンっと悟くんの頭を殴った。それを皮切りに規模は小さくなったが、高専時代にやっていたような喧嘩が始まる。彼らは毎回、こんなことしてるんだろうな、と懐かしさを感じていた。でも悟くんはどこか嬉しそうで。きっと、私が死んだ後も彼と和解は出来なかったのかもしれない。だから今が楽しいんだろう。
 それにしても、やはり私達は立場が違いすぎると感じた。昔は同期ということもあり、悟くんとは友人となり、その後も親交を深めることが出来たけど、今は人気芸人と、ただの一般人。昔よりももっと無力で、接点のない人間だ。やっぱり、同棲や結婚はもっと先になるだろうか。

「悟くん、同棲も結婚も、まだ早い。そっちにはそっちの事情があるんだし……」
「やだ」
「彼女は理解してる、悟も大人になれ」
「はぁ?十分大人だっての。好きに生きて何が悪いんだよ。俺の評価は下がっても、傑は下がらないじゃん」
「そういう問題じゃない」
「……悟くん、ちょっと向こうで話し合おう」

 そう、入ったことはないが、恐らく寝室に繋がっているであろう扉を指すと、彼は黙ったままそこに移動する。私と悟くんはその寝室に入ると、彼は子供のように眉を顰め、ムッと頬を膨らませる。それについ笑ってしまうと、少し穏やかな表情に戻った。

「子供っぽいよ、悟くん」
「こっちは二回目の人生だっての、子供じゃない」
「同棲も結婚もしなくても、私達はこのままでいいじゃない」
「俺はまた、あの夢の中みたいにオマエと過ごしたい」
「私もそうだけど……急がなくてもいいでしょ?この世界は夢じゃない、現実。二人だけの世界じゃない。何もかも思い通りにはいかない。折角、夏油くんもいるんだから、まだまだ一緒に芸人として過ごすのもいいんじゃないかな」
「そうだけど……オマエはまた、待つことになる。俺も、待たなきゃいけない」
「でも会えるでしょ?」
「……」

 彼は納得いっていないようだ。彼は随分と待ってくれたのだと、過去を知らなくても分かる。一途に私を想ってくれていて、戦ったんだ。私が眠った時間よりも遥かに長くて、苦しかっただろう。その証として、悟くんは私を見つけてくれた。どんなに多くの人がいても、どんなに暗い場所でも、すぐに見つけて、引き止めて、好きになってくれた。

「悟くんを待たせたくはないけど、私は芸人をしてる悟くんも好きだよ。だから、私がどんなに忙しくても、悟くんが会いたいと言ってくれたら、会いに来る」
「……ずっと、会いたかった」
「待たせてごめんね」
「うん」

 彼は力一杯、私を抱きしめると、私も彼の背中に手を回して、抱きしめ返した。今度こそ、彼と幸せになりたいと思った。でも、その為に何かを犠牲にするのも良くない。夏油くんとの時間も大切にしてほしい。悟くんも、それを楽しんでいるんだから。
 離れると、私はそっと彼の頭を引き寄せてキスをする。今世では初めてキスをした。少し照れもあったが、それ以上に、彼が嬉しそうに笑ったのだから、私はそれだけで幸せだった。

「夏油くんは事情を知らない。私達にしか分からないことだから……」
「オマエは平気?俺がいなくても」
「テレビで観てるよ。二人のネタも掛け合いも大好きだよ。芸人としても、私を笑わせてくれるんでしょ?」
「……もう一回、言って」
「愛してるよ、悟くん」

 まるで調教された大型犬。つまりは可愛いということで。嬉しそうに、彼は私にキスをした。深い深いキスは今世でも慣れていない。夢の中でのキスも心地良かったが、現実では苦しさもあるが、こんなに快楽を伴うものだとは思っていなかった。長い長いキスを終え、悟くんは満足気に私を見下ろす。

「俺も愛してる」
「腰、抜けそう……」
「これから練習がいるな、可愛い」

 やっぱり少し、照れがある。言われ慣れていない。いい歳した大人が、と自分でも思うが、気持ちはあの夢の中の、恋に慣れていない若い自分のままなんだ。仕方がない。

「さ、さぁ、夏油くんが待ってるし」

 長い話をしてしまった、と出て行くと、夏油くんは自分達が出演している番組を観ていて、出てきた私達に気づく。

「君も大変だね、悟に絆されて」
「オマエには分かんねーことがあんの」
「そうかい。で、ちゃんと話し合った?長いキスをして終わりじゃないだろう?」
「そ、そんなことしてない……」

 照れから嘘を吐いてしまったが、悟くんはソファの背もたれを跨いで定位置に座れば、はいはい、と話す。

「同棲も結婚もまだ先。恋人の期間を楽しむ。もし撮られたとしても、撮られまくってて、どれが本物か分かんないでしょ」

 確かに熱愛報道は沢山あると、親友から聞いた。あまり興味がなくて見ていなかったけど。

「悟の片想い期間じゃなくなったんだ、恋人らしい、恋人の時間を楽しみなよ」
「分かったから出て行けよ、俺らはこれから、二人だけの時間を楽しむんだよ」
「いや、私も今日は帰るよ。明日も仕事があるから。ここへ来たのも、仕事帰りだったし……」
「何だよそれ、一瞬じゃん。晩飯は?」
「食べてないよ。だからこれから、」
「俺が何か作るから、食べてってよ」
「じゃあ、お願いしようかな」

 まだ一緒にいたい、という思いがひしひしと伝わってくる。悟くんの手料理が食べれるなら、全然いてもいいかな。それにしても、私が料理下手なのは今世でも変わっていないようで、人は思ったより変われないのだな、と感じた。

「それじゃあ私は退散するよ。お邪魔だしね」
「またね、夏油くん」

 私は思わず、彼を夏油くんと呼び、タメ口で話してしまったが、大丈夫だっただろうか。不安に思ったが、彼は気にせずその場を後にした。悟くんは玄関に鍵を掛けると、戻って来てはキッチンに立ち、料理を始める。私はその様子を見ながら、やっぱり幸せだなぁ、と感じていた。



 何となくネットでニュースを確認していると、その中にあったのはよく見知った顔。
 『祓ったれ本舗 五条 悟に新たな熱愛!』とあり、相手はグラビアアイドルだった。胸が大きくて、かなり美人だ。夜の街中で二人で腕を組む写真があり、何かの間違いだろうな、と私は悟くんを信じ切っていた。しかし、とても絵になる二人だ。美男美女で……そう思うと、私はモヤモヤしてしまった。悟くんを信じていないからではなく、ただ隣に立って似合ってしまう彼女が羨ましいと思ってしまった。私なんかが、とそんなネガティブな思考になっていた。
 熱愛報道が出たにも関わらず、悟くんは気にせずに私の家へやって来た。毎回のことだから、彼は気にしていないんだろう。いつも通り、ベッドでゴロゴロしては、時々ベッドの傍らに座る私にちょっかいを掛ける。

「でさぁ、今日はライブがあったんだけど、七海と灰原が来てんの、ウケた」
「えっ、二人共来てたの?」
「そうそう。傑、ライブが終わったら会場の外出て、たまにファンサすんだよね。そん時について行って、七海と灰原に声掛けた」
「覚えてた?」
「灰原はなし。七海はあり。灰原が俺ら……まぁ、過去から考えて、傑のファンなんだろ。一応連絡先は教えといた」
「そうなんだ。また、会いたいな……」

 私はあまり彼らとの深い接点はなかったが、それでも後輩だ。前世の知り合いとは会っておきたい。家入さんも元気かな、と考えながら、ぼんやりとスマホを見ていた。すると、画面に悟くんの熱愛記事が出てき、私はすぐにそのページを消した。それを後ろで見ていたのだろう。彼はすぐに言い訳を始めた。

「騙されたっつーか……皆で飲みに行くからって行ったら、あの女一人だけだったの、意味分かんねぇ。ベタベタしてくるし。ごめんね」
「悟くんは悪くないでしょ?謝ることないよ」
「でも、気に入らないんでしょ」
「ただちょっと、嫉妬しただけ……」

 それに彼は私をひょいと持ち上げ、ベッドに落とすと、私に覆い被さっては、額に、頬に、唇に、首筋に、触れるだけのキスをしていき、スリスリと私の腹を指で撫でる。擽ったい、と身を捩ると、悟くんは愛おしそうな表情をして、私を見つめる。

「可愛い、オマエでも嫉妬するんだ」
「あの人綺麗だし……私は見合ってないかも、とか。ただの一般人だし」
「オマエの方が可愛いし。それに俺は一筋だから。分かるだろ」
「悟くんを信じてないわけじゃないよ、ただ私が自信を失くしていただけ」
「そういやオマエって暗い奴だったわ」
「もう……」
「今日は一緒に寝よ」

 私に触れてほしかった。一緒にベッドに入ると、つい夢の中での出来事を思い出し、私は少し緊張して、ギュッと彼を抱きしめた。
 あぁ、自分はこんなにも悟くんに依存していたんだな、と自覚した瞬間だった。


***


 俺の所為で彼女に負担を掛けているのは明らかだった。何より俺自身も嫌だ。今世では俺も彼女もきっと、出会わなくてもそれなりに幸せだっただろう。前世で俺達と出会った時くらい笑顔はなかったが、友人もいて、それなりに充実していた。俺も傑と一緒に芸人やってたくらいだし。
 思い出してからは、どうしても彼女と夢の続きを見ていたくなった。彼女は知らないだろう、俺がどれだけ会いたかったか。どれだけ虚しかったか。どれだけ愛してたか。
 この彼女が理想とした平和な世界で、俺は今度こそ彼女と幸せになりたい。自分じゃ釣り合わないなんて考えさせたくない。

「この間撮られたグラドルいたじゃん」

 楽屋で差し入れの菓子を食べながら、俺はスマホを弄って休憩している傑に話を振ると、彼はすぐに思い浮かんだのか、ふと笑う。

「あぁ、あの子面白いよね。遠回りな誘い方をして。悟にその気がないって分かってるなら、諦めればいいのに」
「最悪だ。あの女、誘っても眉一つ動かさなかったからって、俺が女に興味ないって言いふらしてんの。どんだけ自分の身体に自信あんだよ。てか、俺は一途なんだって。もう恋人でしか勃たないのに」
「彼女に出会うまでは、それなりに女遊びしてたくせに、よく言うよ」
「絶対言うなよ、それ」

 バレたら幻滅されるかも、と俺は机に額をくっつけて、あぁ、もう、と声を上げる。

「堂々とデートしたいんだけど。アイツが喜ぶこと、してやりたい。何で公表したらダメなんだよ、彼女に一途なナイスガイとして人気出て良くない?」
「笑わないことが、そんなに良かったの?」
「何か分かんないけど惹かれて、笑ってほしいって思うようになって、それってやっぱ好きってことだし。とにかく、アイツは特別」

 俺の言葉に気になったことでもあったのか、傑は何かを考えるように視線を落とした。

「公表、してもいいんじゃないか?」
「あ?」
「最初はいつもの気まぐれで、目についた好みの女の子と遊ぼうとしてるのかと思ったけど……違ったみたいだ。本気で彼女と?」
「本気。でも俺、オマエとずっと漫才してたいし、芸人してたいんだよ。どっちも大事。だから分かんねぇわ」
「ま、そこまで本気ならいいんじゃないか?公表しても。公表といっても、君達は堂々とデートでもして、あとはいつも通り、撮られるだけさ」
「いいの?仕事のこと」
「あぁ。ずっとぶつくさと愚痴ばかり吐かれるのも嫌だしね。仕事なら伊地知が取ってくるさ」

 それならいい。あの話し合いからまだ一ヶ月しか経っていないが、公表しよう。嫉妬する彼女も可愛いが、自信喪失させるのも、寂しくさせるのも嫌だから。

「早速、次の休みにTDL行くわ」
「それ、絶対目立つな……」


***


 少し遅れて待ち合わせ場所に行くと、彼女は緊張した面持ちでそこに立っていた。俺はサングラスを変えたくらいで変装をしていない。だからか、彼女はすぐに俺に気づき、辺りを気にしながら控えめに手を振ってくれる。その仕草が可愛い。

「お待たせ」
「おはよう。全然変装してないけど……大丈夫?」
「言っただろ、これからは堂々とデートすんの」
「本当に大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫、傑も伊地知もいいって言ってたし」
「そっか、じゃあ、緊張するけど……」

 そう言って彼女は恐る恐る俺の手を取り、握った。コイツ、こんな可愛かったっけ。今日は特に可愛く見える。いや、毎回可愛さが更新されてる?そう軽くパニックになり、彼女を見つめていると、彼女は俺を見上げる。

「え、どうしたの」
「……何でもない」

 前世でマトモなデートをしていないとはいえ、いい歳した男が童貞みたいな反応すんな、と自分に言い聞かせながら、少しでも彼女がいつも通り過ごせるようにしたい、そう思っていた。
 俺達は電車に乗って、目的のTDLへ向かう。車で行っても良かったが、今回は目立つ為にやってるようなものだから、この方がいい。

「なぁ、TDL行ったことある?」
「えっと、親友と一緒に一度だけ」
「何だ、行ったことあんの」
「親友は、私を笑顔にしようとしてくれて。昔の悟くんと同じだね」
「ふーん……」

 もう少し、早く出会いたかった。そうしたらずっと、問題を抱えずに初めから彼女と一緒にいられて、独占出来たっていうのに。

「彼氏はいた?」
「いたことないよ」
「マジ?こんなに可愛いのに?」
「そ、そんなに可愛くない」

 俺もこれくらいは言えるようになった。可愛い、可愛い、可愛い。でも、こんな無愛想な女、普通は可愛いと思わないのか?好きになったから可愛いのか。でもまぁ、周りがどう思おうと関係ない。前世でも今世でも、彼女の初めての恋人は俺で、これからもその席は俺しか存在しない。こんな彼女を見れるのは俺だけだし、こんな俺を見れるのも彼女だけ。

「オマエの初めては全部、俺が欲しい」
「っ、そんな恥ずかしいことばかり、言わないでよ……」
「いーじゃん、別に」
「外だし……」
「じゃあ家でいっぱい言う」

 恥ずかしそうに俯いて、そわそわと繋いでいる俺の手を指で撫でた。やっぱコイツ、今世は異様に可愛い。不幸面がなくなったから?何もかもが愛おしく感じる俺は重い人間なのか、と少し戸惑い気味の彼女を見て、あまり言わないでおこう、という気持ちになった。
 TDLに辿り着くと、俺達は早速TDL限定の被り物を買って身につけると、マップを見て、何に乗りたいかを話し合った。早速アトラクションの列に並んでいると、俺に気づいた女達が話しかけて来る。

「あ、あの!祓本の五条さんですよね!」
「写真お願いしていいですか?」
「これ見て分かんない?プライベートでデート中なんだよね。写真は、」
「わ、私、並んでるから。撮ってあげたら?」
「は?一人と撮ったら、声掛けてきた奴、全員と撮らなきゃなんないでしょ」

 ほら、気を遣い始めた。だから嫌なんだよ。でも、彼女の前でガキみたいに無視すんのも良くない気がする。

「……本当にごめんね。僕ら、デート楽しみたいんだよ。写真はダメ。握手だけ」
「す、すみませんでした」
「楽しんでください……!」

 彼女達は握手だけして去って行くと、俺は溜息を吐く。何でデート中、邪魔しちゃいけないとか分かんないわけ。イライラしていると、彼女は隣で目を丸くしている。

「何?」
「悟くん、ファンの子に優しく話せるんだね」
「やろうと思えば、俺は何でも出来ちゃうから」
「常にそうしていればいいのに……」
「何?僕って言って、優しく話しかけてあげた方がいいのかな?君がそうしてほしいって言うなら、してあげてもいいけど」
「な、何か、予知夢で見た、教師の悟くんみたいだね?私は、普段の悟くんが慣れてる」
「そうでしょ?アレが全部嘘だって言わないけどさ、オマエには今の俺を好いてほしい。何も取り繕ってない俺を」

 そう腰を引き寄せると、彼女は照れ臭そうに笑った。俺は結局、傑の真似事のようなことばかりして来ていたかもしれない。それが正しいと思ってた。でも彼女にとっての俺は、もっと別だ。

「私の中での悟くんは、口が悪くて、不器用で、優しくて……でも夢の中で会った時の口調は優しかったな」
「まぁね。あの時は矯正してたし」
「何で?」
「色々あったんだよ。でも全部俺だ。今世で過ごしてきた俺は、こんな感じ。傑といた時期が長かったし、何かオマエの前だと……ガキ臭くなる。だから、今の俺を愛して」
「わ、私はどんな悟くんでも、好きだよ……って、こんな所でする会話じゃない」

 ジェットコースターに並んでる最中だしな。でも、音でこんな声もかき消されてる。俺にとっては、誰かに聞こえてても、聞こえなくてもいい。だが、彼女は気を遣うんだろうな、と初っ端からTDLに連れて来たのは間違いだったと少し後悔した。しかし、遊んでいるうちに、彼女の緊張も解れて来たのか、俺の手を引いて行くくらいには、積極的に楽しんでいた。

「悟くん、パレードだって。いい場所空いてないかな……」

 俺は前にいる客がより目線が高い位置にあり、パレードは見えるが、彼女は見えていないようだ。だったら、としゃがみ、彼女の膝裏に腕を持っていくと、背中を支えて持ち上げた。突然の出来事に彼女は驚いて、俺にしがみつく。

「は、恥ずかしいよ、これ!」
「夜だからいいでしょ。ほら、見て」

 そこで行われるパレードを、彼女は楽しそうに眺めていた。パレードが終わると、俺は彼女を下ろしてやる。すると、俺の腕を労るようにそっと撫でた。

「ありがとう、悟くん。綺麗だったね」
「あんま見てなかったわ」
「え、見えなかった?」
「オマエばっか見てた」
「あぁ……もう、今日すごい恥ずかしいことばっかり……」

 照れた顔が可愛くて。あぁ、笑顔に出来てるんだなって。夢みたいな光景だけど、現実なんだなって感じる。

「なぁ、オマエは今、幸せ?」
「うん、幸せ……悟くんは?」
「すっげぇ幸せ」

 そう言って周りに見せつけてやるようにキスをすると、彼女は恥ずかしい、と怒りながら離れるが、ずっと俺の手を引いて歩いて行く。
 呪いなんて見えない、そんなものがなくなった世界。思い出してからは現実味がない。もしかしたらここは、彼女の夢の中なのでは、と感じる。だとしたら、なんて残酷な──

「悟くん、また……デートしよ」

 彼女のその言葉で、俺は考えるのをやめた。

 翌日、昼の情報番組にて。
 ゲストとして呼ばれた俺達はいつも通り仕事をしていたが、突然ぶっ込まれたのは、昨日のデートのこと。

「SNSで目撃情報が出ていますが、これって事実なんですか?」

 SNSで俺達を目撃したと言う奴らが多くいて、隠し撮りして上げている奴もいた。だからって、わざわざ生放送本番でその話題をぶっ込んでくるか?

「何か俺、悪いことしてるみたいじゃん。好きな子とデートして、何か問題あるんですか?」
「はは、認めたね。悟は意外と一途でね」
「そうそう。その子とは付き合ってるし、いずれ結婚するんで。訊かれる前に言っておきます!そして他の女は眼中になーし!」

 彼女は仕事だから、見てないか。後で知って、焦るんだろうな。でも、このくらい、俺とオマエは堂々としてていい。だって俺は、ズルズルと今世まで引き摺るくらい、本気でオマエのことが好きだから。







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