#7.何度生まれ変わっても。





 伏黒 恵に続いて、虎杖 悠仁、釘崎 野薔薇が入学し、一年生が揃ってから数日後。呪術高専にて、五条は家入から手に持てないほどの大量の薔薇、九九九本が小分けにされた薔薇の花束を受け取っていた。

「いやぁ、助かったよ、最近忙しくて受け取れなくてさ」
「受け取るのでさえ恥ずかしくなる量だな。私も忙しいし、今日は行けないから、また行くと伝えておいてくれ」
「オッケー!」

 彼は軽い口調でそれらの花束を抱えながら、その場を去って行く。その様子を遠目から見ていた一年生は五条が去った後、家入に声を掛ける。

「硝子さん、さっきのは?」
「あぁ、君達か。五条は毎年、恋人に花を贈ってるんだよ。高専まで配達させるから、受け取ってくれって言われてたんだ」
「へぇ、五条先生って恋人いたんだ」
「変人にも恋人は出来るものね」
「意外と一途だよ。今日は命日でね」

 命日、という言葉を聞いて、彼らは五条の恋人が既に亡くなっていることを理解し、身体を強張らせた。伏黒はそれを知っていて、家入が二人に告げたのなら問題はないだろう、と彼は訊ねる。

「でも、あんな大きな物、お供え出来るんですか?」
「五条なら無理にでも置くだろうな」
「……先生の恋人ってさ、やっぱ呪術師だったの?」
「補助監督で私達の同期だった。少し特殊でね、色々あったんだよ……さ、私は仕事に戻る。亡くなったのは随分前のことだ。あまり気にしないようにな」

 家入はその場を去っていくと、虎杖はでもさ、と口を開く。

「いくら恋人の為とはいえ、あんなに薔薇、いる?」
「愛の重さじゃないの?」
「……薔薇、九九九本って、五十万くらいするらしい」
「「えっ……」」

 明らかにお供えする花にかかる価格ではない。これから墓が薔薇で満たされるんだろうな、と彼らは赤に囲まれる墓石を想像していた。


***


「もう半年前か……傑を殺したよ。オマエの見た予知では、僕は傑を殺せてなかったのかな……どちらにせよ、これで封印の未来もないんじゃない?僕は少し胸騒ぎがしてるんだけど」

 そう言って僕は彼女の眠る墓石を洗っていた。彼女の家族には、命日にはやらせてくれと頼み込んだ。この日は特別なんだ、何たって僕が殺したんだから。

「今年は九九九本の薔薇を持って来た。何度生まれ変わっても貴方を愛する≠チて意味があるらしい」

 最後に水で洗い流すと、綺麗に拭いて、置いていた薔薇の花束を手に取る。
 あまりにも大きいその花束を見て、彼女は笑うだろうか。そもそも墓参りなんて意味があるのか。夢で彼女は僕の行いは伝わったし、意味のある行動だった、と笑ってくれた。喜んでくれた。だから毎年こうしてやって来ては花を贈り、近況報告をする。
 僕は花束を解くと、花立に入るだけの薔薇を挿していき、入りきらなくなったら、周りにそれを置いていく。家族墓だけど気にしない、これは彼女の為の花だから。赤い薔薇で埋め尽くした墓の前に座り、その派手な墓石を見て静かに話す。

「硝子がさ、今日は忙しくて来れないから、また来るって。僕も今日、仕事だったんだよね。本当忙しいよ」

 ふと息を吐き、暫く黙っていると、墓に向かって喋っている自分が何だか馬鹿馬鹿しく思えてきた。

「……会いたいよ」

 そう呟けば、あの時記憶を取り戻した時みたいに、彼女が戻って来て、僕に優しく触れてくれるんじゃないかって、我ながら馬鹿らしいことを考えてしまう。彼女は死んだってのに。

「帰るよ。君のいないこの地獄でまだやることがあるんでね」

 僕が立ち上がると、墓石の上に山積みにした薔薇の一本が転がって地面に落ちた。それを拾い、そっとその香りを嗅ぐと、彼女が夢の中でローズティーを飲んでいたことを思い出し、花弁をひとつ食べる。美味しくない。でも無性に彼女が恋しくなった。

「あぁ、僕ってば一途だなぁ!」

 そんな僕の声だけが誰もいない墓地に響いていた。






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