#6.恋愛観の相違





 次の休日は皆で買い物に行こうと言っていたが、五条くんは実家の用事で帰らなければいけないらしい。他の日にしろよ、と駄々を捏ねていたが、そんなに買い物に行きたかったんだろうか。しかし当日、硝子ちゃんも急患が入ったとのことで、行けなくなってしまった。買い物は中止かなと思っていたが、夏油くんは二人で行こうと迫って来た。何か買いたい物でもあるんだろうか。

「私服、可愛いね。硝子と買いに行ったのかな」
「はい。選んでもらったんですけど、」
「うん、可愛いよ。似合ってる」
「あ、ありがとうございます……」

 何だかむず痒い。お世辞でも褒めてもらえたんだからと礼を言うと、彼は行こうかと私の手を握る。何故握るんだ、と私は放してもらう為にブンブンと手を振る。しかし一向に放してもらえる気配はない。

「な、なん、」
「デートだからね、繋ぎたいだろう」
「デ、デートじゃないです、ただの買い物!」
「まぁまぁ、行こうか」

 そのまま軽くあしらわれ、手を引かれていく。五条くんの時もそうだったけれど、デートだなんて烏滸がましい。というか、夏油くんってこんなに強引だったんだ。握った手が熱くて、落ち着かない。
 戸惑う私の反応を楽しむような夏油くんはやっぱり優しいと見せかけて意地悪だ。揶揄わないでほしい。恋人に見られて損をするのは夏油くんなのに。

「何を買うんだい?」
「……運動靴を。走っていたら、底が抜けてしまって」
「努力の証だね。呪術師としての自覚が芽生えた?」
「少しでも、役に立てたらと。私なんか、四級止まりの雑魚ですけど……」
「時間を戻せるっていうのは、強いのかもしれないけど、実際その力を目にしてる人がいないからね、目立たないかもしれないな」

 まぁ、五条くんだけは目に見えて理解しているんだろうけど、評価はされない。そもそも評価してもらいたいとも思わないけれど。運動神経は悪い方ではないものの、好きでもない。それでもやらなきゃいけないのならやる。居場所を提供してもらっているのだから、当たり前だ。強くならなきゃいけない。
 私達はスポーツシューズが多いシューズ店に向かい、靴を見ていく。夏油くんも買おうかなと自分の物を見ており、私はゆったりと買い物が出来た。

「いい買い物出来た?」
「普段履く靴も買いました」
「良かった。他の物も見に行こうか」
「はい」

 次は服を見たいという話になり、私達は服屋へ向かう。その道中も夏油くんは私の手を握っており、私は揶揄われ方がむず痒くて嫌だなぁ、と思っていた。

「傑?」

 そう女性の声がし、夏油くんは立ち止まると、私も釣られて立ち止まる。振り返ると、大人っぽくは見えるが、同い年くらいであろう私とは縁遠そうな美人がいた。

「返事もたまにだし、よく分かんない学校に通ってるみたいだし。その子は何?」

 その言葉に私は頭が真っ白になり、理解した瞬間、パニックになる。絶対に恋人だと思いながら、まずいと手を払おうと振るが、彼は私の手を掴んで放さない。

「関係ないだろう?」
「どこが!?私は傑の彼女で、」
「あぁ……ごめん、卒業したと同時に自然消滅したと思ってたんだ」
「最低!私はずっと、」

 その瞬間、私は彼女に見つかる手前まで時間を巻き戻した。少し目眩がしたものの、あんな痴話喧嘩に巻き込まれるくらいならマシだと思った。
 時間は服屋に向かっているところだった。人混みに紛れてこの道を進んで行けば、夏油くんの恋人と会ってしまう、と私は繋いでいる手を引いて道を逸れて行く。

「どうしたの?」
「人混みを歩くの、好きじゃなくて」
「好きな人はなかなかいないだろうね」
「そうだけど……」

 あまり直接的なことは言いたくないと思いながら、人の邪魔にならない場所で立ち止まり、休憩する。ぐるぐるとした目眩を感じ、ふと息を吐き、壁にもたれ掛かると、彼も私の隣で壁に背を預けた。

「疲れた?」
「少し……あの、夏油くんは、彼女いたことありますか?」
「あるにはあるよ」
「そっか。別れる時はね、別れようってちゃんと伝えた方がいいと思います」
「え、」
「離れちゃったとしても、好きな人なら、遠距離恋愛でもいいって、思えると思うし」

 卒業して離れ離れになったからって、自然消滅するわけじゃないと思う。私だったら、今の夏油くんに愛なんて感じないと思う。学生の恋愛ってこういうものなのかなと思うが、親代わりである院長は学生恋愛の末、結婚したことを思い出し、ただただ夏油くんの行動がクズと言われる所以なのだろうと感じてしまう。
 すると夏油くんは私を見て目を丸くしたが、そっと私から顔を逸らした。

「確かにそうだね……でも私は好きな人なら傍にいたいかな」

 彼女のことは本気じゃなかったのか、それとも仕方のないことだったのか。どちらにせよ、未来で彼女と結ばれることはないと知っている為、何とも言えない気持ちになった。私は離れていても、気持ちが離れなければそれでいいと思ってしまうんだけどな。
 そもそも恋愛観が違うのだろう、と私は彼女に連絡してくれることを信じて、再び歩き出した。







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