#2.騙し騙されていたのは。





「寝る場所もないんだけど……」

 一緒に住むことを承諾して自由に過ごし始める傑と悟。悟はベッドでゴロゴロしていて、傑は棚を開けたり、どこに何があるのかを確認しては落ち着きなく動いている。私はベッドの上で正座しながらそう話すと、彼らは顔を見合わせたかと思えば、その場で狐と狸に姿を変える。まるで漫画のように煙が上がるわけでもなく、ただ瞬きした一瞬の内に人の姿から獣の姿へと変わっていたのだ。

「ほ、本当に狐と狸に……」
「当たり前でしょ」
「しかも喋った!」
「私達はこの姿で眠るよ。そうしたら場所も取らないだろう?」

 人の言葉を話す狐と狸に違和感を覚えながらも、私はその方が都合がいい、といくつかタオルケットを取り出してくると、ペット用のベッドに見立てて敷いていく。

「寝床?」
「そう。ここで寝て」
「ありがとう、君の匂いがする」

 傑はそこで丸くなるが、すぐに崩れてしまう。敷いていればいいととも思うが、人間の姿を知っていると、少し不憫に思える。ペット用のベッドがいるなと考えていたが、何を馴染もうとしているんだと頭を振る。すると悟はぴょんと私のベッドに上がってくる。

「場所取らないんだし、ここでいいでしょ」
「ダメダメ、毛が落ちるでしょ」

 そう悟を小型犬のように抱えて下ろすと、彼は不満そうに用意されたベッドに戻る。

「あぁ、もう疲れた……現実味がない一日だった……今日は眠い、おやすみ」

 私は早めに就寝しようと布団に入り、エアコンのタイマーをセットすると、そのまま眠りに就いた。彼らも大人しく簡易ベッドに丸くなって眠っていた。
 翌朝。寝苦しい、と感じて目を覚ます。エアコンが切れているからか、と重い目蓋を開くと、狐と狸が私を囲んで寝ていた。通りで暑くて寝苦しいわけだ。首に掛かった悟の尻尾はふわふわで心地良いが、今は夏にマフラーをしているようなもの、鬱陶しい。起き上がると、これは現実だと実感して頭を抱えた。すると右隣から「おはよう」という声が聞こえたと思うと、傑がのしと私の膝に顎を乗せて来た。この姿は正直、可愛い。でも中身は一九◯センチほど身長のある男だと思うと、何だか恐ろしい。でも見た目は可愛いから撫でてしまう。

「この姿がお気に入りかな」
「可愛いしね」
「ふふ、撫でられるのは久々だ。私を妖だと認識しても尚、触れてくる人間は少ない」
「流石に私も躊躇うけれど……」

 すると左隣でごそりと悟が動き始め、動物らしい伸びをすると、背後から私の腕と体の間にズボッと入って来た。昔、実家で飼っていた猫がこんなことをしていたけど、狸はイヌ科だよねと思いながら、よしよしと撫でる。

「あのさ、当たり前のように私のベッドに入って来るのやめて?うわ、ベッドが毛だらけ……」

 最悪だ、と布団に付いた毛を見ていると、右手の位置が急に上がり、驚いてそちらを見ると、昨日見た袈裟姿の男がおり、反射的に彼の頭に置いていた手を退ける。

「おや、もう撫でてくれないのかい?」
「人間の男を撫でる趣味はな……っ」

 ギシッと音を立てて左隣のベッドが沈み、そちらに視線を向けると悟までもが人の姿になっており、私の膝に頭を預けて眠そうにしている。

「悟、服を着ろ。悪い癖が出てるぞ」
「だって暑いし」

 よく見ると服を着ていない。絶対に下半身は見るなと私は目を逸らす。

「……服を着るか、狸になって。絶対、人前で全裸にならないで」

 すると彼は一瞬の内に私と似たようなシャツとパンツ姿になり、むくりと起き上がる。暑いならベッドで寝なければいいのにと思いながら、私は二人を避けてベッドから抜け出すと、カーテンや窓を開けて換気をし、身支度を済ませる為に洗面所へ向かう。

「なぁ、お腹空いた」
「そうだね。昨日から何も食べてないし」
「俺、甘い物が食べたい」
「私は悟みたいに甘党ではないから、それ以外だといいな」
「……普段は何を食べてるの?」
「割と何でも食べるよ。でも人間の食う物の方が美味いから、最近は買うよね」
「買うって、お金持ってるの?」
「多少はね。働いてるんだ、人間の下で。その対価として、お金を貰ってる。そこは人間と同じだね」

 そういう妖が多いんだろう。行動や姿は人間なのに、別のが混じっているような……そう傑を見て、黒いピアスを開けている狐耳を見ると、彼はその耳を揺らした。

「見えないようにしているつもりだけど、君は常に見えているんだね」
「俺達、割とバレにくいのにな。オマエの目は誤魔化せないか」
「六眼でもないのに、いい眼をしてるね」
「六眼?」
「俺の眼。とにかく目が良いの。妖力量はもちろん、オマエみたいに相手がどんな妖か見抜くことが出来たり、ま、色々見える。よく綺麗だって言われんだけど、どう?」

 そう言って彼は歯を磨いている私に、鏡越しに訊ねてくる。確かに彼の瞳はキラキラと宝石のように輝いている碧眼だ。

「確かに、綺麗だね」
「でしょ。でも見えすぎちゃうからさ、何かしらつけとかないとしんどいの。森の中だといいけど、都会だと酷い」

 だからサングラスを掛けているのか、と納得しながら、私は洗面所下の収納から予備の歯ブラシを二本取り出して、彼らに差し出す。

「歯、磨いて」

 私が磨き終えると、彼らは私の真似をするように磨き始める。その間に私は朝食でも作ろうとしたが、思ったより材料は少ない。フレンチトーストくらいなら作れるか、と、悟にはフレンチトーストを、傑にはたまごサンドを、と同時に作り始めた。朝から面倒だなぁと食パンを液に浸しながら、茹でた卵を潰していく。そうしていると、そこに傑と悟がやって来ては背後からそれを覗き込む。

「何作ってんの?」
「フレンチトーストとたまごサンド」
「フレンチトーストって何」
「卵と牛乳に浸して焼く、トロンとした甘いパン」
「美味そう」
「それなら、私は卵のサンドイッチかな」
「そうだね……はぁ、ひとつにまとめてほしい」

 私はフレンチトーストを食べようと一緒に焼いてしまう。出来た物をテーブルまで持って行くと、彼らはぞろぞろとついて来てはそこに座る。食べ始めると、美味い、美味しい、と笑顔で食べている。無駄にイケメンに化けているから、目の保養になる。悔しい。
 朝はそれほど多くは食べない為、私は早々に席を立つと、寝室側のクローゼットを開いて服を取り出した。ダイニングへと続く扉を閉めると、着替え始める。今日は昼からカフェのバイトがある。まだ早いが、この場から逃られるのなら何でもする。

「どっか行くの?」

 上着を脱ぎ、裸になっている所に悟が扉を開いた為、私はすぐに背を向ける。

「着替え中!入らないで!」
「何で嫌がってんの?」

 背を指で撫でられ、わざとやってるなと私は彼が面倒になり、体を振って追い返す。

「出て行って、これから用事があるの!」
「私達も行こう」

 いつの間にか傑もそこにおり、何でこんなことになったんだ、昨夜の内にどうにかすべきだったと後悔する。

「私もバイトがあるの。一人で行く」

 私は胸を片腕で隠しながら、空いた手で彼らを押して部屋の外に出した。ドア越しに悟が「人間って面倒だよな」と呟いていたが、こっちこそ面倒だと思っていた。やっと着替え終えると、軽くメイクをする。

「何かその匂いやだ」
「化粧品のこと?」
「女の子はするものなんだよ。容姿を綺麗に見せるんだ」
「傑は嫌じゃない?何か鼻がツンとする」
「悟は鼻もいいからね」
「オマエの匂いなくなるでしょ。やめろよそれ」

 化粧品は動物に優しくないんだろうか。まぁ、人間も肌につけ続けると良くないけれど、食べるなんてことはないだろうし、大丈夫だろう。いや、そもそも動物扱いすればいいのか、人間扱いすればいいのか分からない。ずっと狐と狸の姿でいてくれたらいいのだけど。私はスルーしながら化粧をしている間、悟はやめろよと我が儘を言いながら背に頭をぐりぐりと押し付けて来る。怖い怖い、距離が近い。

「やめてってば」
「バイトって何してるんだい?」
「飲食店。邪魔になるから来ないでね」
「えー、ずっと家にいろってこと?」
「出て行ってもらって構わないよ。私としてはありがたい」

 悟は不服そうにし、傑は特に表情を変えることはなく、にこりと笑う。逆に動じない傑が少し怖い。私は準備をして立ち上がると、彼らはまだついて来る気なのか立ち上がる。ふと顔を見ると、悟はいつの間にか真っ黒なアイマスクをしていて、押し上げられた髪は逆立っている。目の前に立つ二人は明らかに不審者だ。

「待って。ついて来ようとするのはまだ分かる。でも何でそんな格好なの?昨日から気になってたんだけど……特に傑」
「何が変かな?」
「何で袈裟を着てるの?お坊さんってわけでもないでしょ?」
「住んでいた廃寺に昔、これを着ていた人がいてね。人に化ける時に服に迷って、結局これがしっくりきたんだ。人間も寄り付かないしね」
「もっと楽な格好すりゃいいのに」
「いや、そう言う悟のアイマスクは何?」
「目がいいから、都会ではこれが丁度いいんだよ。ちゃんと見えてる」
「完全に不審者だよ。さっきまでサングラスだったじゃない」

 じゃあサングラスにする、とどこからか取り出したサングラスを掛ける。そしていつの間にか傑も白シャツの姿になっている。

「それでいいと思うけど、連れては行かないからね」
「ケチ」
「ケチじゃない。じゃあね」

 私はササっと出て行き、いつもなら自転車で行く所をわざわざ車に乗ってカフェへと向かう。妖か何か知らないけれど、車を追うことはないだろう。
 私はバイト先に向かったが、予定より少し早い為、そこで珈琲を飲もうと店員を呼ぶ。

「あれ、壱紀さん?早いね。今日昼からでしょ?」
「そうだったんですけど、早く起きちゃって。珈琲お願いします」
「はーい」

 やっと落ち着ける、と私は息を吐くと、そこに珈琲を持って私の前に女性が座った。茶髪で右目の下に黒子のある彼女はカフェの常連客で、時々話をする家入 硝子だった。今日も早くから来ていたとは。

「随分と疲れた顔をしているな」
「ちょっとね。家に居づらくて」
「一人暮らしだろう?」
「うーん……何かストーカーがいたというか」
「そのストーカー、知り合い?」

 店が暇な時、硝子がこうやって話を聞いてくれることは時々ある。今日は接客しているわけでもないから、気軽に話せる。友人みたいなものだ。

「知り合い、ではない……?」
「話したり触られた?」
「まぁ……半分脅されたからね」
「なるほどな。今夜、私の家に来る?」
「え、いいの?」
「このまま放ってもおけないでしょ」
「ありがとう!一日経てば、帰ってくれるかな」
「どうだろうな、でも帰る時は一緒に家まで行ってあげる」
「あぁ、もうすごく助かります!珈琲奢るね」

 そうして私達はバイト時間になるまで話をして、連絡先も交換した。こんなに長く硝子と話す機会はなかったかもしれない。同い年で、程々の距離感が好ましかったが、更に仲良くなれるというのなら嬉しい。

 硝子は用事があるから、一旦帰るねと、店を出て行く。その間、私は仕事をしていた。閉店作業に入った頃、硝子から『外で待ってる』とメッセージが送られてき、私は急いで仕事を終わらせると、私の車の前で待っている硝子に駆け寄る。

「お待たせ!」
「準備は出来たし、行こうか」
「硝子の家、案内してくれる?」
「うん、少し遠いよ」

 硝子に案内された場所は趣のある古い屋敷だった。敷地は広く、手入れの行き届いた庭はまるで日本庭園。硝子はこんな裕福な家庭で育って来たのだろうかと余計な詮索をしてしまう。しかしそれを見透かしたように彼女はそこに入って行きながら話す。

「実はここ、私の家じゃないんだよ。よく避難所としてよく使われてる場所」
「避難所?」
「君みたいな子を守る為の避難所。私の職場みたいな場所でもある」
「えっと、ストーカー被害に遭った人ってこと?」
「ま、そうだな。今日は私とゆっくりしようじゃないか」

 家じゃないと聞いた時は何かまずいのではないかと勘ぐってしまったが、何ともなかった。硝子はお酒を飲んでは我が物顔で寛いでいて、女中さんのような人もいる為か、私も次第にそこが旅館のように感じられて、寛いでいた。
 そろそろ寝ようかとそんな話をしていた時、ドタバタと何人もの人が廊下を走る音がし、外が騒がしくなった。それに硝子は「来たか」と呟き、立ち上がる。

「何かあったの?」
「ストーカーが捕まったんじゃないか?」
「えっ」

 まさか、と私は部屋を出た硝子について行くと、門前に人集りが出来ていた。その中心にいたのは傑と悟であり、彼らは魔法陣のような印の上に立っている。

「……悟、これは?」
「妙な結界術……ま、簡単に言うと罠だな。特定の妖以外は通さないようになってる」

 屋敷内にはこんなにも人がいたのかと驚くほど、ぞろぞろと人が出て来ては札か何かを持ち寄っていたり、中には妖もいた。

「硝子、あれ……何をするの?妖は動けなくなるってこと?」
「そうだけど、妖を知ってるのか」
「見えるっていうか、分かるっていうか……あの二人が山から私を追って来たの」
「そうか。涼華は厄介なのに好かれたな」

 硝子を含め、ここにいる人間はきっと私と同じ、見えている人であり、私以上に理解があるのだろう。すると、悟が私の存在に気づき、あ!と声を上げる。

「涼華!オマエ嵌めたな!?祓い屋と繋がってたのかよ、知らないふりしやがって!」
「祓い屋……?」
「君にそんな演技力があるとは思わなかったよ」
「い、いや、私は……」

 何も知らなかった。硝子やここにいる人達が祓い屋ってこと?祓う?妖を祓うってことは、つまり──

「しょ、硝子。二人はどうなるの?」
「祓うんだよ。アイツらは人のように見えて人じゃない。人間に害なす妖は危険な存在となる。涼華はかなりマーキングされてるから、必ずここへ来ると思った」
「マーキング?」
「体にアイツらの妖気の残穢が漂ってる。故意に残して、後をつけるんだよ。自分の物だから手を出すなって意味」

 いつの間にそんな恐ろしい物がついてたんだ、と私は体を見るが、それを目視で確認することは出来ない。

「自分につけられたものは分かりにくいよ。かなり強いけどね。私でもハッキリ分かるくらいには」

 それだけ二人に強い力があるということだろうか。確かに彼らは自身を最強だと豪語していたが、本当に?でも、こんな場所で争われても困る。

「っ……!」

 ふと傑が痛がる素振りを見せる。周りにいた男の一人が札を彼に向かって飛ばし、それが傑の腕を掠めた。それはすぐに焼き切れたが、ジュッと彼の肌を焼き、火傷を負った。その瞬間、自分がしてしまったことの重大さに気づいた。

「ま、待って!祓うって、怪我させたり、殺しちゃうってことですか!?やめてください!」

 思わず駆け出していて、彼らの間に割って入った。それに硝子は驚いて追ってくる。

「待て、涼華!危ない……!」
「ち、違うの!確かに山から追って来て、居座らせろとか、ご飯用意しろとか横暴なことを言ってきたけど……ここまでするなんて!」
「しかし、この辺では見ない狐と狸だ。登録のない妖を放っておくわけにはいかん」

 一人の祓い屋の男がそう話す。この世界の事情を知らない私はただ戸惑うしかない。それでも分かる、傷つけるのだけは違うと。

「わ、私はただ山に帰ってほしかっただけで……」
「こんな強力な妖は見たことがない。その地が危険に晒されるかもしれないんだぞ」
「そんな、違う……彼らはただ、」
「分かった、涼華。落ち着いてこっちに来い」

 硝子がこちらに手を伸ばす。私がその印の上に立っていることに気づき、これはしてはいけないことなのではとそこから出ようとするが、悟が私を背から抱きしめる。

「っ、食われるぞ!」
「そんなことしないって、私は知ってる!だからお願い、傷つけないで」

 何故彼らをここまで擁護してしまうんだろう。姿は違えど、過ごした日々を思い出したからだろうか。朝食を共にして、美味しいと笑う彼らを見たからだろうか。

「そ、そっちにも妖がいるじゃないですか。何が違うんですか?同じですよ!」
「これは式神契約を交わした妖だ。ちゃんと祓い屋協会に登録もされている」
「よ、よく分かんないですけど、傑も悟も悪い妖じゃないですし、登録してあげてください」

 私の言葉に戸惑う彼らに、私は何が良くないのか分からないが、このままでは殺されてしまう、とパニックを起こす。

「二人を面倒見ます!だから……っ」

 その瞬間、地面が音を立てて割れる。そして地面にあった印は消えてなくなっていた。どうなっているんだ、とその場にいた全員が戸惑っていると、今まで黙っていた傑と悟は押さえていた物を吐き出すかのように笑った。

「あー、おっかしい!俺らがこんなもんに縛られると思った?」
「へ……?」
「でも言質が取れたね。面倒見てくれるんだって?」
「え、いや……」

 あれ?おかしい。私は二人を助けようとしていたはずなのに、何故彼らはこんなにも余裕があるのだろう。すると屋敷の外からガタイの良いプロレスラーを思わせるようなサングラスを掛けた男がやって来る。

「何をしている、オマエ達」
「夜蛾会長……!」

 夜蛾会長と呼ばれた彼は私達を見るなり、眉を顰めた。

「悟、傑、ここで何をしている」
「えっ、夜蛾会長知り合いですか?」

 硝子は彼の言葉に驚いたように目を丸くすると、彼は辺りにいた祓い屋達や地面の亀裂を見て状況を把握したのか、溜息を吐く。

「この二人は特級レベルの妖だ。俺が個人的に依頼をしている。廃れた山一つを束ねていてな、勿体ないからこちらへ来るようにと告げていたんだが……断っただろう、オマエ達」
「夜蛾会長が涼華を捜し出すのが遅いからでしょ?先に涼華から来ちゃったし」
「私達も昨日こちらへ出て来たばかりなんです」

 一体何の話だ。私も含め、周りの人達もざわざわと騒ぎ立てている。彼らが異常に私に執着しているのは知っているが、彼らが私を捜していたとはどういうことだと戸惑っていると、夜蛾さんはジッと私を見る。

「君が壱紀さんのお孫さんか」
「え?」
「いや、君の話は後でしよう。コイツらに会ったのが運の尽きだな。彼らは私の連れだと思ってくれていい。通してくれ」

 夜蛾さんが中へ入って行くと、その場にいた彼らは戸惑いながらも道を開ける。悟はケラケラと、傑はクスクスと笑いながら、私を引きずって中に入って行く。それに硝子もついて来ながら私を見る。

「涼華、どうなってるの?」
「わ、分からない……けど、余計なことを言ってしまったみたい」

 その言葉に傑は私の頬を指で撫で、満足気に笑う。

「狐と狸には気をつけないと、ね?」

 あ。やっぱりストーカーだ、この人達。私は頭を抱えると、硝子はやはり厄介だ、と肩を竦めた。






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