#63.失踪





 伊地知から涼華が呪詛師の会合に行ったきり、丸一日音信不通だという情報を得た。彼女が殺されるということはまずあり得ないだろう。しかし、何かあったのでは、と不安になる。
 特級の音信不通、涼華はその中でも特別、目を離せない存在だ。問題を起こす前に対処すべきだな、と私は異変に気づいて私に連絡を入れてくれた伊地知と相談し、私がそこへ向かうことになった。
 私はたまたま、夜蛾学長から特級呪霊を祓うよう依頼を受けていた為、高専へ来ていた。彼は私の身を案じて、時折、そういったマトモな依頼をしてくる。まぁ、どれだけ依頼を受けたとしても、教祖を辞めるつもりなど、毛頭ないが。
 高専を出ようとした時、伏黒 甚爾が私の行く手を阻むように、訓練用の棒を私の前へやった。

「……お久しぶりですね」
「だな、オマエは俺を避ける」
「何か用ですか?今、急いでるんですけど」

 私は彼が苦手だ、いや嫌いだ。涼華が彼を気に掛けているから、ということもあるが、何より猿のくせに強い。正直、私でも勝てるかどうか、危ういほど。あの悟も殺されかけたのだ。
性格もまるでクズ男、以前、パチンコ屋の前で会った時も「五条の坊は俺みたいな猿に一度は負けた」と煽っていたのを思い出す。虫唾が走る。一生、好きになれそうにない。

「涼華は呪詛師の会合に行ったんだろ?アイツ、捕まってるか拷問してるな」
「は……?何でそんなことが分かる」
「情報を引き出したいらしい。父親のな。高専に引き渡せば、その情報もなくなる」
「何でそんなことを知ってるんだ」
「オマエらよりは呪詛師を知ってるからだろ。ま、オマエも今はそれなりに情報は得てるんじゃないか?教祖なんてやってんだ」

 何故、今になって父親のことを?いや、会合があるからこそ、父親のことを探ろうとしているのか、と彼の嫌味が頭に入って来ないほど、考えていた。

「……しかし、連絡をしない理由にはならない。私達からの電話にも出ないなんて」
「それは俺にも分からないな」
「とにかく、迎えに行く」

 私は甚爾と別れて、そのまま彼女が派遣された場所へと向かった。
 最近も嫌な予感がすると、硝子に相談していたくらいだ。何かあったのかもしれない。甚爾の言った通り、父親のことで高専に言いづらいことがあるのかもしれない。
 不安になりながらも車でその場所へ向かい、辿り着く。会合の会場となった人気のない路地に建つビル。そっとそこに入っていくと、血生臭さが鼻腔を刺激した。これは稀血、涼華のものではなく、呪詛師のものだと分かる。廊下の壁や床には血飛沫が付着している。そっと部屋を覗き込むと、そこには涼華の式神擬きのトカゲが何体もおり、部屋の壁や天井に張り付いていた。

「傑、もう来たの?」

 涼華の声が背後から聞こえて来た。慌てて振り返ると、そこにはいつもと変わらない彼女の姿があった。

「涼華……一体、何があった」
「実は、スマホを壊されちゃって。身体検査をされたら終わりだから、身分証を置いてきちゃったし、高専の電話番号が分かんなくて。調べようとネットカフェに行って、高専の番号を調べて、さっき電話した。傑がこっちに向かってるって聞い、」

 彼女らしいドジで何事もなかったことに心の底から安堵した。私は彼女を抱き締めると、涼華は私の心中を察したのか、抱き締め返しては優しく背を撫でてくれた。

「ごめんね、心配させて」
「甚爾さんが言っていたよ。父親のことを聞いてるんじゃないかって」
「あぁ、それも聞いたよ。前に呪詛師が父さんに会ったって言ってたの。去年だとか言ってた」
「去年?おかしな話だ、君が父親と別れた時にもう死んでるはずだろう」
「そうなんだけど……嘘を言ってるようには見えなかった」

 彼女は私から離れると、式神擬きが沢山いる部屋へ向かう。一体何だ、と不気味な部屋を見回していると、トカゲの一匹が口を開ける。そこには呪詛師であろう男が入っていた。彼らはこの状態で二日経っているんだろうな、と思っていると、彼女は話す。

「正道学長に聞いても、父さんはちゃんと死んでると言ってた。高専が回収して火葬したと。おかしくない?父さんには兄弟もいないし、似ている人なんているのかな?でも彼も父さんを見かけたことがあるって。昔、一緒に仕事をしたから、顔は覚えてる。確実だって」
「……分からないな。とにかく、彼らを高専へ連れ帰らなければ。補助監督と一緒に来なかったのか?」
「逸れちゃってね。会合の会場が変わったんだよ。高専に連絡して、ここに。呪詛師を回収してもらわないと……」

 何はともあれ、無事でよかった。そんなことを話していると、そこに補助監督がやって来て、その場は彼に任せることとなった。私達は外に出ると、彼女はふと息を吐いた。

「次からは電話番号も覚えておくよ」
「何かあった時用にね。まぁ、君が無事で良かった」
「……大騒ぎだった?私がいなくなって」
「そうでもない。いち早く、伊地知が連絡してくれたからね。ただ、私がここへ来ても見つからなかったら、大騒ぎになっていたかもしれないね」
「ごめん……」
「さぁ、帰ろう」

 私達は二人で高専へと帰ることに。彼女達が乗って来た車はここへ残る補助監督が使う為、使えない。私が乗って来た車で帰ることにした。私が運転するよ、と運転席に乗り込むと、彼女は助手席に座り、欠伸をすると、うとうととし始めた。

「さっきの話だけど……」
「もういいや。考えても分かんないことは、分かんない。また呪詛師を捕まえる機会があったら、聞くよ。それまでは余計なことは考えない」
「……そうだね。君は不安になりやすいから、考えないようにしなよ」
「うん……少し、眠らせて」
「あぁ。着いたら起こすよ」

 涼華はそのまま俯き、目を瞑った。私は伊地知に彼女は無事だとメッセージを送り、一先ずこれで一件落着だ。しかし、彼女の悩みは解消してやりたい。呪詛師の言葉を信じていいのかも分からないが、高専側が彼女の父を火葬した、という点も引っかかる。夜蛾学長が知らないだけで、高専側が何か隠しているのかも。どっちにしろ、私は彼女の為になることを。
 眠って力の抜けている彼女の手を握ると、眠りながらも彼女は、私の手を握り返してくれた。






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