#54.サプライズ





 休日に、涼華からデートに誘われた。彼女から誘ってくるなんて珍しい。忙しいから気を遣ってんだろうけど、僕はデートしたい。この間は最後にセックスしちゃったし?これ以上ない幸せなお家デートをしたわけだけど。
 そんなことを思いながら、僕は特に何も考えずに待ち合わせ場所へ向かった。そこには昔、僕があげた浴衣を着た涼華がおり、最早懐かしい。成長した彼女にとっては、少し子供っぽくなったかもしれないが、当時の初々しかった僕らを思い出したし、何より可愛い。

「おっまたー!」

 機嫌良く彼女に声を掛けると、僕の声に気づいて、こちらに顔を向けては、花を咲いたように、満面の笑みを見せる。

「はは、悟が遅刻してないなんて、珍しい」
「オマエとのデートだよ?遅刻なんてするわけないじゃん!で、何でそんな可愛い格好してんの?」
「これから花火大会に行く為です」
「なら早く言ってよ。僕だって着たのに」
「バレるじゃない。サプライズしたかったの」
「別に驚かなかったけど」
「浴衣には驚いたでしょ」
「うん、すっごく可愛い。でもまた、新しいの買ってあげる」

 一度彼女と離れてから、ますます彼女を愛おしいと感じるようになった。恥じらいのあった言葉も今ならすんなりと言えてしまうほどに。

「まだサプライズがあるよ」
「何々?」

 そう話していると、そこに傑がやって来る。僕とのデートだってのに、何で傑?

「デートと呼ばれて来てみれば、悟も一緒か」
「よく休み揃ったな……」

 それを把握してる涼華も涼華だ。夜蛾先生辺りに聞いたか?そう思っていると、傑は彼女の髪飾りに触れ、笑顔を向けた。

「昔を思い出すな、綺麗だよ」
「ありがとう、久しぶりに着たくて」

 親友が僕の恋人を口説いてるのがモヤモヤする。だけど、傑の恋人でもある。せめて僕の前でやめろ、と思うが、傑も同じ気持ちだろうな。絶対、僕のあげた浴衣は気に入ってない。似合ってると思ってるのは、傑があげた髪飾りだけ。僕は逆だけど。

「涼華とデート出来るかと思ったのに、厄介者までついて来るとはな」

 続けてやって来たのは硝子。僕らの顔を見るなり、溜息を吐いた。こっちだって二人きりだと思ってたっつーの。

「皆、揃ったね。四人揃うのは久々だし、花火大会行こう!」

 結局、打ち上げ花火を観に行ったのは、二年の夏が最初で最後だった。相当気に入ってたのに、時期も時期で一緒に行くこともなかった。なのに、この時期に四人の休日が揃うなんてこと、まずあり得ない。彼女は自分の立場もあって、他人に強く言えないけど、今回は何か細工したな。そう思っていると、彼女は僕の手を取る。

「悟、早く行こう」

 ただ嬉しそうな彼女を目の前にすると、二人きりのデートだとか、仕事のことだとか、何もかもどうでも良くなる。そもそも、この四人でいるのが、学生時代を思い出して何より楽しく思えてしまうから。何の問題もない。ギュッと僕の手を握った彼女の手はあの日の夏祭りが思い出され、僕は彼女の手を自分の腕に持って行くと、腕を組んだ。

「もう恋人なんだから、恥ずかしくないよね?」

 僕の言葉に、彼女は少しキョトンとしてから、困ったように笑った。あの頃を思い出したのだろうか。あぁ、僕もあの頃よりは少しは成長したのかな。

「じゃあ、私とも腕組もうか」

 傑が彼女の空いている手を取り、腕を組んだ。それに硝子はまた深い溜息を吐いた。

「涼華が連れ去られてるように見える、やめな」
「それは嫌だな…….それにこれから電車乗るのに」

 するりと彼女の腕は抜けていく。また硝子と繋ぐ気か、と思ったが、それをせずに駅に歩き出したのは、僕らを恋人だと認識していて、気を遣ったのだろうか。だとしたら、それなりに彼女も成長しているなと感じた。
 四人で駅に向かい、久々に切符を買って電車に乗った。これから涼華の言う花火大会へ行く人間だろう、人で溢れ返っている。それに彼女は不安そうに傑を見上げていた。

「傑、ごめんね?タクシーで行けば良かったかも……」
「いいんだよ。どうせ花火大会も人で賑わってるだろう」
「何?傑、人混み嫌いだっけ」
「悟は満員電車が好きか?」
「嫌い、怠い」
「ごめんってば……」
「デカいの二人、壁作って」

 傑と涼華のことが気になったが、硝子がほとんど潰されており、僕と傑との間に余裕を作ってやると、二人はそこに入る。車で来なかったのは、彼女が浴衣だったり、酒を飲みたいからだろう。でも、自分の真下で落ち込む姿は少し加虐心をくすぐられる。

「あーあ、運転してくれればこんなことにならなかったのになぁ」
「うっ……」
「やめなよ。涼華も後でお酒を飲みたいだろうし」
「あー、ビールをグッといきたい」
「そうだよ、冷たいの、飲みたいじゃん……」

 硝子に乗せられて、酒を飲むようになった涼華は最後は飲みで締めたいし、と口を尖らせる。僕は飲まないけど、酔ってる彼女を見るのは結構好き。馬鹿みたいに甘えてくるから。

「はいはい、酔い潰れたら僕が介抱してあげるからね」
「今日は酔い潰れないよ」
「ふふ、この間私と飲みに行った時も言っていたね」
「うぅん……」
「飲んだら歯止め効かなくなるからね、涼華は」
「今日は止めて、本当に」

 毎回、酔い潰れているのを気にしてるんだろうな。ますます可愛い。僕は落ち込む彼女の頬を撫でると、傑と硝子が同時にその手を叩き落としてくる。マジでコイツら変わんねぇ。
 やっと会場のある最寄駅に辿り着き、電車を降りると、ぞろぞろと人が流れて行く。すぐ逸れる彼女を留めるように手を繋ぐと、傑も同じことを考えていたのだろう、彼女は僕と傑と手を繋いでいた。

「もう逸れないよ、大丈夫。これじゃあ何も買えないでしょ?」

 それに僕達は渋々手を放すと、彼女は可笑しそうに笑う。もうあの頃の涼華じゃないと分かりつつも、どうしても身に染みている。
 川沿いに屋台が立ち並び、そこを中心に人々が行き交っている。屋台通りを抜けた河川敷で家族連れやカップルが夏祭りらしい食事をして花火が上がるのを待っていた。

「私達も何か食べようか」
「でも、花火まで時間がないから、二手に別れて、それぞれの食事を買おうよ」
「ビールが欲しい、ビールが」
「私も欲しいし……飲み物と、そのお供に焼き鳥とか」
「焼きそばが定番だね、前に来た時も食べたし」
「僕、ベビーカステラ食いたい」
「いいね、じゃあどう別れようか」

 勿論、ジャンケンで決める。そう傑と目が合うと、すぐにジャンケンをした。そして僕の出したパーが負けた。

「あー!クソ!硝子とかよ!」
「分かってたけどハズレみたいに言うな、腹が立つ」
「私が硝子と行きたいんだけど、ナンパ避けがどうとかいう話になっちゃうしね。お互い」
「悟、負けは負けだ」
「はいはい、こっちは飲み物と焼き鳥ね」
「私達は焼きそばとベビーカステラね」

 ちゃっかり手を繋ぐ傑にイラッとしながらも、早く済ませよう、と俺達は分かれた。前の夏祭りとは立場が逆だ、と思い出していると、硝子は怠そうに話す。

「面倒だな、一妻多夫っていうのは。結婚してないけど」
「本当それ。でも仕方ないでしょ。硝子とも付き合うって言うかもしんないよ?」
「君達はそれを許さないだろう?」
「まぁね。これ以上ライバルが増えるの嫌なんだけど」
「私は彼女にそういう感情はないさ」
「どうだか」
「前にも言ったかもしれないが、君達から引き剥がしてやりたいとは思うけど」

 引き剥がして横取りか?とも思うが、そうじゃないだろう。でも、引き剥がすことが彼女の為だと硝子は思ってるみたいだけど。物理的に距離を取られた時は、会わないという意思があったからこそ、彼女は強くなって帰って来た。だけど、これからいきなり恋人としてでは友人としての僕が傍にいた所で、気を遣うのは目に見えている。それに……

「僕は手放すつもりはないからね」
「現実的に考えて、五条は後継ぎが必要じゃないのか?」
「僕は子供はいらないけどね。周りが何とかすんじゃない?別に涼華が呪いじゃなくて、子を授かることが出来たとしても、いらないと思うだろう」
「ふーん……」
「傑もそうだと思う」
「アイツも涼華がいるだけで幸せみたいな面してるからな」

 その言葉に、ふと電車で二人がしていた会話を思い出す。

「傑、何かあった?涼華、気使ってたでしょ」
「謎の宗教団体作って、非術師から金を巻き上げてるくらい、非術師嫌いが進行してる。それでも受け入れてくれたと飲みに行った時に惚気られたよ」
「ふーーん……そう」

 僕は彼女に愛されてる。でも時折、傑に愛情を向けないで欲しいとか、親友の僕にも知らないことを二人で分かち合っているのが、少し気に掛かる。片方は恋人、片方は親友。なのに、二人だけの世界に置いて行かれるかも、なんて僕らしくないことを考えてしまう。

「女々しいな」
「僕だって恋する男なんだよ」
「はー、厄介だ」
「……酔ったら構ってくれるかな」
「やめろ。一九○もある男がこんな所でぶっ倒れたら面倒だ」
「はいはい。下戸だからね、やめとくよ。酒豪のオマエの横にいるだけで酔いそう」
「そんなんじゃ、飲み会で涼華を介抱してやれないな」
「介抱は得意だよ。今日も酔ってもらおうか」
「あー、涼華が可哀想」

 そんな会話をしながら僕達は屋台で買い物をしたのだった。






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