#34.奪い合い




 硝子がお揃いのストラップをくれた。とても可愛くて、いつでも手元に置くため、携帯につけてみる。時々、携帯を取り出した時に色違いのストラップが見えるのがとても嬉しい。
 建人と雄はお皿セットをくれた。結構いい物だ。料理を気に入ってくれて良かった、また沢山作ってあげよう。
 そうやってホワイトデーは過ぎて行った。
 悟とは休みの日にスイパラに行こうと約束し、その日がやって来て、私は待ち合わせ場所に行く。彼は予定があるから、待ち合わせは高専ではなく現地で、とメールが来た。
 悟は忙しい。最近はメールでしか話をしておらず、そして呪いを自覚出来ていた悟から、呪いが消えた、と報告を受け、複数人を呪えないのだと分かった。ただ、傑に科した縛りなどは分からないまま。考えられるのは、操られる死体が崩れていたということ。つまり、死体がそれ以上使い物にならなければ死ぬのでは、と私は考えた。ならば稀血の呪詛師の女の遺体が綺麗な理由も頷ける。まるで心中、愛執とはそういうことなのか。
 電車に乗っていれば『遅い』とメールが届いた。嘘でしょ、悟が先に着いているなんて。というか、待ち合わせ時間まで三十分はある。『もう少し待って』と返しながら待ち合わせ場所へ急いで向かう。
 駅を出てすぐの場所だ、とそこに行けば、悟は女の子に囲まれていた。いつものことだ、と思いながらも、あの場に行くのは気が引ける。向こうから来てくれないものだろうか、と『気まずいからこっちに来てほしい』とメールしてみると、悟は女の子達と何かを話しながら携帯を見た。だが、彼は何の返事もなしに携帯をポケットにしまう。これは完全に弄ばれていると確信した。自分の中の呪いを強めてみると、彼はそれに反応し、私を見る。そして溜息を吐き、私を指して彼女達に何かを言うと、悟はこちらにやって来る。

「何?嫉妬?」
「そうだよ」

 こちらも少し弄んでやれ、と思って答えると、彼は驚いたように目を丸くしたかと思えば、私から目を逸らした。

「あー……そう」

 普段、あまり冗談を言わない弊害がここで出たのかもしれないが、まぁいいか。
 私はそれより、と悟に似合わない可愛らしい袋が腕に下がっていることに気づいた。

「それ、女の子に貰ったの?」
「俺が買った。あげる」

 そう言ってその袋を軽く渡してきた。嬉しい、ここで開けてもいい物だろうか。

「これ……」
「せめて店行ってから開けたら?」
「あ、うん」

 見透かされている。私はそれを持って、歩き出した悟の隣を歩き進める。やはり悟から呪いの気配はなくなっていて安心したが、誰かに移さねばならないのは困る。移すのではなく、解く方法を……

「おい」
「えっ」
「ボーッとしてんなよ」

 今は呪いに縛られていてはダメだ、もっと楽しまないと。私はごめん、と謝ると、彼はツンと口を尖らせた。
 スイパラに着くと、私達は好きなものを取って食べる。私はその途中で、プレゼントを思い出す。

「悟が何くれたのか、見ていい?」
「ん」

 ケーキを食べながら短い返事をする悟からプレゼントに目を向ける。リボンをゆっくり解いていくと、そこには黒い帯に四角い金属がついている、私が見たことのないようなものだった。留め具もあり、私はこれはブレスレットにしては大きすぎるし、ネックレスにしては本当に首輪のような太さだと感じていた。

「えっと……ありがとう。でも初めて見るよ、これ。どう使うの?」
「チョーカー知らねーの?」
「何それ」
「首輪」
「やっぱり首輪だった!」

 こういうのもお洒落なのか、と私は留め具を外してみる。彼は隣へ移動してくると、私の手からチョーカーを取り、首に手を回してつけてくれる。

「ん、出来た」

 少し首が締めつけられるような感覚があるものの、苦しくはない。ただ違和感があるというだけ。

「ありがとう!どう、似合うかな」
「俺が選んだからな」

 似合ってるということだろう。アクセサリーが増えるのは嬉しい。彼は再び向かいの席に座ると、プレゼントの包装をしまう私をジッと見た。少し照れ臭い。

「そんなに似合ってるかな」
「俺のって分かる」
「悟って感じしないけどなぁ……」

 黒は何だか傑っぽい。私服も黒いし。と考えていたが、彼はそういうことじゃねぇ、とフォークを私に向ける。

「てかさ、何で解呪出来たわけ?俺、何かした?」
「解けたんじゃなくて、傑に移動したんだよ」
「は?」
「解呪条件は分からないけど……縛りは多分、私が死ぬと相手も死んじゃうんだよ」
「死んでたじゃん」
「一回目の死はいいけど、もう復帰出来ないほど崩された状態、死体の状態でもう一度死ぬといけない。人間としての私ではなく、呪いとしての私……昔の稀血の呪詛師は死体を操っていた。勿論、死体だから腐っていく。彼女は朽ちた死体を抱きしめたまま死んでいたらしい。綺麗な状態で」
「オマエみたいに呪いを移さなかったんだな」
「そうみたい。だって愛執の契り≠セよ?愛してる人としか出来ないんだと思うよ。それに呪い方もそうだし……」
「何?」
「キスが条件だよ」

 その言葉に彼はは?と目を丸くする。それに私はそういえば、と自分で言っていて思い出したことがあった。

「私が最後にキスしたのは傑だった。なのに何で悟に呪いが?」
「オマエからのキスじゃなくても成立すんなら、俺が旅館でしたわ」
「えっ、旅館で?」
「海行った後、寝ただろ。そん時」
「……じゃあ、それだね」

 何で寝てる間に?そもそも何でするんだ。そう思いながらも解呪方法を見つけなければ、と考えていると、悟は少し不機嫌そうに話す。

「また俺とキスすればいいだろ」
「何で移し替えるの……傑もそれでいいって言ってたし、まずは解呪方法を、」
「気に入らない」
「呪われたいの?それとも傑の心配?」
「オマエの呪いくらい何とかなるって話」
「悟でも内側からは防げないよ……」

 ダメだよ、と私は眉を顰める。すると彼はまた不機嫌モードに入ってしまった、長引かなければいいけど。しかし、ケーキを食べ進めていると、ま、いいや、と悟はあっさり機嫌を直す。

「すぐにどうなるってわけでもないし。オマエが尻軽ってだけ」
「えぇ……心外だな」
「俺か傑かどっちかにしろ」
「じゃあ硝子かな」
「……その返答、硝子からだろ」
「な、何で分かったの」

 今、自然に言えてたはずなのに。確かに硝子からこう返せと言われたけど、何故分かったのか。

「オマエがそんな器用な返答、すぐに出来るわけないだろ」
「出来るよ」
「どっちも好きだし選べなぁい!って言うのがオマエ」
「……確かに。分かってるなら言わないでよ」

 分かってて訊くのは意地悪だ。
 悟は分かった分かった、と最後の一口を食べると、またスイーツを取りに行った。胸焼けしそう。

 高専に帰って来ると、硝子がおり、私の首元を見て、うわ、と声を上げた。

「見事に首輪つけられた」
「チョーカーって言うんだよ」
「それは知ってる」

 いいだろ、と悟はニヤニヤ笑うと、キショ、と硝子は悪態を吐く。私は良くないのかな、と少し不安になる。

「何か変なの?」
「私ならもっと可愛いのあげた」
「は?これで十分だろ」

 そう、悟は私の首筋に触れると、思わず驚いて身体を震わせて避けると、彼はニヤリと笑って私の肩を抱く。

「俺のって感じ」
「うわ……涼華、もうつけなくていいよ、それ」
「えぇ、せっかく貰ったのに」
「ずっとつけてろ」
「上手く流されるな……」

 硝子は息を吐くが、私はせっかく貰ったんだし、似合うならいいと思うんだけど、と首を傾げると、彼女はま、と口角を上げる。

「今は色んな意味で夏油のものって感じだけど」
「あ、それ私も思った!」

 黒髪の傑の方がこのチョーカーっぽい、と思っていた。そう言おうとすると、硝子がケラケラ笑いだし、悟は唖然とする。

「は?」
「え、何で硝子が笑ってるの?」
「素なのがまたウケる」
「私、何か言っ……んっ!」

 いきなり悟が覆い被さってきたかと思えば、噛みつくようにキスをしてきた。そしてすぐに舌が入って来ると、全身がゾクゾクと震える。

「さと、ぅ……」

 話そうとした時、舌を吸われ、パニックになる。何が起こってる、とただ離れようと押し返すが、彼はガッチリと私の頭を掴んでいた。すると硝子がおい、と声を上げ、悟の背を蹴ったのだろう。少し身体が揺れると、やっと彼は離れた。やっと息が出来る、身体が熱い。恥ずかしい。

「堂々としてんじゃねぇ」
「ムカついたし」

 ムカついた?ムカついたらあんなことするの!?口周りは唾液で濡れており、ハンカチで口を拭くと、悟の顔を見て再び恥ずかしくなってきた。そしてまた呪いが移っている。

「わ、私、戻りま、す……」

 前と同じで、顔が真っ赤になっているに違いない。私は口論する彼らの間を通って寮に帰ろうとすると、悟はおい、と私の手首を掴んで止める。

「俺を見て。呪い、移った?」
「あ……」
「あ?」
「あんなことしておいて、移らないわけないでしょ!?」

 私は自分で分かるくせに!と彼の手を振り払って部屋に走って行った。
 恥ずかしい、恥ずかしい!しかも硝子の前で!何でムカついてキスするの!?
 さっきのことを思い出して軽くパニックになり、部屋に帰ると、ベッドに倒れ込んだ。


「ついに脳味噌がやられたか」
「ただの愛情確認」
「呪いで確認するの、頭おかしいわ」
「知るかよ、奪ったの傑だし」
「呪い欲しがる奴がいるとはね」
「愛なんて歪んだ呪いだよ。前は馬鹿みたいだって思ったけど、今は欲しい」
「うわぁ、同期がキショいよー」
「何回言うんだよ、それ」

 悟はオマエにもやんねー、とべ、と舌を出し、上機嫌に寮へと戻ったのだった。






back


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -