#15.ショッピング





「じゃあこの白とか?」
「ふりふりのレースが可愛い!これにするよ。硝子は?」
「私これ」
「黒か、いいね。硝子っぽいよ」

 季節外れの水着を買いに来た私達は、やっと売っている店を見つけた。
サイズは下着と同じだよなぁ、でもこの色、普段の制服の色と変わらないな、と見ていると、硝子はジッと何かを考えるように私を見つめてくる。

「五条と夏油に同時に誘われたらどうする?」

 その問いに何の話だ、と呆気に取られていると、彼女は言い方を変える。

「どっちの方が好き?」
「えぇ、どっちも好きだよ。一番は悟と傑と硝子だよ」
「同率一位かぁ……TDLのペアチケットが当たって、二人でしか行けなかったら誰誘う?」
「悟かな、いっぱいはしゃいでくれるし……」
「あぁ……」
「ショッピングなら硝子だし、水族館とか動物園とかは傑かな」
「少し分かってしまうのが悔しい」
「何でも四人で行くのが楽しいよ」
「涼華らしいか」

 いきなり何で?と訊ねると、いや、別に。と硝子はそのまま話を流した。何だったんだ、と思いながらも、それ以上追求せずにいた。
 ある程度、生活必需品や洋服、ここ数日の食材などを買って帰ろうと、ショッピングモールから出ると、見覚えのあるお団子ヘアの長身の男が目についた。

「あ、傑だ。こんなとこで珍しいね!」

 私は声を掛けようと駆けて行くと、硝子は何かに気づいて止めようとした。だが、時すでに遅し、傑を呼ぶ私の声に彼はすぐに気づき、驚いた表情で振り返った。すると隣にいた女性も振り返り、私を見た。

「傑くん、知り合い?」

 私は初めて、非術師の色っぽい女性と話し、ドギマギしてしまった。補助監督にも時々いるが、彼女とは住んでいる世界が違うと分かりきっている為、少し緊張してしまった。彼女は傑の友達だろうか。

「初めまして。私、傑の友達で同期の、」
「私は傑くんの彼女なの。よろしくね」
「ちょっと……」

 堂々と話す彼女に、傑が少し困ったように眉を顰めた。彼女、恋人か。傑にそんな相手がいたなんて、私は初めて知った。それを知り、真っ先に脳裏に浮かんだのは、先日のキスの件。私は途端にこの場に居づらくなった。

「あ、あー……そうなんですね。えぇと、デートとか?ごめんね、邪魔しちゃって」
「涼華、待っ、」
「わ、私!硝子と買い物に来てて。たまたま見かけて声を掛けたの」

 そう、後ろにいた硝子は気怠そうに傑を見て、私の肩を抱く。硝子はきっと気づいていたんだろう。もう少し気を遣えばよかった、と反省する。

「デート楽しんだら?私達もまだデート中だし」
「うん、硝子とショッピングデートだね。じゃあまた高専でね」

 傑は何か言おうとしたが、隣にいた彼女の視線が気になり、私はササッと硝子とその場を離れた。

「あのクズ」
「傑って恋人いたんだね。あぁ……緊張した」
「何で緊張?」
「傑と恋人みたいにキスしてしまって……これってまずいよね。あの場に居づらかった」
「……馬鹿だな、アイツも」

 硝子が溜息を吐き、私は傑としてはいけないことをしたのではないか、とモヤモヤと考えてしまった。
 高専に帰ると、硝子は夏油のことは気にするな、アイツはクズだ。と聞き慣れた言葉を言って帰って行き、私もそんなに気にすることもないのか、と自室に戻った。
 早速、買った物を広げ、服のタグを切ったり、雑貨の袋を開けたりしてしまっていく。この淡々と作業は、所有欲が満たされる感覚がする。それがこの上なく楽しかったり。だって、今まで欲しい物は買えなかったし、お金を握ったのだって初めてだ。初任給は正道先生に返そうとしたら、まずは好きな物を買えと言われて、悩んだなぁ、などと思い返して行く。結局、買ったのは食器類だったけれど。今でもお気に入りだ。この部屋には私の初めてが詰まってるなぁ、なんて思いながら、棚を閉める。すると玄関からノック音がし、はーい、と間伸びした返事をすると、そこに傑が入って来る。

「やぁ、今帰ったんだね」
「うん、硝子とご飯食べて来た。傑ももう帰ってたんだね」
「あぁ、あの後すぐ別れたから」
「そっか。いつからお付き合いしてるの?」

 私は綺麗な人だった、と彼女を思い出していると、彼は困ったように笑う。

「いいや、付き合ってはいないよ」
「え、そうなの?でも彼女だって……」
「勝手にそう言っただけだろう?冗談さ」
「冗談?」

 そう見えなかった、と考えていたが、傑はそうだよ、と続けて話す。

「私に恋人はいないからね」
「そう、なんだ?じゃああの人は友達だったの?」
「まぁそうだね、知り合いって程度」
「そっか。何だ良かった」

 傑が嘘を吐く理由も思いつかない。ホッと胸を撫で下ろすと、彼は首を傾げる。

「私に恋人がいなくて安心したのかな?」
「だって、傑とキスしちゃったし……それって浮気にならないかなって。気まずかったよ、何か友達になれそうな雰囲気でもなかったし……」
「気にする必要はないよ、キスのことも彼女のこともね」
「はぁ」
「心配させてしまってごめんね」
「いいの。でもキスは良くなかったね、色々と……恋人でもないのに」

 何か今更気づかされた。キスしたことも、されたことも恥ずかしいし、そもそも恋人でもないのに。だから、あの人の視線は何だか怖かった。

「……じゃあ、私は行くよ。邪魔してごめんよ」

 傑は笑顔を向けてそのまま出て行く。それに私は今日の傑はちょっと雰囲気が違っていて怖いな、とそわりとした。






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