#11.膝枕





 クリスマスパーティーの翌朝。

「消せよ」
「やだね」
「甘えんぼだったね、昨日は」

 私は遅れて教室に入ると、いつもより騒がしい三人に、何があったんだろう、と首を傾げる。

「おはよう、どうしたの?」
「昨日の写真だよ、皆で共有しただろう?」
「消せって騒いでんの」
「は?オマエも持ってんのかよ」
「持ってるよ?何で?」

 何でじゃねぇわ、と彼はガシガシ頭を掻くと、私は焦っている悟が少し可愛らしく思えて笑ってしまう。

「可愛かったよ、昨日の悟」
「当たり前だろ、俺は何してもカッコいいし可愛いんだよ」
「ウッザ」
「ナルシストだな、それなら消さなくていいね」
「いいじゃない、これも思い出」

 私は席に座ると、私もやって、と硝子は椅子をくっつけると、ごろんと私の膝に頭を置き、寝転がる。

「あー、いいわこれ。ちゃんと食事して肉つけてるから寝心地いい」
「太ったかな」
「丁度いい」

 そう私の脚を撫で、何故かドヤ顔をして悟と傑を見ると、彼らは少し顔を歪ませた。私は特に気も止めず硝子の頭を撫でる。

「何か嬉しいなぁ、いつもは私が沢山撫でられたり、甘えさせてもらってたから」

 何だか照れくさい、と笑えば、硝子はじゃあもっと甘えようか、と起き上がると、私の頬にキスをした。突然のことに、は?と悟と傑は声を上げる。私は驚いて一瞬、思考停止してしまったが、それは何よりの愛情表現だ、と嬉しさと照れで頬が緩む。

「はは、ちゅーされるとは思わなかった!でも嬉しいな」
「口にもしてあげようか」
「口は恋人とするものだよ?」
「堅物め」
「もっと突っ込むとこあるだろ!」
「硝子は積極的だね」

 するとそこに正道先生がやって来、授業が始まると、皆は着席する。すると正道先生は私の名を呼んだ。

「涼華、今日から本格的に呪力を一定に保てるようにしろ」
「え?もう既に出来ますよ」
「そうじゃない。そのブレスレットなしで保てるようになれ。オマエは常に呪力を血液に送り続けている状態、それを抑える為にそのブレスレットがあるわけだが……常にそれをつけてはいられない。血を流せば、それこそ呪霊の餌となる。ただ存在するだけで呼び寄せるのは、常に呪力を流しているからだ。それを抑え込み、保つのが課題だ」
「そんなつもりはないんですけど……」
「オマエの呪力は身体の一部のようなもの。常に血液に呪力を送り続けていることになる。だから、身体はただ血液と同じように呪力が巡っているだけだと感じている。その無駄に血液に回している力を抑えることが出来れば、呪霊を呼び寄せることも減るし、その温存した呪力を術式に使うことが出来る」
「が、頑張ります」

 難しいことを言われたが、とにかく無意識に常に使ってしまっていた呪力をなるべく使わないよう、温存すべき、そういうことだ。すると正道先生は黄色いクマの呪骸を手渡して来た。

「あ!黄色いクマさんだ!」
「いや色が同じだけで、アレとは全然違うだろ」

 顔を見れば、確かにちょっと間抜けで、正道先生の趣味が入っていることが分かる。

「それを使い、常に一定にしろ。少しでも血液に呪力を流し込むと感知して殴りかかってくるぞ」
「私なら出来る、出来る……」

 私はブレスレットを外すと、眠っていた呪骸は目を覚まし、殴りかかってきた。私はそれを顔面に受け、椅子ごと後ろに倒れる。

「ギャハハハ!マトモに食らった!」
「もはや懐かしいな」
「無意識にしていたことを矯正しろって言われて、突然やるのは難しいだろうね」
「う、本当に難しい……」

 私はそっと呪骸を手に取るが、なかなか治ってくれず、殴られないよう防ぐのが精一杯だ。

「保てるまでは高専の外ではブレスレットはつけておけ。いいな」
「はい、頑張ります……」

 そうしてそのまま授業中も呪骸を持ち、呪力を抑える続ける。呪術高専にやって来て呪術について学んだお陰か、体内の血液中に常に多くの呪力が流れ込んでいることがやっと意識出来、分かるようになった。やっと抑え込むことが出来たのは授業終わりであり、一安心していたが、気を抜くと殴りかかってこようとする。

「む、難しい……常に集中しなきゃ出来ない。呪力を一定に保つ訓練はあんなに楽だったのに」
「映画も試してみたらどうだい?」
「そうだね……感情に左右されてはいけない」
「オススメの映画貸してやるよ」

 それから暫く、また部屋で映画を観ることが多くなってしまった。


***


「やぁ、涼華。頑張ってるかな」

 部屋で映画を観ていると、そこに傑が部屋の扉をノックをして入って来た。私はんー、と軽く返事をして、ジッと映画を観ながら、呪骸を脇に抱えていた。
 訓練を初めて二週間は経ち、上手く抑えられるようになっていた。彼はお土産、と地方の土産の菓子をテーブルに置く。それに私はありがとう、と彼を見上げる。

「昨日から任務だったんだよね、お疲れ様」
「ふふ、労ってくれるかい?」
「何か作ろうか?」
「いや、食べてきたからいいよ」

 そう言うと、傑はベッドを背もたれにしてだらけていた私の隣に座ったと思えば、私の膝を枕代わりにして寝転ぶ。これもまた珍しい行動だと思いつつ、彼の頭を撫でる。

「傑も甘えんぼになった?」
「ふふ、たまにはいいかなと思ってね」
「悟と硝子に写真送ろうかな」
「それは勘弁してくれ……」
「はは、お土産もらうね」

 そう言ってお菓子をテーブルから取ろうと手を伸ばすと、彼の顔に私の胸が顔にのし掛かり、彼はびくりと身体を震わせる。それに気づくと、私はすぐ身体を起こす。

「あ、ごめん。お土産食べる?」
「……いや、甘すぎる」
「そっか」

 何も気にせず私は映画を観続けていると、彼は腕で目元を覆い、暫くすると体勢を変えて、観ているスプラッター映画に目を向けていた。
 お菓子を食べていると、胃が消化を始めているのか、キュルルル、と音が鳴り、すぐ側で音がした傑は思わず笑うと、私は恥ずかしくなった。

「ふふ、可愛い音がしたね」
「ご、ごめん」
「いいよ」

 彼はまた仰向けになって眠ると、私はそっと髪を撫でた。何だかんだ、人の体温も撫でられることにも安心感を覚えるというのは、皆同じなのだな、と感じた。
 ふと、膝枕はそんなにいいものなのか、自分はされたことしかないから、次会った時、硝子にしてもらおう、なんてことを考えていた。


***


 暫く、涼華は一人訓練の為、三人が任務に同行する機会は減っていた。そんな中、三人の話題に上がるのはもちろん彼女のことで。

「数ヶ月で随分と大人になったと思うこともあるけど、サプライズをしたいって空回りする所は子供っぽいね。おんぶも」
「は?寧ろどこが大人っぽいと思ったんだよ」
「ないよね」
「……体型とか。初めて会った時は同い年とは思えないほど痩せ細っていて、今より小さく見えた」
「確かに脂肪も増えて、胸がデカくなったな」

 そう硝子が話すと、悟はは?と声を上げ、傑は否定出来ない、と黙っていると、硝子はドヤ顔で話す。

「私は一緒に風呂入ってるから」
「マウント取るな」
「今はDくらいだけど、あれはもっと成長しそうだ」
「やべ。乳首は?」
「キショ、教えるかよ」
「今のはよくないよ、悟」
「オマエだって聞きたいくせに」
「最近、胸を凝視したら照れるようになった。自覚が芽生えてる証拠だ」

 傑はそれは芽生えているのか?と考えていたが、黙っていると、悟はふーん、と何か良からぬことを考えていた。

「あまりちょっかいを出すなよ」
「は?むっつりに言われたくねぇ」
「オマエはオープン過ぎるぞ、五条」
「AV見せるくらいだもんな」
「オマエらといたら涼華がダメになる」
「酒を進んで買って来た飲兵衛のヤニカスにだけは言われたくねぇ」

 口論を始めた悟と硝子の間で、傑はこの間あった所謂ラッキースケベの話はしないでおこう、と黙っていた。

「あー、飯食いたい。てか、この間アイツが作ったチョコマシュマロクッキーが食いたい」
「喉が焼ける甘さだわ」
「彼女のご飯が食べたいのは同意する」

 呪術高専を出て行ったばかりだが、何だかんだ彼女の話をしていると、もう既に早く帰って癒されたい、と思い始めていた三人だった。






back


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -