空はこんなに青いから(土新/小ネタ)
2014/06/09 02:42

とにかく。
今日は朝からなにもかもが上手く振るわず、俺のやる気を容赦なく削ぎ落としていったものだから。
俺はもう、今日という一日に匙を投げてしまいそうだった。
朝っぱらから総悟に暗殺されそうになれば、朝食ではさっそくマヨのストックが切れた。一向に減らない始末書の山に嫌気がさしディスクワークを放り投げて気分転換を兼ね外に出れば、煙草は切らすし、なにもないところでつまずいてみたりして、笑いものになる。(もちろん全員粛正済み)
嗚呼、天よ。空はこんなに青いというのに。
五月の風はこんなに青く心地好く、そよいでこの身に吹いているというのに。
……何故、俺の為すべきことは全く捗らない?
そして、何故俺は、こんな真っ青な五月晴れを背景に、布団なぞ天日に干しているのだろうか?
理由は一つだ。仕事が全く捗らないからだ。要するに、受験生が受験勉強に行き詰まった際に起こす謎の清掃衝動的な、それだ。冒頭に戻る。

青い匂いのする空気を深く吸い込み、ぐいぐいと背筋を伸ばす。
蓄えた空気を長く吐き出すと、一仕事終えた後の一服に火を点す。
ぶはあ。大袈裟に煙を吐き出してみる。
青空へと向かって昇っていく白い筋を、俺は意味もなく視線で追いかける。
……なにをやっているのだろうか、自分は。
もう何度目かもしれない自問を俺は繰り返す。
無意な時間だ。空っぽだ。そのがらんどうの部分に生ぬるい風が吹き込み、渦を巻くように停滞していく。
ああ、そういえば、と俺はふと考えた。
―――たまにはこんな気の抜けた一日も必要ですよ。
そう、苦笑いをもらしたアイツは、今はなにをしているだろう。
……どうせまた、家事手伝いみたいなことをせっせとこなして、あのくそ狭い万事屋の中を忙しなくあっちこっちしているのだろう。
なんてことを考えて、少し気が晴れた気がするのは、どうしたことだろう。
「……ふんっ」ほぼ、無意識に俺は鼻を鳴らした。
まあ、なんだ。確かに、今日の風はいつも以上に俺に味方しないようだが、生活をしていれば、こんな日だって実際いくらでもあるさ。
開きなおって、騙し騙しやっていくしかない。全く社会人っつうのは、難儀な生き物だよ。
前髪を掻き上げてみると、五月の気候に少し汗ばんだ額に風が吹き付けて気持ちよかった。


「……ふむ」


もう一度、五月晴れの空に向かって背筋を伸ばしてみる。


「……しゃーねェ」


いつまでも、こうしてぐだぐたと風に当たっているいるわけにもいくまい。
平手で頬を叩いて脳味噌を切り換える。
振り返れば、今朝から赤ん坊の匍匐前進程度にしか進まないワークスケジュールという現実が、「早く振り向け」と俺を急かすよう待っている。


「やるかァ……」


俺がやる気を出して片付けてるまで、やつらはそこでずぅっと居座り続けて、俺を追っかけ続けてくるのだから、仕方がない。
退治するには諦めて正面切って受けて立つほか打つ手はない。
せめて、今夜はこの陽の匂いに包まれて、安らかに眠りにつけることを祈ろう。

(―――ついでに、次の休みには気分転換にアイツを外にでも連れ出してみるか。)

深呼吸をし、身体に酸素を溜め込むついでに、強引にやる気を捻り出す。
カラ元気でも無いよりマシってヤツだ。




(そんなとき思い出すのは君のこと)


__________


そんな日もある



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