まわる歯車(金さんと新八くん/小ネタ)
2014/05/31 02:36

……ふーん。
パーフェクトなハズの俺が、そんな曖昧な相槌を返したことに、誰より驚いていたのは俺自身だったろう。
俺のマイクが拾った、新八の言葉をそのままの意で返そう。
お付き合い、をしているヤツがいるそうだ。
「……今までどうして、僕は金さんに相談の一つもしなかったんでしょう」……不思議だなあ。そう、赤みのさした頬を指で掻きながら、新八は言った。
……俺のパーフェクトな洗脳術に、パーフェクトに絡めとられた新八は、絶対的な信頼を俺に寄せている。
可哀想、だとか、間違っている、なんてことは思っていない。
何故ならば俺は、パーフェクトだからだ。
パーフェクトな俺は、寄せられた絶対的な信頼を、絶対に裏切ったりしないからだ。
俺は新八の望むことを叶えてやれる。
いつだって望む答えを出してやることが出来る。
新八の望む言葉、ほしいと思う、言葉、言葉、言葉、……。


「……あの、金さん……?」


新八が、俺の顔を覗き込んでいた。
疑いのない澄んだ眼差しが、きょとんと丸くなっている。
俺は、その眼を見詰め返す。
新八が瞬きをする。一回、二回。


「あの……」


新八が二度口を開く前に、俺は新八の頭を少し強めに撫でてやった。
「わっ」ともらした新八が、次の瞬間には「なにするんですか、金さん」と笑ったので、俺は安堵した。
しかし、どうしたことだろう。
パーフェクトなハズのこの俺が、言葉に詰まるなど。……あり得ない。あってはならないことだ。
ああ、そうだ。ここのところの調整不足のせいだ。そのせいでたまたま、今日は調子が悪いだけなのだろう。きっとそういうことなのだ。そうに決まっている。
新八にかける自分の微笑みに、どこかぎこちない違和感を覚えてしまうのも。心臓部辺りに、或いは側頭部辺りに感じる、細い針で四隅をチクチクとつつかれるような、この謎深い感覚も。
きっと全ては日頃のメンテナンス不足が原因なのだろう。
試しに、左胸を拳で一度打ってみた。

モーターが鳴らす、微かな機械音を感じ取っただけだった。


「……金さん?ごめんなさい僕、やっぱり変なこと……」


首を傾げ、すまなさそうに眉尻を下げる新八を見、俺はとっさにその肩を抱いた。


「わ、」


「なァに言ってやがんだ、ぱっつぁんよォ。俺とお前の仲だろう?今さら、ンな遠慮はなしでいこうや」


「なァ!兄弟!」今度は、パーフェクトに笑えた自信があった。
みるみるうちに、明るくなっていく新八の表情を見て、自信は確信に変わった。
……うへへ。ふやけた顔をする新八の肩をさらに引き寄せこめかみに唇で触れた。
新八はくすぐったそうに身を捩る。
同じくして、玄関先から「金ちゃんただいまヨー!」と賑やかしい少女の声がする。
どうやら、俺はタイミングに助けられたらしい。
俺は新八の肩を離し「おう神楽ァ。おけーりィ」と返すと、続けて新八も「おかえり」と微笑んだ。
自然と、話題を断つことができた。
タイミングさえ俺の味方をする。ほんと、俺はなにもかもがパーフェクトだ。
だが、いや、だからこそ、だ。
日常のメンテナンスは、もっと徹底した方が良さそうだ。

パーフェクトな自分であるように。

コイツらの望む『俺』であるように。


次こそは、どんなイレギュラーにだって、完璧に立ち回ってみせるさ。




(それは歯車のずれた音)


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完璧な存在であることに執着する金さんのお話。

金さんの存在って、未だに色々考えさせられたりすることがあります。



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