そしてかれはぬるくほほえんだ(土新/コミックス派の方はご注意ください/ひじたん2014B)
2014/05/15 23:16

※ひじたんラストですが、やっぱり斉藤さんが出張ります(……)
引き続き、コミックス派の方はご注意くださいませ!


……どす、ドス、ドスドス。
近付いてくる勇ましい足音に、うつらうつらと沈みかけた意識を覚醒させた。
―――スパンッ!
小気味良く打ち鳴らされた襖の音に斉藤は振り向いた。


「……?」


その、突然の訪問者に首を傾げる。
僅かに呼吸を弾ませ、相変わらずの鋭利な目付きでうららかに射し込む午後の陽射しを背に斉藤を見下ろす、己と同じく黒ずくめな男の姿は―――土方十四郎だった。
土方は、徐に斉藤の目の前に胡座をかくと、眉を潜め何とも名状し難い表情で顔を覗き込んでくる。

……。

土方が沈黙を保つ。……すなわち、この場における果てしない静寂である。
斉藤は、静かに絡み合う視線に冷や汗を感じた。
同胞である存在の彼にさえ、未だに上手く目を合わせることすら不自由な自分の、なんと難儀なことだろうか。
斉藤がそんな迷いを覚える間に、土方はこの淀みかけた空気を断ち切らんとゆっくりと口を開いた。


「……単刀直入に聞くぞ?」


「……イエスかノーかで、答えてくれりゃあ構わねェ」そう言って、軽く頭を掻く仕種をする。
斉藤はこめかみに滲む汗を感じながら、土方の言葉に頷き返した。
なんだ、なんだ?と耳を傾ける。
土方はヒュッ、と音を立て息を吸い込むと、斉藤へ問い掛けた。


「お前―――志村、という名前に心当たりはあるか?」


眉間に皺を深め難しい顔をして問われた名前に、斉藤は、肩を揺らした。
こめかみに滲んだ汗が顔の側面を伝っていくと、その感覚が斉藤をさらに追い詰めていく。
ふよふよと空中を游ぎ定まらない斉藤の視線。―――それを、どうやら土方は答えと取ったようだ。


「……やっぱりか」


土方ががくりと項垂れ深く長い息を吐く。
斉藤は、そろりそろりと忍ぶように土方を見た。
土方が緩やかに首をもたげる。垂れ落ちた長い前髪で、その表情は斉藤から隠されている。
斉藤は、なにかを言わなければ、と思った。思った、……のだが。相変わらず、自分の喉を上手く鳴らすことが出来ずにいた。


(……どう……どうしたら……)


―――内緒ですよ?
そう人差し指を立て、自分を信頼し微笑んだ少年の顔が斉藤の脳裏に浮かぶ。


「……」


同時に起こる、同胞で、大切な仲間である目の前の土方への、後ろめたさを含んだもやかかった気持ち。
―――新八と土方。二人に対するそれぞれの感情の波に斉藤の心は押し寄せられるまま揺れ動いた。
見えないままの土方の表情が不安を煽る。
……伝えなければ、と斉藤は思う。
新八が何を想い、あの手紙を自分の元へと寄越したのか。
手紙の一文一文から斉藤が感じ取った、新八の、土方への深い愛情を。
斉藤は、深く深く息を吸い込むと、たっぷりと時間をかけそれを吐き出した。
そして、口許を被う覆面に指をかけようとした……その時。


「……余計なことしやがって……」


……先に伸ばされていた土方の指が、覆面ごと斉藤の鼻をつまんだ。


「……」


唐突な土方のその行動に斉藤は静止する。
瞳孔を中心に寄せ、 ぼんやりと霞む自分の鼻先と土方の指を見やる。
緩やかに土方の顔の方へと視線を移していく。
ピントの正しく合ったレンズの先。土方は、いつの間にかその表情(かお)を斉藤へと向けていた。


(……あ)


変わらず、土方は難しい顔をしていた。
頬から耳へと、僅かに朱色を滲ませながらである。
落ち着きなく唇を擦り合わせ口ごもったかと思えば一言「……この件は他言無用だ」と、低くそう言った。
斉藤がこくりこくりと繰り返し頷くと、土方の指は鼻の先から離れていった。
すると斉藤が反応を返す前に、土方は立ち上がった。

それ以上はなにも喋らず、背中を向け、そして足早に部屋を去っていった。


「……」


斉藤が制止に入る隙もなく、あっという間に足音も遠ざかっていった。

土方がいた虚空を、斉藤は眺めた。


(……照れてる……照れてる)


斉藤は、目を細めると覆面の下で口角を上げる。
―――自分は、どうやら役に立つことが出来たようだ。
そんな、少しの誇らしさと。
なんとも微笑ましい彼らへの、慈しむような温い気持ちで出来たその微笑みを見る者はいなかった。




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終 兄 さ ん マ ジ 天 使 。
アフロ回を何度でも読み返してしまいますううううううuuuu
終新、終新終をください皆様アアアアアア!!!!!!!!フヒイイイイイiii(やかましい)


終兄さんへの愛に偏りまくった今年のひじたん終了のお知らせです(*'∀')ふひっ



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