ふたりきねんび(土新土/ひじたん2014A)
2014/05/05 22:52

※@とは続いているようで続いていないような、やっぱり続いていないかもしれません(……)
単品でもお読みいただけます。


そわそわと落ち着きなく門前で立ち塞がる新八を見付けると、土方は僅かに速度を早め歩み寄った。
新八は近付いてくる土方の気配に気が付くと、一瞬ぱっと背景に花びらでも綻びそうな笑顔を見せた。

……不覚。ハッと我に返ったようにその笑顔を押し込め、表情を固くして土方を見る新八の眼がそう告げている。


「……こんなところで油売ってねェで仕事しろよフリーター侍」


出会い頭に冗談めかす土方に、新八は少し拗ねたような眼差しを向けた。
土方は口から煙を吐きながらくつくつと喉を鳴らす。


「まあ、そう不貞腐れんなよ」


土方が言い目元を緩めると、新八も釣られたように顔を緩める。
「性格悪いっスねェ、アンタも」軽口を叩く新八の額を土方は拳で軽く小突くと、挨拶代わりの前座で温まった空気の中、「で?何か用か」と話題を本題へとすり替えた。


「ああ、そうですね。すみません、お忙しいって言ってたのにわざわざ来てもらっちゃって」


新八から突然の電話を受けたのは、二時間ほど前の事だった。「―――ほんの少しで構わないので、今日、僕にお時間を頂けませんか」と問われ土方は、時計を見やり、フル回転させた脳味噌で本日の公務のチャートを再構築させ「それじゃあ……―――」と。

―――こんな具合に、今回の二人の逢瀬は今に至る。


急に、もじ……とまるで何処ぞの生娘のような態度で身体を捩らせ新八は続ける。


「別に、僕から土方さんに会いに行っても良かったんですけど、その……誰かに見付かったりしたらやっぱりちょっと気恥ずかしいかなとか……色々……」


土方は、そんな新八の様子を目の前に……可愛くないな……と思ってしまえばそれは間違いなく嘘になる程度には、新八の事を好いている自覚をしている。
土方はつとめて自然に視線を外しながら、「……で?」と続きを促した。


「……あ、ハイ。あの、良かったらこれ……」


―――一応、誕生日プレゼントなんですけど……。

新八はそう言うと、今まで然り気無く背中に組まれていた両腕を土方に差し出した。
土方を上目遣いに見上げ、それをちょいちょい、とまるで急かすように揺らす。
土方は、その黒く光沢のある包装紙にくるまれた長方形の包みを受け取ると、それをじぃっと見下ろした。


「……そうか」


―――誕生日。

土方は、照れくさそうに「へへっ」と顔を紅潮させた新八に眼差しを移す。


「今日の日の為にウチの駄目社長から給料もぎ取るの、ほんと大変だったんスよ?」


「僕の粘り勝ちです!」……ブイ、と指を立てたそれは、勝利のブイサインだろうか。
新八は真っ赤にした顔で茶化すようにニカリと笑った。


「……それは、」


その笑顔に、眼も心も根刮ぎ奪われてしまいそうだった。


「あのクソ野郎の面白い顔が見れたろうな」


「ざまあねェ」とろけてしまいそうな顔の筋肉を気取られないようにと、出来るだけ憎たらしくなるようにと意地悪い笑顔を作る。
ははは、と声をあげて綻びる新八に、土方は「……ありがとな」と、囁くように付け足した。

……その台詞はどうやら、しっかりと新八の耳には届いたようで。


「……ッ、ど……どういたしましゅ……いたしましてェェ!!」


……何をそれほどまでに舞い上がっているのか。声を張り上げ、使い古された定型文を派手に噛み散らした新八に、土方は堪えきれず笑いを噴き出した。


「ぶ、ふっ……!お、まえ……」


ひくひくと痙攣する身体を抑え、プレゼントの包みで新八から顔を隠す。
―――愛しい。そう、愛しいと全身が感じている。
……たかが。土方からすれば、たかが一つ歳を取るだけの日だ。
昔は、確かに特別だったような気もする『その日』は。
いつの間にか土方にとって昨日今日、過ぎていく日々と変わらない、『ただの一日』になってしまった。

それこそ、自分でもすっかり忘れてしまっていたくらいには、だ。……だというのに。


「わ、笑いすぎだと思いますが……」


怨めしそうな声で言う新八の顔は見えない。


「はは、悪ィ」


……それほどまでに舞い上がってしまえるほど、新八にとっての『特別な日』に成り得た今日という、日。

土方は、一頻り笑い終え顔を上げた。


「はあ……笑った笑った」


顔が燃えてしまいそうなほどに熱いのは、きっと久々によく笑ったせいだろう。


「……ほんと、ありがとな」


自分は今、ちゃんと普通に笑えているだろうか。

「安月給に無理させて」上手く普通で、いられているだろうか?


「それじゃあ、そろそろ仕事に戻る」


土方は隊服から取り出した携帯を開き時刻を確認する。


「……あっ。ハイ、あの、お時間取らせてしまって、すみませんでした」


丁寧に一礼する新八に、土方は「いや、構わない」と応え、


「お前が会いたいってんなら俺は―――」


……そう、そこまで雰囲気に飲まれて口に出してしまうと、慌てて口をつぐみ新八に背中を向けた。


「な、なんでもない。じゃあな」


ばっくん、ばっくんと心臓が突き破って出てきやしまいか、とすら感じるような強さで胸を叩く。

土方は、とにかく早く新八の前から消えようと早歩きで踵を返す。


「あっ、ひ、土方さんっ!!」


……土方の口から飛び出しかけた気障っぽい台詞に、ぽかんと口を開けていたはずの新八に突然大声で呼ばれ、思わずぎくりとして足を緩めた。


「あ、あの、お……おめでとうございます!お誕生日、おめでとうございます!」


「今年でいくつになったんですか!?」新八が土方の背中に向かい叫んだ。
そのとんちんかんな問いは、―――きっと新八なりに、気でも遣ってみたつもりなのだろう。
土方は、くるりと新八に振り返り「少なくとも、どっかの誰かさんみたいにオッサンなんて呼ばれる歳ではねェなあ!まだ!」……どんな気の回しかただよ、と。

新八の笑いを誘い、最後にもう一度だけ、顔を合わせ二人で笑い合った。



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改めまして、ハッピーバースデーでした副長!!┗(`⌒ω⌒´)┛
普段は色々なんやかんや言うとりますが、とっても大好きです、副長。
幸せに成れば良いと思っています。新八くんに幸せにしてもらえば良いと思っています。



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