文字でなら伝えられることもある(土新/コミックス派の方はご注意ください/ひじたん2014@)
2014/05/03 01:39

※先週までの本誌ネタ2000%なお話です。コミックス派の方はどうぞ足元にご注意くださいませ……(:3_ヽ)_熱いパトスが……治まりませんでした……


―――ガコン。自販機が吐き出した角の潰れた煙草の箱を口から取り上げる。
早速、その内の一本に火を着け肺に煙を蓄えた。
続けてふーっ、っと灰白く色付いた息を宙に吐くと、ほんの少し、肩の力が抜けた気がした。
「ふぅ……」だが、この一本を吸い終わればまたすぐにでも自分の持ち場に戻らなければならない。
今日はこれから、山のように溜まった始末書の山の、……その後始末に尽力しなければならない予定になっている。

これからの長い一日を思うと、否応なしに気が滅入ってしまう。


「……何か用か」


―――土方は、柱の影に身を隠すように此方に視線を送る彼に、「―――終(しまる)?」声をかけた。
すると、びくりとはみ出した髪(アフロ)を震わせたそいつは、柱の影から顔を半分ほど出すと何か言いたげな眼差しを土方に向けるが、すぐに身を隠したかと思えばパタパタと小さな足音を鳴らしてそこから去っていった。


「……なんなんだ……?」


土方は首を捻りながら暫くその方向を見詰めていたが、―――まあ、アイツがなにを考えてるのかよく分からんのはいつものことだ、と。
すぐにそちらを意識をするのは止め、また憂鬱な気分に身心を投じたのだった。




……ここ数日の話である。
度々、視線を感じている。
事ある毎に、(……何ら事がなくとも、)分かりやすく此方を見詰めているのだ。
現在、食堂にて昼食にラーメンを啜っている。
土方は、その背中にも惜しみ無く注がれる視線を感じていた。
ずず……、口いっぱいに啜った麺を咀嚼し、水で流し、飲み込む。


「―――終」


先日と同じように、土方は呼び掛ける。
席を立ち上がると、そのままくるりと背中を向き、またびくりと体を震わす『彼』に問い掛けた。


「何か、俺に用事か」


「終」向かいの椅子に腰掛けながら、もう一度、名前を呼ぶ。
―――斉藤終。それが彼の名前である。
土方が面と向かい声をかけると、斉藤はだらだらと冷や汗をたらし、ぐらぐらと重たそうな天辺の髪(アフロ)を揺らした。


「……別に、俺ァ怒ってるわけじゃねぇよ?」


土方は、昼食後の一服に火を着けると、煙を吐きながら斉藤を見やる。
斉藤の土方を見る視線は、あちらこちらと宙をさ迷っている。
なかなかはち合わない視線同士。
……その真ん中で、斉藤の昼食であろうきつねうどんが湯気を立て……じわじわと伸び始めているのだろう。

はあ、と土方は息を吐くと、手元に寄せた灰皿に灰を落とした。


「……お前の言葉が足りねぇのはいつものことだし、今さら俺もどうこう思ったりしねぇよ?」


「ただなァ」土方は煙草をくわえ直すと、パキ、と小気味良く割った割り箸を椀の上に乗せた。


「俺みたいな馬鹿なヤツにはさ、言わないと伝わんねえことって、あると思うぞ?」


「……早く食っちまわねェと麺伸びるぞ」未だ汗の引かない斉藤にそれだけ言うと、土方は席を立つ。


斉藤はやはり何か口にした気な眼差しを向け土方の後ろを見ていたが、……訳を聞いたところできっとコイツは口を割りはしないのだろうな。……と。土方は入れ替わりにやって来て斉藤に物珍しげな視線を向ける沖田の横をすり抜け、そのまま食堂を後にしたのだった。





◇◇◇◇



斉藤終は考えていた。
それはもう、悩み、渦巻いていた。
己の口下手に改めて難儀し、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


(……役に立ちたい……)


……いつもそうだ。
から回った気持ちばかり全身に溜め込んで、自分はいつだって結局、何一つ成すことが出来ない。
斉藤は、部屋で一人机の上に広げた一通の手紙をジッと眺めている。
―――上京してから十数年、最近やっと出来た新しい友人の一人から、斉藤に送られたその文書。
その文字の一つ一つを丁寧に指でなぞる。
几帳面な文字。そこから伝わるのは、真実を語る一種の気恥ずかしさや、そこに注がれた……愛情、だろうか。
友人は、その文書の中で秘めた真実を語り、その上で斉藤に友人として助力を申し込んできたのだ。


(役に、立つ)


その文をさらに二度、三度、斉藤は繰り返し読み返す。
斉藤は自分を鼓舞するように一度、拳を握り締める。
読み終えた手紙をたたみ直し、新しい半紙を広げ、筆を取った。


それが斉藤に出来るただ一つの冴えたやり方だったからだ。





◇◇◇◇



斉藤に声をかけた、その次の日のことだった。
昼下がり。土方が市中の見廻りから戻ると、仕事机の上に一通の文書がしたためられていた。宛名を見るとそこには『斉藤終』と宛てられていたので、土方は躊躇うことなく封を開いた。
その自分への便りに、一文一文目を通していく。


「……」


一巡読み終え、土方は暫くの間腕を組み考え込んだ。
……なんとまあ、またくだらないことを……。
土方は白く曇った息を長めに吐くと、斉藤の手紙を折り畳み、封皮に戻した。
手近にあった半紙を広げると、

筆を取り、そしてまた頭を捻った。




……―――。



「……それで、返ってきた返事が、コレだと」


こくりこくり、と斉藤は大袈裟に重たそうな首(あたま)を縦に振った。
新八は、突然息を切らし気味にやって来た斉藤に苦笑いを返した。


「……たまたま今日は僕が家にいたから良かったですけど……いつもならすれ違ってましたよ?」


「それに、別にそこまで急がなくても、手紙で一言教えてくださるだけでよかったのに」取り合えず家に上がるようにと新八が促すと、斉藤は今度は首を横に振った。


「えっ、まさか斉藤さん、お仕事中だったんですか?」


新八に目をぱちくりとさせ問われると、斉藤はギクリと肩を揺らし視線を泳がせる。
冷や汗を垂らす斉藤に、新八は眉尻を下げまた笑った。


「……土方さんに見付かったら怒られちゃいますよ?」


―――でも、ありがとうございます。
新八は、斉藤から差し出された便りを両手で受け取ると、「開けて読んでもいいですか?」と問う。
斉藤が頷くと、新八は斉藤に宛てられた封皮を開き、その中身に目を通した。


「……」


その中身は、おおよそ手紙とは言い難い大雑把な内容であった。

新八は、思わず顔を緩ませた。


「……土方さんって、ああ見えて案外面白いところ、ありますよねェ」


「それに実はすごく優しいんだ」新八が呟くと斉藤はまたまた大袈裟に首を振るので、その様がなんとも愉快で、新八は込み上げた笑いを表情(かお)前面に押し出した。


「ふふふっ、ありがとうございました。とっても参考になりました」


新八は土方の手紙を丁寧に折り畳むと、斉藤にそれを差し出した。


「土方さんにお返事、出しておいてもらっても良いですか。ありがとうございましたって。……勿論、僕がこんなこと斉藤さんに頼んだなんてことは、内緒ですよ?」


人差し指を立て頬を微かに紅く染め照れ臭そうに言う新八を見、斉藤は、微笑ましい、と思う。
新八の心が土方向けるそれは、人とまともに向き合うことすらおぼつかない自分には、縁遠い感情なのだろうと。
……大事な友人である二人が、上手くやっていってくれたなら、嬉しく思う。
自分は今、ほんの僅かでも二人の力になれているだろうかと考えると、少しだけ自分のことを誇らしく思えるような気がした。


「ほらほら、鬼に見付からないうちに、早く屯所戻らないと」


新八は顔に笑みを湛えたまま、そう言って斉藤をひっくり返すと、背中を押した。


(……照れ隠し……照れ隠し…?)


触れられた背中から広がる、何やらこそばゆいその感覚はなんだろう。
斉藤は振り向く。振り向いて見下げた先に、やはり花の綻ぶような笑顔があって。

やはりその大きな二つの眼差しは、照れ臭そうに斉藤を見上げていた。


「今度は、ちゃんとお休みの日に来てくださいね」


「お礼に何か奢ります」―――約束です。その最後の一言が、斉藤の頭の中をがつんがつんと揺さぶるように、繰り返し繰り返し、こだまする。


(……約束……約束)


軽く手を振り斉藤を見送る新八に、斉藤も小さく手を振り返した。
すると新八が何かとんでもなく妙ちきな物でも見たように目を見開いたが、すぐに踵を返した斉藤には、その表情のなんたるかを知ることはなかった。





「……今、斉藤さんもしかして、笑った……?」


新八は少しの間考え込むように視線を宙に浮かせたが―――まあ、良いか、と思い直す。
『あの人』だってお腹を抱えて大笑いする事があるなら、あの斉藤が人に対して笑顔を見せることだって。そりゃあ、たまにはあるだろう、と。
新八はそう胸に落として頷くと、先程の手紙の中身を頭の中に反芻する。




『今一番欲しいもの、

・聞き分けのよい部下



 (ここからは半紙の角にとても小さく潰れかけた文字で綴られている)《最近、使い古した筆先の調子がどうも悪いので、そろそろ洒落た万年筆の一つでも欲しいところである》』




「……ぶふっ」新八は、思い出して込み上げた笑いを噴き出した。


「万年筆、そうか万年筆かあ……」


思いきって、恥を忍んで相談してみて良かったかもしれない。
新八一人では恐らく、その発想には辿り着けなかったように思うからだ。
―――手紙弁慶な斉藤が書いた手紙の内容や、それを受け取り頭を捻る土方の様子も大変気になるところではあるが、取り合えず、今はそれらは置いておこう。
これで当面の新八の懸案事項は、如何にして己の社長から給料をせびり取るかということに置き換わった。

斉藤の寄越した膳立てを決して無駄にしまいと新八は意気込み、拳を握ぎる。
新八はくるりと背中を向き、もう一度だけ、斉藤の行った道を振り返り。


「―――頑張りますね、僕も」


来るべきその日に向け、少しだけ心中騒がしい日々が始まるのである。



__________



(お似合い……かな……?)




副長のお誕生日をお祝いしたいのに、斉藤さんがあまりに可愛らしい方で辛抱たまらんかったのです……!!!!!!!


これからまたGW終盤まで予定とお勤めが盛り盛りでバタバタなので、先に先っぽだけお祝いしちゃいます企画ゥゥゥゥゥ!!!!!!
もう一つ、当日に間に合えば良いなアアアアア!!!!!!という感じです。


\ お誕生日おめでとう副長!!!!! /


凸出しきゃんたま出しの次は一体何処を露出するのかな!(にっこり!)





|





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -