生きてるだけで儲けもんってやつで(土新/完結篇)
2014/03/09 02:45

※懲りずに完結篇ネタです(:3_ヽ)_大好きです、本当に


「ゴリラが駄目でも、土方さん達なら」……無意識に自分の口から吐いて出た名前に気が付くと、次に新八は強く口を閉ざした。
自分は今、何を言おうとしていたろうか、と。
新八が戸惑いを覚える間にも、事態は刻々と進んでいく。
役人の白刃は源外へと迫り、その振りかかる危機に珍宝と名乗る得体の知れない男が吼える。
新八が上手く手出し出来ぬまま、状況は進む、変わる。


「礼を言うぜェ、万事屋ァ」


その、聞き覚えのある間延びした声が届いた瞬間、ざわりと背中を駆けた、予感。


「き、貴様は……」


役人達が戦慄き―――人斬り、と呼んだその赤い着物の男の名を、新八は知っている。
そして、


「―――てめーら、決起の時は来たぞ」


土手の上から上がった、凛と涼しいその声を。

どくん、と心臓が強く脈を打つ。
新八は、逸る心音を抑え、珍宝、神楽と共にその声のする方へと目を向けた。


「俺達から近藤勲を奪ったこの国に―――」


相変わらず、全身真っ黒な衣に身を包んで暑苦しそうだ、と新八は思う。
……ああ、今僕、考えた事全部自分に返ってきたや……。
ていうか隣のアレ何。隣の化け物チックなアレ、何なの?
新八は、「早くツッコめ」と煮え滾る嘗ての職人の血を殺し、平静を装った。


「天誅を下せェェェ!!指揮はこの土方十四郎と―――」


……ああ、でも、懐かしい、と。新八は目を細める。
何も、変わっていないんだなァ、この人は。
近藤勲という、ただ一人の為に、生きて、戦う。

―――そんなアンタに、僕は恋をしたんだっけ。

鬨の声を上げ、雪崩のように土手から河原へと押し寄せる土方率いる軍勢。
瞬く間に河原は修羅場へと変わる。
唖然としてその風景を眺める珍宝と神楽と混じり、新八も、そんな顔をしてみる。
幸か不幸か、こんな芝居をうつ事にも、随分と慣れてしまった。
一瞬、刃を奮う土方と目が合ったような気がしたが、それはきっと気のせいだろう。

……だって今更。今更、どんな表情して顔を合わせれば良い。
どんな顔をして、
また会えて嬉しい、なんて。
新八は小さく頭を振る。
胸に生まれた、感傷を振り払う為に。


「チャンス!」


混乱に乗じて源外を救おうと、駆け出す神楽。
「待て!」新八は透かさずその後ろを追い、その混乱の内に身を投じていく。





(今の僕にとっては君が生きているってだけで、儲けもんってなもんだよ)



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生きてさえいればいつかまたきっと、素直な気持ちを伝えられるって




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