幸い男子の幸福論(土新土)
2014/01/02 05:40

※初詣に、行きました!(そうかい)


どうしたって、目を引いてしまうのだから。
だから、それは仕方のないことだったのだ。


人がごった返す境内の中、前にも後ろにもなかなか身動きが取れない。


「……なあ、俺閃いたンだけどよ」


新しい年を迎えた深夜の静謐な空気の中、突然、共に人混みに混ざり参拝の列に並ぶ銀時が、新八と反対隣にいる神楽に向かい手持ち無沙汰に口を開いた。
新年早々、またろくでもない事でも考えていそうな顔だなあ。新八は銀時を横目で見る。
無視をするとどうせまた煩いのだろうから、仕方ないから耳だけは貸しておいてやろう。
意識はしっかりと別の方向へと飛ばしながら、新八は銀時の言葉に耳を傾ける。


「除夜の鐘で折角消した煩悩を数時間待たずして甦らせる為のこの初詣の参拝って、一体何のために存在してンの?」


「と言うわけで寒いから俺もう帰って良い?」身を震わせ覇気無く銀時は言った。
……くだらなさが度を超えすぎると、新年早々つっこむ気力すら何だか勿体ないなあと、新八は潔く無視を決め込んだ。


「あ、テメェら無視してンじゃねえぞコラァ」


新八だけでなく、神楽からすら何のリアクションも得られなかった銀時は、不貞腐れて列から抜けようと身体をずらす。
無論、新八と神楽はそれを両側から固めて阻止してやった。


「ハイハイ、くだらない事言ってないで。折角ここまで来たんだから、後もう少しくらい我慢してください。お詣り終わったら甘酒飲むんでしょう?」


「そうネ銀ちゃん。こんな日くらい怠けてないでちゃんと神様にお祈りして、自分のマダオが少しでも治してもらえるようにって藁にでもすがっとけヨ」


いつものように諌める新八と、いつの間にか随分と辛辣な言葉を並べるようになった神楽に挟まれ、銀時は唇をへの字に曲げて大人しくまた前に倣った。
……まったく。新八は少しずつ社殿へと進む列に流されながら、銀時から視線を外す。
視線を向けた先は、社殿の隣の一角にテントを張り、小さく設けられた参拝客の為の休憩所。しめ縄やお神酒や甘酒や、備え付けられた長机に並べられた縁起物が、先ず新八の目を引いた。
その先、もう僅かに新八は視線をずらす。
テントを支える細い柱の後ろに、夜の帳に溶け込むような、真っ黒な人影が見える。
休憩所の、少々明るすぎて目を焦がすような白熱灯の明かりに浮かび上がるその黒い背中は。


(こっち、見ろ)


天に向かい細く煙を上げるその人に、新八は念を込め視線を飛ばす。
すると、黒いだけだった影は僅かに身動ぐと向きを変え、新八にその横顔を晒した。
お、と新八は無意識に小さく肩を揺らす。
と、新八は条件反射に銀時の様子を伺った。
「大体よォ、新年早々庶民からはした金巻き上げて代わりに願い事聞くだけ聞いてやるよみたいなこのスタンスって神様としてどうなのよ」……云々。
未だに八つ当たりだ、とでも言うように、ぶつぶつと縁起でもない罰当たりなことを一人ごちている。

新八は、やれやれ、と息を吐きながら、密かに胸を撫で下ろした。


(鉢合わせるとまた煩いことになりそうだし……)


新八とて、新年早々喧嘩の仲裁など、面倒事に巻き込まれたくはない。
だがしかし、だ。
新八は、また視線を移す。

その人は相変わらず、休憩所の外側で一人煙草を吹かせていた。

その姿が、新八の視線を奪って止まない。こんな人混みの中にあっても、どうしたって、見付けてしまうのだから仕方がない。

……こっちを、見て。

矛盾だらけの自分の思考回路については、吟味するだけ時間の無駄だった。
面倒事を起こされるのは勿論ごめんだが、今の新八にとって、それとこれとは全く別問題なのである。

……真新しい年の始まりに、こんな風に人混みの中で出会えるなんてそりゃあ、ちょっとくらい運命だって感じてはしゃいでみたり、したって悪くはないでしょう。

あとは、如何にして銀時と彼の正面衝突を回避しつつ、あわよくば声を掛けてみようか。
新八は思考をフルに巡らせ、これから先のビジョンを描き出そうとした。
―――その時。思い掛けず、その目が新八達のいる人混みに向けられたかと思えば。
……やはり、今年の自分は付いているかもしれないな。と、新八の脳は考えるのを止めた。

ばっちりと、お互いの視線が交わった。

面食らった様子で目を丸くしているその姿に、新八は小さく会釈すると、隠しきれない笑みを溢して。


「またあとで」そう、唇で形作った。





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皆様、新年明けましておめでとうございます!!!!!!_(:D」┌)=  
今年も皆様に、たくさんの素敵が訪れますように!



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