さあ、今年の冬は何をしよう(土新)
2013/12/25 04:23
クリスマスの、思い出ねえ。
「何か在りますか?」と新八が手持ち無沙汰に訊ねる。
曇る眼鏡を気にしながら、ストーブの前を陣取り紅くなった指先を擦り合わせている。
……寒い。そう思いながら、土方は新八の問いへの答えに思考を巡らせた。
寒さに丸まった新八の背中を眺め、卓袱台に肩肘を付く。
「……別に」
「コレと言って……」言いかけて、浮かんだのは土方にとって一番古い、その日に関する記憶だった。
「土方さん?」
血行が戻り程好く温まった指を、結んで開きを繰り返しながら新八は振り向いた。
土方は、別に隠しておくような事柄ではないか。と判断し、口を開く。
「昔、」
土方が話し出すと、お、と新八は関心を見せ、土方の方へと身を寄せた。
「……昔、生まれて初めて、所謂クリスマスプレゼント、っつうもんを貰った」
土方が一言加える度「ほほう……?」と新八の目が続きをせがむ。
そんな新八の様子に、……そう大した話でもないんだがなあ、と土方は僅かに申し訳なさを感じながら、話を続けた。
「朝起きたら枕元に……ってよくあるアレだな」
語る土方の脳裏に、小さなプレゼントの包みを抱えた、幼い自分の姿が焼き付く。
『コレは何だ』と自分が問うと。
その人は『開けてごらん』と、優しく頭を撫でた。
その言葉に従うままに、幼い自分の手が、包み紙をそうっと剥がす。
「……色鉛筆と緑の表紙の手帖が一冊、入ってたな」
「へえ……」
相槌を入れる新八の視線が、生暖かく土方を見守る。
「俺はその頃、自分の名前もまともに書けねえ馬鹿だったし、色を使って何か描くなんてセンスもなかった」
……だから、自分はどうしたのだったか。
ああ、そうだ。
思い出して、土方はふっと幼い自分自身を笑った。
「だからよォ。その色鉛筆使って、自分の名前、書く練習したんだよ」
「……ひたすらに」黒。青。緑。黄。橙に、茶色。……赤だけは、縁起が悪いから止めておきなさいと、そう教えられた。
まっさらなページに自分の幼い手が書き出す、色とりどりの自分の名前。
それを傍らで見ていた、あの人の何とも言えないような表情ときたら。
この歳になって思い出すと、ほんとうに馬鹿な子供だったなと。土方はまた笑みを滲ませた。
「馬鹿だろう?」
昔に想いを馳せながら問い掛ける土方に、新八は微笑み返す。
「はははっ、はい」
「でも、嬉しかったんでしょう?」それはまるで、いつかの馬鹿な子供にそう語り掛けるように。
新八は目を細める。
「……まあ、な」
……土方は、今更ながら何やら急に気恥ずかしさを覚えたが、既に後の祭である。
「土方さんにも、そんな純粋で可愛い子供時代があったんですねえ……。あ、もしかして、土方さんって割りと大きくなるまでサンタクロース信じてたりした口ですか」
「そんなわけねえだろ!!」
聞き捨てならぬ、と思わず被せ気味に口を挟んでしまった土方はハッとする。
「……へええ……?」
新八は少し目を丸くして数回瞬きを繰り返すと、途端にニタリ、と何処かで見たような、腹立たしい邪悪な笑みを浮かべる。
「ふううん……?」新八の弧の字の形に細められた瞳が土方を舐め回すように眺めている。
「おい、何だその目は……たたっ切るぞコラ……」
土方が凄んでやると、「まあまあ」とまるで悪気ないように新八は両手で宥めた。
こういうふとした瞬間の飄々とした切り返しが、新八はあの男の分身なのだと思い知らされ、土方は複雑な気持ちになった。
はあ、と小さく溜め息を溢す。
「……んで、お前はどうなんだよ」
最早諦め半分に、土方は新八に振った。
「え?僕ですか?」
「サンタクロースは割りと早い段階でいないって気がついてましたねえ」応える新八に、「そこじゃねえよ」と土方はツッコミ返す。
「ああ、クリスマスの思い出ですか。……うーんそうだなあ。父上や一兄がいた頃は、やっぱり楽しかったなあ」
「生粋の江戸っ子で、お祭り事も好きな人たちでしたからね」……昔を懐かしむように語るその声に悲壮な感情を感じることはなく。
土方は、ひっそりと胸に安堵を覚えた。
「……でもやっぱり、今は今が楽しいなあ」
そう言って新八は、無邪気に笑う。
……その無邪気な笑顔を引き出すのは、いつだって自分ではないこと。
それを土方は知っている。
……それでも。今はそれでも良いかと。土方は思っている。
「……そうかよ」
自分は今、新八に上手く微笑み返せているだろうか。
「はい」
いつか、その微笑みの理由に、自分もなることが。
「……ね、今年のクリスマスはどうなると思いますか?」
不敵に目を細めながら、新八は土方に問う。
「……さあ、なあ?」
態とらしく濁しながら目線を交わした。
今年も、誰にも平等にその日はやって来る。
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来年も再来年も。繰り返し、繰り返し!
……メリークリスマスでした!!!!???
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