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全てがぼやける視界に気付き、またか、と三度目の生は早い段階で受け入れた。前世は、言語も性別も状況も理解出来なかったが、日本語を聞き、女に生まれ、2度目の転生、大きな混乱はなかった。


……そんなことはなかった。少年を前に、泣きそうになった。浅黒い肌、光に反射する色素の薄い髪、空を彷彿とさせる蒼の瞳。怪我をしているのか、涙目で、友達の明美ちゃんのママに手当てをしてもらっている。

「あら、梨杏ちゃん来ていたのね。明美なら上にいるわよ」
「お邪魔しまーす!」

なるべく子どもに見られるように、と、返事をして、明美ちゃんの部屋へ向かう。こんにちは!と挨拶して、同じ返事が返ってきた明美ちゃんと絵本を一緒に読んだ。

帰宅する。幼い頃に事故で死んだ父の代わりに働く母は、晩ご飯を用意して、家を出る準備をしている。今日は夜勤らしい。遅く起きちゃダメよ、という母に頷いて、いってらっしゃい、と手を振った。
母が車で仕事へ行くのを確認して、自室に駆け込む。絵を描くように、と渡された自由帳の一つを開ける。まだその自由帳には何も書いていない。ロケット鉛筆と呼ばれるそれを持って、ひとまずイタリア語でinvestigatore(探偵)と書く。文字を数年書かないとこんな字になるのかと思いつつ、覚えていることを順序バラバラに書き出していく。先ほど、明美ちゃんと会う前に出会ったのは、降谷零。日本人離れした容姿なのに、日本という国が大好きな人間だ。そこを掘り下げながら思いだそうとするが、難しい。バーボン、赤井秀一、ライ、スコッチ、ゼロティー、警察学校組、爆処理、マンション、観覧車、交通事故、純黒、ゼロしこ。…………一旦、降谷零関連から離れよう。過去の推しだから許せ。前々世の死の直前に降谷零に沼っていたからだ。とりあえず原作を追おう。主人公、工藤新一、江戸川コナン、毛利蘭、毛利小五郎、眠りの小五郎、園子、……鈴木園子、灰原哀………………。気づけば、9時を回っていた。晩ごはんを食べ、お風呂に入り、自由帳を隠し、布団に入った。


次の日、見事に知恵熱を出したらしい。夜勤明けの母が帰ってきて、そのまま昨日も行った明美ちゃんの家に連れていかれた。診察を受けた後、看病は私に任せて、と言った明美ちゃんのママに、3時間寝てくるわ、と頭を押さえて帰る母を見送り、薬のお蔭か睡魔に抗わずに眠った。
…………意識が覚醒する。

「あら、おはよう。お母さん、呼んでくるわね。零くんも少し待っていてね」

そんな声が聞こえて、仕切りから顔を出す。やっぱりいた。

「きのうの子」
「…………」

無視ですか。しかし、私はもう精神年齢アラフィフ。もう少ししたら還暦。ここは年上として、無視を咎めることはしない。……いや、それより全く。

「きれいな色だね」

ぴくり、と反応する。レナートの頃は茶髪に緑の目だった。あの頃は年甲斐もなく、緑の目に興奮したものだ。しかし、この蒼が好きだ。……この人は多くを守って、大切なものを亡くす。この人生、この人のために生きたい、と#
玲奈#が呟く。また心を殺すことになるぞ、とレナートが制止する。……私は決めたら誰の意見も聞かなかったじゃないか、と心に決める。

「ぼくはふつうがよかった」
「ふつう」

この人もそんなことをいう時代があったのか、と思う。まあ、きっと、大人になった頃には忘れるだろう言葉。

「梨杏ちゃん、今からお母さんが……あら、お話してたの?」
「こいつがきれいだって言うから」
「ダメよ、零くん。人を指しちゃ」

と言われ、彼は黙る。そして、ムッとしている。……拗ねているらしい。明美ちゃんのママが困ったような顔をしている。機嫌を直すように、とオレンジジュースを出す明美ちゃんのママに、彼はパッと顔を明るくさせる。……チョロいな。まあ、子どもだしね。と思っていると、母が迎えに来た。抱えられ、バイバイ、と彼に手を振ると、驚いた表情が浮かぶ。俯かれて、無視をされた。これから仲良くなれたらいいな、と思いながら、母の腕の中で眠りについた。


それから数年経ち、明美ちゃんと明美ちゃんのママの繋がりで降谷零と諸伏景光と知り合い、今では一緒に遊ぶ仲で、ゼロくん、ヒロくんと呼んでいる。……おそらくヒロくんがスコッチかと思われる。で、その日になって気づいてしまった。

上級生から喧嘩を吹っ掛けられたらしいゼロくんこと降谷零は、まあ当然のこと喧嘩を買い、私とヒロくんが気付いた時には、怪我をしていた。上級生を謝り倒して、明美ちゃんのママのところに行くと、遠くのところに行くからもう治してあげられないんだよ、と言っている。明美ちゃんを見れば、転校するのだと言う。行かないで、と泣いた。久々に泣いた。ヒロくんに抱き締められ、よしよし、と頭を撫でられる。これじゃあどっちが(精神年齢が)年下かわからない!と顔を上げれば、ヒロくんも少し寂しそうだ。

「さびしいね」
「さびしいな」

そう言って、ぎゅっとヒロくんを抱きしめ返した。

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