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防衛省に出向して2ヶ月。生活に馴れたところだ。最近はエコーの潜入任務の準備のために、エコーが頭を抱えた。

「だー!俺はサポートに徹したかった!!!」
「ほら、試験までもう1週間しかないです。あんたの仕事、こっちに回ってきてるんだが、さっさと記述試験パスして下さい」
「あいつのためにも潜入しなければならない。白に紛れた烏を炙り出せよ。エコー」
「はー、わかってますよ……」
「お前は、東都大卒なんだから大丈夫さ。ここの国家試験もパスしてるんだからな」

エコーの任務は、警視庁公安部への潜入。そこにいるスパイの炙り出しが主だ。どうやらエコーの先輩は、国際的犯罪組織に長くの間、潜入していたそうだが、別件で警視庁公安部に出向いた後、スパイの疑惑を掛けられ、自殺したらしい。それにより情報本部も潜入捜査を出すのを躊躇ったそうで、まずはスパイの炙り出しを優先させることにしたらしい。

エコーの親戚に公安の人間がいるらしく、その人にしか話を通していないらしい。公安警察と防衛省の利害調整であまりいい顔はされなかったらしいが、内部にスパイがいるのでは話が違うそうで、国のため、と話を飲んだらしい。

「あーくそ、これ終わったらお前のバーで浴びるように酒飲んでやる!」
「……一杯だけタダにしましょうか?」
「やり!じゃあ、――のバーボン!よろしく!」
「…………はあ。本気?」
「本気!」
「なんだ、そのバーボンは高いのか?」
「バーボンの中なら一二を争うやつですよ。普通に高い」
「あー……うまいのか、それ?」
「値段は張りますけど、バーボン好きなら飲んでみる価値ありっすよ!」
「まあ、比較的他のウイスキーよりも流通してるので、確保しておきますね」
「梨杏、経費で落としていいぞ」
「!」

まじですか。とぽろっと出す。両手を上げて喜んだエコーに、しっかり試験をパスしたらな、という言葉付きだ。それでやる気が出た先輩は、試験勉強に着手した。

私のバー、というのは、NOCの職業だ。新宿のビルの3階。そこにある隠れ家的バーのマスター。それが私だ。バーのマスターは男のイメージが強いだろうし、という理由で男装をしている。黒のカラコンをして、オールバックにした姿をしている。声音を低く設定すれば、矢嶋梨杏だとバレる確率は特段に減る。人の声、というのが、記憶の中では最初に消えていく点には感謝だ。

「マスター、バーボンストレートで」
「畏まりました」

ウォーターサーバーから水をグラスに入れ、他のグラスにバーボンを注ぐ。

「どうぞ」
「ああ」

自分も飲むか、と氷を入れたグラスにバーボンを注ぐ。

「ロックで飲むのが好きなのか」
「ええ、ストレートもいいですが、今は片手で飲めるロックの方が楽で」

カウンター席に座る父と話ながらバーボンを呷る。

「……ああ、そうだ。これ、発注かけたか?」
「それは」

エコーがいつの日か所望していたバーボンだ。驚きながらもまだです、と言う。

「遅くなったが開店祝いってことにしてくれ」
「ありがとうございます」

そのバーボンをカウンターの下に置き、客に見られない場所に収納する。これを一番に飲ませるのはエコーだ、という計らいである。

「それと……チーズ系のつまみくれ」
「……どうぞ」

市販の菓子を気にすることなく、はさみで開けて小皿に乗せる。余った菓子をつまみにこちらもバーボンを飲む。

「探偵、ねえ」
「表向きは、ですけどね」

コネを作るために必要な探偵業だ。この世界の探偵は一定の信頼を得ているので、情報収集には丁度いい。副業のバーを事務所にして、白側での情報屋の取引場所にする予定ではある。

「土台はどれ程で出来そうだ」
「短く見積もって、半年。長く見積もると、3年。土台を固めるだけってなら1年あれば可能かと」
「……そうか。ならば土台を固めるまでは、本部には帰ってくるな。用があればこちらから召集する。情報の交換は定期的にこちらから赴こう。火水木金だったな」
「ええ」

つまり土台を固めるまではこちらに専念しろ、ということか。火水木金、というのは、バーの営業日だ。19時から25時までを営業時間にしており、いずれ月末の金曜日になるであろうその日のみ、16時から営業している。
こんな話をしているのは、客が父のみだからだ。

「任せたぞ」
「……はい」

次はスコッチのモルト、ストレートで、と言う父に畏まりました、と言う。一杯奢る、というのでバーボンをストレートで入れる。乾杯、と言われ、グラスを当てた。

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