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防衛大学校を卒業した。陸上自衛官を目指していると、教官に伝えた筈だが、防衛省に出向命令が下された。萩原くんの件で間に合うことができる、と安堵した。自衛官となると決めた上で心配だったことの一つに、萩原くんの死亡フラグにどう間に合わせるかだった。幹部候補生学校は最短で空自の半年、その後、半年は基地で勤務。間に合わない、と正直どうするか悩んでいた。宿舎ではなく、部屋を借りろとのお達しで20階のマンションを住居にした。とにかくXデーまではまだ日がある。防衛省の職員として慣れていこう。

ちなみに、1年生の夏期休暇で彼らの同期と会って以降、長期休暇の際は、幼馴染みの同期達とは何度か会っている。というのも、警察学校を卒業した幼馴染みは1年目は普通に会ってくれたが、2年目以降はヒロくんにしか会えなかった。理由は言えないが連絡も会うことも出来なくなる、という旨のメールがゼロくんから来た。謝罪の言葉とともに。それ以来、定期的に彼の同期ともう一人の幼馴染みから連絡が来ている。もう一人の幼馴染みとその同期達……今では友人だが、その友人達にはまだ、東都に引っ越ししたことは伝えていない。私の勘が告げていた。これは普通の出向命令ではない、と。卒業先に防衛省があるというのは、HPにも載っていたから何ら不自然ではないけど。私の場合は父という存在がある。少し、期待している部分があるのも黙っておこう。

黒スーツを着て、防衛省へ向かう。受付に名乗ると、スッと紙を渡される。確認して、礼をして、紙の指示通りに歩く。すれ違う人が段々と減り、何も書かれていないドアにノックする。入れ、という言葉を聞いて、ドアを開ける。

「ようこそ、新入り」
「ようこそ、防衛省統合幕僚監部特務部へ。歓迎するよ、矢嶋梨杏くん。私のことは……君ならわかるな?」

ドアを閉めると、歓迎される。その質問を聞いて、この人がそうなのだ、と確信する。ああ、確かに母の日記に書かれていた通りの容姿だ。たしか、この人の名は。

「矢嶋、陸奥。私の父」
「……ああ、本当によくここまで辿り着いた。と言っても、ここまでは準備期間。これからが本番だ。ここに推薦したのは俺だが、わかっているな?」
「親の七光りだなんとかと見下されないよう、励むつもりです」
「ああ、期待している。ほら、エコーも名乗れ」
「江藤浩一。今年で24。ま、同年代だし仲良くしようぜ。と言っても、同僚はお前だけだしな」
「少なくないですか?」
「去年、33の先輩が殉職した」
「踏み込みすぎました、すいません」
「……いいや、ここはそういう職場だ。最終手段で死を覚悟できない者は要らない」
「問題ありません。貴方に会うために死ぬ覚悟は出来ていた」

……ただ、幼馴染みが心配なだけだった。自覚している。私にとって幼馴染み二人が大切な人であるように、二人にとっても私は大切だったはずだ。ゼロくんは音信不通になる前に、あんな連絡をくれたぐらいなのだから。

「そういう覚悟を子にさせるというのは、あれだな。心苦しいところがあるな」
「ま、そう簡単に死なせるつもりはねぇよ。あれだって、先輩がしくじったわけじゃない。あれは、」
「この話はまた今度話そう。ま、挨拶はここまでにして、梨杏、君の職務について話そうか」

そこのデスクは梨杏の席だ、と言われ、座るよう言われる。特務部の仕事を聞く。簡単に要約すれば、テロリズム対策。私の役目は足で情報を集めること。試用期間だとは言うが、手渡された書類を見る限り、戦力に数えられているらしい。NOCに必要な書類だ。

「事故死扱いの方が簡単に済ませられるんだが、見つかると面倒だ。交遊関係に警察がいるなら尚更な。ということでNOCにした」

知らぬ間に身辺調査までされていたらしい。まあ、されるか。

「援助が必要なことがあれば可能な限り、手を貸そう」
「ちなみに提出は?」
「明日出勤したらすぐにでも」
「わかりました」

と言ったところで内線が鳴る。江藤さんが電話を取る。父に視線をやり、情報本部の計画部から召集ですって、と言う。

「ああ、お前の件で話を詰めると言われていたな。今日は帰っていいぞ」
「おっしゃ。新入りちゃん、飲みに行こうぜー」
「まあ、いいですよ」
「警視庁に行ったら飲みに行けなくなるらしいし、今のうちに親睦深めようぜ」
「……ほどほどにしろよ」
「よし、特務部行きつけの飲み屋に連れてってやる。今日は俺の奢りな!」
「ありがとうございます、江藤さん」
「かてぇな。先輩でもエコーでもいいぜ」
「エコー?」

父が先ほど、この人のことをエコーと呼んでいたのを思い出す。

「ま、あだ名みたいなものだな。うんじゃ、ゼクス、お疲れさまでーす」
「おうお疲れ。二人とも、遅刻するなよ」
「はい」
「大丈夫っすよー」

肩に腕を回されたのをやんわり抜け出し、飲み屋……というよりは料亭に案内される。個室に案内され、とりあえずビールでいいか、と聞く先輩に、はい、と言い、いくつか料理を注文する。

移動中に思い返していたが、エコーとはフォネティックコードのE(エコー)じゃなかったか。私にとっては、それを指す言葉であり、ココの私兵の色んな意味で先輩である人だ。

ビールで乾杯して、なにから話すか、という先輩に、質問を投げ掛ける。

「エコーって、フォネティックコードのE(エコー)ですよね?」
「お、知ってるのか?」
「意味までは知らないですけど、単刀直入に」
ココ・ヘクマティアル、知ってますか?そういうと、目の色が変わる。この人は、知っている。
「ワイリー・コヨーテ?」
「そのまんま返し」
「お、その様子じゃ、同郷か」
「貴方の後に入ったので、話はいくつか」
「へえ」
「パラミリとやって、ここにいますけどね」
「なるほどなぁ。じゃあ、改めて。俺は、元デルタフォース所属、エッカート。エコーって呼ばれてて、CIAのパラミリのヘックスと撃ち合いの末死んだ」
「……私は、いや、俺は、元イタリア軍ベルサリエリ所属、レナート・ソッチ。アールと呼ばれていた。……まあ、実はCIAのスパイだったが、色々あってな。ココと元少年兵を逃がして、ヘックスとやり合って死んだ」
「スパイってところでぶったまげだわ」
「CIAの活動も楽しかったが、お嬢の下も楽しかった。特に酒飲むときは」
「はー、じゃあ、これからはアールだな」
「何が」
「呼び名つうか、コードネーム?」

ま、死ぬ前の話は思い出話にして、とビールを飲む先輩。先輩がE(エコー)と呼ばれるように、父もZX(ゼクス)と呼ばれているらしい。そういえば、先輩は父をゼクスと呼んでいた。

「うんじゃ、よろしくな、アール」
「まあ、慣れている呼び名の方がありがたいですけど」
「前世男で、女に生まれ変わると大変じゃねぇの?」
「実は私、その前が女だったので、どっちかと言うと男に生まれたときの方が大変でしたよ」
「……お前、びっくりするようなこと、さらっと言ったな」
「……まあ、隠しても仕方ないかなって」
「ははは、タメでいいぜ!お前とは仲良くなれそうだ!」
「こちらこそ、よろしく。エコー」

エコーの奢りだと言うので、有り難く料理に手をつけた。

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