Re. | ナノ
8

夕方になり、門限が迫る二人の同期達と別れ、ヒロくんの家に向かう。

「久しぶりにゲーセンに行ったよ」
「息抜きになったか?」
「うん、楽しかったよ」

友達も増えたし!と言うと、少し複雑そうな顔をする。

「ゼロくん?ヒロくん?」
「防衛大で友達はいないのか?」
「いないわけじゃないけど、みんな必死だから、息抜きに誘えないの」

かくいう私も息抜きと言えるのは月1で行く本屋や毎日の読書、主に幼馴染みとだが、友人とのやり取りぐらいだ。

「部活もあるしね」
「帰ってきているうちは、そういうの、気にせず、な?」
「うん、二人といるとほんと気が抜けるの。ありがとう」

梨杏、と呼ばれる。どうしたのかと問えば、俺もだよ、と言われる。

「ゼロも今日は、俺の家に泊まるんだろ?夜更かししようぜ!」
「泊まるし、別にいいが……」
「夜更かし、出来るかな?」

早寝早起きが必須な寮に過ごしていたせいで、少し心配だと言えば、無理しない程度で、と言う。

「それにしてもヒロの家で飯を食べるのも久しぶりだな」
「去年までは月2以上のペースで来てたのにな」

なんて駄弁りながら、ヒロくんの家に着く。ゼロくんは服を取って来ると走っていった。……相変わらず速い。

晩ごはんを食べ、お風呂を済ませ、客間に置いていた携帯だけを持ち、ヒロくんの部屋に入る。
ゼロくんが先にお風呂に入っているらしく、ヒロくんは久々にゾンビ相手に銃を撃っている。

「おかえりー」
「あれ、また一からやってるの?」
「おー」

気の抜けた返事をするヒロくんの目は真剣だ。難易度を一番難しいにしたヒロくんの持つコントローラーはカチャカチャと音を立てている。

「…………防具無し?」
「気付いたか。そうだよ」

武器を変えた瞬間に見えた装備欄を見て、思い浮かんだことを言うと肯定が返って来た。

「ヒロ、上がったぞ」
「了解した。もうちょいでセーブできるし待って」
「腕は落ちてないな」

そう笑うゼロくんは、ゼロくん用にひかれた布団の上に座る。ゲームを見ながら、装備縛りか、と言うゼロくんに頷く。セーブ地点に到達して、んじゃ入ってくる、というヒロくんにいってらっしゃい、と言ってから、ゼロくんとナイトバロンの新作の話に移った。

「ここが、――だろ」
「けど、ここで――が――してるから、――は……」
「いや、ここは――が――で……」
「おーい、梨杏、ゼロ」
「!ヒロくん、いつの間に」
「30分前には上がったぞ?」

茶、持ってきた。と紙コップとペットボトルをテーブルに置くヒロくん。

「全く気づかなかった」
「ははは、二人はナイトバロン談義に入ると止まらないしな」

程よく冷えた麦茶を飲む。麦茶より緑茶派のゼロくんも、緑茶はカフェインが多いことため、今は麦茶を飲んでいる。

「で、今回のナイトバロンはどんな話だったんだ?」

推理小説よりかはほの暗い作品を好むヒロくんは、感想を聞いてから読んだり読まなかったりだ。結構、えぐい復讐の話だったり、人の怖いところを最大限に引き出された作品が好きなので、人間関係でドロドロしてる回は比較的に読んでいるような気がする。何故、警察を目指すような真人間になったのか首を傾げそうなレベルの偏りっぷりの蔵書である。

「今回は――のメイン回だよ」
「へえ、そういやスポットに当たったことがなかったな」
「ああ、たまに遍歴が垣間見えたんだが、謎に包まれていたんだが、今回はその遍歴が明らかになった」
「お、まじか!」

なんか裏がありそうで興味があったんだ、と言うヒロくんに、どういう話かかいつまんで話す。勿論、話の核心を突くことはしない。読むと決めた時のためのネタバレ防止策だ。

「はー、読むわ。ゼロ、寮戻ったら貸して」
「安心しろ、持ってきた」
「ナイス!」
「梨杏も交えて話したいしな」
「明日は、ヒロくんとも感想言い合えるんだね」
「これは徹夜だな」

無理しないで、と言うが、ヒロくんは今から読むつもりらしく、ゼロくんに借りた本をひろげはじめる。

「それにしても、松田がナイトバロン読んでるとはな」
「そんなに意外だったの?」
「どっちかと言うとあいつはマンガ読むと思ってた」
「ジャ◯プ系のバトルマンガとか読んでそうなイメージだった」
「わかる」

頷くヒロくんは話ながら、ナイトバロンを読み始める。

「器用なことするね」
「そうか?」
「私はミステリー読むときは時間ある時に静かな空間で読みたい」
「まあ、俺は推理はせずに読むから出来るのかもな」

そう言いながらページを捲るヒロくんのスピードは中々早い。

「器用って話だが、松田と萩原はかなり手先が器用だな」
「へえ、そうなんだ」
「少しばかし手解きを受けたが、あれに関しては二人が上だ」
「ゼロくんにそこまで言わせるのって凄いね?何のことか、わからないけど」
「爆弾解体だよ」
「……爆弾」

爆弾と聞き、パッと思い出したのは、ワイリの顔。
HAHAHAと笑う顔が掠める。あいつ、FBIのブラックリスト入りしてたな。いや、そんなことよりも、だ。改めて思い出す。ここは『コナン』の世界で目の前で読書している幼馴染みは銃で自殺し、今日一日で知り合った二人の同期も漏れなく全員死ぬ。そして、一人残されるもう一人幼馴染み。……人を弔う辛さをこれ以上、ゼロくんにはさせたくない。

「……梨杏?」
「ううん、なんでもない。それにしても爆弾か。自衛隊じゃ不発弾の処理とかならしそうだけど」

爆弾の解体方法は、ワイリからいくつか指南いただいている。が、まあ、実物ではやったことがない。……寮に戻ったら、確認をしようか。
……前世の経験が生きるから、と自衛官を目指したが、やはりゼロくんのために動くなら、警察官になるべきだったのでは?と考える。

「そういや、梨杏が自衛官目指す理由、聞いて無かったな。聞いてもいいか?」
「日本を守りたいって気持ちはあるよ。……でも、一番はそれじゃない」

父の生存確認。会ってどうしたい、という気持ちはない。死んだと聞かされていた父が生きているかもしれない。一目でいいから、父を見たいだけでここまで来た。母が言っていた。私は父似、らしい。父はハーフで、色素の薄い髪に、私と同じアンバーの瞳を持つ、らしい。目元周りはあの人そっくりなの、と笑う母を思い出す。

「私の父親、死んだって聞かされていたけど、生きてるかも、って思ったの」
「は?」

供花の話をして、父親が自衛官だったことを話す。

「何か理由があって、死んだことにして姿を消したのかもしれないって思ったら、止められなくて」

二人に感化されて、日本のためになる仕事に就きたいと思っていたこともあって、自衛官の道を目指したのだ。……それは言わないけど。恥ずかしいし。

「不純な理由でしょ……」

そろり、と視線をさ迷わせる。自覚している。そう言った理由で、なるような仕事ではないことぐらい。

「……梨杏」
「いいんだよ、話してくれてありがとう」
「……」
「梨杏の理由は確かに自分のためってあるけど、梨杏のお父さんを見つけたとして、梨杏はその後どうするんだ」
「どうするって……」
「やめるのか、やめないのか」
「やめないよ、多分」

父親の生存確認して、辞めはしないだろう。父の生存を知り、追われることになれば、話は別だろうけど。それは口に出さない。それでこそ、私が守りたいもののためならなんだって使うつもりなのだから。

「じゃあ、いいんだ」
「梨杏にはそれとは別で日本を守りたいって意志もあるし、な。俺たちの同期にもいたぜ。忙しいけど、収入が安定してて簡単に辞めさせられないからってやつ」
「ははは、誰だそれは」

灸を据えてやる、と言うゼロくんに、寮に帰ったらな、と言うヒロくんは笑う。



「……梨杏?」
「はは、器用に寝たな」

こてん、と降谷に寄り掛かった梨杏に、寝落ちしたことがわかる。今、無造作に動けば、梨杏を起こしてしまう、と判断した降谷の体は固まる。

「寝室は?」
「客間」
「ちょっと手伝え」
「了解」

何ページ目かを確認し閉じ、梨杏を起こさないように支える諸伏、そそっと離れる降谷。

「んー」

ぴしり、と動きを止める二人に対して、もぞもぞと動く梨杏。手を伸ばして、降谷の腕を掴む。そして、動きを止める。いかないで、という梨杏の小さな言葉の後、寝息が聞こえ始めた。

「はー」
「ヒロ、梨杏を寝かせてくれ」
「わかってるよ」

起こさないように、梨杏を寝かせる。そうして、梨杏の頭を撫でる。

「行かないさ、どこにもな」
「ったく、無防備に寝てくれるな」
「気が抜けるって言ってたしな」
「……俺たちだけに、な」
「ああ、そうだな」

ぐっと噛み締めるように、そう言って、梨杏の隣に座る。

「狭い」
「一緒に寝るんじゃないしいいだろ」

梨杏を撫でたい、と言う諸伏に降谷はため息を吐く。腕から手首の位置に落ち着いた梨杏の体温を感じながら、読書を再開した諸伏の感想を聞きながら相づちを打った。

[Prev] | [Next]
Back
Contents
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -