世界は犠牲で成り立っている | ナノ
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黒い闇が街を飲み込んでいく。理が、兄さんが守った世界が壊れていく。切嗣さんが車に戻れと言う。戻れない。私の兄が守った世界をこんな風にされていくのが許せなかった。士郎も迷っているようで、その時、光が発された。光は闇を覆い、闇に侵された地が残った。その光源に向かって車を走らせる。規制線が張られ、先に進めなくなる。士郎が先に行くと、規制線をくぐり抜けていく。

切嗣さんを支えながら、闇に飲み込まれたクレーターが目の前にある。士郎の上に少女が乗っていた。

「栞、崩れた屋敷の中にある書物を持ってきてくれ」
「…………わかった」

瓦礫を退けながら、言われたモノを探す。

「!」

瓦礫を退けていると、人の手が出てきた。更に瓦礫を退ける。着物を着た、綺麗な人だった。屋敷が崩れて、そのまま下敷きになって死んでしまったのだろう。少女の母親なのかもしれない。足の悪い切嗣さんに少女を任せて、士郎と一緒に埋めた。女性の近くには朔月家と書かれた古い日誌が見つかった。その辺りの瓦礫を退けると、最近のものまで見つかった。それを切嗣さんに渡して、他のものも持ってくるように言われ、探していく。見つけた日誌の冊数は3桁はいきそうだ。

それを車のトランクに積みながら、士郎と切嗣さんの話を聞く。少女の名前は、朔月美遊。朔月家が秘匿していた神稚児。人の願いを無差別に叶える願望器。彼女を使うと言った切嗣さんとは根本的に噛み合わなかったのかもしれない。

それでも、切嗣さんと対立して、美遊から離されるのは避けなければいけなかった。無償の奇跡など何処にもない、それはよく知っている。

美遊を引き取り、私も衛宮の養子となった。美遊の6歳の誕生日を切嗣さんと士郎に内緒でこっそり祝ってあげた。程なくして、切嗣さんは根を詰めすぎたのか病に伏せ、静かに息を引き取った。

切嗣さんが亡くなって、5年。バイトをする傍ら、5年前の災害について調べていた。調査を始めたのは5年前からだけれど、ほとんど進展はしなかった。特殊なガス資源によるガス爆発。そう纏められ、多くの住民は引っ越して行き、過疎化が進んでいる。

「…………ラーメンください」
「かしこまりました」

ふらっと立ち寄ったラーメン屋に入って、メニューを見ずに言ったのが終わりだった。出されたモノは麻婆豆腐だった。

「あの、ラーメンって頼んだんですけど」
「この店のメニューは麻婆ラーメンのみですが?」
「………………はあ。いただきます」

麺を掬うと申し訳程度にしか麺が入っていない。流石にこれは苦笑いである。そして辛い、圧倒的に辛い。

「水」
「どうぞ」

………………水に大変お世話になって、食べきった。多分、残すことは許してくれなかっただろう。

「お会計1600円になります」
「たっ!?」

高い!これなら大人しくカップ麺にすれば良かった、と思いながら、1600円を支払う。

「…………はあ」
「どうした少女。悩みがあるのなら聞くぞ?」
「………………いえ、調べていることが全くわからなくて」
「何を調べているのだね?」

ニヤニヤとして聞く男に、5年前の災害について、という。どうせあれは、ガス爆発だろう、と話が終わるだけだ。

「あれが一体なんだったのかを知りたい。まあ、起こした当事者すら、死んだでしょうけど」

どれだけ調べても出てこなかったので、多分、そういうことなのだと思っている。

「確かに当事者は死んだな。君、名前は」
「私は衛宮栞!貴方は何か知っているのか!!!」

ああ、知っているとも。そういう男は名乗る。言峰綺礼、聖杯戦争における監督役、らしい。

「聖杯、戦争?」
「聖杯、全てを叶える願望器を奪い合う戦いのことだ。4度行われた聖杯戦争、4度目に起きた被害があのクレーターだ」

全てを叶える願望器を奪い合う。脳裏に美遊の顔が過った。

「その、首謀者は」
「首謀者か、首謀者はエインズワース。人類史存続のため、聖杯を使おうとしているのだ」
「人類史、存続」

次に過ったのは、理の後ろ姿だった。

「参加者は間桐、――――――――」
「……………」
「首謀者も参加者もあの侵食により死んだ」
「…………そうですか」
「しかし、エインズワースには生き残りがいる」
「!」
「おそらく、彼は一人でも聖杯戦争を起こすだろう」
「その、生き残りの名前は」
「ジュリアン、ジュリアン・エインズワースだ」

士郎の顔が、過った。

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