いとこいし
「………………これは、まさか」
「承太郎?」
深いため息を吐いた承太郎に声をかけながら、コーヒーを出す。目の前には途中まで書かれた家系図と写真が散乱している。
「大丈夫?」
「…………ジジイが不倫してた可能性が出てきた。ちょっと詰めてくる」
「えっ……えっ」
言葉の意味を理解しようと、承太郎の顔とテーブルに無造作に置かれた写真を見る。コーヒーをぐっと飲んだ承太郎は立ち上がり、行ってくる、と白のコートを着る。
「パパ、どこかに行くの?」
「徐倫、今からパパは、グレイトグランパと大事なお話をしてくるそうだから、家で待っていましょうね」
承太郎のズボンを引っ張り聞く徐倫を抱き上げる。
「夜は遊ぼう」
「ほんと?やくそくよ!」
承太郎のその言葉に徐倫ははしゃぐ。行ってくる、と私と徐倫の頬にキスをした承太郎は、家を出た。
帰宅した承太郎は、晩御飯を共にし、徐倫と遊び、徐倫が寝たのを見計らって、話がある、とソファーに座るよう、促した。
「俺がどうして家系図を書いていたのかは知ってるな?」
「うん、ジョセフさんの遺産相続のためだよね」
「ジジイもボケ始めてるからな。で、そこで不倫の痕跡が見つかって、ジジイに問い詰めた」
「うん」
「16年前に当時大学生の女と不倫していた」
「………………16年前」
腐れ縁だったのだ、承太郎のおじいさんとも何度か顔を合わせていたし、結婚するときに、挨拶にも行った。だから、16年前といえば、当時私たちも小6とか中1とかその辺りだと思うの。
「……わかいね…………?」
「…………今、財団の方で、子供の有無を確認するよう連絡はした。それで、ジジイはあんなナリだが、不動産王の名を持つ人間だ。スキャンダルを好むアメリカのパパラッチに嗅ぎ付けられるわけにはいかねえ。俺がジジイの代理で日本に行くことになりそうだ」
わかった、と頷く。
そうして、調査報告が行われた。承太郎が目をつけていた通りだ。年下の甥が存在する、らしい。ため息を吐きながら、M県S市に行くことになった承太郎が、徐倫を頼む、と言う。
「もう、何回もやってるね、このやり取り」
「すまねえな」
そう笑うと、申し訳なさそうに目を反らす承太郎。
「黙っていなくならなかったら、いいよ」
「それだけはしねえ。約束する」
ちゅっ、と頬にキスされながら、駄々を捏ねるだろう徐倫にどう言うか考えた。
「やーだー、パパについていきたい!」
「だーめ、パパはお仕事なんだから我が儘言っちゃダメよ、徐倫」
うえーん!と大泣きする徐倫にどうしようか、と承太郎を見る。
「すまんな、日本に着いたら電話をしよう」
「ほんと?まってるわね!」
「ああ」
「おみやげもたくさんかってきてね」
「ああ」
「じゃあ、がまんしてる、いってらっしゃい」
ちゅっと承太郎の頬にキスする徐倫に暫し瞬きした承太郎が、立ち上がる。
「楓」
「行ってらっしゃい、承太郎」
ちゅっといってらっしゃいのキスをすると、優しい目で言ってくる、と言って、ゲートを通っていった。
「さあ、徐倫。パパの乗る飛行機が飛び立つのを見に行きましょうね」
「はーい!」
徐倫と手を繋いで、屋上へ向かった。
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