クチナシの言葉
あれから、そのまま家に来て、両親から了承を得て、今、アメリカにいる。最初は承太郎に引っ付いて、買い物をしたけれど、今は一人でも問題ない。今日は私の誕生日だからと、予約していたらしいホテル上階のレストランでコース料理を食べる。
美味しい。美味しいのだけど、ドレスコードがあるほどのレストランで、いつもの帽子も、ロングコートも着ていない承太郎に改めて見惚れる。緊張する。
「?なんだ」
「ううん、なんでもないよ」
そわそわしていることに気づいた承太郎は首を傾げる。慣れない店に緊張しながら、出される料理を食べる。会話は、ない。
コース料理も残すはデザートのみとなり、デザートが運ばれるのを待つ。
「楓」
「承太郎?」
「話がある」
立ち上がった承太郎に困惑する。おろおろしていると、私の足元に跪く。
「急にいなくなることはない、とは絶対には約束できない。それでも、俺は楓の元に帰りたい。愛している。どうか結婚してくれ」
「!」
最初に伝えられた言葉が吹き飛ぶようなプロポーズだった。承太郎の手には指輪がある。急にいなくなるというのは、高校の話をしているのかもしれない。それでも、私の元に帰ってきてくれると言ってくれた。それだけで嬉しい。
「喜んで」
承太郎の手に手を重ねる。そっと指輪を取った承太郎が左手の薬指を嵌める。
「これからもよろしくね、承太郎」
「…………ああ」
噛み締めるように返した承太郎に抱き締められる。店のスタッフにも祝われ、豪華なデザートが出てくる。末永くお幸せに、と訳すことの出来る文字に、顔が真っ赤になりながらも、デザートを食べる。
デザートも食べ終え、支払いも終え、レストランから承太郎と手を握り、出る。
「?そっちは出口じゃないよ」
「……部屋を取ってある」
チャリ、と見せられたルームキーに、ぼっと顔が赤くなり、承太郎は顔を背けて笑った。
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