いとこいし | ナノ
夏の声

私と承太郎が付き合うことになって半年、高校最後の夏がやって来た。といっても、冷房の効いた承太郎の部屋は寒いぐらいなのだけど、庭の木に止まっているであろう蝉が鳴いている。

「承太郎は、さ。卒業したら、どうするの?」
「アメリカの大学に行く」
「エッ」

なんとなしにした質問を後悔した。

「そ、そういうことは、承太郎から聞きたかった」
「あ?なんでだ」
「なんでって、承太郎、と、一緒にいたかったのに」

アメリカなんて、遠距離恋愛過ぎて、きっと私には耐えられない。

「承太郎のことは好きだけど、アメリカなんて、行って、ほしくなくて、でも、承太郎が行きたいなら、行ってほしいんだけど……えっと」
「楓」

呼ばれたと思ったら、承太郎の膝の上だった。お腹に腕が回されている。

「一緒に来るか?」
「えっ」

耳元で言われてどきりとする。その発想はなかった。そのお誘いも嬉しい。けど。

「お、お金ないし、英語、話せないし、わ、わたし」
「ふ、冗談だ」
「じょ、冗談だよね、あはは」

ちょっと、残念だったりした気持ちに、気付かない振りをした。

「大学卒業したら、迎えに来る。だから、ここは開けとけ。わかったな」

握られた左手の薬指を掴まれてそう言われた。その意味に気づいて、空いていた右手を握る。

「わたし、待つから。だから、何も言わずにいなくならないでね」
「ああ、わかってる。そう易々離してたまるか」

何も言わずにいなくなった50日間と、行き先の知っている4年間は、どちらの方が長く感じるのだろう。やっぱり、4年か、と思う。長さが圧倒的に違うから。

「……冷えてるな。寒いか?」
「大丈夫、だよ。承太郎が、暖かいから」

そういうと、抱き締められる。そして、アメリカに行くまではずっと一緒だとも言われた。

「アメリカの新学期は夏の終わりからでな。まだ、1年ある」
「……うん」
「言うのは、もう少し後でもいいかと思ったが……。また、ちゃんと機会を作る。今日は一緒にいるか」
「そう、だね」

承太郎に向き合うように体を動かして、腕を回す。承太郎を見ると、私をじっと見ていた。

「楓は、どうするつもりだった」
「何が?」
「高校卒業後の話だ」
「んー、そろそろ決めないといけないのだろうけど、ね。決まってなかった。だから、承太郎はどうするのかなって。でも、決まったよ。英語話せるように勉強することと、ちゃんと家事できるようにすることと、お金貯めること」
「……そうか」

少し、口元が緩んだ承太郎は少し嬉しいのだろうか、よくわからないけど、抱き締められる。少し、腕の力を緩められて、承太郎を見る、承太郎の右手が頭に置かれて、目を閉じてキスを受ける。蝉の鳴く声が耳に届いて、消えた。

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