いとこいし | ナノ
アイに染めて

承太郎が2ヶ月ほど、どこかに行っていた。

ジョジョが警察に捕まっただとか、釈放されただとか、そんな話はあちこちから聞いていたら、学校の保健室でガス爆発が起こったとかなんとかで、それから数日間、休校になって、一週間に一度は来ていた承太郎が来なくなった。

様子がおかしい気がして、承太郎の家に行けば、寝込んでいる聖子さんしかいなくて。戸惑っていた私に医者は何も言わず、聖子さんを診る。他の医者が、私に家を出るように言ってきて、無理矢理追い出された。

お見舞いに2日に一度行って追い出され、3日に一度追い出され、一週間に一度になった頃には、医者も何も言わなくなった。お見舞いする度に、様子が更に悪くなっていく聖子さんの様子に、承太郎は何をしているのか、と思ってしまって、片想いしていた気持ちは冷めてしまった。

前見た聖子さんは本当に危なかったんだと思う。医者がもう1週間の命ではないか、と帰り際に聞いてしまって。それから、毎日見舞うようになった。医者は、何も言わなかった。

学校帰り、いつものように聖子さんを見舞おうとして、屋敷に入ると、医者が代わる代わるいたのに、いなかった。

「あら、楓ちゃん?」
「えっ」

いつも聖子さんが眠っていた部屋は綺麗で驚いているところに、後ろから声を掛けられて、振り返る。昨日まで、命の危険があるとは思えないほど、元気そうで、涙が出そうだった。

「聖子さん!」
「うふふ、どうしたの、楓ちゃん」
「だって、元気そうで、よかった!」

よかったら、お茶でもどう?という聖子さんに頷く。2ヶ月ほど寝込んでいた弊害か、時折躓く聖子さんを助けながら、リビングに着く。お見舞い品として持ってきていた果物がテーブルに乗っていた。

「心配かけてごめんなさいね。もう大丈夫だと思うから」
「いえ……元気そうな顔が見れて、本当によかった」
「ずっと来ていてくれたのでしょう?お医者さん達も言っていたわ」
「だって、聖子さんは、一人だったし。聖子さんが危なかったのに、承太郎は」
「承太郎を悪く言わないであげてちょうだい」
「あ……ごめんなさい」

子の悪口を母親に聞かせるのは、いけないことだ。それくらい、考えればわかるのに。

「違うのよ、承太郎は私のために旅に出ているの。だから……楓ちゃんが思っていることとはきっと違うと思うの」
「聖子さん……」
「あの子は優しい子だから」
「そう、ですね」

承太郎の根は優しいから。だから、私は承太郎にずっと片想いしてた、し、聖子さんが倒れているとき、姿を見せない承太郎に失望して、片想いをやめたんだと思う。


「楓」
「承、太郎」

1週間前、ジョジョが帰ってきた、と喜ぶ取り巻きの話を聞いて、極力、承太郎に会わないようにしていた。2年に進級した当初は、承太郎と別のクラスで、一人嘆いていたけど、今回ばかりは助かったと思う。聖子さんはああ言っていたけど、承太郎に会うと、問い詰めてしまいそうだった、責めてしまいそうだった。聖子さんがどれだけ苦しそうだったか、とか、熱い手が、段々細くなっていく感覚だとか、出張や夜勤などでいない両親よりも、母親らしくしてくれた聖子さんが死にそうでどれだけ怖かったのか、とか。

「楓、お前、俺を避けていたな」
「…………だって」
「だってもくそもねえ」
「……承太郎を見たら、絶対に怒るとおもってたのに」
「おまえ、泣いて」
「ないてなんか、ないから」

承太郎の顔を見て、泣いた。きっと、怒りを通り越して、泣いているんだと思う。言いたい言葉が頭を巡って、喉が突っかかって、出そうとした言葉も出ない。

急に腕を引っ張られて、抱き締められた。頭に置かれた手はきつくはないけれど、当たっているお腹から離れないようにしてあるし、肩に回された腕は離されないようにしてある。

「やっと、戻ってきた」
「承太郎、シャツに染みがつくから、離して」
「嫌に決まってるだろ」

声にならないまま、言葉が漏れる。

「あのアマが、お前がお見舞いに来てくれたって喜んでいた」
「だって、お医者さんしかいなくて、承太郎はいなくて、聖子さん、一人で苦しそうで」
「……ああ」
「聖子さんが、承太郎を責めないで、って言うから、もうわからなくて」
「楓……」

ぎゅっと抱き締められて、離される。逃げられるのに、足が動かなかった。帰るぞ、という言葉に頷いて、歩こうとしたら、手首を引かれた。

「……承太郎。承太郎は、何をしていたの?」
「世界中、移動して、エジプトに行った。アマを助けるために、必要だったからな」
「……そっか」
「お前は、どうしていた」
「聖子さんのお見舞いをしてた……よ?」

そういうことじゃあねえ、と言われた。聖子さんが臥せっていて、承太郎がいなかった以外、特に何もなかったように思える。友達に、顔色が悪いだとか、目が死んでいるだとか、そう、言われたのは覚えているけれど。

「承太郎がいなくて、淋しかった、なーんて、ね」
「俺は、お前がいなくて淋しかったぜ」
「えっ」

思わず、足を止めて、掴まれた腕が伸びる。冗談だよね、と言えば、本当の話だ、なんて、私を混乱させるのには十分で。

「そ、そういうのは、勘違いしちゃうから、だめ」
「お前になら存分に勘違いしてもらって結構だぜ。こっちは何年……」
「……そういうのは、さ。期待させちゃうでしょう。だから」
「俺は、本気だぜ。楓」
「あの、承太郎」

振り向いて、そういう承太郎に私は、待ったをかける。好きと嫌いが渦巻いている頭に、今の承太郎の言葉は、これ以上はいけない。

「好きだ、楓」
「……あの」
「あからさまに避けられて、こっちは困ってたんだ。旅に帰ったら、告るって決めてたのにな」
「うそ」
「嘘じゃねぇよ」

承太郎の顔が直視出来なくて、俯く。柄になく緊張している、という承太郎は、そう思えない。

「なあ、俺も期待してんだ。帰ってきたときは玉砕覚悟だったが、久々に顔見て、話したら、な。だから、返事くれ」
「あの、うん、私も、好き、です」

しどろもどろで、小さな言葉だったけど、承太郎には聞こえてたらしくて、腕を引っ張られて、抱き締められた。耳たぶにキスさせて、回されていた腕が離れていく。手を恋人繋がりにされて、承太郎の家に向かった。

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