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視線が合う

キラキラと太陽の光を反射させるシャボン玉は触れても割れないけど、触れるには恐れ多いほど綺麗な光景で、シャボン玉の中心に立っているシーザーはまるで、異世界から来た人間ではないのかと思ってしまうほど、幻想的な風景だった。

「誰だい?」
「あっ」

振り返ってこちらを見るペリドットの瞳にドキリとした。柔らかい笑みを見せているシーザーが私の名前を呼んだ。

「熱の篭った視線に気づかないほど、俺は鈍感じゃあないよ。カエデ」

俺に見惚れたかい?と言って、シャボン玉の空間から出てきたシーザーに手を取られる。口が言葉を発さず、音しか出ない。もう一度、シーザーの口から、私の名前が発せられる。熱くなる顔を俯いて隠して、目を閉じる。

「わ、私、リサリサ様に洗濯物を頼まれていたからッ」
「おい、カエデ!」

逃げた。完全に逃げた。リサリサ様のお洋服を持って、洗濯するべく、水場に行けば、シーザーがいて、そのまま180度回転して屋敷に戻、れなかった。シーザーの腕がお腹に回っている。

「いつも、あそこでの修行を見ていたのはカエデだったんだな。嬉しいよ」

耳元でそう言われ、ぞわぞわして、シーザーとの距離を再確認して、体が熱くなる。逃げているときに落ち着けたのに!それと、落ち着いて、気づいたのに。

「洗濯するためには、ここに来るからな。先に来てみた」
「しーざ」
「あれだけの熱視線に応えないわけにはいかないだろう?」

吐き出される言葉に熱を含んでいて、脳が焼ききれそうだ。

「あれは、ただ、綺麗だったから。シャボン玉がキラキラ光っていて、シーザーの髪も反射して、それが、ただ、綺麗で」
「嬉しいな。カエデならいくらでも見せてあげるよ」
「そ、そういうの、は、勘違い起こすから、言っちゃダメ」
「勘違い?勘違いじゃないよ」
「だってシーザー、女の子を口説くのは日常茶飯事でしょ?私にはキャパオーバーするから、止めて?」

止めてと言われたら止めたくなくなるものじゃないか?
そう言われて、手を握られ、もう逃げられない。

「それにな、カエデ」
「シーザー、ちょっと」
「カエデは俺にとって特別なんだぜ。だからな、カエデ。逃げないでくれないか?」
「うぅ」
「カエデ?」
「シーザーこわい」
「えっ」

びっくりした様子のシーザーの手を握る力が弱まり、また逃げる。

前方にジョセフがいて、思わず声をかけた。

「ジョセフ、匿ってッ」
「何事よん、カエデちゃん」
「シーザーから逃げさして」
「それはまたまた」

じゃあ、俺の部屋に入ってろ、シーザーちゃんは撒いてやるよ、の言葉に騙されるとは思わなかったけど。

「カエデ、俺は本気なんだ」
「だって、私よりもスージーとか口説いていた人とかの方が可愛いし」
「カエデだって可愛いさ」
「本気な証拠なんて」
「女友達なら、もうここの島にいるスージーQしかいないさ。俺は本気さ。カエデ、大好きだよ」

手をぎゅーと握られ、逃がしてくれないらしい。ちなみにここはジョセフの部屋なのだが、いいのだろうか。

「他のことを考えずに俺だけのことを考えてくれ。カエデ」
「もうちょっと引いて、距離を離して。人のパーソナルスペースを考えて。シーザーのこと好きだけど、距離が近すぎて、怖いから」
「カエデ!」
「っ」

抱き締められるとガチガチに固まってしまったカエデ。シーザーは戸惑った。前途多難である。



恋に落ちる5つの瞬間『02.視線が合う』

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