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泡沫の夢の続きを

人理修復を目的とした旅を終え、何もかもが終わり、カルデアを出ることになった。
気紛れで応募したチラシがこんなことになるとは、思わなかったけれど。

後のことは、私たちに任せてくれ、と言ったダ・ヴィンチちゃんは、マシュとともに私以外のマスター候補たちのケアをするという。職員の皆さんもマシュも、魔術のこともカルデアのことも忘れて、一般世界で幸せに、なんて言うけれど、忘れることができるほどのものじゃないのは、確かにわかる。

私がカルデアを出ると知り、多くのサーヴァントが座に還って行き、閑散としたカルデアを歩く。あまり話を聞かせてくれなかったが、近日中に魔術協会の視察が来るらしく、それまでに私はカルデアを出なければいけない。

ごうごうと吹雪く外を見て、ここでマシュと初めて会ったことを思い出したりする。今、忘れ物チェックとともに、思い出を辿っていた。

「マスター、ここにいたんですね」
「ジャンヌ。準備は終わりそう?」
「はい。準備は万全です。あの娘も、せっせと荷物を詰めています」
「……そっか。明日にここを発つから、ちゃんと忘れ物のないように、ね?」

はい、わかっています。そういうジャンヌ・ダルクと、ここにいないあの娘――ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィは、私とともに一般世界に行く。

聖杯転臨というものは、凄まじいらしい。強い縁で結ばれたジャンヌとリリィは、座に還るか、カルデアに残るか、それともうひとつ、選択肢が与えられた。聖杯転臨の残りのリソースを、受肉に回し、人ともに生活するということだ。ダ・ヴィンチちゃんに提示された話を聞き、3つ目の選択肢を選んだ二人は、私とともに生きると言ってくれた。

「後悔、してない?」
「何がですか?」

本当にわからないような顔で言われて、私と生きるっていう選択肢のことと言うと、ええ、当然です。と言った。

「後悔しませんとも。私も、あの娘も。だって、貴方のことが、好きだから」
「め、面と言われると恥ずかしいデス」

いや、嬉しいけれども。目を逸らして、吹雪く空を見る。でも、あの娘は、と言って、止めたジャンヌを見る。

「あの娘はきっと、座には還りたくないのでしょうね。……あの娘に座があったとしても」
「ジャンヌ……」
「貴方のしたことは間違いではないです。だから、もっと胸を張ってください。例え、それが夢のような時間だったとしても。それでも、私やあの娘、マシュやカルデアの皆さんが覚えていますから」
「そうだね。所長やあの人のことは忘れられないや」
「では、私は荷物確認にもう一度行ってきますね」

そう言って離れて行ったジャンヌの後ろ姿を見て、敵わないなぁと思った。



「トナカイさん(マスター)!」
「ジャンヌ・リリィ。準備は万全?」
「はい!正しい方の私よりもきっちり万全です!」

えっへん、と擬音が付きそうな感じのジャンヌ・リリィの頭を撫でる。

「子供扱いはやめてください、トナカイさん!」
「これからはトナカイさんでも、マスターでもないけど、ね?」
「カルデアにいるときはいいでしょう!」

喜怒哀楽を見せるジャンヌ・リリィはやはりかわいい。

「……リリィは、後悔してない?」
「何をですか?」

同じような反応に、やはりジャンヌだ、と感じた。ジャンヌ・ダルクに訊いたように、私と生きる選択肢を選んだことを、と言う。

「トナカイさん(マスター)は、頷いたじゃないですか!覚えてないですか」

クリスマスのことを。そういうジャンヌ・リリィに、ハッとした。

『私は、未熟で、我が侭で、どうしようもなくて――』

そして、抱き締めた。

「カルデアを出ても、あなたのお役に立とうと思います!だから――!」
「また、春が来て、夏が来て、秋が来て、冬が来て、クリスマスがやって来ても、一緒にいてくれる?」
「――――はい!あなたのそばにいさせてください、トナカイさん(マスター)!」

好きです、大好きですというジャンヌ・リリィをもっと強く抱き締めた。


マシュと厚い抱擁を交わして、私は、ジャンヌとリリィを連れて、カルデアを発った。

「行きましょう、マスター!」
「もう、マスターじゃないって」
「そ、そうでした!…………カエデさん」
「な、慣れませんね……カエデさん?」

照れたように名前を呼ぶ二人になあに?と聞きながら、歩を進めた。私たちはこれからも共に。

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