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ロマンスにはお決まりの文字盤

 かわいいね。
 かわいいな。

 シーザー・ツェペリのうでのなかですよすよねむる赤ん坊はとてもちいさく見えた。きっと老いても衰えないシーザーくんのぶ厚い筋肉がいっそうそう見せているのだろう、わたしにも、とせがんで抱えたこはずっしりとしっかりしたおもみを感じるのだ。
 これがいのちのおもみ。
 しんみりとしていると模範通り、シーザーくんは赤ん坊をだくわたしをひきよせてこめかみに口付けをするのだった。くすぐったくてゆるく咎めるように見上げると思いのほか至近距離にあるきれいなみどり色にぱちん、まばたき。ぷっくりとしたくちびるが目に入ってしまって、わたしは、

「ちょいちょい」

 視界のはしからふとい腕がとびだしてきた。「わ」と一声あげて後ずされば、わたしの腕のなかの赤ん坊はすこしふてくされた顔をしているジョセフの腕のなかへと収まっていた。
 よろめいたわたしを当然のごとく支えるシーザーくん、きみはどこまでできる男なんだ。

「お前らのベイビーじゃないのにファミリー感出さないでもらえます?ねえ、ホリィちゃーん」
「はあ、ケチ臭いやつだな、JOJO」
「なにをう!?」

 言い合いがはじまった。このふたりはあの頃からなにも変わっていない、けんかばかりだ。そしてスージーちゃんがふたりをぴしゃりと黙りつかせる。うるさい、と言われるだろうけれどわたしにはここちよい賑やかさであった。

 ジョセフとスージーちゃんのあいだに赤ん坊ができた、と聞いたのは1週間前のことだった。結婚したばかりなのに、もうできたのか、なんて呆れ口調でつぶやくシーザーくんの口元がゆるゆるとゆるんでいたのを思いだす。親友の赤ちゃん、みにいこっか、と提案するまでもなくシーザーくんが飛行機のびんをとっていたことにはちょっとびっくりしたけれどいちばん驚いていたのはやっぱりジョセフだっただろう。シーザーくんが照れ隠しであべこべなことを言っていたが、きっとジョセフは分かっている。

「いいね」

 けんかばかりしないで、とスージーちゃんに連れ去られたジョセフの腕のなかで赤ん坊がわらう。
 「ほしいね、赤ちゃん」腕のなかのおもみはいのちの、しあわせのおもみなのだ。からっぽになった手をみつめてつぶやけばシーザーくんが不自然にゆれる。
 ふと、どこか固い声色で呼びかけられて、生返事をするとシーザーくんの肩がぶつかった。

「子ども、作らないか」

 とおくでジョセフとスージーちゃんがかかえた赤ん坊によりそっている。けんかばかりしてるの、とスージーちゃんがぼやいていたがほほえましい姿にわたしも安心した。このふたりはおじいちゃんおばあちゃんになってもずっとこのままなんだろうなあ。
 現実を逃避。
 なぜかシーザーくんがみれなくて、ぼんやりとしあわせそうな姿をながめていると左手がそのおおきな手におおわれた。

「つまり、カエデ、結婚しよう」

 どこかでごーんごんと、鐘の音がきこえる。何のための鐘だろう。時間をつたえるものだろうか、はたまたはどこかで結婚式でもあげているのだろうか。
 すくいとられた左手がじんわりと熱をもった。

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