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行方不明になった日

「え、今なんて言ったの、銀」
「はーっだからよぉ……」

――――先生は、死んだ。それに……高杉がお前と、別れるとよ。

すまん、と泣きそうな顔でそう言って、銀時も何処かに行ってしまって。

そこで、夢が覚める。
いい夢ではない。ため息を吐いて、着替えて、仕事場である団子屋へ向かう。
久々にあの夢を見た。まだ、私は彼のことを忘れられない。

はしゃぐ子ども達の会話を聞いて、今日が祭りであるのに気付く。彼も祭り好きだったな、なんて思い出して、だから、あんな夢を見たのかな、と意識は思考に向いていて、肩がぶつかった。
謝罪をする。
笠を被った僧だったようで、「大丈夫だ、すまんかった」と言われて、顔を上げると、あっ、と声が合わさった。

「コタ……」
「久しいな、楓」
「うん、久しぶり」
「あれから10年か。随分と変わったな」
「そうかな?私は全然変わってないよ、コタ」
「……そうか、お前は……」
「?」
「いや、なんでもない。俺は行こう」

さらば、と笠を深く被って行くコタの背中を見送って、団子屋へ足を進めた。

「よお、楓」
「銀……」

団子3本、と注文して、長椅子に座る銀を見て、おばあさんに伝える。渡された団子は5本で首を傾げると、「知り合いなんだろう?話しておいで」と背中を押された。銀の隣に座って、団子を渡す。
コタとさっき会ったと伝えると、銀は嫌な顔をした。

「ヅラと会っただぁ?あいつ、一応テロリストだろ、お前もちったぁ警戒しろ」
「ふふっ、今日、二人に会えたから、彼にも会えたりして…………なんて」

彼、と出した途端に銀の眉間に皺が寄ったので冗談にした。
今日はほんとに、昔の知り合いに会う。みんなに会う度、思い出す昔のことは輝く彼の顔で、辛くなる。

「お前……ほんと変わんねぇよな」
「そうだと思うけど、コタには変わったって言われた」
「まあ、そりゃそうだろ……だって、お前」
「?」
「なんでもねぇよ、ごちそーさん。………………気を付けろよ」
「うん」

銀が再度忠告して、席を立つ。それから、働いて、夕方になると人は祭りの方に行って、早く店を閉めることとなった。それを手伝って、家で晩ごはんを作る気分になれなかったので、祭りで、やきそばでも買おうと思って、祭りの方へ出向いた。

焼きそばを買って、人気のない場所で座って、焼きそばを食べる。こんなところに彼が来ることはないか、と食べ終わった焼きそばの入れ物をごみ箱に捨てて、ボーッとする。
打ち上がった花火を見て、見世物でも始まったのかと思っていると、発砲音に似た音を聞いた。

今逃げるべきか、そう立ち竦んでいると、前方から人影が現れる。ふと、銀の「警戒しろ」と言った声が聞こえた気がして、体が固まった。

「ぁ……」
「よォ……楓」
「晋、助……」

目が潤む。俯いて、我慢だ。

「どうしたァ……。俺の顔を見て、怒りで震えてんのかァ?」

違う、そうじゃない。そうじゃない。なんで、今更。会いたくて、会いたくて、忘れた頃に思い出して、苦しくて、辛くて、我慢していた涙が溢れて、地面に染みを作る。

「…………あ?」

お前……と呼ばれて、顔を無理矢理上げさせられる。泣いている私に驚いているようで、右目が見開いている。

「なんで泣いてんだ?」
「ばか」
「はァ?」
「バカバカバカバーカ!!置いていって、何今更、どの面下げてここに来てんのよ!私の気持ちも知らないで……!」

口に出すつもりのなかった言葉が知らず知らず出ていて、血の気が引く。相手は昔馴染みだろうが、テロリストだ。ククっと笑い出す晋助の顔を見上げる。

「なんだ、杞憂だったんじゃねェか」
「…………?」

涙を拭って、どうしてここに来たかを聞く。晋助はテロリストで、指名手配されていて、こんなところにいたら真選組に捕まってしまう。……まあ、捕まる前に殺してしまうのだろうけど。

「祭りが好きなのは知ってるだろ。それに……会いに来た」
「……え?」

期待してしまいそうな言葉を言われて戸惑う。

「俺と来い、楓」
「な、なにいって」
「お前を遠ざけて守ってやろうと思っての言伝てだったが……お前は俺といたいらしいからなァ」
「……あ…………え?」

意味がわからない。晋助の気持ちがわからない。確かに、今でも晋助のことは好きだ。でも、晋助の気持ちは冷めているに決まっていて。

「おい、反応しろ」
「わかんないよ」
「あ?」
「晋助の考えてることがわかんないよ……。私を連れていっても、鍛えてないし、もう戦えないし、私は晋助の足手まといだよ……」
「俺が、お前といたい、じゃダメか」
「え……?」

そう言って、抱き締められた。いたいっていった?心臓がバクバクする。

「……晋助」
「昔も……今も……愛してる。だから、俺と来い」

そう言って、離れようとした晋助の着物の袖をぎゅっと握る。それに気付くと、またククっと笑って、キスをされた。私の決意が伝わったのか、袖を握っていた手をほどかれ、その手を握られる。

「行くか」
「……うん」

静かになったこの場から、離れた。

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