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味噌汁

数多くの刀を従えられる審神者が少なくなってしまったため、素質のある人々に一振りずつ刀剣男士が配られたというか、授けられたというか、押し付けられたというか。

そうして、半強制的に一人暮らししていた私に同居人が増えた。
それが、大和守安定だ。沖田総司の愛刀らしく、最初は警戒されたけど、それも昔(というか1年だけど)。ふんわりと笑う笑顔は綺麗だ。そんな安定にも裏の一面がある。
歴史修正主義者討伐班は数多くあり、安定のいる班は上の中といったところか。その班同士で行う演練を見せてもらったときに、思わず、言葉を失ったというか。

「首落ちて死ね!」

いつもの爽やか笑顔はどこに行ったのやら、戦い好きであるようだ。

「………ただいま」
「おかえ……どうしたの!?」

お仕事(歴史修正主義者討伐)から帰って来た安定が傷だらけで帰って来た。

「別に……怪我しただけだよ」
「重傷なのによく言う!ちょっと怪我しただけ、みたいに言わないでよ!」
「実際、いつも通りだよ。いつも怪我してるし」
「そうじゃなくて、怪我の深さとかが……ああもう!」

とりあえず、説教は後だ。お風呂場(生憎、手入れ部屋なんてない)に連れていき、打ち粉と消毒液のセットを持っていく。

「痛っ!」
「そりゃ、消毒液掛けてるからね」

服を脱ぐように言って、ざっくりといかれた背中に消毒液をぶっかけた。1年前の私は、安定が重傷で帰って来たときや手入れのときに、思わず気を失ったこともあったが、どうやらグロ耐性がついたらしい。1年前の私がざっくりいかれた背中を見たら、多分、意識を飛ばしているはずだ。安定は私に背中を向けて、本体の手入れをしている。

「……珍しい、安定が後ろからいかれるなんて」
「…………何」
「……別に、心配してないとか、そんなんじゃないよ」

……おかしなことを言ったのは自覚した。つまり、私は安定を心配して……ああもう!
まあ、それでも、処置は止めずにしていたから、強く押さえてしまって、痛いと抗議の声が聞こえた。
謝って無言だ各々処置をする。みるみる治る傷を見て、なんだか悲しくなる。

「なんでそんなに泣きそうなの」

ため息を吐くようにそう言われる。だって、怪我をしても、傷跡も残っていない。そして、また政府からの仕事で、怪我をする。だってもう私は。

「安定が怪我をしているのを見たくない」
「………」

出会った頃の安定は練度も低くて、怪我ばかりして帰って来て、時折私の意識まで飛ばした。練度が上がるにつれて、怪我の量も減って、怪我をしても重傷にはならなかった。だから、今日は肝が冷えた。家に帰って来たってことは無事であるからだし、「何か」が起こったら、政府から連絡が来る。でも、今日は漠然と安定が消えちゃうんじゃないかと思った。

「……それを言うの、こっちなんだけど」
「……は?なんで」
「消えてしまいそうなのは、お前でしょ!」
「何を、言ってるの?」

意味がわからない。はあ、とため息を吐かれる。

「僕に手入れするとき、無駄に霊力流しすぎなの」
「え、そうなの?!」

そんなことは知らない。だってそもそも私は普通の下宿している大学生だ。霊力を膨大に持っているような本職を審神者としている人とは違い、手入れの説明は説明書(のようなもの)に記してある通りにやっているだけで、審神者育成学校で手入れの実習(などをするらしい)で監督の先生からコツを教えてもらったわけではない。

「……てっきり、そういうとこに行ってると思ってたよ」
「物わかりがいいだけだよ。そもそも私の家は由緒ある家じゃないし、お金ないし」
「そう言うの関係ないんじゃなかった?」
「それでも、そんなイメージなの。傷癒えたみたいだから、ご飯の用意してるよ」
「……うん、わかったよ」

今日の晩ご飯は、いや今日の晩ご飯も和食だ。安定が来てからは和食が大半だ。安定曰く、刀剣男士には食事の必要はないらしい。でも、一人の食事は寂しいものなので、無理言って、一緒に食べてもらっている。

お風呂から上がった安定はタオルで髪の毛を拭いている。

「今日の晩ご飯は?」
「秋の味覚、秋刀魚!とお浸しとお味噌汁」

そう言ったら、安定の表情が明るくなる。安定は秋刀魚が好きなのかなるほど。
そうこうして晩ご飯は出来上がり、一緒にご飯を食べる。安定は秋刀魚に悪戦苦闘している。あれ?

「安定、秋刀魚初めて?」
「そうだよ?」
「え、じゃあ、何に喜んでたの?」
「味噌汁だけど」

味噌汁が安定の好物ですと!?お母さん直伝のお味噌汁が具が少なくて、その代わりお味噌に拘るというものだけど……。

「僕、君が作った味噌汁は好きだよ。毎日作ってほしいんだけど」
「………!?……!?」

ちょっと待って、多分、今勘違いした。安定は素で言ったんだ。うん、そうだ。
焦っている私に首を傾げながら、安定は味噌汁を飲んだ。

心臓に悪いよ!

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