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冬の月

「寒いなぁ……」

綺麗な満月の夜、熱燗とお猪口を持って、一人で月見をする楓。燭台切にはあまり多くは呑まぬよう言われていたが、そんなに多くも呑めるわけではない楓は、酒に映る満月を眺めて呑んでいただけだった。

「主、このような寒い夜に何をしている?」
「ああ、三日月爺。今日の月は空気が澄んでいて綺麗なんだ」
「ふむ……。だが主よ。体が冷えているのではないか?」
「大丈夫だよ。羽織も着ているから」

本当か?と言わんばかりに三日月は、楓の手を取る。いつから月見をしていたかわからないが手は冷えきっている。

「三日月爺の手は暖かいね」
「よく近くで見れば、主。酔っているな?」
「んー、何が?」

三日月の方を向いた楓の頬はほんのり赤みをさしており、目はとろんとしている。話し方などは酔いを感じさせないほどしっかりしていたが、うつらうつらしている。

「そろそろ寝なければいけないのではないのか主」
「んー、でも、まだ月を見ていたい」
「やめておけ、主」

そう言って、三日月は楓の目を手で塞ぐ。なんで、という楓に三日月は知らないのか、と驚いた表情で言う。

「秋の月は綺麗だが、冬の月を見るのはよろしくない。古来より冬の月は見ている者を隠してしまうからな」
「ふーん……じゃあ、私が月に隠される前に三日月爺がわたしを守ってくれたら嬉しいなぁ」

そう言うと、三日月の太股の上に頭を置き、眠り始める。

「なんと、無防備な主よ。それよりもここでは風邪を引いてしまう。俺は怒られるのは面倒だからな」

意識が落ちているのを知ってか知らずか、そう言い、楓を横抱きにする。目を薄く開いた楓に起こしてしまったかと思うが、ぼーっとしたように三日月の方を見ている。

「みかづきがふたつ、ある。きれい。かえでまた、おつきみしたい」

かえでと紡がれたその名を聞き、薄く笑みを溢す三日月。

「主よ、気をつけろ。俺も月であるぞ。楓よ」


呼ばれた声で目が覚める。
桜が満開で楓が紅葉している四季が交ざった場所。
夜なのにライトアップされているような幻想的な場所。

「楓よ」
「三日月爺……?」
「………俺のことは宗近であろう?」

宗近から与えられる情報でまるで何かが塗り替えられている気がする。でも、それには抗えない。

「俺たちはこれから永遠を共にするのだ、楓」
「永、遠……?」

少し混乱しているか、と言って、私を抱き締めてくる宗近。安心する。

「ここにきて疲れたであろう、眠れ。楓」
「う、ん…」

眠れ、と言われた瞬間に体が重くなる。眠くなる。ああ、ほんと不思議な人。もう、眠い。


「これで俺とお前は契ってしまえば、永遠に俺の物だ」

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