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家政婦

私は面倒がり屋だ。怖がりだ。我が儘だ。
ただ、漠然と死にたいと思うのに、痛いのは嫌だから、そこにあるカッターの刃を出しては、それを見て満足した。首を吊るのは、苦しいから嫌だ。首吊りは後も汚い。だから、嫌だ。飛び降りようとも思った。でも、高所恐怖症の私からすれば、高いところに行くと、足がすくんでそれより一歩が出ない。それに落ちるというのは痛いし、確実に死ねない。それ以前に私には家を出る気力すらない。睡眠薬が一番楽に死ねそうだ、と友人と話していた。が、それを買いに行く勇気も気力も私は持ち合わせていない。だから、のうのうとただ死にたいと願っていたのに。

「………何?殺してくれ?」
「私が死ねば、アーチャーも元の場所に戻れるだろうし」
「何故そうなる」
「私が家政婦欲しいとか言っちゃってしまって、こっちに来たみたいだから」
「何!それは初耳だぞッ!それにどういうことだ!家政婦が欲しいなどの理由で何故私がッ!」
「家政婦=アーチャーでしょ?」
「何故、そんな式が当てはまることになるんだッ!」

そう、ただ何もかもが面倒で。目の前にいるこちらの世界にトリップしてきてしまったアーチャーに、今すぐ帰りたいなら殺してくれと願ったのだが。

「……なぜ死のうなどと」
「……さあ?ただ死んだ方が楽だから。現実逃避も疲れたんだ。でも、私、我が儘だからさ。痛いのも苦しいのも嫌なわけ。アーチャーなら、傷みを伴うことなく殺してくれそうだし。ああ、でも、寝てる時の方が怖くないし、夜の方がいいなぁ」

そう言うと、目の前にいるアーチャーはただ、ため息を吐く。私は体を起こすといつものようにパソコンを開いて、ゲームをする。

そして、数時間後、夜になった。晩御飯は食べる気にならないから、机から動かず、ゲームをしていたら、ご飯は食べないのかと聞かれた。

「………?要らない。飢餓で死ぬのも本望だけど、やっぱり苦しくなって食べるから意味ないんだけどね」

アーチャーの方を見ずにそう言う。どんなに顔をしているのかすら、私は知らない。それから数時間、ゲームを梯子して丑三つ時を過ぎる。そろそろ眠い。アーチャーにおやすみ、と言って、眠りについた。殺してくれるだろうか。そろそろ、本当に疲れた。最期に一番に好きなキャラに会えて、もう十分なのだから。

何かに起こされてると気づいて、時計を手に取って時間を見る。7時30分。時計を置いて、布団の中に潜り込む。

「起きろ、朝だぞ」
「………なんで殺さない?」

開口一番それかね。というアーチャーは、布団を剥ぐ。それでも、起きないけどね。

「何故、君を殺さなければならない?」
「元の……世界に戻るためでしょ……」
「生憎、戻る世界などないんだが」
「ほら……凛ちゃんとか白野のところとか」
「……そもそも、君が呼んだからと言って、君が原因でなかったらどうする。残念ながら、私が先ほどいた場所というのが、英霊の座、というところか」

………眠くて頭が働かない。とりあえず、おやすみ、とくるまって目を瞑る。おい、寝るな、というアーチャーの声を聞き流して寝

べしっ

加減はしてあるだろうが叩かれた。痛い、と言うけど返答はない。

「……アーチャー?」
「なんだね、ほら朝ごはんだ」
「………………………………は?」

いなくなったアーチャーは部屋に戻ってくると、パソコンをどけ、プレートを乗せた。コーンスープにパン、目玉焼き。

「朝ごはんだ。その様子では昨日、1食も飯を摂っていなかったように見える」
「朝ごはんなんていら」
「………とにかく、君の生活を見ていたら、正したくなった。それまではここにいる」
「……!?ちょっ、何言って」
「とにかく、君が1日3食しっかり摂り、早寝早起きの規則正しい生活をするまではここに居ようと言っている」

頭を抱えそうだ。それにこの決心、絶対に揺るがないぞ……。拒否権も無いように思える。

「まあ、そう言うことだ。君の家に世話になるんだ。そう言えば、名前を聞いていなかったな。なんという」
「………黒雲楓デス」
「楓だな。了解した。とりあえず、冷める前食べたまえ」
「………ハイ」

目の前にある料理を食べる。美味しい。でも、眠い……。

「……………」
「……?おい、食べながら寝るな!!」

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