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移動は馬車だ。初めて見る地上に目を光らせるイザベル。私には……少し窮屈な場所だ。
そして、馬車に降ろされる。
「話を通してくる。そこを動くな」
そう言って、団員がそこを離れるとファーランがリヴァイ、と呼ぶ。
「調査兵団に入るって、それってつまり――」
「……入るつもりはねぇ。ここに来たのはあの金髪(エルヴィン)に近づくためだ。あの野郎――隙を見てすぐに殺してやる」
「…………――なあ、俺の計画を覚えてるだろ?もしまだ迷ってるなら聞いてくれ。あいつらのほうから接触してくるなんてもう無いぞ。今エルヴィンを殺してしまったら意味が無い。これはチャンスなんだ。きっとうまくいく。俺を信じろ」
リヴァイは何も言わない。そこに団員が戻ってきて、こっちへ来いと言う。…………リヴァイは何を考えてるんだろ。
夜、リヴァイがどこかに行って、探す。…………外かな。
「わ……きれい」
それと、見つけた。
「独り占めなんてずるいぞ」
「こっそり一人でいなくなっちまうんだもんな」
「お前らがいたらうるさくて、おちおち暗殺(コロシ)もできやしねぇからな」
「…………」
「へへっ」
「…………」
リヴァイの隣に座って、空を見上げる。満天の星空だ。
「星ってぐるぐる回るってあれホントか?」
「そうらしいぜ」
「リヴァイが元々いた所とどっちのほうが綺麗なんだ?」
「……さあな……こんな風に見上げるのはずいぶん久しぶりだ」
「初めて、見た」
「そうか……」
「ん……」
リヴァイに頭を撫でられる。まだ、やっぱり子ども扱い……。
「ファーラン、決めたよ。今は殺さねぇ、お前を信じよう」
「俺も!!信じよう!!ヒック」
「イザベル……」
「リヴァイが決めたことなら」
「カエデ……」
そして、夜が明ける。
舞台上に上げられる。……人いっぱい。
「全員注目!!今日から我々と共に戦う3人を紹介する。お前達、皆へ挨拶をしろ」
「リヴァイだ……」
「カエデ」
リヴァイに続いて、挨拶をする。それから、二人も。
「イザベル・アグノリア。よろしく頼むぜ!!」
「ファーラン・チャーチ。……です」
「「…………」」
前にいる団員達は睨んでいたり、とにかく静かだ。居心地悪りィ……。
「…………4人はフラゴンの分隊へ入る。フラゴン、面倒を見てやれ」
「じ……自分の隊でありますか!?」
「なんだ不満か?」
「い、いえ、てっきりエルヴィン分隊長の下へ入ると思っていたものですから……」
「エルヴィンには壁外調査で行う新陣形に備え全体指揮の補佐をまかせる。そのため彼に新兵の面倒を見る余裕はない。わかったか?」
「はっ!承知しました!!」
「以上だ。それでは各分隊、報告事項のある者――」
集会が終わって、案内をされる。
「ここが兵員宿舎だ」
「……結構な数だな……」
「やった!!みーんな一緒の部屋ってことか!?」
「女子は別棟だ」
「えーーっ俺もここがいい!!」
「無茶言うな、イザベル」
「…………」
「なんだよ、ファーランのケチ!」
「俺に言うなよ……」
「イザベル、抑えよ……」
「カエデ……」
「ここがお前たちの寝床だ」
「「…………」」
見せられたのはボロい2段ベッド。リヴァイがソレに近づいて、木を触る。パラパラと屑が落ちる。
「「…………」」
「?お前ら、ずっと地下のごみ溜めで暮らしてきたんだろうが、ここは清潔に使えよ」
「「あ?」」
思わず、リヴァイと声が重なる。それもそうだろう。だって……リヴァイのこと知らないのに何を言って……、と無意識に威嚇していたらしい。ファーランが止める。
「てめぇ……今なんて言った?」
「なに……?貴様ぁっ上官に向かってその態度はなんだ!!」
「あーーっと、大丈夫です分隊長さん!!綺麗につかいますから!!なっ?」
「…………ちっ荷物の整理がついたら訓練場へ来い。チャーチには正しい敬礼から叩き込んでやる」
そう言って、分隊長は部屋から出る。……用意しなきゃ。
「リヴァイ、騒動を起こすなって言っただろう!!」
「お前にはクソがクソを汚ねぇって言ってるように聞こえなかったのか?」
「……あのなぁ……兵隊のイビリってやつは陰湿なんだぞ。こんなことで目をつけられたら……」
「フン、つまらん真似をしやがったら相応の礼をしてやるだけだ」
「そーいうこと!」
「あぁ、もう……ここにいる目的を忘れたんじゃないだろうな?」
「覚えている」
「だったら!あの書類を手に入れるまで、なるべく団員に警戒心を持たれないようにしてくれ」
「面倒くせぇな……」
「面倒……」
「――……」
「兄貴を困らすなよファーラン!!地下街みたく全員ぶちのめしちゃえばいいじゃん!」
「うるさい。頭の悪いヤツは黙ってろ」
「おい!!誰が頭悪いって!?」
「18+22はいくつだ?」
「えっえっと8と2を足して……」
「……カエデ」
「40」
「そういうことだ馬鹿」
「てっ兄貴まで馬鹿って……」
「面倒くせぇな馬鹿」
そう言って、イザベルの頭を撫でる。
「足し算なんて生きていくのに必要ねぇし……ファーランはメシの代わりに数字でも食ってりゃいいんだ」
「だがな、ファーラン」
「うっ」
「お前の計画ではあの金髪の隊へ入るはずじゃなかったか?」
「多少の誤差は勘弁しろ。兵団には入れたんだ。壁外調査までにブツを見つけさえすれば……」
「それだけじゃねぇ。あいつの始末も残ってる」
「気持ちは分かるがそれについては――」
「ファーラン、お前の計画なはのるが、奴を殺るのは俺だ」
「…………分かってるさ」
「――だが、その前に――カエデ」
「はい」
三角巾と箒を渡す。リヴァイが窓を開ける。
「ベッドの周りを綺麗にしろ。塵ひとつ残すなよ」
「はァい」
「…………今すぐにか……?」
「俺に騒動を起こさせたくないんだろう?」
「そーいうこと!」
そうして、部屋の掃除が始まる。うー、女子部屋もしなきゃ……一人で。
「はァあ!」
みんなと別れて訓練だ。巨人を模したところにある項を削ぐだけ。倒し終わったら、馬を呼ぶ。……楽勝。
「凄い……言うことはただひとつだけなんだけど……」
そう言って教育係が左手を差す。
「その持ち方は正しくないんだ……」
「こっちの方が扱いやすい。クセみたいな感じ」
訓練の休憩中、教育係が近づいてきた。
「…………?」
「そう言えば、君は何歳なんだ?もう一人の女よりもどう見ても年下だろう?」
「11」
「!?」
「……何?」
多分、11歳。リヴァイがそれくらいだろうと言っていた。
驚く教育係に首を傾げる。
「訓練兵ですら12才からなのに……!こんな子どもに……!?」
「子ども扱いは好きじゃない」
水分補給は終えた。さあ、訓練再開するかな。
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