4.未来の彼がやってきた!
「ここは………」
「……国広?私の顔に何か付いてるの?それに、みんなは?」
みんなが出撃や遠征でいなくなったとき、出撃していた山姥切が一人で帰って来た。心なしか私を見る目が少し違うと、審神者は気付く。雰囲気もどこか違うような……と。
「……ああ、そうか。あんたはまだ」
「まだ……?」
「いや、なんでもない。若い頃のあんたに会えて俺は嬉しい」
そう言って、審神者の顔に手を添える山姥切。若い頃の私、と言うことはこの山姥切は恐らく……と考えが行着き、口を開く。
「未来から来た?」
「ああ、そうだ。…………少ししくじって時空の境に落ちた。まあ、今のあんたに会えたし、いいか」
「国広はいつから来たの?私は今、17歳だよ」
「なら……73年後だな。あんたの昔のことは今でも鮮明に覚えている。会いたかった」
そう言って、審神者の首もとに顔を埋め、抱きつく山姥切。審神者は山姥切のこの反応を見て、気付いてしまう。
「(きっと、この国広がいる時代の私は死んでしまったのだ)」
と、だから、嬉しいと思うし、こんなに大胆にも抱き付いてしまう。そして、仕舞いには、俺に神隠しが出来れば……、とも言い始める始末。
「そんなに、私のことがよかったの?」
「当然だ。今の審神者はあんたと比べ物にならないほどに酷い。あんたが俺の主で、ずっとあんたに」
「うん、そっか。でもね。私は人間なの。神じゃない。永遠の命なんてあるわけないし、人に永遠はない。いずれ来る失う悲しみを知ってるから、当たり前の日々は楽しいし、思い出になる。だから、さ。嫌になったら、またここに来てもいいんだよ。国広が今の審神者をどうして、そう思ってるかぐらいは聞ける」
審神者が山姥切を抱きしめ返すと、更に強く抱きしめられる。
そして、ああ、と、少しこのままで居させてくれと言って、審神者は快く承諾する。
どれほど、彼が彼女を思っていようが、言わなければ彼女には伝わらない。だから、最期の時しかその想いを伝えられなかったのだ。
最初で最期の告白に、驚く審神者の顔を思い出す。実は私もそうだった、ということを言われて、後悔はしている。
だが、今の俺が言ってはいけないことだ。この時代の俺が勇気を出して言える日を待たなければ。……恐らく、そんな日は無いが。
ただ、愛おしい自分の主を補充出来たので、山姥切は幸せそうに立ち上がる。
「もう、帰る?」
「ああ、長居はあまりいけない。元の時代に帰らないとな」
「じゃあ、ちょっと待ってて」
そう言って、審神者は屋敷を出る。垂れ桜の枝を切り取り、霊力を加える。
「はい、お守り。好きなところに入れておいて。国広がこれからも無事でありますように」
「………ありがとう」
「また……いつでも来てね」
「……ああ」
そう言って、山姥切はいなくなる。
祈るように差していた簪をぎゅっと握った。
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