「結婚してください!」 | ナノ
05.「にゃーにゃーにゃー」

新入り猫をお迎えして、1週間が経ちました。そして、グラニュー糖をそのまま流し込むように、だだ甘い愛の言葉を受けること1週間経ちました。くそ長かった。腐れ縁とジョセフ曰く、イタリア男児としてのナンパとかそこらの女の子を引っ掻ける術は、しっかり、というか平均以上より持ち合わせていたらしいが、真剣な恋愛をしてしまったから、そこら辺が完全に飛んでしまったらしい。だからあの過程のすっ飛んだプロポーズになったらしく。

1週間前のあれから、色男としての力を際限なく発揮しているため、私の癒しは獣医学部での講義である。講義が終わるチャイムが鳴って、一息吐いて、じゃ、よろしく。と、同期に挨拶をして、図書館に走った。

「カエデ、カフェテリアで……いねぇ」
「あー、黒雲なら用があるとかでどっか行ったぞ」
「……そうか」
「なあ、留学生くん」
「なんだ」

俺はカエデを探さなければ行けないんだ、と視線が語っており、楓の同期の口元が引きつる。

「うちの学部の紅一点に猛アタックするのはいいけどよぉ、それ、将来まで見据えてやってんのか」
「あん?」
「黒雲は日本で開業獣医するっていう話は俺たちも知ってんだよ。獣医なんて仕事、結婚願望があるなら、学生のうちに恋人作ってそのままゴールインがいいんだよ」
「…………で」
「……はあ。ついでに離婚率も高い。家族の時間が中々取れなくなる。この辺は医者となんら変わらん」

それがどうした、というシーザーに同期は首を振った。

「黒雲、結婚願望薄いし、猫大好きな変人な訳だが、交際中にイタリアに帰って、行方不明になられると面倒なんで、これから宣誓してもらいまーす」
「いえーい」
「ひゅーひゅー」

シーザーはぽかーんとしている。バンッと目の前に出された書状には黒雲楓と交際した際の誓約と書かれている。イタリア人はカトリック教徒が多いもので、誓約とは神に誓うものなので、十分効力が伴う、とは同期は考えていないだろう。一目通したシーザーは躊躇いもなく、サインをした。

「愛の力すげー」
「で、カエデはどこにいるかわかるか」
「いんや、知らね。ついでに言うが、この棟に入って黒雲口説くのはやめてくれ、非リアにはキッツい」
「……?ああ、わかった」

理解しがたい言葉に首を傾げながら、講義室を出ていったシーザーを見送って、一同が安心から出たため息を吐いて笑いに包まれた。


「……なあ、カエデ」
「…………」
「…………その子がミルク飲み終わってから、話がしたいんだ」
「わかった」

最近、シーザーが私を理解してきたらしい。獣医学部の棟に入って来なくなって、気が楽になった分、家で、キャンパス内で、ひたすらに口説かれる。もう、他の女の子からは可哀想だ、と憐れな目で見られることこれまた1週間。真剣にそういうシーザーにそろそろ答えを出さなきゃなぁ、とペロペロとミルクを飲む新入り猫を撫でて思った。

腐れ縁は自室に籠って勉強。ジョセフはアメリカにいるという恋人と電話をしているらしく、珍しく自室にいる。シーザーが紅茶でいいか、と聞くので、頷く。ソファーに一人座れるぐらい離れて座る。

「カエデ、好きだ。付き合ってくれ」
「……確認して、いい?」
「なんだい」

優しく、細められる目に、しっかりと、私と付き合うということの現実を突きつけなければいけない。

「私、結婚願望はないわけじゃあないけど、凄くしたい、っていうわけじゃない。なりたい仕事が獣医だから」
「……ああ」
「可能なら学生のうちに恋人作って、そのまま結婚できたらな、ってぐらいで。シーザーはイタリアに帰っちゃう、でしょう?」
「……ああ、でも、俺はカエデに告白したときから変わらない。結婚を前提に付き合いたいんだ」
「日本で開業したい」
「俺が日本にいればいいんだろ」

間を空けずにそう返すものだし、言葉を失いそうになる。

「家事は出来ないし」
「知ってるさ」
「猫は多分、これ以上増えるよ」
「カエデは猫が大好きだからな、俺はそれよりもカエデが好きだが」
「…………犬派?猫派?」
「猫派だ」
「前は犬派だったのに」
「猫が周りにいる環境で猫にベクトルが傾くのは仕方ないだろう?カエデが俺を猫派に変えたんだ」
「……こんな私で、いいのなら」

もらってください、そう言ったら、口を塞がれる。ファーストキスは愛猫にもらってもらったが、まあ、口には出さないでおこう。人とのキスはこれが初めてなわけであるし、ちゅっちゅっと何度もキスをされて、息をしようとして、口を開けたら、唇を重ねられて、舌まで入れられて、絡められる。本格的に息が出来なくて、胸元を押すが、シーザーは止まらない。突然、おでことおでこがぶつかって、朦朧としていた意識が半分覚醒する。キスは終わったようで、ふうと、視界がクリアになる頃には、にゃぁんとご飯を催促している愛猫の姿があった。

「ごめんねー、ご飯だねぇ、用意するから待ってて!」
「…………今、いいところだったのに」
「なぁん」
「……くっ」
「はいはい、サファイア、猫部屋行こうね」

にゃぁん、と後ろをついてくるロシアンブルーのサファイアの後ろを久々に見た引っ掻き跡のついたシーザーを見て笑った。絆創膏は新たに補充してあるのだ。

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