ネタ供養と名前変換なし(小説) | ナノ
転生したらスタンドがいた

平凡に平凡を重ねて、知人に紹介されたことがきっかけで付き合うことになった人と結婚して、子どもも産んで、子どもと散歩していたら、飛び出した子どもに声をかけようとして、でも、その前に、大事な我が子を守らなければいけないと、そう思って、子どもの背を押して、トラックを前に、子どもの成長と漫画の結末、見守りたかったな、と、三十路一歩手前の29歳、しかも誕生日の前日に、子どもと漫画が同等なんて、と自嘲しながら、その人生に幕を閉じた、はずだった。

おぎゃあおぎゃあと泣く自分に、どうして泣いているのだろう、目の前にいる声をかける、顔がはっきりしない女性に、戸惑いつつ、なんとなく、ああ、転生したのかな、なんて、産まれる以前の記憶があることを恨めしく思った。記憶がなければ、純粋に、二度目の人生も謳歌できるだろうに、なんて思いながら。

視界がぼんやりしていた赤ん坊から、旗を持つ聖女様がいた。3歳になって、視界がはっきりして、それと同じくして前世の記憶が抜けた。前世の名前はもう覚えちゃいないし、愛しの我が子の顔すら思い出せなかった。旗を持つ聖女と遊んでいたら、近所の子に気味悪がれ、両親にも気味悪がれ、気づいたら孤児院の前に捨てられていた。聖女様を必死に隠して孤児院の子と遊んで、一人のときは聖女様と枯れている花を治して。

5歳になった頃、それでも孤児院で浮いた存在になっていた私は、SPW財団という組織に引き取られることになった。どうやら、聖女様の力をコントロール出来るように、とのことらしい。あと、水の上に浮いてるのは聖女様の力ではないらしく、聖女様の精密なコントロールの前にイタリア行きが決行された。とりあえず便利だから、とイタリアに行く前に、イタリア語と英語を覚えさせられた。

イタリア行きが決行されたのは6歳のときだ。聖女様(スタンドというらしい)の基本的なコントロールは出来るようにはなった。水の上に浮くことが出来る力(波紋法というらしい)を学ぶためには、エア・サプレーナ島というところで修行らしい。義務教育は、と思っていたら、初等部に行きながら、修行らしい。イタリアは9月から学年が始まるので、4月からイタリアに移住して5ヶ月、みっちりリサリサ先生から修行を受けました。スパルタすぎ。でも、リサリサ先生の飴と鞭の使い方が上手過ぎると思う。

15歳だと言うリサリサ先生も高等部に行っているから、修行はもっぱら夕方だ。初等部のクラスでも見事に浮いた。だってそもそも生粋の日本人だった私は黒髪、黒目。リサリサ先生も黒髪だけど、綺麗な青色なわけで。リュックを背負って、船に乗る。リサリサ先生が戻ってくるまでは読書タイムだ。

「お待たせしました。カエデ、乗っていますね」
「うん」
「では向かいましょう」

どーんとそびえ立つ地獄昇柱なるものに、あれは貴方が波紋をマスターした時に登るものですよ、と言われて、凄い目で見てしまったことを覚えてる。島に着いて、サイズがないため、オーダーメイドで作られた呼吸法矯正マスクを着けて、今日も修行です。

11歳になりました。初等部最後の年(イタリアの小学校は5年)、終業式が終わった、と船に乗ってゆらゆら、幼いながら、波紋をしっかり身に付けた私は、栄養補給したら、最終試練と称して、地獄昇柱に叩き落とされた。唐突で酷すぎるよ、リサリサ先生。

2日間半かけて登りきりました。死ぬ。シャワー浴びたら、お祝いよ、と言われた。こういうところが飴と鞭の使いようなんだよう。美味しい食事を食べ、『飴』である大きな熊のぬいぐるみを抱き枕に寝た。

波紋法を物にしたというなら、と、聖女様の力を引き出そう、だ。Andiamo in America(レッツゴーアメリカ)である。

波紋伝導率100%のマフラーをもらって、抱擁の後、SPW財団の迎えでアメリカに向かった。

12歳、スタンドのコントロールはそれは上手く出来た。スパルタじゃないのに、早い。聖女様は旗を振れば、力は湧くし、怪我は治る。旗を槍のようにしてぶん殴ることも可能らしい。しっかりコントロールできるようになって、剣をもらった。

13歳。剣術を学ぶようにと言われ、イタリアに戻ってきました。SPW財団は私に何をさせたいんだろう。と聞いたら、スタンドを悪用する人間を止めるためには、スタンド使いがいなきゃダメなんだ、と困ったように言われた。どうやら、罪悪感は感じているらしい。

「握り方がなってねぇぞぉ!」
「はい!」

銀髪を靡かせた剣の師匠、スクアーロはSPW財団が手を組んでいるボンゴレファミリーというマフィアの謹慎中ではあるが暗殺部隊の副隊長らしい。木刀を軽々と振り回す。リサリサ先生並みにスパルタで涙が出てきそう。大体、孤児院から出るとなれば養子縁組とか色々あるだろ、私結局、天涯孤独じゃん。なんて、思ってたら吹っ飛ばされた。酷いよ、鬼畜だよこの人、リサリサ先生並みにスパルタだけど、飴がないんだよ、その点この人の方が鬼畜なんだよ。学校にも行かせてくれなかった。やっぱり鬼畜だよ。深い森の中で修行をしたので、おかげ(?)で野宿も苦じゃなくなったよ!!嬉しくない。サバイバル知識も自然と備え付けられたよ……。聖女様はどこかに行ってたみたいだけど、怪我はないし、何もなかったんだろう。

14歳。

「ありがとうございました」
「財団に頼まれたしな。剣豪の弟子だと言いふらしてもいいんだぜ」
「毎日鍛練は欠かさないですけど、人を斬るつもりはないです」
「てめえは筋がいい。ヴァリアーに入れてもいい」
「だから、人殺しするつもりはないです」
「気が向いたら連絡しろ」
「……はあ」
「じゃあな」
「はい!」

スタッと森の奥に消えていったら、財団の人が迎えに来た。私に初任務があるらしく、日本に飛ぶ、と言われたので、急いでエア・サプレーナ島に寄ってくれと言った。

「リサリサ先生!」
「カエデ、久しいですね」

抱き付いた。スパルタだけど、優しいもん……。飴がないとやっていけないもの。うりうりとリサリサ先生に引っ付いた。そこに視線が一つ。矯正マスクを着けた金髪の男性だ。

「リサリサ先生、その子は?」
「カエデ、弟弟子のシーザーです。挨拶を」
「え」
「はい。カエデと言います。よろしく、シーザー」
「初めまして、カエデ。カエデはどうしてここに?」
「日本に行くらしいから、リサリサ先生に顔出しに」
「食事はどうかしら」
「もしいいなら食べたいです!」
「元気そうね」
「剣の修行、川魚と野草だけだったから……」

びっくりした、リサリサ先生にめっちゃ料理を出された。食べ盛りなのになんて酷い、と、料理が美味しいです。差し支えなければ年齢を聞いていいかい、何て言うシーザーに14歳、と言ったらぎょっとされた酷い。

誕生日は財団に引き取ってもらった日、4月3日だ。中学二年だ。どうやら、手を組んでいるボンゴレファミリーの10代目候補がいるから詳細を求める。とのこと。確かに私しかできないね、と思いつつ。真新しい今世初めての制服を身に纏って、ひょっこり戻ってきた聖女様に首を傾げながら、剣を顕現させず、メモの地図を見ながら、並盛中学に転入する。

「聖女様、導いてください」

思わず、そう言わずには要られなかった。聖女様がにゅっと出て、並盛中学へ先導してくれる。校門が見えたところでありがとうと呟いて、校舎に入った。

校門を潜って、校舎に入って、キョロキョロする。校舎の中についてのメモがないです、財団の人。

「ねえ」
「はい!」

後ろから声をかけられて、びっくりして振り向く。黒の学ランを肩にかけ、黒の学ランに風紀の紋章が付いている。

「見かけない顔だね。遅刻したのかい」
「えっと、迷子になって。職員室ってどこですか」
「……新入生?」
「今日、転校してきた星城楓と言います。2年です」
「……ああ、ついてきなよ」
「ありがとうございます」

職員室に着いて、迷子になった、と伝えれば、苦笑いされた。私も苦笑いです。授業中だから、次の授業から、と言われ、必要書類を書く。案内してくれた人をどこかに行っていて、気づけば、授業終わりのチャイムが鳴って、教室に向かう。2-A、そこが私のクラスだ。10代目候補の沢田綱吉も2-Aだとか書いてあったな、と思いながら、教室に入る。自己紹介を手短に済ませて、後ろの席を指されて座る。どうやら、2時間目は担任の授業のようだ。クラスのお調子者が、授業を受けたくないのか、質問しよーぜーと言う。困ったな、質問に上手く答えられるか。前世の記憶はもうほとんどない。あるのは、“私”と関係ない、必要性の感じない高校数学などだ。

「どこから来たんですか」
「アメリカのテキサス州です」
「じゃあ、英語話せるの?」
「ええ、一応」

アメリカにいたのは1年間だけなので微妙だけど。

「好きな食べ物は?」
「カルパッチョとかですかね」
「……えっと?」
「イタリア料理です。近所にイタリア料理店があったもので」

無いです。イタリアでイタリア料理を食べました。というかなんでアメリカから来たことになっているかと言うと去年、イタリアでの剣の修行で、アメリカ在籍でホームスクーリングをしていた、ということになった、戸惑った。なんで一昨年、飛び級しなかったんだろ。

「…………ふう」
「質問攻めで疲れたか?」
「いえ、授業を進めてくれる方が嬉しいだけです。やった範囲かやっていないかがわからないので」
「星城は大真面目なんだな」
「…………真面目なんかじゃあありませんよ。ところで君は」
「俺は山本武。よろしくな、星城」

授業が終わって、そそくさと家に帰る。道を間違えないように、聖女様の導きのままに。家に着いて、郵便受けに入っている物を取り出す。あ、リサリサ先生と……財団からだ。靴を脱いで、鞄を下ろして、ベッドに飛び込む。まずは財団から、と思ってビリっと破って、中身を出す。……カードが出てきた。待って。紙を見れば、必要な物を引き出してくれ(意訳)だった。……と言っても、1階が道場で、2階が2LDK、家具とアメリカに置いていた本は家にあり、食費ね、OK、と勝手に解釈。テレビは要らないと言っておいたので、リビングは広々としている。リサリサ先生からの手紙は綺麗に開けると、日本行きについての労いの言葉とか、しっかり食事を取ること、と書かれている。リサリサ先生がマードレ(ママ)だったらなぁなんて思いながら、返信を書こうとしたら、2枚目がある。見るとシーザーからだ。シニョリーナ、なんて書かれている。意訳すればまた会いたい、だった。きっと、波紋戦士になったら会えるよ、と返事を書いておくことにする。頑張れ地獄昇柱。クラシックでも流して、返事を書いて、なにかと財団が行くという中東でよく使われる、アラビア語の勉強を始めた。


9月、夏休みを終え、嫌々皆が学校に来るとき、サボって図書館に行こうかなと思ったけど、任務のため、学校に来ました。何だって日本は8時30分登校とか言うそんな早い時間なんだね。うんうん、と眠い目を擦りながらの学校です。視界がボヤけてる。どうやら制服チェックの日、らしい。スカートは何もしていないし、ボタンは第一ボタンしか開けてない。大丈夫でしょう。

「Sono molto assonnato(死ぬほど眠い)……」
「やあ、随分と眠そうだね」
「あー……あー……、職員室に案内してくれた人……。あのときはどうも……」

視界はクリアにならない。昨夜(?)、今日が学校が始まることを忘れて4時に寝たことによる弊害だ。後頭痛も凄い。

「……覚えていたんだ」
「風紀委員っていうことしか、知らないですけどネ。ふあ」
「…………そんなに眠いなら、寝かせてあげよう」

その言葉が聞こえて、意識が途絶えた。


「………………La Signorina Risarisa(リサリサ先生)?」

やってしまったと思う。エア・サプレーナ島の医務室だと思ってた死のう。思い出す。学校に来て、風紀委員の人と話して、寝落ちした。少し後頭部が痛いが、ただの寝不足だろう。カーテンを開けると専ら女の子しか診ないセクハラ教師らしい、Dr.シャマルがいるし、ボンゴレ10代目候補がいる影響で集まったマフィア、殺し屋の一人であるという前知識。困ったな……なんて、後頭部に波紋を流しながら、痛みを和らげる。…………あれ、まあいいか。

「目を覚ましたんだね〜」
「今、何時ですか」
「それよりおじさんとイイことしない?」
「断ります」
「なんだぁつれねぇの」
「……他の女を引っ掻けた方が早いですよ、シニョーレ」

あしらいかたはイタリアにいたときに習得済みだ。まあ、ヴェネチアにいたときにリサリサ先生がナンパされていたときに覚えたのだけど。と、保健室のドアが開いた。

「お、星城。大丈夫か?」
「え、はい。どうして山本くんが」
「先生からプリントだよ。もう今日は終わったしな」
「え」
「そら」
「ありがとうございます」
「あ、頭痛いとかはねぇか」
「大丈夫です。ありがとうございました」
「ん、お大事に」

保健室を出て、家に帰る。保健室登校したなんて……。

それから1週間が経ち、学校中がピリピリしている。話を聞くと、風紀委員が病院送りになっているらしい。物騒だなァと思いながら授業を聞く。授業が終わるチャイムを聞いて、次の授業の準備をしていると、獄寺、という山本くんの声が聞こえました。

「どうかしましたか」
「いや、獄寺の野郎フケるのかなって」
「まあ、彼は賢いですから授業は暇でしょうね」
「そういう星城だって賢いだろ〜」
「私は……普通ですよ」

次の授業を聞いていると、授業途中だが、会議で完全下校が決定したらしい。

「一人で帰んのか」
「はい。では」
「お、おい!」

マフィア、ギャングの抗争には巻き込まれたくないなァと、聖女様と家へと歩く。明日は土曜日か、食材を買い揃えることにしよう、そうしよう、と心に誓った。

付けられてる、見られてると気付いたのは並盛商店街を出た後からだ。可愛い黄色い鳥が小型カメラを持って、私を映しているのだろう。全く、盗撮というのは犯罪である。鳥が背後を撮っていると感じた。……聖女様、カメラだけ、壊せる?

にゅっと現れた聖女様がカメラを壊して、ふう、と息が漏れる。これで容赦なく、後ろにいるストーカーをボコせる。波紋を込めた回し蹴りで一撃で沈めた。全く、凄いよ、波紋は。

「…………処理は財団に任せよう」

近くの公衆電話に入って、SPW財団日本支部に電話をかける。

「……楓です。はい、そうです。それで、お願いが。あの、ストーカーを伸しちゃって、はい、はい、すいません。お願いします」

うん、家に帰ろう。

次の日、財団の人が家に来て、事情聴取だ。商店街から付けられてるなぁ、と思って振り返ったら、ストーカーがいて、思わず足がと言っておいた。振り返ると同時に回し蹴りだと言うのはやめておこう。とりあえず、始末書を渡されたので、仕方なく、書く。どうして蹴りを入れたかと言うと手が荷物で塞がれていたからだ。

3日後、風邪で休んでいた山本くんが学校に来た。ついでに獄寺くんも。沢田くんはまだお休みだ。追加で10代目候補の人間関係もまとめておけと言われたけど、そこまで仲良くないっていうのがなァ。なんて、風邪、大丈夫?と、聞くことしかせず、友達の京子ちゃんと週末の予定を組んで、不穏な空気が去った学校で授業を受けた。

1ヶ月後の休日、SPW財団から呼び出しを受けて、昼ではあるが個室の料亭でご飯を食べて、依頼を受けて、人の調査という依頼ではなく、引き取られた理由である、波紋を使う初仕事だ。財団からは休学書を出してもらい、昼夜逆転の生活が始まるわけだ。そうとなれば、家で仮眠を取らなければ、と家に帰る最中、寄った商店街で爆発と聞き覚えのある大声に思わず逃げた。

帰宅して、眠りについて、起きたら6時過ぎだ。食事をして、10月になれば夜も寒い日があるため、少し早いマフラーは寒がりなのかな程度で済むだろう。黒いTシャツに黒のミニスカートの下にはレギンスが履いてあって、黒のショートブーツ。どう見ても不審者ですありがとうございます。財団に頼んで取り寄せたワインをワイングラスに入れて、並盛を徘徊する。任務の内容はそこそこ知性のあるゾンビが並盛にいるから確保、もしくは撃退しろ、とのこと。

「…………反応無し。この街一人で散策とは財団もブラックだなァ」

反応しないワイングラスにため息を吐きながら、地図を見ながら、並盛を散策する。聖女様にゾンビ探しを手伝ってもらうのは最終手段だ。あれにはある意味代償がいる。まだ、ゾンビが人の血を吸っていない。つまり屋内にいるはずだ。

「星城?」
「な……山本くん?」
「こんな時間になんで外にいるんだ?」
「それはこっちの台詞です。それに怪我まで。早くお帰りになった方がいいと思いますよ。夜は善くない物が出やすいですから」
「てめえが言うか星城」
「獄寺さんもお気をつけて」
「星城、どこに行くんだ。そっちは森だろ?」
「山本くんや獄寺さんが心配する必要はありませんよ」

ワゴン車が前を停まる。

「どうやら変死、行方不明の報告はまだないようです」
「……まだあちらは動き出していないということでしょう。それか今日動くのか。ああ、この二名を家に帰して差し上げて」
「あ?!」
「わかりました、どうぞこちらへ」
「それより星城を送った方が……!」
「気にしないでください。どうせ忘れることですから」
「……はあ!?」

額に手を置いて波紋を流す。今、会ったことは忘れるように。

「じゃ、彼らのことはお願いします。私は引き続き調査を」
「はい、気をつけてくださいませ!」

昼夜逆転生活7日目、リサリサ先生からゾンビについての説明、気をつけて、とのこと。シーザーからは手紙がない。修行を終えて、島を出たみたい。

「…………Aspettare(待って)」

今日も今日とてゾンビ探しだったのだが、うーん、なんでここに沢田10代目ボス候補とその友人の獄寺さんと山本くん。対するはスクアーロ筆頭に同じ隊服を着てるから、暗殺部隊の方々、だろう。回れ右だ。この地区明日でいいよね、明日見回ろうとしたところを先回りしよ……う…………。

「Ciao、カエデ」
「…………スクアーロ、お久しぶりです」
「さっき、てめえの気配があったが逃げたな」
「………………追いかけて来て、酷いです。私が危ない橋を渡るのは、財団の任務だけって決めてるのに」
「で、なんでてめえがここにいる」
「お仕事です。じゃなかったら普通に学校行ってます」
「剣は」
「毎日、素振りは欠かしてません」
「……ふん」
「あ、スクアーロ。言っても無駄かもしれませんけど、この街にこっち関係で危険なことがあるので、夜はあんまり出歩かない方がいい」

片隅にでもいれておく、と言われて頭をぐしゃっとされた。酷い。てめえは夜、並盛中学に近づくなよ、と言われて、スクアーロはいなくなった。

思わず舌打ちしたのは悪くなかった。ゾンビ捜索から2週間目、スクアーロと会って、1週間。遂に、というか、いや不謹慎ではあるが、被害者が出た。しかも、それは財団の人間だ。ゾンビに襲われたらゾンビになる。それは、元仲間を殺すということと同意義だった。それによって、並盛に来たゾンビはボロが出て、姿を現した。

「……全職員に夜の外出は徹底的に禁止した。面識がないから問題ない、殺れる」

剣を発現させて、元職員に剣に波紋を流して、殺す。緋色の波紋疾走で燃やせば問題はない。

「……ふう。被害は最小限。焦って動き出してはいるだろうし、ごほっ」

煙草に火をつけて、息を吐く。呑気にワイン片手に探知できないから煙草の煙を利用するためだ。好き嫌いの話じゃあない。ゆらりと導くように風の流れとは逆走する煙を見て、それについていく。

「…………50人弱かァ」

被害が拡大していた。しかもあれは暗殺部隊の隊服だと思われる。行こうとしている場所は何処だろう。一点に集中している。…………終着点で殺していく方が楽だよな。

「聖女様、あれの行く末を導いて」

小さく頭痛がし始めた。聖女様の啓示は、直感に近い。あらゆる可能性を一度にかけて、最良の選択をする。よって、少し脳に負担がかかる。

「並盛中学……」

2週間通っていない学校を目前にして、不意にスクアーロの言葉を思い出す。ああ、ここで何かをしていたのか。呼吸を整える。大丈夫、いつも通りだ。開いている校門にこの際問題ない。やることは一つ。

「ゾンビの殲滅ってネ!」

肘打ち、掌底、回し蹴り、波紋を込めながら、ゾンビを薙ぎ倒して行く。

「……ラストもう一体は……あっちか」
「星城?」
「…………」

舌打ちしそうになった。危ない危ない。無視して、煙の行く方に、だ。追いかけられるのも面倒なので、急いでゾンビ狩りだ。

「見つけた」
「貴様、生きて」
「一般人を巻き込まなかった……いや、巻き込んだか、死になよ」

発現させた剣で一太刀。砂になって消えるゾンビを見送って、剣を消す。近くにある公衆電話でSPW財団に電話を掛ける。出てきた職員に隠語でゾンビ殲滅を伝えて、迎えを頼む。10数分すれば迎えが来るらしい。思いの外使えると判明した煙草を足で火を踏み消す。と、黒の高級車が止まった。……早く財団職員来て。

「星城楓、でいいな」
「……貴方は」

金髪にファーのついたコートを着る男が出てきて、黒スーツの護衛のマフィアです。とわかる。

「俺はディーノ。キャバッローネの」
「あ、マフィアに関わるつもりはないので、そこら辺の自己紹介は不要です。用件を伝えていただければ」
「ツナとかを送った帰りだ。山本が気にしてたからよ。乗れよ、送ってやるぜ」
「迎えが来るので結構です」
「迎え?なら迎えが来るまで待っておくぜ」
「はあ」
「スクアーロもいるぜ」

車から出てきた(出された?)車椅子。乗っているのは包帯に巻かれて目しか見えない。特徴的な長い銀髪。

「あ、ほんとだ。ボロボロにされてやんの」
「う"ぉぉい……」

レアだ。激レアだ。耳がキーンってしない。去年は鼓膜が破れるかと何回心配したか。

「カエデ……てめえのお仕事って奴は終わったのか」
「ええ、今日に。あ、怪我が早くなるようにまじないを掛けときますね」
「要らねえ」
「要りますよ。早く元気になぁれ」
「くっ……」
「跳ね馬、笑うな!」

まじない、と称して、波紋を流しておく。少しは怪我の治りも早いだろう。ワゴン車が漸くたどり着いて、職員がごそごそ出てくる。

「お待たせいたしました、カエデ様」
「様付けは要らないから」
「しかし、総帥の娘様でおられる……」
「養子だから、養子。ハイハイ乗せて。早く家に帰って寝るから」

そう言って、ワゴン車に乗る。じゃ、と手を上げてドアを閉めた。

ピンポーンと言う呼び鈴で目が覚めた。ああ、太陽よ、久し振り。そして誰だ。職員が来るのは早くて夕方だし、通販生活はしていないし。現在朝の10時だ。……まあまあ、眠い。

「……Buongiorno, tu chi sei(おはよう、誰だい)?」
「よっ寝てたか?」
「………………」

切った。布団へゴー。寝る。嫌がらせのように呼び鈴を連打され、身なりを軽く整えて、ドアを開ける。

「帰って、どうぞ」
「そう言わず、寿司食いに行かね」
「要らない」
「なんだつれねぇな」
「ストーカーなら、警察を呼ぼう……」
「な、待てって、リボーンに呼ばれてるんだって!」
「Reborn?知らない名前ね。まだ眠いから寝かせろ」

押し返してドアを閉め、呼び鈴が聞こえない。道場に転がりこんで寝た。

「…………で、私は行かないと言った」

目が覚めたら知らない車の中だった。困る。

「いいじゃねえか、山本の家で祝勝会あるんだぜ」
「……私はマフィアとつるむつもりはないから」
「SPW財団の総帥、ロバート・E・O・スピードワゴンだな」
「……?」
「妻子がいない身で9年前養子を取った」
「…………」
「それがお前でいいな、カエデ・スピードワゴン」
「一度もそんな名前で名乗ったことはないなァ」
「今すぐお前を殺してもいいんだぜ」
「……なんでそんなに殺したがるのか。ボンゴレと財団からの援助を断ち切って欲しいのかい」
「なんて、冗談だ」

地獄昇柱に落ちればいいのに、なんて言葉を口に出さずして正解だったように思う。

「お金」
「出すぜ」
「……大体なんだって、私が呼ばれてるんだ」
「いいだろ、山本が呼んでんだよ」

そうこうしているうちに竹寿司という店の前に着いた。着いてしまっては仕方ない。高いの食ってやろう。

「あ、楓ちゃん!」
「京子ちゃん、お久しぶりです」
「風邪は大丈夫なの?2週間も休みで心配したんだよ!」
「すいません、風邪を拗らせて肺炎になってしまって入院を」
「大丈夫なの?!」
「はい、もう学校に行けますから安心してください」

京子ちゃんにそう嘘をつく。ゾンビなんていう血生臭いものに関わらせるつもりはない。

「星城、きの」
「はひっクールビューティーさんです!」
「えっと?」
「あ、初めまして、だったね、私の友達、ハルちゃん!」
「三浦ハルです!」
「星城楓って言います」

あ、鮪美味しいと、口に入れる。寿司は久し振り(前世のとき以来)だ。

「美味しい」
「そりゃあよかった。嬢ちゃん、サービスだ!」
「ありがとうございます!」

お寿司をいただいて、京子ちゃんとハルちゃんと話す。

「そういや星城、てめえは呼んでないぞ」
「あ、俺が呼んだ」
「はあ!?てめえ、昨日の星城を見ただろ!」

ぜってえこいつは10代目の命を、なんて言う獄寺さんに対して、山本くんは呑気に笑っている。

「……昨日?」
「10代目!戦いが終わって10代目がお眠りになって、送って差し上げようと思って校門を出たら、黒づくめの格好で走り去りやがったんです!」
「…………勝手に憶測するのは構わないが、私はそこの金髪に誘拐されてここまで来たんだ。しかも、脅迫済みだよ」
「え、ディーノさん!?」
「誤解させること言うなよ、奢るって言っただろ!」
「まあ、美味しいお寿司を頂いたので、何も言いませんが。次、ピッキングで誘拐したら、(養)父に言い付けますから」

ご馳走さまでした、そう言って、店を出た。赤のマフラーはまだ昼では暑いなと、欠伸をしながら帰路に着く。寝不足だったんだよなァ。と、ふあー、と大きな欠伸をもう一度した時、ぽとんと落ちてきたピンクのもやっとボールみたいなものが、爆発した。

何とも言えない気持ち悪さから目を閉じて、直った後目を覚ましたら、黒髪が見えて、ばっと起き上がった。急に起き上がったことが原因か、もぞもぞと動く黒髪に身構える。キングサイズのベッドで寝ていたというのも、そもそも家に帰ってないのにここはどこだ。

「madre……今日は土曜日だからお昼まで寝ようって……」

目を擦りながら、起き上がる少年に固まる。madre……マードレ(ママ)?え、何言って。

「子供なんて産んだ記憶は」

あった。前世にあったわ。でも子供の名前も顔すら思い出せないからノーカンだと思うけど。

「どうしたんですか、マードレ。それに、服が仕事用になって」
「…………えっと、君は」

表情が固まった。気づけば、手首を掴まれて、訴えるような目で見られる。困るよ。

「ぼくは初流乃、汐華初流乃です。……そういえば、マードレ、若返りましたか」
「……え、私は普通に14歳だけど」
「じゅうよんさい」
「え?」
「兄さん達に相談しましょう!ぼくの知っているマードレは24歳だった筈です」
「え、待って、10年でこんな立派な息子が出来たわけ」
「ぼくがマードレになってもらいたいと頼んだんです。本当の親子ではないですよ」

ぼく、10歳なんで。という初流乃くんは、しっかり目を覚ましたようで、リビングに行きましょうと、手を引かれる。広い屋敷のようで、一体なんだって、私はこんな家で暮らせているのか。

「おはよう、早いね、ジョルノ、カエデ」
「おはようございます、ジョナサン兄」
「ジョナサン…………」
「カエデ?」

SPW財団の総帥で、(書類上)養父のスピードワゴンさんによって、支援を多大にしているのが、親友のジョナサンだと。ジョナサン・ジョースター、幼い頃、財団職員にいずれ君もジョースター家と少なからず関わりを持つと……いいや、そもそも星城という名字だってジョースターから作ったと説明を受けて――。

「マードレ!」
「え、だって、将来仕えると聞いていた人な筈、筈だよね。なんでそんな方と……」
「落ち着いて、今君に起こったことを確認しよう。そこに座って。ハーブティーは飲めるね」
「あ、はい!」

ジョナサン様は車椅子を乗りこなして、目の前にハーブティーが置かれる。初流乃くんには紅茶だ。ハーブティーはスッとして、美味しい。

落ち着いたね、まずはぼく達は君の味方であることには間違いないよ、とのこと。うん、まあ、身寄りのない私が少し危険と隣り合わせではあるけど、財団を抜けるというのは考えにくい。そうなれば財団が支援するジョースター家と不仲ということはないだろう。

説明を受けて、少し冷めたハーブティーを口に含む。うん。未来に関することを避けつつ、話を聞くと、現在私はマフィアに狙われていて、財団の庇護下でもあるこの家にお世話になってるとのこと。

……マフィア、マフィアかァ…………。

「私がボンゴレの関係者、ってことになるのかねェ……」
「目敏いね、カエデ。そういうことだよ」
「じゃあ、私はこの家からっ」
「行っちゃダメです、マードレ」
「初流乃くん」
「うん、行っちゃだめだよ。まだ君はここにいるとバレていないからね」
「……でも」
「大丈夫、ボンゴレファミリーにコンタクトを取るのはまた今度。きっと、剣の師匠が迎えに来るから」
「え、スクアーロが……?」
「じゃあ、マードレ、僕に勉強を教えて下さい。迎えが来るまで、マードレと一緒にいたいんです!」

初流乃くんに勉強を教えたり、徐倫ちゃんや仗助くんとも遊んだり、本来なら同い年らしい承太郎さんや、(ジョナサンさんもそうだけど)波紋戦士だというジョセフさんとお話したりして、2週間、お迎えが来ました。鮪を1匹、ジョナサンさんに渡し、ボンゴレアジトに向かう。というスクアーロの背中を追う。隊服が少し変わつて、髪が伸び、前髪まで伸びている。体つきや目付きが圧倒的に悪いので、女性には到底見えないけど。

「あのクソガキィ……」
「……初流乃くんに切れないでくださいよ……。あの年ならまだ仕方ないでしょう」
「……ちっ」
「それよりinsegnante(先生)、日本のボンゴレとは仲良くなかったように思えるのですが、10年で変わったんですか」

振り向かないで、一般人でも察することができる殺気を感じたら、どうやら、山本くんが幻騎士という剣士に負けただとかどうとか。その根性叩き直してやる(意訳)らしい。ついでに10年前の私があの家にいたから、回収するから、お前も剣の特訓するからな(意訳)らしい。とばっちり!とりあえず、お前、山本くんを気絶させろ、と言われた。従わないとどうなるのかわからないので、地下(にあるアジトらしい)に侵入して、作戦室だという自動ドアが開いた。スクアーロの後ろで待機しています。剣を発現して、スクアーロと呼吸するタイミングを同じにして、気配を隠す。剣、と言っても、剣には刃引きがしてあり、斬れない。大体、私が相手をするのはゾンビなので、波紋を流すリーチが長い点で、人を斬るものではない。その点、スクアーロはわかって言ってるのだろう。まあ、鈍器には変わり無いもので。

セキュリティがザルだの、財団に連絡は不要だの、山本くんがスクアーロ!と喜んで近づいてきて、スクアーロから合図があって、山本くんを気絶させた。

「及第点だな」
「うわーい、うれしいなァ」

ただし、棒読みである。

「てめえ、星城!」

どこにいやがった!だとか掴みかかられそうで、いなした。悪くない。

「なんで、星城さんがスクアーロと」
「おい、カエデ、行くぞ」
「はーい、insegnante」

持っていたもう一匹の鮪をディーノに渡して、山本くんを担いで、作戦室を出るスクアーロを追いかけた。

1週間、みっちり山本くんと共に修行を受けて、現在、スクアーロに担がれて、移動中です。今日の戦いに勝てば、過去に帰れるそうで。

「insegnante、吐きそう、揺らさないで」
「我慢しろォ!」

何が原因ってサバイバル生活のせいで時間なんて知らねえよ、ということです。辛い。

スクアーロと入った小屋みたいな物に、3週間前に見たような気がする赤ん坊がいた。

「うええ……」
「はくんじゃねぇぞぉ!」
「吐かないけど、察せよ」

おら、大丈夫か、と背中を擦られる。

「そっちの方が気持ち悪い」
「テメェ、人の善意をだな!」

スクアーロにも一応、イタリア人としてはあるらしい。舌打ちされて、外に連れ出された。

「痛い」
「引っ張ったぐらいだろ」
「やあ、初めまして、だね。カエデちゃん」
「……誰、insegnante」
「……白蘭だァ」

これが元凶らしい。なるほど。なんでこんなに馴れ馴れしいんだ。

「キミのフシギな力に興味があるんだ。今からでも遅くない。こっちにつかないかい、星城楓ちゃん」
「…………別人だと思うので、勧誘は受けませんよ」
「え"」
「へえ、今はなんて姓を名乗っているんだい。ジョースター、かな」
「……さあ、元より無いものなので。沢田くん、早く終わらせて過去に帰りましょう」
「え、うん!」

ルーレットの結果、大空、嵐、雨、無属性3。無属性のあと一人を悩んでいるらしい。

「おい」
「わかってますよ、insegnante。沢田くん、入江さん、私を使ってください」
「な」
「……いいのかい?」
「まあ、立ち回れるでしょうし」
「……楓ちゃん!」
「京子ちゃん、大丈夫です。一緒に過去に帰りましょう」

小屋らしき物はこの戦いにおけるアジトであったらしく。急造したから、と言われたが、機器も付いてるし、十分だと思う。用意された黒スーツを着て、マフラーを巻く。

「お待たせしました。と言っても作戦は聞いていたんですけど」
「あ、うん。じゃあ、頼めるかな」
「用心棒なんて初めてなんだけどなァ」
「……ケッ」
「でも、本当によかったの、星城さん」
「ええ、まあ、炎とかいうのは、やっぱり不思議、なんですけど。まあ、私が5年掛けて学んだ技術をその指輪が一部を利用できるようになったって感じかなァ。だから、入江さんの胸から出てるのはまずいものなのはわかります。しんどくはないですか」
「出てきたときよりかはましだよ」
「……失礼」
「えっ」

横隔膜を少しだけ波紋を込めて突く。

「おい、なにして!」
「息を楽にしたんです。まあ、私も先生と同じような技術を持ってたら、マーカーを壊されるだけの勝負に持って行けたんですけどネ」
「あ、ほんとだ。少し息が」
「一時的に呼吸法を変えただけです。どれだけ持続するかはわからないけど」

じゃあ、作戦通り、よろしく頼むよ。そういうと、沢田くん達はバイクが格納されているというところに行ってしまう。

「ここ、禁煙かなァ?」
「……煙草は大丈夫だけど。スパナは?」
「大丈夫だ」
「というか、年齢」
「んー……吸うことが目的じゃないからなァ」

ん、と灰皿を渡される。ふう、と息を吐く。ゆらゆら揺れる紫煙を眺める。まだ、攻めては来てない。

3分して獄寺さんが定位置に、7分経って沢田くんがトリカブトと戦って撃退、5分経って山本くんが猿(幻騎士だのなんだの)と戦って幻騎士が死んだ。

「星城さん」
「…………なんだい」
「大丈夫かい」
「……大丈夫です、元同僚を殺したのは初任務ですよ。さて、私も出ますね、山本くんが早くターゲットマーカーを壊してくれるまで、意地でも生かさせます。屋根、登っても?」
「ああ、いいよ。でも、急に発車とか……」
「ああ、大丈夫です」

煙草の煙がゆらゆらと揺れて消える。聖女様、一緒に戦って頂けるでしょうか。聖女様はコクリと頷く。インカムでトリカブトの妨害で沢田くんが足止めを食らって、山本くんはターゲットを守る防護壁があるらしい。獄寺さんは、桔梗によって、戦闘不能。もうすぐ来ると、煙草を加えて、火を付けて、口に加える。アジトから降りて、少しでも、1秒でも長く、入江さんを守るのが仕事だ。紫煙の向きが変わる。アジトには逃げてもらおう。

「行かせない!」
「ハハン、炎すら使えない一般人が何を」
「捉えた」
「な」

飛んできた相手の場所に行くためにまずは足に、次は掌底。浅かった。

「なるほど、確かに炎とは違う不思議な力を持っているようだ」
「……1ヶ月昏睡させるつもりで打ったのに、浅かったとはいえ気絶までもっていけない……と」

うん、足止めが優先だ、と煙草を右手の人差し指と中指で挟んで、煙草の先を桔梗に向ける。

「波紋疾走!」
「!」
「避けられちゃあ仕方ないネ」
「貴方はいつも驚くことをしてくれる。しかし」
「……!」
「手荒な真似はしたくないもので」
「興味、ないね!」

巻き付けられた蔓を逆に波紋で支配する。ほどけていく蔓を振り落として、アジトの方へ先戻りする。ダメージはない。

「入江さん」
「無事、かい」
「少し動かないでくださいよ」

生命エネルギーを出過ぎているので、先程より強く、横隔膜を突く。がしゃんと揺れて、足元がふらつく。桔梗が辿り着いたのだろう。再び、衝撃が走れば、アジトは一回転した。スパナさんの脈を確認して、入江さんの方へ視線を寄越す。生きている。ふらつきながら、立ち上がる入江さんを支えて、アジトを出る。

「ハハン、チェックメイトです」

入江さんへ投げられた茎(?)を剣で振り落とす。

「大人しく捕まっていればいいものを」
「断るね!」

剣を振り下ろして、ふらつきながら走る入江さんを見ることはできない。気を抜いたら、負ける。

「楽にしてあげるのがせめてものことでしょう」
「させるかァ!」

投げられた数本の茎を凪ぎ払い、距離を詰められた。手首を掴まれる。見た目に反して力強い握力。これは、折る気だ。ぽきんとも言う感じか。両手首を同時に脱臼させられ、感覚が麻痺しそうだ。剣の発現を解いて、肘鉄をする。

「今、確かに折ったはず」
「ダメだよ。関節外すぐらいのこと、だろう」

手の感覚はない、触覚は感じないが、マフラーに触れる。

「捕まえた」
「ぐ!手荒な真似はしたくありませんでしたが……!」
「がは」

腹を蹴られて、地面に落ちる。波紋で痛みは和らげている。呼吸法を止めずに手を使わずに立つ。ぶすりと、足に刺さる茎はなかったことにする。まあ、空中には行けないんだけども。

血が出る足は気にしてはいけない。入江さんを守らなければ。

ふらふらと交差点を横に曲がれば、審判が入江さんに触れている。沢田くんもいた。

「星城さん!」
「すみません、護衛を任されてたのに」
「それよりも、足!大丈夫?血が」
「この程度は大丈夫です」

ターゲットマーカーの消失を確認しましたという審判。沢田くんが正一くん!と近付く。私も近づいて、感覚のない手で触れて、波紋を流す。ターゲットマーカー消失後よりかは顔色がマシになって、それに比例するように、体の節々が悲鳴をあげる。手を離して、ビルの壁に凭れる。意識を飛ばしてしまおうかと、考えていると、視界が暗くなる。

「星城楓」
「風紀委員さん、貴方もここに来ていたんですね」
「両腕、出しなよ」
「え」

強制的に出された手首は腫れている。まだ波紋でなんとか痛みはずいぶんと和らげているらしい。

「いっ」
「脱臼したんでしょ。見ていたらわかるよ」

脱臼していた手を戻して、後で冷やしなよ、と言われる。

「ありがとうございます」
「別に」

入江さんのここに呼んだ理由や、どうしてこの戦いにこれほど必死だったのか、その話を聞きながら、目を閉じた。

意識が覚醒したら、揺られていた。

「おお!極限に目を覚ましたな!!」

……場所は変わっていない。ただ、おぶられて走っている。……これは誰だ。いや、寿司屋さんで見たような。

「おっと、掴まっていろ。少しすれば降ろしてやるからな!」
「……はい」

黒煙を少し出している。移動アジトを見る。怪我人、非戦闘員は中へとのこと。手酷くやられた。人間相手は、本当にわからない。

スクアーロに肩を借りる形で、移動アジトを出ると並盛だった。一体どういう仕組みなのだろう。見知らぬ女の子も増えているけど、どうやら敵も並盛に来てしまったらしい。地下アジトに入って、着替えて、足に包帯を巻いて、手首を冷やす。

「楓ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫、京子ちゃんが心配することはないよ」

実際、そうなのだ。感覚は戻った。そうすれば、痛みは波紋でどうにでもなる。

「星城さん」
「沢田くん、どうかしましたか」
「え、いや、様子を見に来たんだ」
「それなら大丈夫です。京子ちゃん達のところに行って下さい。あれでも、結構堪えているでしょうから」
「え、うん……!」

医務室から出て、ふらふらする。スクアーロは今、暗殺部隊と通信中だ。増援を呼ぶとかなんとか。地下アジトにはそんなにいなかったことが原因で、迷子になるな、これ。

「あ、汐華さん!」

ピタリと足を止めた。振り向くと、初対面の子だ。でも、どうしてと、頭の中で巡る思考。

「私、数年前にイタリアでジョバァーナさんと会ってから」
「……そうなんだ。敵の大将も知らないのに、よく知っていたね」
「それは、白蘭のことですか。汐華さんはイタリアに滞在している頃に、バイトとか言って入り浸っていたんですよ」
「そうかい。シニョリーナ、お名前を聞いても?」
「そういうところは変わりませんね。ユニです」

少し談笑していたら、轟音が響いた。

「、こっちです!」

ユニと一緒に沢田くんたちと合流して、スクアーロが何事かと合流したとき、スクアーロの後ろで、赤い炎が突き抜けた。

ザクロという敵はユニと私(なんで?)を連れていくのが目的みたいだ。スクアーロが足止めをして、アジトから出たら地響きがする。

「スクアーロ」

インカムから聞こえる声は息絶え絶えで。手を引かれて、ハルちゃんの知り合いのおばあちゃんに会いに行った。

結果、何かを知っているおじさんの家に匿ってもらい、ザクロを引かせてもらい、スクアーロが気になるとか色々な理由がある山本くんたちが、不動産を出た。バァンと襖から出てきた牛柄のタイツを着た子供が(ランボというらしい)ユニや私に遊んでーという。引っ張り剥がしたけど、なんか、空気が良くない。そう思っているのは私だけではないようで、敵襲か、と入り口を固める獄寺さん達に意味がないと伝える。

幻覚でランボに変装していたのが敵で、それに捕まった私とユニ。何て言うか、捕まって何かというわけじゃあないけど、私にお姫様ポジは似合わないものだ。ユニは騎士様に助けられ、まだトリカブトの腕の中で。そりゃ当然足掻くよね、とは私の談。肘鉄を食らわせて重力に従って、落ちる。息を吸って、ダァンと着地した。沢田くんのところに戻ろうとしたけど、聖女様を目隠しするように手で目を隠す。目を閉じて、待つ。呑気に待っているのは良くないだろうけど、聖女様の行動に必ず意味がある。温度のない手が手首を叩く。終わったらしい。

「ありがとう、聖女様」

少しだけ痛む頭は気にしないでおこう。

燃えてなくなった不動産屋を去り、森の中で木をくべて火をつけ、それを囲む。少しだけ感じるその力の出を知って、騎士様も赤ん坊も少し席を外したようで。

「ユニ」
「汐華さん」
「一度しか言わない。怖ければ止めればいい。でも何も残さずは、止めて。それと、言いたいことは言っておいた方がいい。シニョリーナ、君が思っている以上に、世界は君を愛してるから」
「…………はい」
「それと、泣きたいときは泣いて、笑えるときに笑うといい。感情は表に出せるのがよっぽどいい」
「……はい!」
「イタリアに帰ったら、会いに行くよ。どこにいるか、わかるかな」

目をまんまるとして驚いて、ファミリーの拠点地域と、10年前にいた場所を聞く。

「汐華さんは、マフィアとは関わらないと聞きました、よ」
「うん、そうだよ。でも、友達、なら目を瞑るよ。後、聞く話、結構私、色々な方面に巻き込まれるから」

人脈は大事、なんて言ってみる。笑うユニに頭を撫でて、先ほど座っていた場所に座って、目をつむった。


「カエデさん」
「なんだい、ユニ」
「……怖いんです。いつも私が見ていたユメは皆さんを見送るまでしか見れなくて、これからの結末がわからなくて」
「大丈夫。ユニは自分の騎士様を信じてないの?」
「いえ、でも」
「大丈夫。だから、ユニはしたいことをすればいい」
「……はい」


「星城さん」
「沢田くん、なんでしょう」
「……今更なんだけど、さ。星城さんは何者なの?」
「……うーん、難しいことを聞くんですね。一般人ではありませんが、マフィアでもないです。うーん、人間世界に紛れ込んでいる人間を辞めちゃった系化け物を倒す仕事……?」
「なんで疑問系なんだ」
「財団職員ではありますけど、書類整理は判子押すだけだし、財団の総帥の娘、なんて言われるけど、顔合わせるのは年1だし。仕事はまだ片手で事足りる分しかやってないし。というか大体修行と鍛練で」

そう言っていると爆発が起きた。γ……というユニと、獄寺くん……という沢田くん。昨日の言い合いは凄かったね。なんて。別方向でも爆発が起きて。首に掛けている十字架を握った。

「………」
「沢田くん、後悔したくないなら行くべきです」
「星城さん……でも」
「ツナ、ここは任せろ」
「リボーン……」

何かを飲んだと思ったら、額から炎が出る。沢田くん、おま……。ハルちゃんと京子ちゃんが沢田くんを呼び止める。怖いんだろう、でも、ちゃんとわかっている。

「行ってらっしゃい」
「ああ……行ってくる」

飛んで行った沢田くんを見届けて、再び、十字架を握り締める。聖女様、どうか皆を勝たせて。

白蘭は沢田くんが倒し、ユニとγが命を懸けてリボーンと同じようなおしゃぶりを着けた赤ん坊が復活した。これで私たちは過去に帰られるらしい。ジョースター家に一度顔出ししようかと思ったけど遠いし、止めておいた。これ以上、彼らと話すと、先のことを知ってしまう。メモ帳に書かれた汐華初流乃、その上にルビで、ジョルノ・ジョバァーナと振ってある。その文字の下にはユニと書かれた名前、隣には、ジッリョネロのアジトの住所とユニの家の住所が書かれている。

「ありがとう」

そう言って、入江さんは過去へ行くボタン押した。

目を覚ますと家の道場だった。頭をがしがしと掻きながらシャワーを浴びる。1ヶ月と長い時間を未来で過ごしたのに、こっちでは1日しか経ってないのだろう。イタリアに行く日程を頭で考えながらタオルで拭く。スケジュール調整を考えて寝た。

朝起きて、学校に行く準備をして、ポストを見れば、養父からの手紙と財団からの手紙だ。養父から手紙なんて珍しい。半年に1度程度な筈だ。

「やあ」
「おはようございます、風紀委員さん。校則は破ってないと思うんですけど……」
「それ、止めないかい?」
「何をですか」
「その、風紀委員さん、だよ」
「え、だって、名前知らな」
「雲雀恭弥。次、風紀委員さんと言ったら問答無用で殺り合おうよ」
「雲雀さん、それは勘弁ください。人間相手は苦手なんですよ」

そう言って、教室に入って、京子ちゃんと談笑したり、授業を受けた。

家に帰って、財団からの手紙を見て、任務完了のお知らせ。……休もう。1週間ぐらい有休にしてイタリアに飛ぶ。そうしよう。

「で、総帥からのお手紙は……………………」

娘兼護衛でボンゴレの継承式に参加しろとの旨が書かれている。嬉しくない。場所は日本。継承式前後は理由を付けて休ませてくれるらしい。手紙でも出しておこう。まだ、継承式まで1週間ちょっとは掛かる。

「彼、マフィアなんて嫌だ。俺はボスじゃない。って言うんです。そんな彼がドタキャンなんて出来ないでしょうけど。まあ、私が休むまでは駄々を捏ねてましたケド」

並盛のホテル、最上階のスイートルームを確保するあたり、財団凄いとしか言いようがない。まあ、ホテルにとってはなんでこの時期に予約が埋まるのか、だろうけど。

「これがドレスな」
「……これで護衛を……」
「気を張らずにな」
「まあ、なんか起こっても私は総帥をお守りしたらいいだけの話ですし。ボンゴレは関係ないですし」
「何か気にかかることがあるのか?」
「……シモンファミリーが集団転校なさったようで。あと、小耳に挟んだギーグファミリーの人間が並盛でやられたとか。普通にしてれば問題ないでしょうけど指一本怪我させられないとかはちょっと……」

頭を撫でられる。問題はない、ということだろう。

「……いつも思うんですけど、総帥は私をどうしたいんですか」
「立派で、礼儀正しい、強い子に、だな。しっかり娘にしておきたかったが……寂しい思いをさせてすまんな」
「え」

寂しい、寂しい思いはしてなかったりする。確かにここ半年は一人暮らしだったけど、それまでは兄のようなスクアーロもいたし、姉のようなリサリサ先生もいるし。

「家族はいないけど、家族みたいな人はいますよ」
「そうか……」

でも、流石に、これは。

「あの、総帥。こんな」
「……エリザベスがデザインしたんだ。どうだ」
「ぐ、先生まで楽しんで」

肩出しの青いパーティードレスだ。まあ、私にはパーティードレスなんてものは持っていないので、着るしかないのだが。

「写真を取って、エリザベスに送ってあげなければ」

なんて、いう養父に開いた口が動かない。いや、断れないんだけどね。

武器や銃はフロントで預けてください、と厳重な中、継承式が行われる屋敷に入った。

「……お義父様、一先ずは」
「ああ、あちらだろうさ」

養父にエスコートされながら、9代目の元に向かう。恐らく、多くの関係者と顔合わせをしているだろうけど。

なんとか9代目との謁見を終え、歩く。人に捕まる養父の言葉を流しながら、挨拶をしていく。見覚えのある銀髪の長髪に、おもわず養父の腕を少し引いてしまった。

「スクアーロさん」
「あ?……総帥様じゃねぇか。9代目のところには……」
「娘が顔を合わせたかったようで」
「insegnante、お久しぶりです」
「カエデじゃねぇか、久しぶりと言ってもまだ2週間も経ってないだろ」
「…………あれ?」
「総帥様、沢田綱吉ならあっちだぜ。待たな」
「うん」
「じゃあ、俺たちも顔を合わせてこようか、カエデ」
「はい、お義父様」

……すっごい気まずいですけどネ!

「沢田くん」
「せ、星城さ……!?」
「おっ件の10代目か……。俺はロバート・E・Oスピードワゴン。SPW財団の総帥だ。で、娘のカエデだ」
「改めまして、カエデです」
「ツナ、よろしくしておけよ。SPW財団からは多大な援助を受けてるんだ」
「君たちのシマでは、危険が少ないからな」
「うえ!?」
「では、忙しいと思うので私たちはここで」

雲雀さんの視線が凄かった。怖かったよ。

まあ、当然というか、何事も終わるわけもなく。

「お義父様!」
「大丈夫だ、怪我は無いか」
「一応……っ」

パキと折れるシャンデリアの音を耳にして、聖女様、と心の中で叫んだ。現れた聖女様の力で結界のようなものを作る。いた、聖女様の怪我が反映されたようだ。

「う"ぉぉぉい、跳ね馬!避難させろ!」
「insegnante、シャンデリア、下ろしたいのだけど、他の人を避難させて」

なんとか、屋敷から出て、腕に出来た傷に波紋を流す。養父にも怪我はないようで、ホテルに戻った。休学届けは元より出してあるし荷物を纏めて、後は、飛行機に乗るだけだ。

イタリアに着いた。まずはエア・サプレーナ島でリサリサ先生に会って抱き締めた。1日滞在して、ヴェネチア観光、ユニがいるというミラノの方へ向かう電車に乗った。

ベルを鳴らす。出てきた少女はやはり面影があった。

「カエデさん!」
「Ciao、ユニ、ここでは初めまして」

幼いユニに抱き締められる。それを抱き締め返すと、ユニの背後から女性が現れる。

「初めまして、貴方が、ユニが言ってた子ね?」
「初めまして、ユニ、ちゃんのお母様ですか?」
「ええ、アリアって言うわ」
「お母さん!」
「ええ、ユニと遊んであげて」
「お邪魔します」
「カエデさん、こっちです!」

幼いユニは元気で、白詰草を編んであげた。作り方を教えて、とせがまれて、作り方を教える。アリアさんはそれを見て、微笑んでいる。

「寝ちゃったんですけど、よかったですか?」
「ええ、ありがとう。カエデちゃん」

この子を外には出せないから、そう言って、頭を撫でて、抱えて、ソファーに寝かす。

「泊まっていきなさい。その方がユニも喜ぶし、私も貴方とお話がしたいの」
「はい」

すやすやと眠るユニを眺めてから、アリアさんを前に見据える。

「大空のアルコバレーノは生まれたときから短命を運命づけられている」
「……それは、未来で」
「ええ、そうでしょう。視えたわ、アルコバレーノの呪いを解くための戦いが始まるの、だから、私は」

身を隠すわ。いいえ、もう隠してるわね、と言うのだ。

「そんな。じゃあ、アリアさんは」
「いいの、この子のためよ。カエデちゃん、お願いがあるの」
「……私に叶えられることならなんでも」
「貴方にはマフィアと関わりたくない、財団を自分の事情で危険に晒したくない、という気持ちがあるのを知ってて言うわ。ユニの友達として、ユニを見守って」
「ええ、い」
「それと、ユニの後見人に」
「それは、待ってください。私は、まだ14で、それにγ、さ」
「貴方がいいの」
「それは、なぜ」
「この子は未来で起こったことを知っているわ、当然、γと両思いになったことも。でも、だめ。私がいなくなって、すぐにγやファミリーのみんなが、ユニを知っていても、時間は必要なの。その期間だけでもいいわ、この子をお願い」
「…………はい、わかりました。でも、私は学生で今は休学届けを出してイタリアに来てる身で」

了承の言葉を聞けてほっとしているアリアさんに、その旨を伝えると、財団の方にも掛け合うと言われ、戸惑う。

「貴方が巻き込まずとも善良なマフィアとは手を組んでいるのよ。安心して、ユニを守って」
「……はい」
「それと」
「どうしました?」

何かを決意したような目で見られて、視線が離せない。

「明日、ネアポリスに行って、会いに行って欲しいの」
「誰に、ですか」
「未来に行ったことで、少し捻り曲がったことで、彼は今、小さな命で生きているわ」
「彼……?」
「イタリアでは、ジョルノと名乗っていたはずよ」
「初流乃くんが確か」
「ええ、貴方に救われる筈の命だったのに、それが早まったの。迎えに行ってあげて」
「でも、彼は、ジョースター家の」
「彼が未来で貴方と同じ姓を名乗る理由を考えてみなさい」
「…………私が一旦日本に戻るとき、彼をここに任せていいですか」
「ええ、そのつもりよ。誘拐になろうと助けてあげて。それ以外に彼が拾われる未来はもう無いのよ」
「…………はい」

人を、赤ん坊を見捨てるなど、流石にそんなに非情な訳じゃないけど、やっぱりそれには限度があって。そう頼んでしまう私は、まだこの世界では子どもだった。給料のような、支援のような、多額の貯蓄はあったっけ、と、アリアさんに案内されて、シャワーを浴びながら考えた。

「カワノジって言うのだっけ?」
「え、いいんですか、私で」
「ええ、いいのよ」

アリアさんに呼ばれるがまま、大きなベッドに寝る。緊張するけど明日はネアポリス、貧民街と聞いたことがある。しっかり寝ようと目を閉じた。

翌日、切符を握ってネアポリスに着いた。ネアポリスとは、前世で知っているナポリである。ナポリタン発祥の地、なのだろうか。貧民街だとは知らなかったが。そこそこ身軽な格好で、パスポートと最小限に抑えた財布は内ポケットに入っている。

「1日で見つかるのかな……」

面倒な奴に絡まれないように、と。警戒しながら、歩く。スリや隠れていたゾンビを伸したり、倒したりしながら、ネアポリス中を探す。

「……見つからなかった」

内ポケットから出した懐中時計に示された時間に、肩を落とす。初流乃くんは見つからなかった。でも、流石に夜の貧民街は怖い。ゾンビもいたことを考えると、初流乃くんがここにいることにゾッとするわけで。そこそこのゾンビは倒したはずだ。でも、吸血鬼とゾンビの活動時間に態々狙ってくださいと囮紛いなことはしたくないです。乗る予定の電車がそろそろ駅に向かわなければいけない。歩を進めたとき、路地から子どもの泣く声が聞こえて、一つ電車を遅らせようと決めた。

赤ん坊ともいうような子が籠に入って外に置かれていた。拾ってやってください。初流乃と言いますと書かれた文字を見て、籠に手を伸ばした。ゾンビがいるような場所に、夜置いておく。それだけでゾッとして、聖女様に道案内を任せて、駅に最短ルートで向かった。なんとか、予定の電車に乗れた。

「おかえりなさい!」
「ただいま、いいね。そんなこと言われるなんて」
「そんなこと?」
「おかえり、と言ってくれる家があるということ、だよ。アリアさん、この子を」
「その子が初流乃くんですか?」
「うん。ユニ、仲良くしてあげてね」
「はい!カエデさんがお姉ちゃんで、初流乃くんが弟みたいです!」
「それはいいわね、ユニ」
「アリアさんまで……!」
「ほんものにはなれないけれど、残りの時間だけでも、なってくれない?」
「う……わかりました。初流乃くんをお風呂に入れたいので、方法教えてくれるかな、マードレ」
「ええ、いいわよ。ユニも入りなさい」
「はーい!」

それと、くん付けは止めてあげなさい。と言われた。

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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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