ネタ供養と名前変換なし(小説) | ナノ
ショックから目が見えなくなった女の話

幼い私の手を掴んだのは銀時と先生で、気づくと晋助が私の手を引いていた。でも、そのぬくもりが遠くに行って、目も見えなくなって、助けられたのは、近藤さんだ。夢のために上京するみんなをミツバと見送って、二人で生活した。

やがて、ミツバに縁談が舞い込んで、私は嫌だったけど、ミツバは快く了承して。今日はミツバと一緒に、江戸に向かっていた。本当にいいの、と聞いても、ミツバはうん、としか答えない。本当は十四郎さんが好きだったのにどうして、とは言えなかったけど。

江戸に着いて、総くんに送られた地図を頼りに、真選組屯所に着いて、総くんが迎えに来てくれた。ミツバは総くんと江戸を散策しに行って、勇さんが屯所の中に案内してくれて、話をする。

「勇さんが局長、なんて、凄いんですね」
「いやいや、俺なんかよりトシや総悟が頑張ってくれているお蔭だよ」
「勇さんが、二人を引っ張っているからでしょう?」
「そう言われると照れるな、楓さん!」

ガハハハという勇さんのそういうところがみんなを惹き付けるのだろう。

「勇さんは結婚しないんですか?」
「俺には心に決めた方がいるんです!その人は、ちょっとツン多めのツンデレなんですけど、可愛くて!」
「そうですか。想いの方とお付き合いできるといいですね」
「まあ、そうなんですけど。楓さんに想いの方は?」
「……遠くに行った人を待っているんです」
「それは」

そこに、勇さんの携帯電話が鳴って、出る勇さんに、ふう、と息を吐く。一応、彼の話は避けるべきだ。今、彼がどんな人になって、どうしているか、なんて知らないけど。世界を壊す、と言った彼なら、本当にやりかねないから。まさか、この人達がテロ対策組織のトップになるなんて思わなか……いや、あの剣筋、なるものか。

「楓さん!病院に行きましょう!」
「え?」
「ミツバ殿が倒れて!」

私を縛る鎖にヒビが入った音がした。

病院に着いて、病室に連れていってもらうと、少し、懐かしい気配。…………気づかなければいいのだけど。

「総くん」
「姉さん!姉上が!」
「…………うん、そうだね。…………私がいたのに、ごめん」
「姉さんのせいじゃ、ない」
「総くんが強いね。あ、蔵馬さん、来たの?」
「はい……」
「そっか。で、総くん。そこにいる人達は?」

いつも世話になってる旦那です。なんて、言う。久しぶりに聞くその声に、最後の情景がフラッシュバックして、支えるものが手を置く場所に無くて、倒れた。

「姉さん!」
「はは、大丈夫だよ。総くんはここにいるの?」
「……はい」
「わかった。一旦、屯所に戻るね。面会時間も終わるだろうし」
「近藤さんは?」
「なんか急ぎの仕事が来たみたいで戻っちゃった」

でも、大丈夫。一人で帰れるよ。と言うと、旦那達についてもらってくだせえ、なんて言うから。……こうなった。

「あー、坂田銀時だ。万事屋銀ちゃんをしてる。なんか依頼があったら、してくれ。初回は安くする」
「楓、です。勇さんに拾ってもらって、ミツバと上京してきました。まあ、目が見えないんですけど」

そう言ったら、楓、と言う銀時の声は驚きを含んでいる。気付かない振りをして、屯所に着くと、勇さんが出てきた。あんた局長じゃなかったの。

「楓さん!呼ばれてしまってな、すまん」
「大丈夫です。坂田さん達が案内してくれたので、勇さん」
「なんですか?」
「…………十四郎さんはどこに?」
「トシなら、部屋にいますよ!」
「そうですか、案内してもらっても?」
「大丈夫です!万事屋、ありがとな」
「借り一つだ」

勇さんに十四郎さんの部屋に案内してもらい、部屋に入る。

「…………楓か」
「お久しぶりです。……総くんの耳には、やっぱり入れないでください。あの子は、ミツバのことが大切だから」
「………………何の話だ」
「ミツバの婚約者、蔵場当馬についてです。あれは……きっとミツバのことを利用しようとしているんです。あれは、ミツバのことを愛してるんじゃない。利用価値を……」
「それで?」

どんな顔をしているかはわからない。タバコを吹かしながら、話を聞いている。続けるように言う声も至って変わらない。

「蔵場当馬は転海屋を営んでいます。ごめんなさい、私には、耳に入る情報しかなくて……」
「いや、いい。それだけで十分だ。お前も休め」
「……はい、そうですね。十四郎さんも、無理はいけませんよ」
「……善処する」

では、と言って、障子を開けて、立ち止まる。部屋、何処だ。

「ったく、ほら行くぞ」
「ごめんなさい、御仕事中なのに」
「粗方総悟がバズーカぶっぱなした始末書だ。問題ねえ」

左手首を握られ、部屋に向かって歩く。

「随分と広いんですね」
「広かねぇよ。っとここだ。朝飯になったら迎えに来るよう伝える」
「?十四郎さんじゃない人?」
「ああ、ちょっとばかし調べなきゃいけないことがあってな」
「……そうでしたね。ごめんなさい」
「謝ることじゃねぇよ。あいつには、幸せになってほしかったんだ。なのにお前らは」
「…………私には、待ってる人がいるから。その人が迎えに来るまでは嫁がないよ」
「お前の好い人も見つかるといいんだがな」
「心配してくれてる?」

部屋の構造を調べるように歩きながら話す。好い人、か。迎えに来てくれる筈がない。ただ、私が初恋と片想いと自然消滅を拗らせた結果だ。あの人は迎えに来ないし、私をもう愛してはくれない。

「…………ああ」
「え」

何、その反応。心配してくれてるなんて、聞いたのに、その反応。

「妙に危なっかしいとこがある。盲目なのに全部自分でやる。とかな。朝飯は山崎にでも呼んでおく」
「そんな……いいのに」
「大丈夫だ。別に邪険しねぇよ」
「歓迎もしないけどね」
「……はあ。総悟は喜んでただろ」
「勇さんもね。どんな顔をしているか見えないけど、嬉しそうな表情をしているのが、わかるよ。声音で」
「……そうかよ」

部屋の構造を頭に入れて、布団を出す。送ってきてくれてありがとう。と言うと、あいつらだけじゃねぇよ、と言って十四郎さんは襖を締めた。





十四郎さんが変になって、解雇され、私も伊東から真選組を出るように薦められ、アパートに住もうとしていた。

「……彼はそんなに甘くはない」

薦められ、というか、言いくるめだったが、まあ、すんなり言うことを聞いたので、声音が少し変わったことに気づいているのか、無いのか。参謀の伊東が戻ってきた理由は、まあ……背後にいる人に訊けばいいだろう。

「……大人しくするッス。じゃなきゃ」
「逆に、教えてちょうだい」

首に突き付けられた銃を振り返って蹴り飛ばし、どちらの手で銃を持っていたか知らなかったので、足を開いて、腕を曲げられないようにして、彼からもらった短刀を袖口から出して、首に突き付けて……。

「か弱い女を二人で挟み撃ちにするなんて、卑怯だと思わない?」
「か弱い女ならば、また子に反抗して、動きを封じ込めないでござる」
「か弱い女よ?目が見えないのは本当よ?」
「目が見えない人間のする動きじゃなかったッスけど」
「……で、何をしに来たのか、教えてもらっても?」

男は溜め息を吐いて、自分が不利な立場を理解していないのか、と言う。

「少し、不利な立場ではあるけれど、仕込んであるのが短刀だけだと思ってるのかしら」
「……」
「それに、少しでも騒ぎになれば、ここには野次馬が集まるの。貴方達は、何」
「…………その短刀、話は聞いていたが本当に持っていたとは」
「……何、奪いに来たの?」
「いや、目印なだけでござる。吉田楓殿、晋助が来い、と」

その瞬間に、左手に持っていた白杖の鞘を飛ばし、背後に歩みよった男の首に寸止めする。

「……その名前を騙るのは許さない。もし、それで私を騙そうと言うのなら、殺します」
「殺さなくても結構ですよ。晋助殿は鬼兵隊を再編して総督になっています」
「…………貴方達は、私が今まで何処にいたかも知っててそれを言っているのよね?貴方達の敵、真選組よ?」
「晋助殿はそれも良しとしていますよ」
「……伊東と結託したと思うけど、晋助が結託だけで終るはずがない。真選組を内紛で弱ったところを皆殺し。そこまでは読めたけど」
「流石ですね。晋助殿はそのように」
「…………何処までこの短刀について知ってるのかしら」
「実家にあった家宝でも持たせりゃ捨てられんだろう。と」
「…………はあ、いいや。来いと言うなら貴方が来るべきだ。と伝えておいて」
「場所は」
「ここの近所の大きな橋、早朝にでも。手荒い真似をしてごめんなさい?久しぶりに抵抗したから、手加減が出来なくて」
「あんた、目が見えてないって本当ッスか」
「ええ、経験則で身長はどれぐらいかとか、気配とか。そうだ。飛ばした鞘、どこにあるかしら。取ってくれると助かるのだけど」

私には無機物を見つけることは難しいのだ。鞘に刀を収めて貰い、短刀も鞘に収めて、袖に入れて、では、また明日、と言って、今日、止まる宿に向かう。

部屋を取って、袖口から短刀を出す。彼の実家にあった家宝。目が見えなくなる前に、何度か見せてもらった。勘当される前に盗んでやろう。とのことらしかった。身を守れるように、と言伝てをしていなくなってしまったけど。一人で外に出るときとか、彼が離れるときには、御守りだと何度も渡された。……晋助はそれを見越して……、そんなことはない。だって、晋助は、もう私のことなんて。

ぐるぐると回る思考を投げ出して、寝る準備に入った。どうせなら、この見えていない時間が夢だったらいいのに。

翌日になり、川の音を聞いていた。まだ人は一人いない。今は多分、豆腐屋が忙しくしているのだろう。人が集まりだしたら、この短刀と共に、想いは捨てる。

じゃり、と私の近くで止まった足音は一つ。

「追われてる身だと知らねェのかよォ、楓」
「……真選組は今、内乱で忙しいの、わかってるでしょ。……一応、早朝ってしてあげたのは、動きやすいと思ってなのに」
「その辺は甘ェ。初恋拗らせたのはお互い様だったな。随分と探したぜ」
「大体、置いていった人の言う台詞じゃないでしょ、それ。今更すぎるのに」
「追われる身になるだけ鬼兵隊を再編した。テメェを迎えに行く準備は出来たつーことだ」
「置いていった理由……」
「まだ弱い鬼兵隊じゃテメェを守れなかったら、意味がねェしな」
「………………じゃあ」
「あァ」

目の見えない私を騙そうとして、変声機でも着けていたら、殺す。居合い切りをして、刀同士がぶつかりあった音がし、パキっと、刀が折れた。

「…………晋助、だね」
「……あァ」
「ねえ、聞かせて」
「なんだ」
「私のこと、どう思ってるの。利用価値のあるものでもなんでもいい。晋助の本心を聞かせて」
「利用価値がある、ねェ……。真選組を潰すのに、テメェがいたから、巻き込ませなせたくなくてな。言っただろ、初恋拗らせたままだ。愛してる」
「……うん、よかった。私も初恋拗らせたままなの、私も愛してる」

抱き締める晋助に抱き締め返して、そのまま折れた刀を放置して、何処かに向かった。

「ここは」
「俺の部屋だ」
「そっか。晋助、もし、私がついていかないとか、他に好きな人が出来た、って言ってたらどうするの?」
「あ?好きな奴は殺して、鎖を繋いで足の腱でも切ってるな」
「晋助らしくて安心した。ねえ、私を使ってね」
「刀が出来上がったらな」
「好き、晋助。これ、返すね。また、必要なときに」

晋助に短刀を見せる。受け取る晋助に、私はべったりだ。10年も一緒に居られなかったものを埋めたかった。

数日すると、江戸を発った。万斉曰く、真選組の損失は伊東鴨太郎と周辺隊士だけで、近藤さんも生き残ったらしい。何か言うことはあるか、と江戸を発つ前に晋助に言われたが、横に首を振った。江戸にいたのはただの楓。私は父の養子にして晋助の、晋助の。

「恋人?」
「あ?急にどうした」
「私って、晋助の恋人?」
「妻だろ。まぁ、俺がこんなんだから、式もくそもないがな」
「そっかぁ、妻かぁ」
「なんだ」
「私は晋助の妻だから、もうそれだけで十分だよ」
「そうかよ」

晋助の傍にいるために、江戸にいたときの関係を捨てた。だから、思い残すことはない。それに私は。

「晋助の為に戦うから」
「……無理はしなくていい」

なんて、晋助の部屋でいちゃいちゃするもんだから、幹部の人には呆れたような声で報告させるのが、常だった。

晋助と鬼兵隊と裏で繋がっていた見廻組の副長の信女さんから話を聞いて、過去の記憶がフラッシュバックする。役目を果たせなかった絶望と愛する人の怪我のショックで私の目は閉じた。……その二つは、父と晋助が生きていることでもう、問題は無い。

信女さんが話して、数日、二人きりの晋助の部屋で、もしかしたら目が開けるかもしれない、と言ってみた。

「楓、俺を見ろ。目を開け」
「ん」

ディープキスを唐突にされ、身をよじる。でも、離してくれなくて。は、と吐息が洩れても、晋助は止めない。目を開けば、止まることを考えていると、急に唇を噛まれた。

「ひう!」
「見えるか」
「……晋助」

痛みの衝撃で目が開いた。眼中には、左目を包帯で巻いた、大人になった晋助がいた。

「見えた。晋助だ。晋助」
「あァ」
「周りは眩しいけど、晋助は見えるよ。かっこよく、なった。私なんて、釣り合わないぐらいに」
「楓、おめぇさんも綺麗になったぜ?」
「……ありがとう。…………晋助、私も」

少し、嫌そうな顔をして、白を基調とした鍔無しの刀を渡された。

「晋助は、私が戦うの、嫌?」
「怪我は、するな」
「うん、大丈夫。私の居場所は晋助の隣なの、絶対に戻ってくるから」
「あァ」

じゃあ、行ってきます。と、晋助の部屋から出る。

「行きましょうか、また子さん」
「えー……と、楓さんッスか?」
「ええ、目が見えるようになったの。こんな綺麗な人だとは思わなかった」
「……行くッスよ」

照れ隠しのようにそっぽ向いて歩き出すまた子さん。心配性の晋助が初任務に同行させるらしい。

「いつも白いっぽい着物なのに今日は黒と桃色ッスか」
「白じゃ血が取れないじゃない」
「……え」
「返り血なんて浴びるものじゃないわよ」
「後、髪上げてるの。新鮮ッスね」
「ふふ、ありがとう」

どうやっても血の匂いは消せないから。昔、松陽に拾われる前の、いや、やめておこう。

目的地に着いて、役人を皆殺しだ。高級料亭らしく、女将が料理を運んで来たところで鉢合わせてしまい、ため息。

「逃がしてくれたら命は取らないけど、どうする?」

刀の血を振って落とすと、ひっと悲鳴を上げる。

「行きましょうか」
「よかったんッスか。見逃して」
「少しは情報を持たせておいた方がいいのよ。名前も、姿もわからない。だけど、存在している。夢幻のように」

船の方に向かっていると、遠くでパトカーのサイレン音が聞こえた。

「仕事が早いのね」
「あんた真選組にいたんじゃなかったんッスか」
「私の部屋は奥深くだったから、気づかなかったのよ。一番隊長と副長の部屋にそこそこ近くてね」
「……他人事なんスね」
「晋助の敵は私の敵よ。思慕なんて捨てなければ私は役目を果たせないの。晋助は、愛を教えてくれたの。それだけはきっと捨てられない」

船が見えて、少し歩調が早くなる。

「戻ったよ、晋助」


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