ネタ供養と名前変換なし(小説) | ナノ
落ちたのが鬼兵隊の甲板

ああ、私って馬鹿だ。
あんなに、これ以上親を悲しませるじゃあないよ、と言われたのに。ほんっと私って親不孝者だ。
こんなことになるなら、お母さんの話に乗っておくべきだった。でもね、後悔はしてない。憧れの人は、世界を救ったわけではないし、むしろ悪役(ヒール)だったかもしれないけど、それでも、人を人らしく生きることを望んで、神を打ち倒した。
私はそんな大それたことはできないし、この世界には必要のないことだろうから、人を守れる職業に就いた。それで、人を守れたなら、本望だよ。
だから、先に逝ってごめんなさい。それと、産んでくれてありがとう。お父さんとお母さんからもらった愛情を返すことが出来ないことが、心残り。どうか、仲のいい夫婦のまま、末永く。


ふらり、意識が戻る。私は、死んだんじゃなかったっけ。辺りを見渡す。河原にいる。後ろは灰色の霧で、前は丸石が多い。川は奥の河原が見えないほど遠い。あ、ここが三途の川か、と理解する。六文銭は持っていない。それよりも、もしかしたら、成人しているけど、親は健在だから、賽の河原で石を積み立てないといけないのかもしれない。丸石の多い場所に歩く。不思議と歩いているのに実感がない。なんだこれ。
石を掴もうとした時に、視界がぶれて、霧に覆われ見えなくなる。しゃがんでいた筈なのに、立っていて、意味がわからない。
「君はまだここに来ては行けませんよ、楓」
どうして私の名前を、そう声を出す前に、再び視界がぶれる。


ガタンゴトン、電車に揺られているらしい。目を開く。
「目を覚ましたか」
そう言った人は、向かいにいる人は、私の憧れの人だ。どうして、と思わず口に出す。
「言っただろう、会いに行くと」
ああ、確かに、シークレットエンディングでそう言っていた。まるで、プレイヤーに話しかけるように、でも、仲間の誰かだと思っていたのに。
「これから、辛いことに立ち会うことになる。絶望するかもしれない。その餞別に」
それは、どういうことか。そう聞いても、答えてはくれない。渡された紙袋を見る。この人は、新たな世界で以前と違う生活をしている。そう思うと、どこか感慨深いものもあるけれど、少し心配になら。
「お前なら、大丈夫だ」
ガタン、どこかの駅に着いたらしい。電車の外は霧がかかっていて、あまり周りを見ることはできない。
「きっと、お前なら勝てる」
誰に、そう聞いても答える様子はなく、その人は立ち上がる。自分も立ち上がろうとするけれど、体が全く動かない。もっと、聞きたいことがある、そう言うけど、反応を示してくれない。
「ライトさん!」
「……お前は、そう私を呼ぶのだな。大丈夫だ。お前も私も、だから、いつかわかる。絶望に押し潰されるな」
振り向いて、そう言うと、私の頭を撫でる。ゲームでは見ることが少なかった優しい顔、それを私に向けられているなんて、夢のようだ。
「楓」
(死んでいい)
息が詰まった。無理だ。憧れの人に名前を呼ばれるなんて死ぬ。あれ、私は死んだんじゃ。固まる私と違いライトさんは、頭から手を離す。
「私がやれることはやった。何度も言う。大丈夫。お前なら、大丈夫だ。だから、行ってこい」
私から離れていくライトさんを目で追う。すると、思い出したようにこちらを振り向く。
「楓、希望を忘れるな」
そう言ったライトさんは、電車を降りた。その後、眩しい光が視界いっぱいに広がって、目を閉じた。





人を捌けさせ、甲板で満月を肴に酒を飲む。それからして。
(こりゃ一雨来るな)
厚い雲に覆われてきた空を見ながら、まだ飲み足りねえが、と毒づく。紫煙を吐いて、自室に戻ろうと立ち上がった。
ドーンッと地を揺らす程の雷が落ちた。
中秋の名月を最後に一目見ようと見上げると。
「あ?」
人が落ちている。いや、落ちてくる、この船に。
(面倒くせえ、死んだら死んだで、武市に任せるか)
どこから落ちたか知らないが、あの高さから落ちて無事に済むまいと見ていると、落下している人間共々、周囲が藍がかる。落下の衝撃音は無く、様子を見ると、50cmほど浮いている。
(斬るか)
生かしておくにも後々の処理が面倒だと、刀に手をかけて近付く。すると、糸が切れたように藍がかったものは消え、甲板に落下する。髪は長くはないが、短くもないところで、女だとわかる。身動きはない。警戒を緩めずに近付く。灰色の羽織の下には白装束を着ていて、腹部には血が滲んでいる。大事そうに紙袋を抱いている。
殺すか、と抜刀して、剣先を首筋につける。不運な女の顔でも拝んでおくか、と顔を見て、動きを止めた。
(なんで、こいつが)
死んでいると思っていた。先生が拾ってきたお転婆でじゃじゃ馬な、戦争参加時に置いていった少女に似ていた。
「運がよかったな」
刀を納め、女を横抱きにする。そこで気づく。
(息が浅い)
舌打ちし、来島を呼びつけた。



ピ、ピ、ピ、と規則的な音が鳴る。ライトさんと出会ったのは夢か、と落胆する。それだけ、あの人のことが好きなのだろう。そう結論づけて、目を開く。白い壁、だが、少し違和感を感じた。なので、起き上がろうとして、腹部に激痛が走った。はっ、と浅い息を吐く。ベッドに逆戻りだ。
「起きたのか、楓」
起き上がれないので、視線を遣る。誰、と声が出た。眉をひそめられる。仕方ないじゃないか、左目を包帯で巻いたイケメンなんかと知り合いだった記憶はない。
「……最後に会ったのは10年前だからな。顔は覚えていないか」
「10年前…………」
10年前、16歳か。あの頃はまだド田舎にいて、クラス替えなんて無縁なもので、知り合いしかいなかったような。だから、この人のことは知らない。どうして、私を知っているのか。
「高杉晋助」
「たかすぎ、しんすけ」
「思い出せないか」
「聞いたことは、ある」
その名前は、知ってる。でも、いつ知ったっけ。あれは夢だったかな。今はもう朧気だけど、長州の松下村塾。タイムスリップした夢で、夢から覚めたら、近所の山で倒れてたって、両親が言ってたっけ。
その高杉晋助は、そこの塾生で、あとは、先生とヅラと銀時がいた。そういや、この人は晋助に似ているな、と感じる。
「ちょっと、思い出した」
「俺だ」
「は?」
「あ?」
この包帯を巻いた男が高杉晋助らしい。そう言われたらそうかもしれない。でも、それ以上に私は混乱して。
「なるほど、夢か」
「な、わけあるかバカ」
逃避しようとして、阻止され、デコピンまで入れられる。痛い。ということは夢じゃない。
「意味がわからない」
「そりゃこっちのセリフだ」
空から落ちてきやがって、そう言われる。
「空から?」
「ああ、ここに落ちて来て、死にかけていたことも忘れたか」
「そうだ、私、刺されて」
「誰に」
あれは、ストーカー犯だったかなぁ、と言うと、お前に?と言われる。
「ああ、違う違う。ストーカー犯を捕まえて、そっから、ストーカー被害者に接近禁止令出したら、逆恨みされたみたい」
怪訝な顔をされる。まあ、仕方がない話だ。私だって、こっちも現実だとは思えなかった。
「お前、何があったか話せ」
「異世界転移?」
「正直に話せ」
「夢だと思ってた世界が現実らしい」
「話せ」
幼少期に大怪我をした時に壮大な夢を見ていた。自分が夢にいるなんて思わずに、年を重ねて成長して。でも、ある日、寝て起きたら、現実に戻っていた。数日、眠り続けていただけだった。それから普通に成長して、また、大怪我をした。そのときも意識を飛ばして、夢を夢と思わず、焼けた家から出て放浪した。で、そのときも、ある日に眠って目を覚ますと、病院にいた。両親が2日眠っていたと言って、もう困らせないでくれと言われた。これで、三回目。三回目の正直というのか、ここが知っている(夢の)世界だと知った瞬間に、夢じゃないと教えられた。
「あっちの私は眠ってるだけで、また目が覚めるかもしれない。でも、今回はしっかり、死んだと思った」
だって、三途の川を見た。そう言ってから、思い出す。あれは、“先生”だった。
「楓?」
「現実(あっち)で死んだ後、先生に会って、まだ来たらダメだって」
「…………」
「晋助?」
黙った晋助を見る。晋助は煙管を吸って吐く。視線をこっちには遣らない。お前に言ってなかったな、と口を開く。
「先生は死んだ」
「…………そっか」
苦々しくそう言った晋助に、これ以上詳細を聞くつもりはない。先生を私は確かに慕っていて、晋助は勿論ヅラも尊敬していた。銀時がどうだったか覚えていないけど。尊敬していた恩師(先生)が亡くなった。先生を取り戻すために、私を置いて、戦争に向かったのに、だ。
「お前は、最近のこの世界を知らないんだな」
「うん、多分ね」
「じゃあ、俺が今、何をしているのかも知らないわけだ」
「晋助?」
「この話は今度にするか」
「えっ」
「傷が癒えるまではここがお前の部屋だ」
話を変えられて、戸惑う。どんな話かはわからないけれど、これ以上問い詰めても答えてくれないだろう。ふと、思い出す。
「そういえば、ここはどこなの?」
「俺たちの船、の医務室、だ」
「なるほど……?」
船という割には頑丈そうな壁だ、なんて思う。江戸時代って木造の船しかなかったように思うけど。まあ、そんなことを言ったら、今、私に繋がれている医療器具はなんだ、という話だが。
「腹の傷、後に残るとよ」
「まあ、だろうね」
今のところ、嫁に貰ってくれる人もいないし問題ないよ、そういうと、ため息を吐かれた。
「幸せ、逃げるよ」
「は、逃げたらてめえのせいだ」
「……ごめんね。でも、後悔はしてない。私が守りたいと思って、守ってできた傷だし」
「そうか」
傷は2、3日で癒えるだろうし、言っておかなければならない。
「晋助」
「あ?」
「助けてくれてありがとう」
「一週間だ」
「?」
「今、用事でてめえを降ろせねえ。一週間後にお別れだ」
「……わかった。聞いてもいい?」
「答えられることならな」
「船で降ろせないってことは海上なの?」
そう聞くと、ニヤリと口角を上げて。
「宇宙だ」
ああ、ダメだ。やっぱり混乱する。



それから二日後、壁伝いで歩けるまで回復したところで(身体を捻るとまだ痛い)、ようやく晋助から風呂に入るか、と聞かれて頷いた。晋助の部下(らしい)のまた子ちゃんの背を追う。彼女を紹介されたのは晋助と再会した翌日。私が意識を飛ばしている時に会ったらしく、二人になった瞬間に問い詰められた。恋する女の子だな、と漠然に聞いていたけど。
「そういやまた子ちゃん」
「なんっスか」
「“閃光”って何」
こんな平和ボケしたのが“閃光”なわけがない。
そう言われたのが、やけに耳に残っていた。
「そりゃあんたのことじゃあないっスか」
「そんな異名貰った覚えはないなあ」
先を歩いていたまた子ちゃんの足が止まった。
「8年前」
この世界での8年前、ちょうどここが夢の世界とリンクしていると理解して、先生と帰ってくると言った人たちがまだ戻ってなくて、家が、先生を捕まえた奴らに燃やされてから放浪していた。8年前なら、記憶がある。
「戦火が広がって、田舎だった故郷(うち)に天人が来たっス」
天人とは、地球人じゃない者、らしい。簡単にいえば、宇宙人だ。
「女子供は売れるからと、天人たちは手を出してきた。男は必死に抵抗して、殺されて、諦めようとしたとき、“閃光”は来た」
忘れもしない。死んだ男の刀を蹴って、天人の意識を反らせて、他の刀を拾って、天人に刀を振り下ろして、気絶させて。他の天人も一瞬で落として。生きている村人に後は好きにするといいと言って、去った。名乗らずに人を助けて消えて行く。だから、“閃光”っス。言い終えたまた子ちゃんの目が合う。本当にそうなのか、見極めようとしている。
「…………そうだね、私だ」
「!」
「ごめん、直接手を下せなくて」
「何を……!」
「平和ボケしてる、認めるよ。私は“人”を殺す覚悟がなかった。だから、押し付けた」
最もらしい。仇を討つにしろ、許すにしろ、あなた(生きている者)たちで好きにするといい、なんて言って。
「それを何度か繰り返して、どっかの神社で寝て、起きたらここにいた」
信じられないことだろうけどね、そう言う。こっちのブランクはまる7年、というところだ。だから、宇宙に行けるようになって科学技術も現実(あっち)と同様、もしくはそれ以上に発展しているのも知らなかった。
「……そういうことっスか」
「納得いかないだろうけど、許して欲しいな。それに、あの頃助けてた人が生きているのは、純粋に嬉しい」
「ああ、もう調子狂う!」
さっさと風呂入ってきてくださいっス!そう言われ、脱衣場に押し込められる。
羽織っていた灰の着物と襦袢を脱ぎ、包帯を外して、戸を開ける。宇宙にいるというのに、お湯があるなんて贅沢なものだな、なんて思いながら、シャワーを浴びる。
「うわ」
鏡に映った腹部の傷を見て、流石に驚く。ほんと、よく生きていたものだ。湯を浴びなかったせいで傷んでいた髪を念入りに洗い、体も傷に触らないように注意しながら洗う。お湯に浸かるのは、足だけにしておく。上がる前にもう一度シャワーを浴びて、戸を開ける。新しい着物と襦袢が置かれていた。それに腕を通して、廊下に出る。
「上がりました」
「おお、上がったでござるか」
「万斉さん、また子ちゃんとお話ですか」
「そんなところでござる」
「んじゃ、戻るっスよ」
「うん」
万斉さんと別れて、また部屋だという医務室に戻る。
「戻ってこられましたな」
「目が死んでる」
「開口一番それっスか」
また子ちゃんに呆れられるのは無理もない。でも、医務室にいたその人の印象はそれが強かった。
「武市だ。少しお前と話がしたいと言っててな」
「え、うん。どうせ、寝るぐらいしかすることないから全然……」
「では、閃光殿、こちらを見ていただきたい」
ベッドに座り、台に並べられる。どこかで見覚えがある……。あ。
「これらは貴殿がこの船に落ちてきた時に持っていた包みの中身です」
そうだ、これはあの人(ライトさん)の衣装と、色が少し違うように感じるけれどこれはデュアルウェポン(ライトさんの武器)だ。これが“餞別”だったのか。
「それで色々調べさせていただきましたが、殺傷能力は低そうなのでお返しいたします」
「ありがとう、ございます」
では、私はこれにて。また子さん、行きますよ。そう言って、医務室から出た二人を見送って、座っていた晋助が口を開く。
「どうやって、手に入れた」
「先生と会って、その後。私の憧れの人に会った。その人が“餞別”だって、渡したの」
「どこで」
「夢と現の狭間。次元の境目。どこって言われたら、困るなあ」
「夢が現実になったなら、それぐらいもあると受け入れるか」
「受け入れるよ。あの人は私の憧れ。出会えたことを否定するなら、あの人が存在したことを否定したことになる」
あの人、ねえ、と煙管を口につける晋助を見る。ここ、医務室なんだけど、というのは言わないでおこう。
「お前にとって、先生はなんだった」
「先生は、道を示してくれた人だよ。私が“閃光”として活動したのは、先生の教えてくれた、自身の信念のため。ライトさん(私の憧れの人)は、信念を貫き通した人だったから」
「……そうか」
だから、今は何も言わない。晋助やまた子ちゃんたちが何をしているのかも聞かない。
「楓」
「どうしたの、晋助」
「お前は何も言わねえんだな」
「そう、決めたからね」
「…………そうか」
会話が終わる。晋助は紫煙を吐く。
「じきにこの船に客が来る。お前は医務室(ここ)から出るな」
「わかってるよ、晋助」

……その“客”が医務室(ここ)に来た場合はどうすればよいのでしょうか、晋助。
見たことない顔だネ、という笑顔の青年が噂の客だろう。ちなみにこの笑顔は笑ってはいない。仮面のように感じる。
「ええ、晋助に助けられて、船にいるので」
「へえ、晋助が助けるなんて珍しいことするんだネ」
「一応、友人ですし」
「じゃあ、強いんだ?」
「!?」
え、と声がもれる暇もなく、目の前に顔が見えて、固められた拳を避けた。「避けられちゃった」という青年の変わらず笑顔だが、相も変わらず感情のない笑顔が怖い。
「じゃあ、次はホンキ」
「やめていただき」
たい、と言葉に出来ず、避ける。待って、床にヒビいった……?馬鹿力なの、この青年。浮かび上がった、逃げるという選択肢に従って、狭い医務室から出ようとす
「逃げるの?」
創造を絶するスピードで追い付いた青年が逃がさないよ、なんて言って、攻撃モーションに移っている。回避は間に合わないし、直撃を受けたら、やっと動けるようになったのにまた寝たきり生活になりかねない。無力化するしか、ない。
「殺る気になったかナ?」
「なったと思う?」
足、がら空き、と内心で呟いて、足払いをかける。重心がぶれることで体勢を崩すのが普通なんだけど、一瞬の隙しかなかった。すぐに体勢を持ち直すあたり体幹がやばそうだ。晋助の知り合いだろうけど、戻ってきてくれないかな、晋助。
「へえ、やるネ、おねえさん」
「はー、人間じゃねえわ。オニイサン」
一瞬の隙で距離をとった私の判断は間違っていないらしい。……あ、傷口痛い。
「隙あり」
この際、生きてたらなんとかなる。と、覚悟を決めて、防御の構えをとる。
「団長ー、こーんなところで何油売ってんだ」
「阿伏兎、今、いいところだったんだから」

続かない。

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