ネタ供養と名前変換なし(小説) | ナノ
露伴妹は読んでしまった

転生とか一切していない普通に露伴の妹として生まれ育った2次元世界の住民。露伴と共に『矢』に射抜かれ、スタンド能力を得る。スタンドは白紙の本。名前は『貴方のための物語(メルヒェン・マイネスレーベンス)』。スタンドに触れたものの記憶を物語として書き出す能力を持つ。露伴のように人を本にしないので、書き込むことをせずとも、記憶を読んだり、書き込んだりが可能。

仗助達と同い年でぶどうヶ丘高校に通うことになる露伴の妹。中2のときにたまたま出した小説が大賞をとって、そのまま作家活動を続けている。



ありがとうございます、と言って、ブックカバーをつけた不思議な本を受け取って、帰路につく。兄さんは、ヘブンズ・ドアーと名付けた不思議な力を編集者に使ってくると興奮気味に言ってきたのを思い出した。まだ家に帰ってきていない。開いた不思議な本の内容を見て、絶句した。

私はこの世界の異物だ。

その文章から始まった物語がフィクションではないというのは、この不思議な本を初めて開いたときから知っている。だから、この世界という言葉、別の世界があるという好奇心に導かれるまま、私は続きを読み進めた。

パタンと閉じた頃には日が傾いていた。そして、見てはいけないものを見てしまったとそう思った。帰ったぜ、という兄さんの声に、ハッとした。

「兄さん、お帰り。編集者と話はできた?」
「ああ、上手く行ったよ」

本を消して、台所に向かって、晩ご飯の用意を始める。今日は魚だというので、和食っぽくしようと味噌汁を作った。


「……人魚姫」
「ん、どうしたんだよ、楓」
「いや、なんでもないよ。ふと、本屋で絵本を見かけたと思って」

兄さんは私の言葉に反応しただけだったらしく、それ以上聞いてこなかったので、ありがたく思いながら、焼き魚をつつく。


――私は世界が違う人に恋をした。『ジョジョの奇妙な冒険』の第三部、そこでDIOとの戦いで命を落とした花京院に。

流し読み進めていく中でそんな文章を見つけて、ピタリとページを捲るのを止めた。ジョジョの奇妙な冒険、そんなタイトルを持つ作品は思い当たらなかった。

――私は、異世界トリップをしたらしい。その世界に私はいたけど、私じゃあない。高校に行くと、承太郎が一つ上の年齢でいたから、ここがジョジョの世界だと気づいた。

本の人物にとって、この世界は何かの話の世界で、誰かによって産み出された世界だと。

――私は臆病だった。生の承太郎は、相変わらず不良で、優しい人であるなんてわからない。スタンド能力もなにもない。これじゃあ花京院に信頼してもらうこともできない。何かを伝えなきゃいけないとは思った。だけど、私には過ぎた真似だったらしい。いつしか、私は声が出なくなった。ストレスだろうと医者は言うが、恐らくは違うのだろう。ジョジョは主要メンバーで生き残る人が少ないくらいの話だ。死亡フラグが叩きおれるほど、私には力がない。ただ、出来ることは私をこの世界に飛ばした神様に祈るだけ。花京院は勿論イギーにもアヴドゥルにも死んで欲しくなかったから。

挿し絵も何もない殺風景な小説につらつらと独白が書かれている。次のページを開くとまた画面が変わっていた。

――承太郎が学校に来なくなったと、この世界の友人が話してたのを聞いて、神様に祈る頻度が増えた。それと、やっぱり私は世界の異物らしい。最近、時が止まることがある。

時が止まった体験が載っていた。雨が唐突に止まって、降って、止まって、綺麗だと思ったと。録画したテレビを連続で停止ボタンを押したように、途切れ途切れに聞こえる声には、恐怖したと。参考にさせてもらおう、と、思って、次のページに向かう。

――承太郎が学校に来たと、友人が喜んでいた。数日経つと、花京院も学校に来た。承太郎の一つ下だったらしい花京院とは、違うクラスだったけど、友人がイケメンが転校してきた、と友人に連れられる形で顔を見ることができて、心拍数が上がった。きっと、見向きもされないのだろうけど、生きている彼を確認出来て、心底ホッとした。

――でも、声だけじゃなく、体にガタが来はじめた。最初はちょっとした膝の痛み、次は腹部、親に心配され、病院に行くも、声と同じように、原因不明。世界が私を拒絶しているのか、花京院を生かした代償なのかはわからない。私の死は案外早く迫っているらしい。

それからは当たり障りのない、病弱な女性の話だと思う。『花京院』と同じクラスになれたことを大層喜んだ描写は、まさしく恋する乙女だった。

――どんな因果か知らないけど、杜王町に転勤することになった。後2年すれば、四部の舞台となる。私の病弱も拍車をかけていた。四部を迎える前に死んでしまうかもしれない。杉本鈴美の死は覆せないけど、仗助のお祖父さんも、億泰のお兄さんの形兆さんも、辻彩さんも、しげちーも、死んでほしくない。お祈りを再開することにした。

――ついでに五部、六部も思い出しておこう。

四部の舞台がここ、杜王町。彼女はいつも祈っているのか。そして、2年間の思い出と共に、四五六部のことを読んでしまった。今、私は気づいてはいけない。

――お昼ご飯を食べるべく、仗助と承太郎が対面する公園に行って、露伴先生に似た髪色をした女の子が落とした本を拾った。露伴先生も好きだけど、私は話せないし、露伴先生に会えた気がして、嬉しかった。彼女に渡した本に、『ジョジョ』の話が載っていたらいいのに、それを託せるなら、私に後悔はない。もう、この苦しみから解放されたい。

そう締め括られていた物語。兄さんが帰ってこなかったら、発狂していたかもしれない。ここに、『岸辺露伴』の名前は出ていても、『岸辺楓』のことは一切書いていなかった。物語に出ていない可能性も考えたけど、『杉本鈴美』が助けたのは『岸辺露伴』ただ一人。この家は半焼するらしいが、『私』の存在を仄めかす表現はなかった。

「なあ、楓。編集者の記憶は実に創作意欲を掻き立てるものがあったぜ」
「それはよかったね、兄さん」

存在しないはずの人間だけど、彼女みたいに異世界の記憶があるわけじゃない。私は、兄さん、岸辺露伴の妹なのだ。彼女に託された知識は無駄にはしない。そう、決意した。



それから約半年弱。『彼女』の祈りは叶えて見せた。この前ちらりと『彼女』を公園で見て、ホッとした。よかった、まだ生きている。どうにかして花京院さんに会わせたいと思った。『彼女』にお礼をしたい。だから、花京院さんを誘ってカフェにいた。

「君と二人っていうのは、初めてだね。楓ちゃん」
「そうですね」
「それで……僕だけを呼んだ理由は?」
「……花京院さんは、彼女とか奥さんとかいるんですか」

いないけど、突然どうしたんだい。と言われる。よかった。これで、花京院さんを引き合わせられるかもしれない。

「花京院さんは、黒雲楓さんを知っていますか」
「黒雲、楓……」

私と同じ名を持つ『彼女』の名前を出す。少し考えて、聞いたことはある気がするという返答にほっとした。

「花京院さんと高校3年生のときに、同じクラスの人です。声が出ない人で」
「……どうして、そんなことを」
「読んでしまったから」
「何を」
「黒雲楓さんが、この町にいます。花京院さんには、彼女に会って貰いたいんです」

……少し、周りの空気が冷えている気がするけど、きっと大丈夫。

「スタンドが発現してすぐ、私は黒雲楓さんの記憶を読んだんです。彼女は、ずっと苦しんでいたから」
「会って、どうしろと。彼女とは、事務的な話しか」
「…………花京院さんに、これを」

彼女のための物語。スタンドで読んだ一部を抜粋したもの。彼女の正体と記憶、それから渡されなかったラブレター。

「花京院さんのためだけに、書き下ろしたものです。彼女は平日の12時から13時の間、噴水公園で、ご飯を食べていますから。一言、かけてあげてください。私には彼女を救う方法はそれしか知らない」
「……わかった。それが要件だったのかい」
「はい、十分です。私、原稿書かないといけないので、そろそろ」
「ああ、次作楽しみにしているよ。霞先生」

礼を述べて、家に帰る。原稿もだけど、五部への布石を打たないと。


「ねえ、楓」
「なあに、由花子」
「貴方、好きな人でもいるの?」
「えっ」
「康一くんとのデートで歩いていたのだけど、男の人とカフェにいたでしょ」
「……え、ん…………?」
「それに、何かを渡していたでしょ。ラブレターも入っていたようだけど」
「い、いや、ないないない!花京院さんにちょっとお願い事しただけ!」
「ふーん、そう。で、質問に答えなさいよ。好きな人、いるの?」

忘れられてたと思っていたのに……!

「いないわけじゃないけど……」
「あら、誰なの?」
「無理、言えない!」

仗助くん、なんて。その言葉を飲み込んだ。そもそも、私と仗助くんは友達以下の知り合い、程度だ。その上、兄さんと仗助くんの関係は最悪。どう転んでも、兄さんの猛反対が見えるわけだ。そもそも、付き合えるわけがない。

「由花子と、楓じゃねえか」
「何かよう?」
「こんにちは、仗助くん」
「いんや、由花子が康一といねえのが珍しいと思っただけだよ」
「康一くん、今日が個人面談だっただけよ」
「そうだったな。そういや、楓。一昨日」

仗助くんが何かを言おうとしたタイミングで、国際交流部の先生から声が掛かる。じゃあ、と言って、先生のところに向かう前に、見た仗助くんの顔が少し怖かった。


だからあんた、よく国際交流部にお邪魔していたのね、と由花子ちゃんが言う。夏休みに入って、1週間。1週間後には、私はイタリアにいるはずだ。名の同じ『彼女』が託した、死の回避をするために。事情を知る花京院さん伝てにSPW財団の支援も受けられるようになっている。

「留学期間は?」
「半年だけ。まあ、早めに現地へという意味を含めるから、学校に戻るのは4月なんだけどね」
「……そう」

ストローで飲み物を混ぜて伏せ目がちの由花子ちゃんは本当に綺麗だ。

「それ、私だけ?」
「まあ、友達だから。花京院さんが海外出張によく行くって聞いてたから、話をよく聞いていたけど」
「仗助とかには言わないの?」
「別に、仗助くんには関係ない話だから」
「……あ、そう」

由花子ちゃんはため息をつく。不思議に思いながらも、ココアを飲んだ。


「来なくてもよかったのに、兄さん」
「ふん」
「でも、ありがとう」
「典明さんがいるんだから心配する必要もないしな」
「そうだね」
「じゃあ、僕は行くぞ。今日は担当に会う日だしな」
「じゃあね、兄さん」
「無事に帰ってくればいい」
「うん!」

兄さんと別れて、典明さんを待つ。ジャケットを腕に掛け、スーツケースを持った典明さんが来た。

「お待たせ、楓ちゃん」
「いえ、そんなに待っていないですから!」
「それにしても楓ちゃん。留学することは仗助に伝えたのかい?」
「いえ、伝えることでもないと……」

はあー、とため息を吐いた典明さんの後ろからひょこっと現れた仗助くんや億泰くんに驚く。

「なんで教えてくれないんだよ楓」
「だって、伝えることでもない、でしょ?」
「プッツン由花子には言って俺たちには無しってよぉ」
「だって、由花子は友達だけど、仗助くんたちとは友達には」

ガクリと首を落とす仗助くんに戸惑っていたら、典明さんが先に手続きをしてるから、終わったら来てね、と私の荷物を持って行ってしまうのを呆然と見送る。

「まあ、仗助の話、聞いてやってくれよぉ。じゃあな!」
「えっ」

億泰くんも何かを珍しく感じ取っていなくなってしまって、びっくりしていると、仗助くんに手を取られた。

「楓はよぉ。オレのことどう思ってるんだよ」
「どう、って……」


このあと、仗助と結ばれて、半年遠距離恋愛。ポルナレフを助けて、根本的な問題を取り除こうと、ソルベとジェラートを助けたら、暗殺チームに拉致。勘弁してくれとは以下略。スタンドで書き込んで、なんとか逃走した5部。後はなるようになれ、と放置して。承太郎にそこはかとなく、6部の情報を流す。多分、1巡せずに仗助と結ばれる話が書きたかったなぁ。

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