ネタ供養と名前変換なし(小説) | ナノ
フリーランサーの憂鬱

ストレスを感じると痛む頭を押さえて、真っ暗だったディスプレイが明るくなって耳を塞いでいたヘッドホンから明るい声が聞こえる。

「今、何時」

9時です!と聞こえて、のそのそと起き、エンターボタンを押す。

「寝起きだったか、申し訳ない」
「寝起きですけど……まあ、大丈夫です。ちょっと待っててください」

ビデオ通話だったらしい。寝起きを見られているがまあ、いいだろう。この人は信用出来る人だ。冷蔵庫から朝ごはん用のゼリーを片手に、パソコンの前に座る。

「よし、おはようございます、烏間さん。用件は、あれ、ですか」
「……君も把握済みか」
「いやぁ、このあたりは危険を犯してでも持ち合わせる情報ですし、ねぇ」
「……まあいい。その件で相談がある。君の判断を仰ぎたくてな」
「ええ、なんでしょう」
「皆に情報開示をするべきか否か」

予想をしていた質問ではあるし、寝る前に散々悩んでいたことでもあるわけだが。

「まだ、詳細がわからない今、変に混乱させるわけにもいかない、のですが……」
「何も知らずに危険な目に遭わせるつもりは、ない。この件は、君も含め、巻き込まれた側で、火種を消すのが俺たちの仕事だが」
「ま、中学関係の件での協力は惜しみません。皆が先生に教えてもらったことは将来、自分の夢を叶えるための一部です。それを壊して、こちらに来るのは本当にいただけない」

それ以外の件は金を取りますけどね、と言うと烏間さんの硬い表情が緩んだ気がした。

「君まで巻き込むつもりはないが……」
「いいんですよ、私の方が面倒事持ち込んでいるんですし。あ、そうだ。受けてた依頼、終わったんですけど、今、いいですか」
「……ああ、今なら時間がある」
「じゃあ、画面に映しますね」

右側のキーボードに命令式を打ち込んでエンターボタンを押す。

「ギャング名はパッショーネ。ボスは、……ジョルノ・ジョバァーナ。以前からボスであると振る舞っているようだけど、ま、そんなことは無さそうです。彼がボスとして表に現れる前まで白昼堂々と麻薬の密売をしていたようだし。今はそんなこともなく、由緒正しき地域を重んじる組織、って感じではありますね」

……というか、以前までボスだった場合、私の目を欺いて、というのは不可能だと判断する。いやぁ、一人立ちを確認出来るのはいいことだと思う。ギャングのボスなんて笑えないけど。

「助かった。財団に腐敗を見つけた場合、政府は手を切らなければいけないからな」
「……じゃ、画面は解除して、いつも通り頼みます」
「……ああ。では切る。君も気を付けてくれ」
「……はい」

プツンと切れた画面に自分の顔が写る。一人立ちするにしても、まだ早い、と思いつつ、ずずっと、ゼリーを啜った。

「楓さん?」
「なんだい、律」
「寂しそう、ですよ?」
「……あー、まあ、ちょっと、ね。子どもが飛び立つことを再確認したってところかなぁ。感傷に浸ってる」
「初流乃くん、でしたっけ?」

律は目敏い。そうだよ、と答える。汐華初流乃、今はギャング、パッショーネのボスで名はジョルノ・ジョバァーナ。私が10歳のときに、イタリアで拾った子どもだ。日本人とイギリス人のハーフらしいが日本人の血が強く出ていた黒髪は、中学の寮に入れてから金髪になっていた。4年しか共に過ごしていないが、家族、だ。奇しくも、取引先のボスになるなんて思ってなかったし、そもそも初流乃は私の職業は知らないはずだ。うん。情報屋を主に処理、暗殺、運びも色々する何でも屋。フリーランスだから、一定距離を保ちたいものだけど、あー、どうするかなぁ、と頭を掻いた。


「……いつも通りの代金を戴きます」
「……ああ」

お得意様の黒頭巾を被ったその男の名前は、リゾット・ネエロという。彼のチームの先々代から父と取引があったらしい。既に彼とはかれこれ5年の付き合いがある。小切手を渡され、USBメモリーを渡す。

「紹介したいヤツがいるんだが、会ってやってくれるか」
「その方のお名前をお聞きしても?」
「ブローノ・ブチャラティ、だ」
「……貴方の組織のNo.2、ですか」
「そうだ」
「勧誘は受けませんよ」
「ただの仕事だ」
「……ネエロ様も同行してくださいね」
「ああ」

パッショーネの暗殺チームのリーダーをしているネエロ様は前暗殺チームのリーダーの紹介によって、私の客になった。丁度、父から私へ引き継ぎを終えた直後に紹介された人なもので。

「では、いつ紹介していただきましょうか」
「……お前に任せよう」
「…………では、3日後に」
「ああ」

そう約束して3日後、ネエロ様といつも取引している場所にいた。スマホに集めきったブローノ・ブチャラティの情報を読み込む。情報屋としての実力について理解してもらうこと、と、私を敵に回した場合、その情報が安値で売り払われること、という理解していただくためだ。不備はない。

「待たせたな」
「お待ちしておりました、ネエロ様、ブチャラティ様」

綺麗にお辞儀をする。知ってはいるし、リゾット・ネエロもだが、相変わらず奇抜な格好をしている。

「お近づきにこちらを」

手に持っていたスマホをブチャラティ様に渡す。ネエロ様は懐かしい、というでも顔でブチャラティ様の様子を見る。

「お前、これは」
「2日で集めた情報をまとめさせた物です。お近づきの証に受け取ってください。好きなように扱っていただいても構いません」

……というか、それをぶっ潰してもらう方が相手側にとってはいい。なんたって盗聴機がついているもので。まあ、警戒度を測るものでもあるので、壊されて何、とは言わない。壊される前提だし。

「と、まあ、どんな依頼でしょう。ネエロ様がご紹介なんてされないもので」
「ジョジョ……ボスの家族のことだ。血は繋がってないらしい。名前は汐華楓。現在20歳であることはわかっている」
「その、汐華楓を探せばいいのですね」
「……ああ。所在地を見つけるだけ……と言いたいが、そいつが何をしているかを知りたい。姿を見せないのに、生活費や諸経費の引き落としがされているからな」
「わかりました。見つけ次第、ご連絡入れさせていただきます」
「電話番号は」
「…………情報屋を舐めないでいただきたいですね。ネエロ様も今後とも御贔屓に」

90度の礼を見せて、家へと帰った。

「律ぅ……どうしよう」
「どうしよう、と言われても。こうなるのは目に見えていたことでは?」

画面内でベッドに座りぬいぐるみを抱き締めながらそういう律に、ぐう、と唸る。初流乃が依頼したのか、ブローノ・ブチャラティの独断か。所在捜索が前者で、仕事関係は後者であるように思える。

「今、私が汐華楓です。って言ったらブローノ・ブチャラティに殺される自信はある」
「……盗聴、出来るようですが?」
「文字で起こしておいて。今は解決策を見つけないと」
「……いえ、あの、会話が」

ちらりと画面いっぱいに言葉が書かれる。正体はなんだ、とか、男か女か、とか、ICレコーダーで声は録音済みだとか。リゾット・ネエロがスマホをどうするつもりだ、とか言っているのが書かれて、壊されたようだ。

「…………律、明日、何かあった?」
「明日、会う仕事はありませんよ」
「……墓参り、行くかなぁ」
「あ、明日、皆さんが旧校舎に集まるそうですよ?」
「…………烏間さんに、会うって言うこと行っておいて。昼ぐらいからだよね」
「そうだと思いますよ」

まだ暑くない、春の季節でよかった、と言うべきか。準備をしっかりして寝た。


「お、お前、黒雲か……?」
「久しいですね、磯貝くん」

東大に入ったんですよね、遅い祝いですがおめでとうございます。と言うと彼は相変わらずだな、と笑う。続々とクラスメイトが集まりだし、それぞれ驚く様子に笑わせてもらった。

「最近の調子はどうだ」
「まずまず、と言ったところでしょうか。律の手を借りつつやらせていただいていますよ」
「俺が組み上げたパソコンは?」
「何の不具合もなく。理想の動きをしてくれるので、ありがたいです」

そういうと満足そうに口を緩める堀部くん。元気そうな顔が見れてよかったという茅野ちゃんに、テレビで見てますよ、と言っておいた。

「それにしても、あんたは相変わらず男か女かわかんない格好しているわね」
「仕事柄、自身の情報は秘密にしなくては」
「へー、じゃあ、表と裏を知っているのは俺たちだけ?」
「はい、そういうことになりますね」
「……まあ、ここでの学生生活は僕たちだけの秘密だから、ね」

そういう潮田くんの言葉に口をきゅっと閉じてしまった。

「黒雲さん?」
「…………私と烏間さんと情報交換をして、開示すべきか否か、悩んでいたことがあります」

まずは、烏間さんからの伝言である、本来は俺たち、日本政府や防衛省が処理すべきことに巻き込んですまない、と言っていたことを言う。次に、私自身も皆にこちらの世界に踏み込んでほしいわけではないこと、巻き込むつもりはないことを伝える。皆には事の重大さを把握してもらうだけでいい。

「私も烏間さんも得た情報は一つ。まだ、情報の出どころはわからない、ただ確実なのは、この教室のことが裏社会に噂として流されていること、そして今更、世界政府がその事を掘り起こしたこと」
「世界政府……?」
「各国の首脳が集まり世界の行く末をどうするか、と話し合う、っていうところかな。自国を及ぼすというなら、暗殺も厭わないよ。あれは私利私欲の塊だから期待は一切出来ない」
「それが……どうしようって?」
「……こじつけだよ。殺せんせーに教えられた子どもたちだから危険因子だ。きっと、洗脳を受けて国を破壊する……!だってさ」

そんな……!と驚く人や、ふざけんな!という人、それらを宥めるように、それにはまだ、目はつけられているけど、目先の問題は、裏社会に噂が流れていること、と言う。

「世界政府の件は、私も烏間さんも手を尽くして、嘘でも情報を流してなんとかしようとしている。裏社会に噂が流れている件に関しては、手を尽くして、情報の出所を探しているよ。見つけ次第、叩き潰すから。噂の流出に伴い、裏稼業の人間……ヤのつく方とかギャングとかマフィアが皆を狙う可能性がある」

顔色が変わる。脅すつもりはないけど、能天気に考えられる事情ではない。それに。

「……あと、皆に謝るべきだと再確認するよ」
「黒雲さん?」
「情報屋として、私は黒雲を名乗っている。父から引き継いだ名前で」
「……ああ」
「もし、名簿の情報が流出した場合、私は確実に狙われる。それで私が逃げ切った場合、次に標的にされるのは皆、だ」

皆を人質に私を誘き寄せるだろう、と。

「皆に危害を加える気は一切なかった。申し訳ない」

立ち上がって、頭を下げる。

「顔を上げてください、楓ちゃん」
「奥田さん……」

教えてくれてありがとう、そう言われ、驚いた。その答えは想像していなかった。

「ま、危ないことに手を突っ込んでて、止めなかった私たちも悪いってことよ。記憶消去の処理も受けなかった私たちの自業自得」
「……皆、殺し屋になって、覚悟は出来ていたんだよ。大丈夫、僕たちは責めないよ」
「……そっか。じゃあ、言うね」
「………………何を?」
「律」

律専用にと堀部くんが作った自作スマホを机に出し、黒板をスクリーンのようにして、映像を映し出した。

「これは」
「……まあ、言ってしまうと裏稼業の人間だよ。29人……ほんとは律を除くから28人になるんだけど、このクラスのテキトーな一人、上納すれば、幹部に昇進できる、とか。……私の取引先はないな。まあ、その辺しっかりしてる取引先でよかったよ」
「……黒雲さん、この人数は」
「敵対組織の癖に今だけは手を組もう、なんて、卑怯な話だよね」
「……黒雲さん、僕たちは」
「…………あー……自衛?」

この校舎に入れるつもりはないから、安心して、という。それに、今から使うのは、殺せんせー並みに一般人からすれば不可解なものだから。腰につけていたバッグを机に置いて、組み立てる。

「モバイル律はここに1台置いておくし、催涙スプレー、チャッカマンと整髪スプレー、エアガンを改造した麻酔銃も置いときます。律、烏間さんは」
「目をつけられないように、とのことです」
「はいはい、行ってきますよっと」

パーカーのフードを被って、実弾入りの改造エアガンを片手に、歩く。50人近く失踪なんて上手くいくのか、なんて思ったけど、放置で、殺ってから考えようと、旧校舎と一般道を繋ぐ一本道を歩いた。烏間さんは当然間に合わないだろう。10人ほどの先鋒を文字通り溶かした。第2陣の半数以上を溶かしたところで、目の前にいた敵が首からナイフが出る。この攻撃方法は。

「ネエロ様ではありませんか」
「黒雲か」

やはり、というべきか特徴的な頭巾だ。

「あ……な……!?」
「ネエロ様は何用で?」
「……ここはウチのチームのシマの近くだからな、警戒をしていたんだが」
「そうですか。1匹貰っていいですか?」
「……ああ、また連絡しよう」
「では、失礼します」

生き残った2人の一人を明け渡していただき、ネエロ様はスタンドで姿を消した。

「まあ、後で楽しい楽しい拷問が待ってるからね」

と言って、気絶させて、拘束する。ネエロ様の殺した分も消しておかなければ、と尋問対象を引き摺った。

烏間さんとは、処理が終わった後に合流して、烏間さんの部下に預かってもらった。

「イリーナさんも来たんですね」
「あら、いけない?」
「いいえ、最近、娘さんが幼稚園に入ったと聞いたので、イリーナさんもそろそろ復帰ですか」
「ええ、そうね。まあ、貴方も元気そうじゃない」
「……まあ、家に帰ったら、手回ししなければ。……そうなると、やっぱりあの子に情報開示……いや、でも……」

そう悩んでいると、旧校舎に戻った。烏間先生!と言う倉橋さんを見て、問題は無さそうだ、と確認しておく。

「はい。使わなくて済んだよ」
「なら、よかったです。私は武器を回収したので、帰らせていただきます。私に何かあるなら、律に伝えてください」

では、と、来た道をUターンする。ワゴン車の中に拘束されていた男を引きずり出し、家とは違う把握していた空き家に入る。完全な拘束と下着一丁になった男をどの方向で吐かすかと、ポケットに入っていた免許証を見て、口を歪めた。


律に、ネエロ様とコンタクトを取るように言って、この選択が正しいのか、というのを考える。私の主な顧客はボンゴレ、ジッリョネロ、パッショーネ、SPW財団、東藤会、日本政府、と言った感じである。でも、フリーランサーとして…………。

新着メールが届きました、の律の言葉で、現実に意識が戻る。メールに目を通す。ネエロ様からだった。予想通りだけど。

「律、直近のスケジュール」
「はい!」

あー……どうしよう。巻き込むつもりはないが処理半数近くの処理は彼に終わらせてもらっているし、現在コンタクトを取れるということはもう終わっているのだろう。事情を知っている。これを盾にパッショーネに勧誘、とは行くのか、これ。もう、突撃かましてもいい気分だ。というか、あの土地は私たちが絶対に守り抜く必要がある。…………。

「律、烏間さんに通話」
「わかりました!」

苦労をかけるが、仕方がない。こっちにもとことん付き合ってもらうことにする。

「……烏間だ」
「黒雲です。ちょっと身の振り方で悩んでいまして」
「……ああ」
「…………私、烏間さんに黙ってたことがあるんですけど」
「なんだ」
「ジョルノ・ジョバァーナ。現在のパッショーネのボスですが、彼の本名は汐華初流乃で、私が拾った3歳下の弟なんですけど」

………………反応がない。電波が悪いわけではないらしい。はあ、とため息が聞こえた。

「パッショーネのボスが君の弟、なのか、それはいいのか」
「お金貰ってますし、ね。それに、汐華を名乗らなくなったということは、私から一人立ちする、ということですなわち縁が切れたので、一応、赤の他人、とは言えませんが顔見知りに落ちたことで」
「…………そんな簡単に切れるものか」
「……私は割り切れたんですけど、あっちは違うらしくて」

そもそも、このルールを伝えたことはない。父と私の繋がりを示すもの、と言われたので、汐華姓を名乗ると父は知り合いのおじさんまで、距離を置かれた。そんなものだと思っているので。

「その割に、楓さんは逐一行動把握は早かったですよね」
「…………」
「……まあ、だって、心配ですし」
「……はあ。それでどうした」

私、パッショーネのNo.2に“汐華楓”の捜索と正体を探るよう依頼されまして。そういうと、烏間さんは好きにしてくれ、と言う。そういう問題じゃあないんですよ!!

「……後、今日の襲撃未遂で、パッショーネの事実上の幹部が手助けされてるんですよ……」
「何?」
「……ついでに一人連れ帰ってるんですよね……。口止めも必要で……後、裏社会に勧誘しないことを確約しなければ」
「情報流出の件はどうなっている」
「今、出所を探しているところです。こっちも急を要しますが、あっちも今のうちに色々取り付けないといけないんです。……ああ!死ぬつもりは一切ありませんよ」
「……そうか、情報を守るためなら、いっそ死ぬとでも言いそうだからな」
「まあ、裏社会といっても、そこそこ人道的なところとしか取引はしない主義なんで、非人道的組織にはご退場いただいているし」

そうか、と言って、黙る烏間さん。身の振り方が定まらない。フリーランサーを辞めて組織に身を置けば、他組織から命を狙われるだろう。私は良くも悪くも知りすぎているから。ただ、皆の生活は守られることになる。フリーランサーのままであると、メリットは私の生活は良くも悪くも変わらない、というところか、デメリットは守ってくれる組織がない。そして、パッショーネに私の正体を教えるか否か。教えた場合、組織に入らなければいけない可能性がグンと上がる、入らないを選択すれば殺されるだろう、いや、有無を言わせる前に殺され……拷問の末の死だろう。組織に入った場合のメリット、デメリットは上げた通りだし。教えない場合、バレることはほぼないと言える。が、嘘をでっち上げなければいけない。生存確認は取れている、というか毎月送金している。大体、初流乃がジョルノになったと知らない体では、送金は止められない、高校生だし。見つからなかった、と言えば怪しいだろう。情報屋としての威厳もあるしそれは無理だ。

「一番、最高なのは、初流乃に正体を明かして、事情を話して、パッショーネと協力関係を築いて、そのままフリーランサーとして世渡りしたい」
「……願望か」
「どうあがいても組織に入る未来しか見えていないもので。皆を巻き込むことを考えるとどうも……」
「…………わかった。願望に近いようだが賭けてみよう」
「……はい?」
「組織に入ることになったら防衛省に身を隠しなさい」
「皆に飛び火が」
「先に詳しい説明を通達して、一時的に、共同生活になる旨を伝え覚悟を決めてもらうことにする。地方の国有地で生活してもらい、SPW財団に仲介してもらい、パッショーネと話し合いをし、皆の安全を確約した上で、共同生活は解消という感じだな」
「……でも、皆に」
「律、頼めるか」
「はい!」
「え」

烏間さんの指示で画面上飛び回る律を見て、もう、なれるようになれ、である。リゾット・ネエロ宛てへのメールを打ちつつ、スケジュールを確認する。いつ会いましょう。と聞けば、明日にでも会って、クラスのことは口止めしろ、と言われた。まあ、そこが最優先だ。その後にでもブチャラティ様とコンタクトを取ってしまおう。

「ご迷惑をおかけします」
「……話の通じる組織でよかった、と言うべきだな」
「……まあ、はい。そうですね……」

明日、いつもの場所で今日のお話と情報交換をしたいのですが、お時間は大丈夫でしょうか。そうメールを送って、布団に潜り込んだ。


緊張、なんてことは少ないが感じるときは感じる。それが今だ。先日、ネエロ様より得た情報交換により、情報を流した者の目星をつけて、烏間さんに確保を頼み、それの確保を終えて一息吐いたところ、イリーナさんに渡された服を着ていた。今日、パッショーネにお邪魔します。

いつも履いているヒールの入った安全靴より低いピンヒールをカツカツと鳴らせる。結局、本性を教えることにした。報酬は要らない代わりに、元3年E組に手出ししないことと、フリーランスの姿勢を崩さないということで決着をつけてもらうことにする。それが、烏間さんやイリーナさんと相談した結果である。報酬が呑まれなかった場合、即刻逃げる。スタンドの情報はしっかり頭にいれてあるし、律の援護もあり、退路もしっかりとある。対策さえあれば、なんとか。逃げらない場合はスタンドで生み出した青酸カリで死ぬ。組織に入ることは絶対にしない、という意思表示である。単身で本拠地とかほんとはまじで行きたくない。しかし、指定されたのが、パッショーネの本拠地であるので、覚悟を決める。

「お前は、黒雲、か?」
「……昼間でしたので、それにお話したいところでしたから」

フードを被っていない素顔を出した状態に驚きを隠せないであろうブチャラティ様は、少し警戒しているらしい。案内された応接間に口をつけないと知っているだろうが、紅茶を出される。

「……で、依頼は、どうなった」
「…………私です」
「は?」
「……私が、汐華楓です」

流石に驚いたらしい。人払いもしっかりしていて、耳奥に着けていたインカムから流れる律の声には盗聴機もないらしい。

「黒雲は父から引き継いだものですから。一般人として生きる表の顔は汐華です」
「なるほど、そりゃ見つからないわけだ」
「私も、探されているなんて思っていませんでしたよ。名を変えた時点で私との縁は切れていますから」

そう言ったら唖然とされた。ああ、そういえば、イタリアーノは家族を大事にするとかなんとか、だったか。

「…………報酬はなんだ」
「今回自身が得た情報の秘匿ととある集団の保護、私をフリーランスとすること」
「……生憎だが、ジョジョの姉を見つけた場合、目の届く範囲に置くよう言われている」
「まあ、そんなことだろうと」

では、交渉決裂ですね、と言って立ち上がる。そこそこネエロ様とは長い付き合いなので、惜しいところだけど、仕方がないことだ。

「……しかし、ジョジョの判断に任せよう。呼んでこよう」
「…………は」

思わず、息が漏れた。いや、うん。No.2が決めることじゃないの?いや、本職を調べて欲しいと言ったのは、ブチャラティ様の依頼で初流乃は知らな……私は逃げたい。でも、出来るだけいい条件を引き出せるなら粘らねばならない。というか、 母というか姉というか、中学の寮に入れる前までは、べったりだったなぁ、と遠い目をした。まさかではあるが、ヤンデレ方向に拗らせていた場合、パッショーネと敵対まで見えた。姉離れしていた場合、相談していた内容通りに進んでくれる筈だ。姉離れが出来ていない場合、ヤンデレ方向ではなく拗らせていた場合、パッショーネには悪いがいいように使わせてもらうことにする。過程は大事にしたいが、この際、皆の安全第一なので、護衛がつけば心強いのである。

「マードレ!」
「初流乃」

金髪になった髪を特異な髪型にしている初流乃に抱き締められる。ブチャラティ様は苦笑いである。こちらも言いたい。もっと警戒しろ、と。

「初流乃、そういう場面のときは、人を試してからじゃないと警戒を解いては」
「……?マードレに擬態して僕を騙すなんて万死に値しますけど」
「あの、初流乃くん」
「なんでしょう、マードレ」
「彼から話を聞いたんじゃ?」
「はい、聞きましたよ?」

そういう割には余裕綽々なところで、頭が痛い。なんでこんな風に育ったのか、教えて欲しい。

「あの、初流乃」
「はい、なんでしょう」
「私、このままフリーランスでやって行きたいのだけど」
「……パッショーネに不利な情報は流していませんね?」
「そりゃあ、ねえ。過去に麻薬云々だけは」

そういうと扉の隣の壁に寄りかかっていたブチャラティの目が怖い。

「相手は」
「…………あー……、日本政府防衛省特殊対策室」
「それはどうして」
「SPW財団と手ぇ組んだでしょ?だから」
「それを僕たちに伝えてもいい案件なんですか?」
「初流乃がボスに落ち着いてからそんなことないから問題ない、って伝えたけど」
「…………はあ、で、とある集団の保護とは」
「保護っていうより護衛……?いや、それよりも私の情報は一切流すことは許さない」
「……流しませんよ。僕の姉さんなんですから。流したら、そのまま王水にドボンです」

思わず口元が引きついたが多分私は大丈夫だ。

「もう一回、フリーランスで動いていいんだね?」
「……まあ、不利になる情報の一切を流さないなら」
「OK。これからもご贔屓のほどよろしくお願いします」
「で、3つ目は?」
「…………こう呼ばれるのは癪だけど、暗殺教室にくる裏社会の刺客からの護衛」

ブチャラティの顔が驚きに変わった。そして、うちの子は納得したように出身者でしたか、と行き着く。初流乃は本当によく頭が回る子だ。

「私の事情でも、なんでもないのだけど、ね。情報を流した奴はもう捕まってるし。ただ、巻き込まれた人間が裏社会に更に狙われるのはいただけないだろう。金は積むよ」
「……」
「どうかな?」
「…………わかりました」
「ジョルノ!」

ブチャラティの制止の言葉に、初流乃は飄々としている。

「では、マードレの住んでいる家を教えて下さい」
「…………は?」
「前の生活に戻りたいんです。ダメですか」

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