想郷学園(仮)
騒がしい教室にやる気のない担任、坂田銀時。出席確認をして連絡事項もそこそこにいつも通りに銀時は月曜の週間であるジャンプを広げていた。これが、2-Aの毎朝だ。
ガラガラと扉が開く音がして、銀時は「遅刻だぞー」と間延びした声をそちらに掛けて、違和感を感じた。
(……あれ?高杉がこんな時間に来るわけねぇし、今日、遅刻の奴いな……)
「失礼しますね、坂田先生」
「…………りりりり、理事長先生、何の用でしょうか!!?」
騒がしかった教室は理事長の登場により、静まり返る。銀時も、持っていたジャンプを見つけられないように隠しているが、理事長、浅野學峯にはバレバレである。銀時の顔を一瞥して、生徒達の方へ向く。
「朝のうちに坂田先生に話しておこうと思ったのですが、ギリギリまで来られなかったので、自ら来てしまいましたよ」
銀時は冷や汗だらだらである。理事長の前で、いつクビを切られるのか、それが怖くて仕方ないらしい。
「この2-Aに新しい友人を紹介したいと思いまして」
入ってきてください、の声にドアが再び開く。入ってきた綺麗な顔立ちをした黒のセーラー服に身を包んだ女が入ってくる。自己紹介を、と理事長が言うと、わかりました、と声を出して、今日より、この学校に転校してきました、黒雲楓です。と人前で恥ずかしいのか少し頬を染めて言った。
「仲良くしてあげてくださいね。……それと、坂田先生。しっかり、連絡事項などは言っておくように。そうでないと……」
人差し指で首をツンツンとするので、銀時はコクコクと必死に頷く。
「では、また夕方に」
「……はい」
出ていく理事長に礼を述べてお辞儀する姿はこの騒がしい教室には似合わない。
頭をがしがしと掻いて、銀時は教卓の隣にあった机と椅子を後ろの空いてる席に置くように生徒に指示をした。
「俺は、ここ2-Aの担任の坂田銀時だ。まあ、なんだ。堅苦しいのは無しにしようぜ」
「はあ……」
「銀ちゃん、運び終わったネ」
「おーサンキュー。じゃ、黒雲さんはあそこの席な。根は良い奴らの筈だから、仲良くしてやってくれ」
「……はい」
楓はその席に着く。周りは金髪美少女やら眼鏡を掛けた男の子やらが楓に興味があるようで、チラチラと見ている。
「よろしく……お願いしますね」
周りの人にそう言うと、眼鏡を掛けた男の子はぽんっと顔を赤くさせるとチャイナ服をブレザーの下に来た少女が飛び蹴りを食らわせられ、楓は驚きで目を丸くさせた。
おーい、転校生を吃驚させんなよーテメーら。という間延びした声は恐らく誰にも聞こえなかった。
1時間目から専門学、と時間割には書かれている。カエデは何処の授業を受けるんですか?と隣の席の金髪美少女、アルトリア・ペンドラゴンに聞かれ、まだ決まっていない、という旨を伝えると、カエデのやりたいことをやればいいですよ、と笑顔で言った。
「アルトリアの専門学は?」
「……ああ、私ですか?私は剣術と魔術を取っています。剣術を週4、魔術は水曜に、です」
少し反応が遅れたアルトリアに疑問を感じながらも、どんなことをしているのか聞こうとして、予鈴が鳴る。急がなければ、というアルトリアに行ってらっしゃい、と言って、ジャンプを読み続けている担任の前に立った。
「あの、先生」
「あー?どうしたよ、予鈴鳴っちまったぞ」
「何を受けたらいいかわからなくて」
「あー、教科カードってもらった?」
「はい。出すように浅野さ、先生に渡されたんですけど、どれがいいか、なんて、わからなくて……」
そう言って渡された教科カードを見て、担任は眉を潜める。運命科、その科は好きなように勉強を取ることができる。戦闘から魔法、将又社会系まで。
「普通科でいいって言ったんですけど、理事長先生が運命科にして……」
「あー、うん。黒雲さんは何したいの?」
「うーん……。したいことが見つからなくて。でも、戦闘とか、私、戦えないし、魔法なんて、私よくわからないし……」
あ、でも少し、医療に興味があります、と言うと、ハッと銀時は思い出した。
「それじゃあ、保健委員になんね?」
「え?別にいいですけど……どうして……」
「うちのクラス怪我人続出するからさー」
「え、え……?」
戸惑う楓に銀時はちょっくら保健室に行くか、と言って、立ち上がった。
アレシアせんせー、と呼びながら、保健室の部屋に入った銀時は楓に廊下で待つように指示した。
何故だろう、と思っていると、がしゃっとガラスが割れる音やらが聞こえる。戸惑いながらも、大人しく待っていると、女性がカツカツとヒールを鳴らして保健室の扉を開いた。
「アレシア……先生」
「何の用かしら、坂田先生」
「廊下で待っている生徒に適性検査をしてもらいたくて……」
シャマルのヤローには任せられませんから、なんて言う銀時の手には木刀だ。それを聞こうとする前に保健医のアレシア・アルラシアが楓の前にいた。
「アレシアよ、転校生って聞いたけど」
「はい、転校してきまして、どの教科を取っていいかわからなくて」
「医療に興味がある?」
「……はい、祖父母が病気で亡くなったんですけど、忙しい父に替わって見舞いやらを受けて、苦しむ祖父母を見たくなくて」
「…………そう。じゃあ、こっちに来なさい。ここの部屋は入れる状況じゃないわ」
「……はい」
保健室の隣の部屋は薬品やら不思議なものが置いてある。促されて席に座ると、アレシアは女神の胸像を楓の前に置く。
「その肩に両手を押して深呼吸しなさい」
「……はい」
楓は胸像の肩に手を置いて、目を瞑って深呼吸をする。すると、何となくだが、体が軽くなった気がした。そのとき、パチパチと拍手する音が聞こえて、目を開ける。
もういいわよ、と優しい声音で言われ、ふうと息をつく。
「おめでとう、合格よ。教科カードを埋めましょう」
「……はい?」
アレシアはさらさらと戦闘理論、魔法実技、魔法理論に丸をする。貴女、生物基礎、化学基礎は履修したかしら?と聞くので、去年に、と言うと、備考欄に化学基礎、生物基礎履修と書いて、生物と化学に丸をする。魔法8型と書くと、サインを書く。
「あの、アレシア先生」
「何かしら?」
「なに書いてるんですか?」
「貴女の受ける教科よ。……社会科目は倫政でいいわね。それと」
と備考欄に保健委員認定、+科目 医学と書いて、楓に渡す。
「これからよろしくね、黒雲さん?」
「はい、よろしくお願いします、アレシア先生」
坂田先生が廊下で待ってるわよ、と言って、楓に退出を促した。
教科カードを見ると、銀時は少し、顔色が悪くなる。
「無理だと思ったら辞退しろ、いいな?」
「……?はい、わかりました」
教室に戻ると必修科目体育だけだと知る。1年のうちにやったものが必修科目なので、残っているのは選択必修科目や、選択科目だけらしい。
「1年のうちに国語総合、世界史Aっと、あー日本史Aに丸しとけ」
「はい」
「倫政、理科はもう、丸してあるし……数学はUBだ」
「はい」
「保健体育も丸」
「はい」
「よし、これでいいだろ」
前の学校での成績表を見られながらだったので、少し恥ずかしい。
「で、使う教科書は」
と、丁寧に説明されていると、1時間目を終えるチャイムが鳴る。
「そう言えば、先生って何を教えているんですか?」
「俺?俺は、国語だよ。……普通科T類の」
嫌そうに言う銀時に首を傾げると気にしなくていいと言う。
「あー、でも気をつけろ。あっち見ろ。T類の奴は」
ミーハーが多い。顔をひきつらせるほどの生徒が体育館やらコートやらに群がっている。
「あー、道場の方もやべーかな」
「道場?」
「授業、剣術やら色々。このクラスのほとんどは其処らにいる。隣のBは体育館やらテニスコートだ。っとそうだった。これを首に掛けとけ。この校舎は普通科T類を除く生徒だけが入れるからな」
「そう、なんですか」
盗まれねーよーに。と言われて渡される。再びチャイムが鳴って、学校についての話をし始めた。
チャイムの鳴る直前に教室に戻ってきたクラスメートを見る。確かに顔立ちは綺麗だが、人が群がるほどのこともない気がする。というのが楓の意見である。
「何か俺についてやすかい?」
「い、いえ!」
視線を感じていたのか、楓の方を見る栗色の髪の少年の質問に楓は首を振る。
「確かにみんな顔立ちは整ってるなー、て思っただけだよ。次の教科は何かな?わかるかな。えーと……」
「沖田ですぜィ。文系は知りやせんが理系は数学でさァ」
「ありがとう、沖田くん」
一瞬、教室の空気は凍りついたが、楓の顔は赤くもなく、ただ褒めているだけのようだ。あー、やだやだと言って、退出した銀時に誰も気付いていないだろう。
数学はAB組合同で授業だ。見慣れない楓を警戒して、首に掛けた入館証を見て、なんだ、転校生か、という反応だ。
席は自由席のようで、どこに座ろうか、キョロキョロする。と、肩を叩かれた。
「驚かせてごめんなさい。転校生でしょ?私は相田リコ。隣の席、座らない?」
「い、いいの?」
ええ、座って、というリコに礼を述べて座ってから、自己紹介をする。
数学の授業は同じところだったようで、ホッと息をつく楓に数学の担当が現れる。
「数学担当の一期と言います。前の学校と範囲は大丈夫でしょうか?」
「……はい!同じ範囲で安心しました」
苺先生!と言うと、一期は固まり、ブッと吹き出す音が周りでした。
「楓ちゃん、いちごってどの漢字想像した?」
涙目でそう聞くリコにノートの端に苺、と書く。一期先生のいちごはこれよ、と一期と書いて、それを見た楓は頭が机に当たる勢いで、頭を下げた。
案の定、ゴンと鈍い音がして、堪えていたのがどっと笑いに変わる。流石に楓も涙目である。
「すいません、一期先生……」
「いえ、一度は間違われると思っていたので……」
という一期の言葉に、ああ、私が初めてか、と穴があったら、潜りたい気分である。
まあ、あんな死にたいほど恥ずかしいのは久しぶりだったと、回想しながら、楓は公民の授業を受けている。ここの学園は最低数必修科目を修めれば専門学に専念できる。それに大学はエレベーター式で上がれるので大体は問題にならない。
数学に起こったあれは、沖田がスピーカーで触れ回したお蔭で、楓はすでに学校を止めたいと思ってしまう。
倫理の授業も範囲に支障はなく、倫理担当の死んだ目をした言峰と、一言二言話して、授業が終わる。隣に座るアルトリアがお昼ですよ。と大きな重箱をドンと机に出した。その量は、流石に引くレベルである。カエデはどうするんですか?と聞いているのだろうが、食べているので、上手く聞き取れない。
「私は学食で買おうと思ってるんだけど……」
「ああ!ここにいたか、カエデ!」
教室の扉が急に開くと、金髪赤目のイケメン、ギルガメッシュが楓を見て、生徒会室へ行こうか!と手を引こうと腕を伸ばす。ちなみに、ギルガメッシュは楓とつい3日前に顔合わせしたばかりなのだが、初対面から求婚されるという謎の事態が起こっていた、というのは、楓にとっては衝撃的なことだった。
「何をしに来たんです、アーチャー!」
「おお!セイバーもいるではないか!」
奇遇だな、というギルガメッシュが、セイバーもどうか、などと聞いている。
「……あの、ギルガメッシュさん。私、学食で」
「ギルでよいと言っただろう?我が妃となるのだ。それぐらい我が出」
「約束された勝利の剣!」
約束された勝利の剣をぶっぱなした、唐突なことで楓は相当混乱しているのだが。突然のそれを避けられなかったギルガメッシュは、窓を割って吹き飛んだ。ガラスの割れる音でハッとして、ギルガメッシュさん!?と楓が声を上げる。
「カエデ、アーチャーのことは放って置いて、食堂に行きましょう」
「え、う」
「アーチャーならしぶといですから、生きてますよ」
「で、でも怪我」
「おい、ガラスは割るなって言ったよね俺ェェエ!」
「あ、銀ちゃんあるネ」
「アーチャーがカエデ目当てに来たんです。吹っ飛ばしました」
「吹っ飛ばしました、じゃないからね?どれだけ俺の心労増やすつもり?黒雲サンも来てばっかりでバイオレンスな学校だって知って、登校拒否とか嫌だからね、俺!」
「あの、食堂行ってきて」
既に遠い目をしている楓。というかアーチャーってギルガメッシュだよね、何してんのアルトリアさんんんん、と言っている銀時に、なんか色々なことが一度に起きすぎて混乱している楓の頭に、更にバズーカがすれすれを通って発射されたことで、意識を飛ばした。
目を覚ますと、保健室だった。先ほどの記憶はないが心労で倒れたのか、と思う。ベッドから出て、カーテンを開ける。
「あら、目を覚ましたのね」
「はい……今は」
「丁度授業が終わったところよ」
「……え」
「まあ、倒れたと、話を聞いたのだけど、色々ありすぎて、だとは思うわ。バズーカがすれすれで通ったみたいね。この学校じゃいつものことよ」
「あ、ははは……」
苦笑いしか出来なくなる楓に対して、そこまで大したことではない、と言う。
「一般人の貴方には酷かもしれないけど、仲良くやってあげて」
「…………?はい」
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