ネタ供養と名前変換なし(小説) | ナノ
露伴の幼馴染みで画家と4部

12年前、近所に住んでいた馬の合っていた友人が2ヶ月弱姿を見せなかった。気弱でビクビクして人見知りで、そんな彼女が帰ってきて(何故か先生は騒がなかった)、雰囲気が変わった気もしたが、そんなこともなく、大人しすぎる性格に少し、イラついたが、それが彼女の良いところでもあった。絵を描くのも見るのも好きな奴で、小学校のときは、休み時間に絵を描いて、中学になると美術室に入り浸るような奴だった。男のぼくが絵が上手で、引く女子達とは違い、彼女はよく褒めてくれたものだ。高校は都立の美術高校に行ったらしい。ぼくも漫画家デビューしたわけだが、東京の喧騒を嫌って、毎年何故か送っていた年賀状に引っ越ししました、と書かれたM県S市に引っ越しすることになった。

彼女と再会したのは、杜王町ではなく、都内で行われた美術展だった。ぼうっとしてゲルニカのレプリカを見る彼女の目は何を写していたのか。

「久しいね」
「え、っと、露伴くん?」
「ああ」
「年賀状のやり取りはしてたけど、本当に久しぶり。漫画家になったんだっけ。知り合いが好きだ、と言ってたから」
「そうなのか、君はどうしてここに」
「今日の展覧会に私の作品もあって、それでチケット渡されたけど一緒に行く相手なんてあんまりいないから、一人で消化中なの。それに、次の作品のアイデアをもらおうと思って」
「へえ、そうなのかい、君の作品か。何処にあるんだい」

そう言うと、目を開いて、ぶんぶんと首を振る。見てほしくないらしい。誰かに見てほしいから描くのではなく、彼女は描きたいから描く、仕方がないから、それを売って生計を経てている、と言う。じゃあ、探してくる、なんて言うと、腕を引っ張られる。

「ダメ」
「どうしてダメなんだい」
「今回の絵には納得いってないの、描き直したかったのに、様子を見に来た担当が、来てしまって」
「じゃあ、その絵を見せて、何処が納得いっていないのかを聞かせてくれ。そうでなければ、誰も君の作品を理解する人はいない」

言いくるめて、その場所に案内される。

「これの、どこが」
「全部。シュノーケル越しに見た色だったって気付いて、塗り直そうとしたの。しかも、一人、じゃない一匹、描き忘れもある」

素晴らしい絵だった。まるで、海の中から出ようとしている色とりどりの4匹のイルカの絵。彼女は自らの体験を人をイルカに変えて描いたようだ。納得いかないところをつらつら挙げていく限りそれだけ彼女はこの絵に納得がいっていないらしい。

「では、納得いったところは」
「上手くイルカを馴染ませたところ、エジプト近海なの、イルカがいないような場所に、イルカがいる。浮かないように、でもみんなのイメージカラーが馴染むようにしたところ」
「君は何色なんだ」
「私の視点だからいないよ。もう一人は白金」

そう言う彼女を見ずにイルカを見る。(銀にも見える)白、紫、赤、緑、共通点はわからない。彼女は何色になるのだろう。

「これはいつの体験なんだ」
「露伴くんが知らない私の思い出だよ」
「……高校に行ってからか、それとも、12年前か」
「どうだろうね」

閉館の時間になっちゃう、と美術館を出る。同じ電車に乗るぼくに驚くが、引っ越しした、と言えば、そうなんだ、と頷く。彼女と道が別れるまで、一緒に帰って、別れた後、ぼくは矢に射ぬかれた。



昔懐かしの露伴くんに会うとは思わなかった。そうだ、露伴くんをモチーフに描いてみよう、と筆を持った。リリリ、と鳴る電話に驚いて、筆を落とす。まあ、アトリエなので、そのぐらいは大丈夫だが、電話を取る、どうやら個人用の電話だ、電話をする人は限られている。

「もしもし」
「もしもし、俺だ。今、大丈夫か」
「はい。大丈夫です。何かご用ですか、承太郎さん」

空条承太郎さん、7歳年上の彼が電話を掛けてくるなんて、珍しいわけで、少し歯切れが悪い。

「どうかしたんですか、ジョセフさんに何かあったり?」
「いや、ジジイがやらかしていた」

ジョセフ・ジョースターさん、承太郎さんのおじいさんだ。もうお年なはずだったけど、そう言うわけではないらしい。ちょっと安心した。

「……ジジイに隠し子がいた」
「え」

ため息を吐く承太郎さんの胃が心配だ。

「その、俺の叔父が杜王町にいる」
「承太郎さん、胃薬送りましょうか」
「いや、いい。どちらかと言うと、お前の胃に負担を」
「へ」
「今度、ジジイも年だしな。遺産相続について話をするために、こっちの用事が終わったら、そっちに向かうんだが。ちょいと様子を見に行ってくれるか」
「えっと」
「今、メモ出来るか」
「あっちょっと待ってください」

まあいいか、とスケッチブックの一番後ろを開いて、鉛筆を持つ。

「どうぞ」
「ああ、東方仗助。M県S市紅葉区杜王町――に住む多分16歳前後で」
「待ってください、16歳……!?」
「ああ」
「私と同じかそれより上だと思ってたんですけど…………元気なんですね……」
「…………」
「…………」
「…………」
「……あ、どうぞ」
「不倫相手は東方朋子、らしい。ジジイに確認したら、大学生と」
「……あ、はい」
「悪いが、俺が到着したら案内してくれるか」
「わかりました」
「すまねぇな、関係無いのに」
「いいですよ、ジョセフさんや承太郎さん、皆さんのお蔭で今、私は好きなことをして暮らせているので」

12年前、まだ8歳だったとき、東京に住んでいたとき、DIOと契約した父に暴力を振るわれていたとき、そこから助けてくれたのが、皆だった。スタンドが生まれついていた私はスタンドが見えるから見えないものを見えるから、気味が悪いと言われ、一人だった。確かに露伴くんは友達だったけど、スタンドは見えていなかったし、そんな孤独から救ってくれたのが、皆だった。ドローイング・マインド、私のスタンドに与えられた名前。名の通り、私の考えを実現させる奇跡だった。ただ、後方支援にしかならないので、怪我を治すぐらいしか出来なかったけど。スタンドを理解できる知り合いができた私は、幸運だったのだと思う。典明くんは私と同じで、孤独を抱え込んでたっていう話だったから。

「お前の描いたものを見た」
「ちょっと承太郎さん!?」
「あれは『太陽』だと思うが、どうだ」
「……正解です」
「楓」
「生きているから、描けるんです。綺麗だとか、そんな心にもないことを言うんです。そこに何があった、とか、『太陽』との戦いではラクダが死にました」
「楓、いいんだぞ」
「いいえ、いつか、忘れてしまう気がしたんです。あの旅は私を作ったんです。確かに苦しいことの方があったし、未だに私はテレビが見れません。でも、絶対に忘れてはいけないんです」
「そうか、お前がそう言うなら」
「それに、皆私を褒めてくれたんです。存在価値をくれたから。ありがとうございます」
「……仗助についてよろしく頼む」
「わかりました」

プツリと切れる。東方仗助くんか、スケッチするときに少し探しながら街を回ろう。

さて、描こうと、キャンバスの前に立つ。思い出してみよう、……露伴くんか、家が近所の男の子、絵が上手で、漫画家になった人、典明くんが面白いよ、と言っていたっけ。……あ、あのときがいいな。


「……やってしまった」

徹夜しました。進捗ばっちりです。しかし、眠いし、ご飯、昨日の昼から食べてない。スケッチブックを持って、コンビニでお弁当を買って、公園で食べる。

「……あ、かわいいな」

ご飯を食べ終わって、何かスケッチをしたいな、と思って探していたら、噴水にいる亀に触ろうとして、手を引っ込める男性がいた。リーゼントヘアのギャップがかわいいな、と思って、スケッチをする。

「あの」
「ひうっ!」

亀とリーゼントヘアの男性を描き終わって、風景に移行しようと思ったら、声を掛けられた。

「あ、驚かせたっすか」
「あ、ご、ごめんなさい!」

ばっちり見つかった。スケッチブックに描かれた絵もばっちり見られてる。

「あ、いいっすよ。なんか、真剣に見てるなって思って何かと思っただけで」
「ごめんなさい、勝手にモデルにしてしまって!」
「全然いいっすよ、それにしても、凄い上手いっすね」
「あ、ありがとう、ございます…………あれ」
「どうしたんすか」
「いや、知り合いに似てるなーって思っただけです」

なんというか、承太郎さんに似てるなー、身長いくつあるんだろ、承太郎さんは初めて会ったとき既に四捨五入したら2mだったわけだし、典明さんにも180cm弱あったはず……。

「それ」
「あ、不満があったら捨てます!」
「完成したらまた見たいな、なんて」
「え、あ、いいですよ、後、背景だから1時間ぐらいかかるけどいいですか?」
「あ、いいっすよ。じゃあ待ってます」

1時間後、背景を描き終わって、それを男性に見せると、すげーっすよ!と言われて、照れる。純粋に誉められるとは思わなかった凄いむず痒い。

「画家なんすか?」
「え、うん、一応、ね。そんな大層なものじゃないし、描きたいものを描いてるだけだから。あ、お礼に何か」
「え、そんなのいいですよ!あ、じゃあ、それ、それください!」

指を指されたのは、彼を描いたものだ。え、いいの、と聞くと、はい!と元気答える。あ、じゃあ。

「名前、聞いてもいい?」
「東方仗助っす!」
「漢字も聞いていい?」

…………え、ちょっと待って。スケッチを捲って後ろに「東方仗助さんへ」と書いて、黒雲楓とサインをする。それを受け取ってそれで関係が終わるわけだが、……買い物して、料理をしよう。

家に帰って、キッチンで料理を作る。……承太郎さん16歳前後、って言いましたよね、まあ、リーゼントヘアなんて高校生がするものだもんね。うん、私の男の知り合い、一番身長が低いのが露伴くんな時点で考えるのは止めた方がいい。それに、ジョセフさんも承太郎さんも筋肉質で体が大きい訳だし。見た目に反して優しいのは、承太郎さんもなんだし、なんだかんだ知り合いなわけだし。頭抱えた。


それから1ヶ月強、承太郎さんから電話が来た。

「明日、杜王町に着く」
「え、明日。いや、明日は問題ないです」
「それと、テレビは見ていないな」
「……まあ、はい」
「新聞は」
「取ってないです」
「杜王町に死刑執行後の犯罪者がいる、との情報だ。気を付けろ。後、案内で、少しばかし付き合ってくれるか」
「わかりました」

明日、8時に杜王町の駅で。そう言われ、描いていたものをキリのいいところで終わらせる。東方仗助の行く学校と、色々情報の載ってる手帳を明日持っていく鞄に入れておく。


次の日、7時55分。居ました、承太郎さんです。白いコートが……凄く目立ってます。きゃあきゃあと声が聞こえるが、もう、頭が痛い。

「承太郎さん」
「久しいな」
「お久しぶりです。皆は元気ですか」
「ああ。早速だが、仗助のところに案内してくれるか」
「あ、はい。でも、多分今日は入学式です」
「そうか、じゃあ、頼む」
「はい」

手帳を開いて、歩く。ジョセフさんが念写をしたら、仗助くん以外に、この男が写ったとか、この学校に心当たりがあるか、とか。

「あ、多分ですけど、その学校は仗助くんの行く学校です。おかしな空の色をしているから、確定はできないですけど、で、その男が死刑執行後に脱獄したって言う?」
「ああ、この件や色々あって、遅れるが花京院も来ることになってる」
「もしかしたら、一時的に長期の休館にする必要もありますか」
「……ああ、これに目を通しておけ」
「わかりました。……あ、承太郎さん。多分あれの中に居ます」

道の先に見える女子高生の集まり。少しだけ承太郎の機嫌が悪そうになった。

「私、ここで待っていていいですか」
「……ああ、なんか挑発できる言葉はあるか」
「……いいえ、あ、でも、多分、髪の毛を貶められると」
「わかった。そこでそれを読んでおけ」
「わかりました」

承太郎さんのことだから、挑発でもしてスタンドを説明しようとするのだろう。まあ家庭内のゴタゴタには巻き込まれたくないので、承太郎さんに渡された資料に目を通す。

「読んだな」
「承太郎さん、これ」
「……ああ。この杜王町で何かが起こっている」
「後、怪我」
「これぐらい気にするな」
「……ダメですよ。ドローイング・マインド」
「すまんな」
「その男は片桐安十郎だ。アンジェロとも呼ばれている。後、電話番号だ」
「もらっておきます」

承太郎さんは杜王グランドホテルに泊まるらしい、ああ、相変わらずSPW財団凄いですね、と遠い目をした。

次の日、徹夜しました、進捗ダメです。電話が鳴って、個人用の電話だ。流石に出なければ。

「楓、動けるなら、仗助の家に行けるか?」
「は、ふぁい!」
「片桐安十郎を仗助が捕まえたらしい、俺も向かうが、先に行けるなら行ってくれ」

ガチャンと切られて、上着を着てバタバタと仗助くんの家に行く。承太郎さんのことだから、今向かっているのだろうけど、私の方が早く着くだろう。

体力つけよう、そう決意した。仗助くんの家に着いて、私を見て驚く仗助くんに目を離しちゃダメ!と叫んでおいた。お祖父さん(だろうが)が蓋を開けそうになっていた。

「えっと」
「承太郎さんが来るまで、目を逸らしちゃダメだよ、仗助くん。不意打ちという言葉があるんだよ……貴方が片桐安十郎ね」
「なんだよ、嬢ちゃん。俺が誰だかわかってるんだろうな」
「片桐安十郎、通称アンジェロ。アクア・ネックレスとか言うスタンドの持ち主。史上最悪の犯罪者って聞いたのだけど」
「聞いた?」
「ニュースも何も見ないの」

それから10分経って、承太郎さんが来た。

「怪我は無いか仗助」
「大丈夫ですよ!」
「楓、助かった」
「仗助くんが確保してくれたからです。私は監視していただけだから」
「えっと、どういう関係なんですか」
「そのことについても話そう。楓、この瓶の中を乾燥させられるか」
「そんな風に質問しないでください、想像力が欠けちゃう。ドローイング・マインド」

瓶の中を乾かせ、と念じる。姿を見せることを決してしないドローイング・マインドは、その私の想像力に任せ、瓶の中を乾かしていく。すると、アクア・ネックレスは小さくなっていき、苦しいのか暴れだす。まあ、ガラスは破れないのだけど。

承太郎さんの尋問が始まって、話したがらないから、更に乾燥させていく。白状しきったアンジェロの入っている瓶の蓋を頑丈に閉じる。

何故か紆余曲折によって、石と同化したアンジェロに頭を抱えた訳だったけど。


「え、義理の妹……!?」
「養子にしてもらっただけで、特に関係はないよ。ほんとスタンドが使えるだけで」
「両親が亡くなって、親戚も迎えに来なかったからな」
「そう言うことです。気にしないで」

杜王グランドホテル、承太郎さんの部屋。スタンドについてや私と承太郎さんの関係についてを話した。うん、こんな感じだろう。隠していることはあっても、嘘は言っていない。

「じゃあ、承太郎さん。私、家に帰りますね、進捗ダメだったんですけど、不本意ながらもインスピレーションを得られてしまったので」
「ああ、もう暗いから、送っていく。仗助も乗っていくか」
「え、いいんですか」
「気にすることはねえよ」

承太郎さんの車(ベンツ)で、家に送られる。アトリエに入って気は乗らないがキャンバスの前に立つ。どうして気が乗らないかというと、インスピレーションを得てしまった相手が片桐安十郎な訳で、瓶の中は何をしようか。岩になってしまった男が瓶に詰められて身動きが出来ない。全く、とんでもなくサイコ野郎だ、なんて思うわけで。気付かれないように石を沢山埋め込んでいよう。

2徹してしまった。頭を抱えた。最近鳴ることが多い個人用の電話に朦朧として出る。

「ふぁい」
「もしもし、花京院だ。眠そうだね」
「2徹してまーす」
「……寝てくれ」
「んー、用なら聞きますよー」
「いや、今はいいよ。急ぐ理由じゃないからね。おやすみ楓」
「んーおやすみなさいー」

受話器を重力に任せて、落として意識が落ちた。


目を覚ますと、布団の中でした。なんでだ、寝落ちしてた気が。

「あ、起きてたんだね、お邪魔しているよ」
「典明さん!?」
「よかった、電話切ろうとしてたけど、突然、勢いよく受話器が落ちた音がしたからびっくりしたんだよ」
「えっと、何で典明さんが部屋に」
「ほら、ちょちょいのちょいと」

『法皇の緑』を見せられて、納得し……ちゃダメなヤツだよね!?

「典明さん、ダメです。嫌いになりますよ」
「困ったなぁ、『妹』にそう言われると傷つくよ」
「典明さん!」
「ごめんごめん、ほら、卵粥、食べられるかい?」
「……いただきます」

召し上がれ、と言われて、卵粥を食べる。

「あ、楓、アトリエを見ていいかい?」
「いいですよ、まだ完成していないものでいいのなら」
「完成されてないからこそ、いいんじゃないか。下も見ていいかい」
「うん、下のものは満足したものしか置いてないから」
「……満足していないものは?」
「生活費の足しに」
「『太陽』も?」
「あれは、まだ、なんというか。描き直さなきゃいけないところがいっぱいで」

卵粥を食べて、食器を洗う。

「楓、案内してくれよ」
「え、恥ずかしいです」
「いいじゃないか、この少年について教えてくれよ」
「あ、それは小学校から同じ学校に行ってた子で家が近所だった子で、最近久しぶりにあったから、思い出して描いたんです。タイトルは『儚き夕焼け』。モデルは、あ、典明さんが読んでいた『ピンクダークの少年』の作者の岸辺露伴くん」
「へえ、彼が」
「まあ、もっと身長が伸びるんだけど、典明さんより高くないよ」

それより1階の力作を見てください、という。あの絵は見せたくない。

「……楓、何を焦ってるんだ」
「何も焦ってないよ」
「1階はいつでも見られるけど、アトリエは明日になれば、また変わるだろう」
「う」
「それに、一通り見たよ。楓が何を見せたくないのかわかる」
「じゃあ!」
「恐怖とは乗り越えるものにあるんだよ」
「……だって」
「うん」
「怖い。絵は描きたい、でも、その絵に命を吹き込んで、どうなってしまうのかが怖い」
「楓の想像が絵に付随してしまう?」
「えっと」
「大丈夫、描き終えてみな。出来てから怖いのなら、手元から離せばいい」
「うん」
「大丈夫、見守ってあげる。完成までここにいよう。承太郎にはまだ呼び出されていないから」
「ご、めん」
「いいんだよ、君が呪縛から解放されるなら、僕たちは嬉しいんだよ」

典明さんは私の頭を撫でて、そう言う。筆を持つ。イメージは出来ている。後は、そこにいる人を描くだけ。縮こまっている少女か優雅にワインを楽しむ吸血鬼か、やはり後者がいいだろう。ソファーに座る、光を飲む闇、黒。暗いイメージが漂うその薄暗い部屋に際立つ、闇。描き終えて、息を呑む。手が少し震えていた。

「楓」
「典明くん」
「うん、頑張ったね。息抜きに何処か行こう」
「じゃあ、カフェ・ドゥ・マゴ。チョコパフェ」
「わかった。じゃあ、着替えて行こう。この絵はどれぐらいで乾くんだ」
「もう、2時間ぐらいすればいいと思う」
「わかった。ほら、じゃあ、待っているよ」


楓が服を着替えに行って、花京院はその絵画を見る。闇が、DIOがワインを楽しむ様子だ。運び出すとき以外、もう二度と、この目にいれないように。

「典明くん、行こ」
「ああ」

昔の呼び方に戻った花京院は、口を綻ばせて、楓を追った。


仗助の家の近くにある、幽霊屋敷に向かってくれ。そう言われて、屋敷の前にいた。屋根の上で誰かがいる、何かを叫んで電線を放り投げ――。

「ドローイング・マインド!」

電圧を下げろ!と窓の方を見ると、「弓と矢」を持った男の目があった。大丈夫、目があっただけ、逸らすな。何かあれば、仗助くんのスタンドで問題はない。死ななければ安い。

殺す、そう口が動いて、体が一瞬強ばった。でも、大丈夫。トラウマ対象とはまだ、大丈夫。

「よく頑張った」
「エメラルドスプラッシュ!」
「!」
「……逃げられた」
「無事か」
「私は大丈夫。上の方が」
「おーい、承太郎さん!」

仗助くんが窓から覗き込んだ。

「肉の芽」
「これは酷いな」
「楓、元に戻せそうか」
「肉の芽でこんなことになってるから想像力が足りない。写真があれば」
「おい、億泰くん、お父さんの写真はあるか」
「親父をどうするつもりだ!」
「治す」
「なっ……!」
「俺でも出来なかったことをですか!」
「なんでもいい。写真はないのか」
「今、親父が持ってる写真だけだ……」
「仕方ない。少し手荒だが、元に戻すためだと思ってくれ。楓、何秒だい」
「どの人がそうかわかれば、一瞬でも」
「行くぞ!」
「『法皇の緑』!」
「見えた!ドローイングマインド!」

ちらりと見えた優しそうな父の顔。想像に支障をきたす無感情になれ、想像しろ、イメージしろ、優しそうな父、肉の芽に犯されていなかった時代に。ぐらりと視界が歪む。腕を引かれて、我に帰る。

「親父……!」
「何が」
「よく頑張った。疲れたな、休め」

多分、承太郎の手に隠された視界は再び闇を覆った。


「花京院、楓をホテルにだ」
「君も大概過保護だね。まあ、今回のイメージはこの子にとっては理解しがたいものであった。でも、4人の重体者を1日でなんとか延命した子だ」
「花京院、原因は肉の芽だ」
「…………。SPW財団にはぼくが連絡を入れよう」
「あの、承太郎さん、その人は」
「ああ、君が噂の仗助くんかな?ぼくは花京院典明。SPW財団でエージェントをしているよ。まあ、でも、承太郎の友人だと思ってくれたら構わない」
「あの、楓さんは」
「大丈夫だ、直に目を覚ます」

承太郎は、億泰や意識のない虹村親子を見て、事情聴取を受けてくれるか、と言う。食いかかる億泰にやれやれだぜ、と溢す。

「悪いようにはしない。君のお兄さんやお父さんから話を聞くだけだ」
「億泰、承太郎さんは悪い人じゃねえ、それに、お父さんを治してくれただろ」
「親父……兄貴……」

ついていきます。と言った億泰に、じゃあ、車に乗ってくれ、と言う。仗助が俺もついていっていいですか、と聞いた。

「門限までに帰れよ」
「わかってますよ!」


「あれ、ここ」
「おはよう、気分はどうだい」
「問題なし、だよ」
「典明くん、ここは」
「ぼくの部屋だよ」
「あ、ごめんなさい」

大丈夫、と言って、典明くんはソファーから立ち上がって、室内電話から、何処かに掛けて、切った。

「楓、少し話しておきたいんだけど」
「じゃあ、アトリエで話を聞くよ、お腹減っちゃった」
「……ああ、そうだったね」

ルームサービスで運ばれた料理を食べて、車に乗る。

「全く、そんなのだから世間から浮いてしまうんだよ」
「だって」
「いや、怒るつもりはないよ。あんな小さな体で、あの過酷な旅を生き抜いたんだ。頑張ったよ」

そう言われて、頭を撫でられて、無言になってしまった。家について、アトリエに入る。

「仕事は順調見たいでよかった」
「速筆だけど、絵には重みを増したいから、何日かに掛けて塗り重ねるんです。そしたら、未完成品が多くなって」
「絵って、1日2日で出来ないことぐらい知ってるよ。特に油絵とかは」
「家の1階を展覧会場にするって凄い量を描いてるね」
「思い出、だから」
「あ、そうだ。明日、用事は?」
「んー……ふらりとスケッチに行く、とか?」
「じゃあ、海に行かないか」
「え」
「承太郎の研究は」
「海洋生物」
「海の絵とか、描かない?」
「まあ、いいけど」
「じゃあ、明日迎えに来るね」

海です。まだ、時期的に入ることは出来ないけども。後、色んな意味でシュールな画だとは思う。スケッチブックに描かれた靡く白いコートと、ヒトデ。背景は後で描こう。……あ、ピンっと思い付いた。皆は、何にしよう。貝にするのは、違うし、あ。オカヤドカリにしよう。今度、図書館に行こう。

「楓、描けた?」
「うん」

スケッチを見て、吹き出した典明くんを見て、びっくりする。ごめん、と指を指したのは、承太郎さんとヒトデの絵だ。

「話はしたし、帰るか」
「そうだね」
「うん」

車に乗って、他愛のない話をして、あ、と思い出す。

「承太郎さん」
「なんだ」
「オカヤドカリの全体像が写真で載ってる本って持っていますか」
「ああ、あるぜ。なんだ」
「今の論文で必要ないならちょっとだけ見せてほしいなって」
「いいぜ、また持っていく」
「ありがとう、承太郎さん」

家の前について、また連絡する、と言われて、手を振った。


仕事用の電話が鳴って、出る。次の展覧会、広告の絵をやってもらいたい、という依頼を受ける。イメージは絶望の中にある光。……構想を練ってみる。私にとっての絶望、思い出したくもない、あの暗い部屋。声が震えていたかもしれない。

「ごめんなさい、広告の絵、お請けは」
「僕は貴方の、『酒を楽しむ』の虜なんです!」
「ひっ」
「僕は諦めませんよ!」

ガチャン、と荒々しく切られる。怖い、恐怖した、『酒を楽しむ』あれはDIOを間接的に描いた。虜だと言われた。諦めないと何かのスイッチを押したようで、ダメだ、怖い。荷物を纏める、1階の展示会の絵を丁寧に、かつ迅速に纏める、期間未定で休館します。そう書いて、個人の電話で承太郎さんを呼ぶ。

「深呼吸しろ」
「ひっ、う、く、じょ、承太郎、さん、依頼の電話、怖いの、あって、あの、迎えに来て」
「おい、状況が」

プルルルル、仕事用の電話が鳴り始めて、受話器を落としてしまった。

「おい楓!」
「ご、ごめんなさい」
「花京院と迎えに行く。花京院に鍵を開けさせるから、アトリエにいろ、いいな」
「う、ん」

切られた電話に少し、息をついて、まだ鳴る仕事用の電話に、手を出した。

「、はい」
「『酒を楽しむ』、あれは誰をモチーフにしているのですか、あれを僕のために描いてくれませんか」
「……貴方は」
「はい?」
「五感が鈍るほどの恐怖にあったことがありますか」

DIOの恐怖に捕らわれ続ける夢主と妹分にシスコンを発揮してセコムしている生存院と承太郎と幼馴染みが心配な露伴と片思いをする仗助の4部話。多分、露伴落ちの筈なのに、露伴が出てない。

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