ネタ供養と名前変換なし(小説) | ナノ
私はまだ目を覚ますことなく

――落ちている。

先に落とされたジータが見える範囲にいるか、落ちている方を見ようにも、落下速度でもう、下を見るのは難しい。

島が落ちるという「災厄」の元凶を止めて、和解の握手を求めた「災厄」の元凶のサンダルフォンに、ジータは応じて、周りに聞こえない言葉をサンダルフォンが呟いて、ジータが肩を押されてルーマシー群島から、落ちて。島の岬で、ジータの手を掴もうとして、「君も落ちろ」と、私もサンダルフォンに背を押された。

驚いて、振り返る。もう、遅くて、片足は空を蹴っていて、咄嗟に掴まれるだけでいいと、一番近くにいたサンダルフォンに手を伸ばして、届かなくて、背から落ちた。

ごうごうと落下する速度で、音が鳴る。私達の旅はここで終わり。ジータはこの下にいるのだろう。空の底に着く頃にはジータだって、無事じゃない。

目を閉じる。ジータのお父さんと出会って、ジータとビィと森で遊んで、特訓して、ルリアを助けて、カタリナと出会って、ザンクティンゼルを出た。ジータのお父さんと出会う前の記憶はない。けれど、大切な人がいた、ということは覚えていて、ジータの旅について行ったのは、大切な人に出会うため、でもあった。それから、ラカム、イオ、オイゲンに、ロゼッタ、リーシャ、その他多数の団員を迎えて、旅をしていたら「災厄」の話を聞いた。

それで、団員はバラバラに散って、災厄を調べて、やがて、今に至るわけだ。

何も掴めなかった手がさ迷ったとき、一瞬見えたサンダルフォンの顔が何故か酷く印象的で、頭から離れない。あれは驚いていた顔だ、何故かそう確信する。どうして背を押した本人が驚いていたのか、咄嗟に手を伸ばしたから?そう考えていると、耳の奥がキーンと響き、頭痛になり、急に眠くなり、意識が落ちようとする。ふと、いつだったか、カエデの目は空の色をしていると言われたのを、もう見えなくなったルーマシー群島がある空を見ながら、思い出した。

暗転。





パタパタと走って、足を止める。そおっと、中庭を覗く。ルシフェル様とサンダルフォンが机を囲んで、飲み物を飲みながら、談笑している。いいなあ、私もルシフェル様とお話したい。そう思うけれど、邪魔にならないかな。

「カエデ、そんなところにいないでこちらに来るといい」

ルシフェル様がこちらを見ながら、そう口にする。二人の近くまで行って、大事なお話はしていなかったのかを聞くと、珈琲を飲んで話をしていただけだ、とサンダルフォンからも了承を得て、空いていた椅子に座る。

「それが、珈琲……?」
「そうだ。しかし、カエデの口に合うか」
「ルシフェル様、砂糖を入れてはどうでしょう。甘くなれば、カエデも飲みやすくなるのでは」
「ああ、それがいい」
「?」

カップに黒い液体が注ぎ入れられ、その次に、白い粉が入る。スプーンでくるくると混ぜると、飲んでみるといい、と出される。味を予測出来なくて、恐る恐る口をつける。少し、いや、かなり苦い。でも、飲める。

「どうだろうか」
「不思議な味がする。でも、美味しい!」
「そうか、それはよかった。カエデも私が淹れた珈琲をまた飲んでくれるか?」
「はい!」





ハッと目が覚める。上下の感覚はないけれど、落下していることに変わりなかった。人は死ぬ直前に走馬灯を見るらしいけれど、あれは走馬灯ではないと思う。心臓がばくばくと早く鳴っていることに気づく。あれは、なんだったのか。夢にしては、あの人は誰だったのか、―――様、あれ、名前が出て来ない。あの夢では、しっかり名前を呼んでいたはずなのに、それに、あの人は、私に似ていた。私の方が幼かったから、私が似ていたのかもしれないけれど、あまり、数々の島でも見ることが少ない、真っ白な髪色と同じ青をした瞳。その人と、先ほど(なのか時間を測る術がないけれど)ジータと私を落としたサンダルフォンと、私という組み合わせが、わからなかった。

突然、空気が震えた。……何かが開くような、そんなイメージを感じた。

怖い。そう感じて、ぐっと肩を抱く。何が怖いのかもわからないけれど。

「――――――」
「下位天司…………」

四大天司のミカエルが、これらはサンダルフォンが細工したものだと言っていたのを思い出す。下位天司、ヴァーチャーズ。こちらを見ているけれど、何もしない。もう直死ぬのだから、今死んでも変わることはない。自嘲して、目を閉じた。

「ご苦労」

労いの言葉が聞こえたと同時に、落下している感覚は消え、背と膝裏に人の体温を感じた。驚いて、目を開く。こんなところ、鳥のように飛べないと、私のように空の底へまっ逆さまだ。私を受け止めた人は、夢で見た、サンダルフォンではない方、私とサンダルフォンが様付けして呼んでいた相手。

「貴方は……」
「すまない。少し、眠ってくれ」

断りを入れられ、意識が落ちていく。意識が途切れる前に名を呼ばれた気がした。



意識が浮上する。目を開く。ここは……グランサイファーの自室だ。起き上がる。不調はない。ベッドから出る。異常なし。

部屋から出て、甲板に出る。気づいたルリアが嬉しそうに駆け寄る。

「カエデ、よかった!」
「ルリア……」
「起きたのね、カエデ!」
「うん……。そうだ、ジータは」
「団長ならあそこよ」

おーい、団長ー!とイオが指差した方にいるジータを呼ぶ。カタリナと話していたようだ。

「よかった、カエデ。カエデも落とされたって聞いて心配だったけど、すぐに戻ってきてくれたから」
「すぐに、戻る……?そうだ、わたし、誰かに助けられて。あの人は!?」

あの人ってルシフェルのことか?と聞くビィに、頷く。そうだ、あの人の名前は、ルシフェル様だ。

「カエデ、本当に大丈夫?」
「……大丈夫だよ?」

記憶が混乱しているけれど、整理するのは一人の時にしよう。

「そういえば、どうしてグランサイファーに?サンダルフォンと四大天司は?」
「カエデ、気を失ってたから知らないんだったね」

ジータが島から落ちてからの話を聞く。サンダルフォンはルシフェル様のコアに眠り、グランサイファーは被害を受けた島々の復興活動のため、もう一度皆でバラけるという話になっているそうだ。

それでいいか?と聞かれて頷く。反対する必要はない。私たちの旅は急ぐものでもないのだから。

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