床に臥す父親は、今までに見たことのないような暗い顔色をしていて
横に立つ母親はぼろぼろと零れる涙を止めようともしないで
お父さんの具合が悪いのなんて、いつものことなのに
ねえ なんで なんで
お父さんもお母さんも悲しい顔をしていて、なんだかぼくまで悲しくなってきて、それが嫌で、なにか、なにかないかなって、お父さんが元気になってくれる方法を考えた。
ふっと思い出したのは、前に見たマジックショーのこと。お父さんが元気だった頃に、お母さんと3人で観にいったもの。
マニュピに言って、黒くてぴっしりしたマジシャンの格好にしてもらう。
――さぁ、マジックショーの始まりです!――
「マジックショーのはじまりデス」
マジシャンが言っていた言葉をマネして、ステッキで大きな帽子をたたく。
『わぅ!』
するとそこからマニュピが飛び出した。驚いてるお父さんとお母さん。
もう一度ステッキを振ると、そこからは花束が飛び出した。
「元気でた、デス?」
花を差し出しながら言ったら、お父さんはしばらくおどろいたままだった顔を、ふっとほほえませた。
「ああ。ああ、ありがとう、ショー」
お礼を言いながら優しく頭をなでてくれた。
お父さんの大きな手になでられるのは大好きで、きもちよくて、ふわりと目を細めた。
全部マニュピのチカラのおかげで見せた幻だけど、それでも、お父さんが笑ってくれたことが嬉しかった。
お父さんが喜んでくれるなら、勉強して、本当のマジシャンになってもいいかなと思った。
◇はじめてのマジックショー
(だけどその日以来、お父さんにマジックショーを見せることはできなくなった)
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bkm