◇はじめてのマジックショー




 床に臥す父親は、今までに見たことのないような暗い顔色をしていて

 横に立つ母親はぼろぼろと零れる涙を止めようともしないで


 お父さんの具合が悪いのなんて、いつものことなのに


 ねえ なんで なんで 



 お父さんもお母さんも悲しい顔をしていて、なんだかぼくまで悲しくなってきて、それが嫌で、なにか、なにかないかなって、お父さんが元気になってくれる方法を考えた。

 ふっと思い出したのは、前に見たマジックショーのこと。お父さんが元気だった頃に、お母さんと3人で観にいったもの。


 マニュピに言って、黒くてぴっしりしたマジシャンの格好にしてもらう。


 ――さぁ、マジックショーの始まりです!――


「マジックショーのはじまりデス」


 マジシャンが言っていた言葉をマネして、ステッキで大きな帽子をたたく。

『わぅ!』

 するとそこからマニュピが飛び出した。驚いてるお父さんとお母さん。
 もう一度ステッキを振ると、そこからは花束が飛び出した。

「元気でた、デス?」

 花を差し出しながら言ったら、お父さんはしばらくおどろいたままだった顔を、ふっとほほえませた。

「ああ。ああ、ありがとう、ショー」

 お礼を言いながら優しく頭をなでてくれた。
 お父さんの大きな手になでられるのは大好きで、きもちよくて、ふわりと目を細めた。

 全部マニュピのチカラのおかげで見せた幻だけど、それでも、お父さんが笑ってくれたことが嬉しかった。

 お父さんが喜んでくれるなら、勉強して、本当のマジシャンになってもいいかなと思った。



 ◇はじめてのマジックショー




  (だけどその日以来、お父さんにマジックショーを見せることはできなくなった)





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